第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。   作:あらがき@北宇治高校

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初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。


⑤ただ、由比ヶ浜結衣は雪ノ下雪乃の友達でいたい。

⑤ただ、由比ヶ浜結衣は雪ノ下雪乃の友達でいたい。

 

俺はようやくクラスの教室に戻ってきた。

平塚先生も既に教室にいて、いつものぶっきらぼうな声色で言う。

「比企谷遅いぞー

さっさと座れ―」

クラスに入って最初に目についたのは、戸部らと楽しそうに話す葉山だ。

数十分の間に事態は錯綜、精神は錯乱し、比企谷八幡は混乱状態にあった。

雪ノ下の言動や自分の心情の変化など、劇薬のような情報が俺の脳内の正常化を妨げる。

俺は葉山と目を合わせないように席に向かう。

俺が席に着くと、平塚先生は卒業生を見送る担任の先生にしてはあっさりした表情で淡々と話し始めた。

「いやーみんな、卒業おめでとう。

君たちと過ごした一年間はなかなか楽しかったよ。

3年間いろいろあっただろう。

君たちが総武高校で過ごした3年間に対して、各々が様々な印象を抱いていると思う。

その印象を色に例えるとだな…。

その色はそれぞれ全く違うのは分かると思うが…。

まず一人一色じゃない。

グラデーションになっていたり、全く印象の違う色が同居していたり…。

だが、その色に不正解はない。」

そう言うと俺をちらりと見る。

「その色が混じり合って見えるこの社会の色が君たちの色と違うことを気に病む必要はない。

なぜなら、『この社会の色』なんてものは君たちの立つ場所から君たちの目で見えている色に過ぎないからだ。

紅葉している山を遠くから眺めた時、君たちは赤だの黄色だのと口々に言うことだろう。

しかし、実際は緑の葉も黒の葉もある。

君たちは『社会の色』をその程度にしか見ることが出来ない。

その色に囚われ過ぎると自分の色を失い、また、見ることができなくなる。

この3年間と全く同じ色は二度と見ることが出来ない。

君たちの色に誇りを持ちたまえ。

私から言えることはそれくらいだ。

君たちの未来に幸あれ!」

平塚先生はなんとも清々しく、イケメンだった。

そこらの熱血体育教師の担任なんかは教卓にひれ伏せて泣いていることだろう。

と、由比ヶ浜と葉山が立ち上がり、二人で息を合わせるように頷くと、

「「ちょっと待ったーー!」」

二人は平塚先生に駆け寄り、由比ヶ浜は涙を浮かべながら花束を、葉山は反則級のさわやかスマイルで色紙を渡した。

どこからともなく拍手が巻き起こり、クラスは温かい空気で満たされた。

「みんな、ありがとう、大切にするよ。」と平塚先生は目の色は変えずに、けれども本当に嬉しそうな笑顔でお礼を言った。

平塚先生はざっと色紙に目を通して、ふと目の動きを止め、片方の口角を不自然につり上げ、俺を睨む。

口パクで「ひ き が や あ と で お ぼ え て お く ん だ な」と死刑宣告をされた。

いや、心からの気持ちですよ。

「アラフォーになるまでにいい人が現れるといいですね。」って。

何ていい教え子なんだ俺は。

そうしてクラス写真を撮った。

今回も修学旅行と同様、インファルトスタイルで乗り切った。

葉山とは気まずいし、ゲリラスタイルはハードルが高いからな。

他の連中は仲のいい友達どうしで写真を撮っている。

まあ、俺に友達はいないから、そろそろかえr…

「ヒッキー!写真撮ろー!」

俺が卒業式で写真に写ることがあるとはな。

あ、クラス写真には写ってたか、半身だけ。

まあ、由比ヶ浜は優しいからな。

「ああ、いいぞ」

「隼人くーん、撮ってー!」

おいおい、なんでわざわざ人気者の葉山に写真撮ってもらうんだよ、目立っちまうじゃねーか。(それに今気まずいし)

しかも、クラスの女子は葉山と写真を撮りたいがゆえに女子同士で「あんたが葉山君に頼んできてよー」「いやよ、あんたが行けばいいじゃん!前に葉山君としゃべってたじゃーん」と葉山君に声をかける役をなすりつけ合っている時にクラスの悪役請負人こと比企谷程度の人間がカメラ係として葉山君を奪っちゃうとか…、また女子を敵に回すのかよ。

「あぁ、いいよ」

快諾する葉山。

さっきの女子どもからの視線が痛い。

「はい、チーズ」パシャ

「ありがとね、隼人君。ヒッキーも!」

「お、おう」

これで帰れる!さらば、総武高校!

