女子高生は転生して有頂天になるようです   作:歩く好奇心

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 続きです。
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第2話

 窓辺に肘をつき、頬杖をつく。

 馬車の窓から外へと、レビィは視線を向ける。

 

 大きなお城だ。

 尖った煙突のような塔が何本も並び立ち、石造りのアーチが横に整列する。

 まさに城という重厚感、そして古めかしさ。

 自分が時間を越えて、中世のおとぎ話の世界に来ているような、そんな感慨を抱いてしまう雰囲気。

 

 あれはヴォルト聖堂学院。

 我らが国、ロアマン帝国が誇る、唯一の魔法師養成施設である。

 満18歳から入れる四年制の養成施設であり、在学生には貴族が多い。

 しかし、魔法の才能があるものは平民でも入学できるよう、奨学金システムが整っているのがこの学院の売りである。

 

 今日の社交界はその学院で開催される。

 レビィは今まさに、そこへと向かっていたのだ。

 

 

「それでお姉様。

 今日の社交界では恒例の魔法闘技会がありますが、当然何か策は立ててますよね?」

「は?」

 

 妹のアメリアが突如そんなことを話題に出す。

 突然何なのか。

 ついさっきまで隣の召し使いときゃっきゃっとじゃれていたのに、突如切り替わって、能面のような対応。

 居住まいを正し、姉と向かい合うアメリアは続ける。

 

「ここ1ヶ月、お姉様が魔法の鍛錬に励む様子は不思議なことに、全く伺える機会はありませんでした。

 それはつまり、もう鍛錬する必要もないほどに準備は整っている、と、そう解釈してもよろしいのですよね?」

 

 きょとん、とするレビィ。

 にっこりと、淑女然として話しかける妹だが、その実、脅しであることは明白だった。

 妹の隣では、金髪の召し使いがはぁ、と頭と項垂れている。

 これは気まずい。

 姉のレビィは焦燥を感じだす。

 

「え、え~? ぁ~、うん、まぁ、ぼちぼちと?」

 

 ショート髪の姉は視線をあわぜす、はいともいいえともつかない返事だ。

 それも当然、彼女は単に社交界に来ただけ。つまりはパーティーに来ただけのつもりなのだ。

 『魔法闘技会』などという単語、そんなものは今さっき知ったばかりの口である。

 

「何ですか、その曖昧な回答は? 

 準備は万端なのか、そうでないのか、はっきり答えて下さいっ」

「な、何いきなりマジになってのよ?

 そんなかっかしなくてよくない? その年で眉間にしわ作る気なの。

 老けるのが好きとか、趣味悪いわね...うっ」

 

 妹を軽くちゃかすつもりが、隣のロゼリアにぎろり、と睨まれる。

 怖くて肩が跳ねてしまった。

 

「誰のために言ってると思ってるんですかっ?

 返事くらいしゃきっとしなさいっ」

 

 ロゼリアが怒鳴る。

 彼女にそう言われては下手な態度はとれない。ショート髪の姉は渋々と居住まいを正す。

 

「はいはい...万端よ、万端」

「...お姉様、それは本当ですか?」

 

 妹の眼差し。

 それはとても信頼しているような瞳ではなかった。

 

「なるようになるわよ。お姉様を信じなさいな。疑い深いのはよくないわよ」

 

 そう言って、ロール髪の妹を軽くあしらうが、しかし、その額にはだらだらとおびただしい脂汗が浮かぶ。

 いわゆる見栄なのだ。

 この場で怒られるのを、避けたいがための虚勢。

 レビィは、内心冷や汗をかいていた。

 

 

 レビィ、否...みゆ子がこの世界に来て1ヶ月。

 彼女は魔法という存在は既に知っている。

 魔法など、夢のようなものだ。

 俄然、そんなものがあると知って、興味がないはずがない。

 この世界に来た当初、彼女は夢中で魔導書を漁っては読み耽ったものだった。

 本を読んでは、なんとなく理解し、そして実践してみては失敗を繰り返す。

 それを、何度も何度も繰り返した。

 

 元の世界では体感しえない新鮮さに、彼女は目をきらきらと輝かせたものである。

 

 しかし。

 こんな摩訶不思議な異世界でも、非情な現実というものは、あるにはあるのだった。

 

 

「ほぉ。それではこの休みの間に、何を会得されたのか、お聞きになってもよろしいですか」

 

 ロール髪の妹に、じと目で睨らまれるレビィだ。

 にっこりした問いかけ。これは正直に話したらだめである、と、レビィは確信する。

 

「聞けば驚くわ。

 こんなあたしでもね、変身魔法を使えるようになったのよ? これってすごくない?

