第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。   作:あらがき@北宇治高校

4 / 8
初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。


④不覚にも、比企谷八幡は慕情を抱く。

④不覚にも、比企谷八幡は慕情を抱く。

 

ー雪ノ下雪乃ー

 

私はもちろん、葉山君も何が起こったのか全く理解できていないでしょう。

「比企谷。

今なんて…?」

葉山君もさすがに顔が引きつっている。

「俺は雪ノ下雪乃と付き合っている。

つまり俺は雪ノ下の恋人だ。」

比企谷くんは何を言っているのかしら?

もしかして、目が腐っていたから近くの脳みそまで腐食したの?

それでも、比企谷くんは悪びれることもなく、平然としている。

その平然はこの場においては不自然だった。

そしてこれと似た状況を私は知っている。

今の比企谷くんの顔を以前にも見たことがある。

そう、修学旅行の時…。

「本当なの?

雪ノ下さん…?」

葉山君は流石に動揺を隠せないでいるみたい。

声は無機質なのに弱々しい。

「…」

葉山君の質問に何らかのリアクションを取ることは間違いなく比企谷くんの意図に沿わない。

私は比企谷くんを見たまま、沈黙を守った。

「比企谷、なんでこんなことを?」

葉山君は怒ってはいない。

比企谷くんは目はそのままに不自然に口角だけを上げて笑ってみせた。

「悪いな、葉山。

俺は雪ノ下と付き合っていたが敢えて依頼を受けて、お前みたいにイケメンで、人当たりが良くて、成績優秀、スポーツ万能の人気者、つまり俺の真逆の立場の人間が俺に陥れられる様を見てみたかったんだよ。」

 

―比企谷八幡―

 

そう、これでいい。

何度も言うが、俺が蒔いた種だ。

加担した以上、俺にも責任は発生する。

雪ノ下に要件を伝えた時、彼女と話していくうちに俺は気付いた。

雪ノ下が少なくとも今は、葉山の告白を受けても承諾することがないということに。

最後の言葉は決定的だった。

葉山は悲しげな表情を浮かべて雪ノ下に問いかける。

「君はこんなことを平然と言ってのける男のことが好きなのか?」

雪ノ下は俺の方を見たまま目を逸らさない。

だが、彼女は決して俺の目を見ることはない。

あくまでも雪ノ下は葉山の言葉に答えようとはしない。

「君は……」

葉山は大きく息をはく。

そして大きく息を吸う。

その遅くて長い呼吸は早くて大きな鼓動に何度もさえぎられそうになっている。

多分、雪ノ下がこの場にいなければ、俺のことを納得のいくまで殴りたいのだろう。

それを必死に抑えようとしてる様子が容易に見てとれる。

「はぁ……

君は本当に最低だね。」

「そんなことは、今分かったことか?」

千葉村でも直接、言ってただろうが。

「ああ。

けど…。

君の捻くれようには、もう怒りを通り越して呆れすら覚えるよ。」

あのめぐり先輩からでさえ呆れられるほどの逸材だぞ、俺は。

何を今さら。

「まあ、怒りを通り越してくれてよかった」

精一杯の皮肉を籠めて俺がそう言うと葉山は少し目線を落とし、握りしめた拳をより一層強く握り、肩まで小刻みに震えさせる。

数秒の沈黙の後、

「じゃあ、俺は教室に戻るよ。」

葉山は目線を足元に落としたまま、俺の方に向かって歩いて通り過ぎてゆく。

かと思いきや葉山は俺のやや後ろで立ち止まった。

そして低い声で呟く。

「ひきがやっ…」

 

俺は顔だけ葉山の方に向けた。

 

 

 

 

 

 

『ゴンッ!』

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず言えることは空は青く広い。

多分、何十秒か仰向けでいたに違いない。

何があったのか。

 

 

俺は葉山に全力のグーパンをくらってその場に叩きつけられた。

殴られた後の数秒の記憶はまるでない。

まだ、頬は痛くない。

感覚もない。

葉山は無言で立ち去った。

普通なら、近くにいる女の子が駆け寄って『大丈夫?怪我はない?』みたいな感じで心配してくれるところなのだが…。

雪ノ下は呆れた顔をしたまま、俺を見つめている。

「比企谷くん…。」

気のせいか?

雪ノ下が悲しそうな顔をしているように見える。

「何故あなたは、そんな方法しか選べないの?」

なぜか雪ノ下の表情にいつもの怖さはない。

むしろ温かい。

俺が言うと説得力に欠けるが、お母さんの優しさのようなものを含んだ顔に見える。

雪ノ下はようやく俺と目を合わせた。

 

「もう少し周りのことも考えてもらえないかしら。」

「だな。」

そう答えると雪ノ下は不満げな顔をする。

「違うわ」

「あなたは分かっていない。

今、私はあなた自身のことを考えてという意味で言ったの。

理解してなかったでしょ?」

俺は耐え兼ねて目を逸らした。

 

雪ノ下は決まりの悪そうな顔をして言葉を継ぐ。

 

「私はあなたが傷付くのが…」

 

「…」

 

長い言葉の空白が続く。

ようやく口を開いたかと思えば大きく深呼吸をする。

 

 

 

 

「辛いのよ…」

 

 

 

 

まるで俺という存在が時間という概念に忘れられたようだった。

そんな気がした。

以前、彼女は虚言を吐かないと言った。

だが、今の言葉は虚言だろう…

でも…

そう、考えても…

俺は今、確かに抱いた感情を拭い去ることができない。

 

「俺、教室戻るわ。」

 

ダメだ…

もうここには居れない

「比企谷くん!

正しくはあいつと居れない

「ちょっと待ちなさい!」

なぜなら…

「こっちを見なさい!」

俺は気付いちまった

「なんだ?」

俺はこいつのことが…

「血が出てるわ」

雪ノ下雪乃のことが…

「なn…

おm…n、m…。」

 

『好きだってことに』

 

 

雪ノ下は俺の切れた唇と口内から流れ出す血をハンカチで優しく拭いてくれた。

「比企谷くん…」

近いぞ雪ノ下。

もう、ダメだ。

心臓の鼓動だけで喉が詰まっちまいそうだ。

ひとたび意識してしまうとこうなる。

雪ノ下は相変わらず、俺の傍で口を拭っている。

「今日、由比ヶ浜さんと計画して、私の家でたこ焼きパーティという催しを開くのよ。」

お前、たこ焼きパーティー知らねえのか…。

「あなたも来なさい。」

ようやく、雪ノ下は俺の口からハンカチを離し、少し距離をとる。

「拒否権はないんだろ?」

そう言うと雪ノ下はクスッと笑う。

「ええ。

総武高校奉仕部、最後の活動だもの。」

「分かった。

また後でな。」

「また後で」

雪ノ下は胸の前で小さく手を振る。

それを見て俺は教室に向かって歩き出し、雪ノ下に背を向けて小さく手を上げた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。