 たった1日2日やっただけで出来るようになったんだから。

 つまりこれってさ、あたしもやれば出来るってことの証明になるわけじゃん?」

「...意外ですね。お姉様が変身魔法を使えるようになったのですか」

「ふふん、まあねぇ」

「それはそれは。

 それで? 何になれるのです?」

「まぁ、あれよ、天使ってやつね。頭にきらきらした輪っかとか、背中に翼が生えたりとかすんのよ?」

「まぁ!!」

 

 感嘆の声をあげるアメリア。

 対面に座るアメリアがやや乗り出すように、ショート髪の姉へと近づく。その両手は拳を握り、興奮を示していた。

 

「すごいじゃないですかっ。

 変身は変身でも、『超人系』へと変身するタイプなのですね。

 天使に変身なんて、中々ありませんよ。

 正直、感心しましたわ、お姉様っ」

 

 ロールの赤髪を揺らし、妹は目を輝かせる。   

 どうやら上手くいったらしい。レビィは顔を反らしてほっとする。  

 しかし、後でバレたらどうなるかと、微かな不安が頭によぎる。

 

 だがそれでも、愚かな姉は笑顔を張り続けることにしたのだ。

 

「お姉様も、本気で取り組めばできるじゃないですか。 

 私、お姉様を見直しましたわ」

「あははは、まぁ、分からればいいのよ。

 言ったでしょ、あたしだってやれば出来るタイプなんだって」

「そうですねっ。

 私も見解を改めます。お姉様のような地の底まで落ちた人種でも、ここまで変われるんです。

 人は可能性に満ちているんですねっ」

「...それって褒めてないわよ」

「あら、失礼。冗談ですよ、お姉様」

 

 あはははは、と微笑ましく笑いあう姉妹。

 しかし、それが気に障った。

 ロゼリアだ。すぐばれるのに、愚かな道化を被り続ける、その態度が気にくわなかった。

 

「...代わりに、以前は使えた筈の精霊魔法は丸っきり使い物になりませんがね」

「ぶっ!?」

 

 妹の隣で、沈黙を保っていた金髪の召し使いが、空気を読まずに口を挟む。

 なんと具合の悪いの情報。ショート髪の姉はたまらず咳き込んだ。

 

 

「....は?」

 

 アメリアの瞳が光彩を失う。

 1オクターブ下がるその声音に、赤髪の姉は背筋が冷たくなるのを感じた。

 

「ちょちょっと、ロゼリアっ、何要らないこと言ってん..」

「おっ姉様は黙ってなさいっ!!」

「はいぃっ」

 

 何とかこの場はやり過ごせると、そう思った矢先、いきなりの裏切り。

 ショート髪の姉は驚愕を隠せない。

 しかし、もともと手を組んだつもりはないとばかりに、金髪の召し使いは呆れ顔である。

 

「...それで、それはどういうことでしょうか、ロゼリア」

「心中お察ししますが、そのままの意味でございます。

 以前は多少使用できたはずの火属性魔法は、今ではもはや不発しか起こらない始末です。

 こんなことは初めてですが、お嬢様の中で、精霊魔法の素質は消失したと言ってもいいでしょう。

 

 加えて変身魔法も...確かに天使にはなれますが、輪っかと翼が生えるだけ。

 輪っかはあっても光るだけですし、翼も小さく、ただ生えてるだけ。飛ぶことさえも出来ていません。

 実践で使うなどもっての他です。

 正直、これでどう大丈夫なのか、私は不思議でなりません」

 

 ロゼリアの淡々とした説明に、妹はぶるぶると握り拳を震えさせる。

 レビィはもはや、あちゃー、ばれちゃった、とその場を眺めるしかない。

 

 

 精霊魔法と変身魔法。

 どちらが優遇されるかといえば、一般的には前者にあたる。

 精霊魔法とは言わば属性魔法で、精霊の力を借りて魔法を行使するの特徴だ。

 火、水、土、風、と四つの属性で構成され、単純にして強力。

 変身魔法も強いことは強いが、精霊魔法を犠牲にしてまでの価値があるかといえば、あるとは言えないのが現状だった。

 

 

「あんなに、あんなに苦労して教えたのに...」

 

 ロール髪の妹は、こたえるように声を絞りだす。

 この震えた声音。

 自分が失った魔法には、かなりの思い入れがあるものなんだと、今更ながらに思い知らされる。

 これからどんな言葉を叩きつけられるのか。ショート髪の姉は戦々恐々の思いであった。

 

「い、いや~~、あんなに大変な思いしたのに、なくなっちゃうなんてねぇ...あはは、参ったわねぇ、うん」

 

 妹は肩を震えさせてうつむいている。

 

「いや、あたしもホントにびっくりっていうか、誤算だったというか...もうなんていうの? 本当に不幸の事故ってやつよね、あへへへ。

 ア、アメリアもあんなに手伝ってくれたのにねぇ...あははははは...」

 

 何か誤魔化さなきゃ、とそんな思いに駆り立てられる。

 しかしショート髪の姉は、場を繋げようと言葉を口にするも、そのどれもがどこか白々しい。

 

 当然だ。何故なら、その苦労した記憶が何一つないのだから。

 白々しく聞こえてしまうのは必然。

 そんな姉の弁解を耳にした妹は、彼女はぴたりと、肩の震えを止めると、

 

「あ゛?」

 

 と、地獄の底から響いてきそうな声を、赤髪の姉へと向けた。

 あの淑やかな微笑は微塵もない。もはや別人かと疑うほどだ。

 

「......」

 

 その恐ろしさに、レビィは何も言えなくなった。

 

 

 

 

「それで、本当に今日はどうするおつもりですか、お姉様?」

「そうね、まぁあれよ。激流には身を任せろってやつ?」

 

 ばごんっ

 

「ぶへぇっ」

 

 頬をぶん殴られる。  

 アメリア、渾身の右ストレートだ。

 先ほどよりは落ち着き、微笑をたたえる妹だが、その笑みから黒い影が離れない。

 今の妹に冗談は一切通じない。姉のレビィは死の危険を感じた。

 

「ちょ、ちょっとっ、こんな狭い個室で暴力はやめなさいよ。

 暴力とか最低よっ、マジ洒落になってないからあんたのパンチっ」

 

 鼻血を垂らし、きーっきーっと喚いては、ショート髪の姉は抗議する。

 しかし、

 

「あら、それはお姉様が訳の分からないことをほざきやがるからですわ。

 暴力は確かにいけないものですが、必要なものでもあるのです。

 どうです? 

 血を流して、少しは頭が落ち着きましたでしょう?」

 

 心穏やかに、拳を握る妹は、悠然とした落ち着きを持ってそう言い放つ。

 

 やべぇ、とレビィは愕然とする。

 下手なことを言えば殴る。拳を握って佇むその姿が、言外にそう言っていた。

 妹の目は本気である。

 

「顔をはたけば頭は絞まるものです。

 その足りないおつむで、少しは考えることは出来ましたか、お姉様?」

「いや、何を?」

「あら、締まりが足りないみたいですね。

 もっとしゃきっとする必要があるようです、ほら、今度は右の頬を出しなさい」

「はたくどころか、また殴るつもり!?

 あんたそんな暴力系女子なタイプだっけっ!?」

「締まりのない顔は頭も絞まらなくなるものです。

 そんな腫れた顔して、だらしない」

「これはあんたがやったんでしょっ! 

 ちょっと言ってること無茶苦茶だから、一旦、一旦落ち着こっ?

 ね? 一呼吸いれよ?」

「これが落ち着いていられますか。

 大事な中間鑑査前にこの体たらく。まさか、二度の落第という、前代未聞の赤っ恥をかかせる気ではありませんよね?」

「ら、落第?」

 

 突如飛び出す『落第』というワード。

 何故急に落第なのか。これが自分のことを指しているのは何となくは察せる。     

 しかし再び構えの姿勢に入る、ロール髪の妹の姿に、それどころではなかった。

 

「本当に不思議でなりません。

 デルタリア家の家名に、どこまで泥を着せれば気が済むのですか、お嬢様?」

 

 まった、まったと、手で制すも、アメリアは全く聞く耳もたず。

 内なる激情を抑さえられておらず、彼女は笑顔で殴る気満々である。

 また殴られる、と目をつむるレビィ。

 しかしその瞬間、ばっ、と彼女を庇う影が一つ。

 

「お手をお収めください、妹様。

 馬車内で暴れるのは危険な上、貴族たる貴女方が行っていい振る舞いではございません。

 どうかひとつ、心をお静め下さい」

 

 ロゼリアだ。

 揺れる金髪のポニーテールが輝かしく見える。ショート髪のお嬢様は、ほろりと涙を浮かべた。

 

「た、助かったわぁロゼリアぁぁ。

 さっきは、裏切りやがってマジ死ねなんて思ってごめぇんねぇぇ」

「...そうですか。

 改心されたようで、私も何よりですよ」

 

 涙目でロゼリアの手をとるレビィだが、当のロゼリアは無感動なほどに冷めた目付き。

 この方は全く...と、召し使いは呆れずにはいられない。

 

「はぁ、仕方ありませんね。

 ロゼリアに免じて、今は許してあげましょう。

 私も大人げなく、少々熱くなりましたし」

「...少々どころじゃないんだけど」

 

 ショート髪の姉はつっこむ。

 この腫れた頬。これが少々で済ませられるような痛みではない。

 

「細かいことはいいんですっ。

 それよりも、どうもこの休み期間中、お姉様はだらけにだらけ過ぎたようですね」

「申し訳ありません、妹様。

 私がついていながら、そのような怠惰な生活を許してしまい、面目次第もございません」

「ロゼリアが謝ることじゃありませんよ。

 貴女は自分の仕事で忙しかったし。

 そもそもこれは、お姉様自身がもっと自覚をもって取り組まなければならないことなのです。

 だというのに、お姉様ときたら...」

「えへ」

 

 ぎろりっ

 

「はい、すんません」

 

 すぐ調子に赤髪の姉である。アメリアは仕方なしと、ため息をつく。

 

「はぁ...。

 もともと容量の小さい頭でしたが、今は本当に空っぽなのかと疑問に思うくらい、何も考えていらっしゃらないようですし。

 ここでちゃんと、私達は話し合わなければならないみたいですね」

「失礼ね、姉に向かって」

「なら行動と実績で示して下さい」

 

 

 そしてレビィは知った。

 自分が落第していることを。  

 そして、今回の社交界で開催される魔法闘技会とは、中間鑑査として意味合いもあり、次年度の進級に向けての事前評価として、重要な位置付けでもあることを。

 

 つまりは今回の魔法闘技会でへまをした場合、自分の進級は限りになく難しくなるのだ。

 事実、元体の持ち主は落第した。

 だからこそ、妹のアメリアはあれほど心配していたのである。

 同じ学校にいる身内が落第など、それほど恥ずかしいことはない。

 

 しかしレビィにとって重要なことはそこじゃなかった。

 なによりも驚いたことは他にある。

 

 それは、

 

「あたし、あいつらと同じ学年なのかよ」

 

 頭痛がするように、額を押さえるレビィ。

 

 妹のアメリアとは一つ違い。

 年齢不詳のロゼリアも、アメリアと同じ学年だ。

 つまりは自分は、妹と同じ教室で同じ授業を受け、そしてどれだけ格差があるのか、周囲から比べられるということ。

 実の妹ではない分ダメージは少ないが、嫌なものは嫌である。

 

 ショート髪の姉はこてん、と窓辺に頭を垂れる。

 

「...ちょ~、やな感じじゃん」

 

 蚊の鳴くような声である。

 突然元気をなくしたレビィだ。どうしたのかと思うも、アメリアとロゼリアに、それを直接聞くほどの関心はない。

 

「どうしたのかしらね、お姉様」

「さぁ、わかりません」

 

 

 

 馬車はレビィの心持ちなど関係なしに、着々と目的地へと進む。

 学院はもう、すぐそこであった。

 

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