と思ったら、たこパがあるんだっけか?

帰って撮りためてたアニメを一気に見るという俺の計画が…。

「ヒッキー!

今日の放課g…」

「あぁ、雪ノ下から聞いた。

たこパだろ?」

「うん。

ちょっと待っててね。」

「分かったよ。んじゃ、先に部室に行っとくぞ。」

「オッケー!また後でねー」

俺は由比ヶ浜に向かって小さく頷いて教室を後にした。

まあ、どうせ雪ノ下もクラスの友達はいねえんだし、もう部室にいるだろう。

 

特別棟までの道のりは長い。

今から雪ノ下と顔を合わせると思うと変に緊張してきたぞ。

さっきの情景が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

…別に何もないんだ。

そう、俺が思いを寄せたところで今までと何も変わらない。

雪ノ下雪乃は俺にとっての憧れだった。

そのあり方はまさに俺が求めんとしていたもので、彼女に自分の理想を重ね、勝手に失望したこともあった。

今、雪ノ下にどんな思いを抱いているのか、自分でも分からない。

分かったつもりでいたのだが、考えるほどにそれは輪郭を失い、つかみどころの無いものになっていく。

考えるほどに足取りは重くなる。

相変わらず閑散としているこの場所。

雪ノ下が居ようと居なかろうとこの空気は全く変わらない。

 

部室の扉を開け、目に入るその風景に本を読んでいる雪ノ下の姿はなかった。

まあいいか。とりあえずいつも通り本を読んでいれば、そのうち来るだろう。

由比ヶ浜は友達も多いことだし、まだ時間はかかるだろうが。

 

30分ほど経っただろうか。

読んでいた本も読み終え、大きく伸びをする。

持ってきていた本も一冊だけだし、所在なくどうするかなと考えていると、部室の扉が開いた。

「はぁ~」

疲れたご様子で雪ノ下お嬢様がお見えになった。

「どうしたんだ?体力がないのは知ってるが、階段で息があがるほどだったか?」

雪ノ下はもう一度深いため息をついた後、世界の底辺を見るかのように見下した目で俺を見る。

「そんなわけないでしょう?

10人以上の男子生徒に告白されて、ここに来るまでに精神的に疲れただけよ。」

なるほどな。

雪ノ下はその完璧な容姿はもちろんのこと、文化祭のライブでの活躍や生徒会長として全校生徒の前に立ったこともあって、その人気ぶりは断トツの総武高校トップだからな。

そんな女を好きになるなんて…比企谷八幡、どうかしてるぜ。

「あなたこそどうしたのかしら?

そんな死んだ魚のような目をして。

10人以上の女子生徒に振られでもしたのかしら?」

こんな女を一度でも好きと思った比企谷八幡、どうかしてるぜ!

「んなわけねえだろ。

俺は振られると分かっているのに告白するような愚かなまねはしない。

しかし、相変わらずだな。

お前の性格を知らずして見てくれに騙された被害者は自然の摂理に従って振られていくわけだ。」

雪ノ下は少しムッとした顔をしたが、すぐにフフフと笑い、

「まあ、見た目も性格も残念なあなたは告白自体されないのだから、自然の摂理に従って一人で死んでいくわけね。」

全く容赦ないぜ、この女。

いつも人を完膚なきまで論破しようとする…詭弁の達人だな。

紀元前のギリシャにでもいけばソフィストとして大儲けできるぞ。

こいつと喋ってるとマザーテレサも犯罪者に仕立て上げられてしまうんだろうな。

 

「遅くなってごめーん!」

由比ヶ浜の髪の毛がぼさぼさなのは走ってここまで来たからだろう。

そんなに急がなくてもいいのに。

「んで、たこ焼きパーティーって、何すんの?

俺、パーティーと名の付くものに縁がないから分からねぇんだけど。」

「たこパといえば…、中に入れるものとか色々考えたりして…。

とにかく盛り上がるし楽しいよ!」

「たこ焼きパーティーなのに中に入れるものはたこじゃないのかしら。」

「そうだよ!エビ入れたり、チーズ入れたり、チョコ入れたり、マシュマロ入れたり…」

いや、それ何焼きだよ。最後らへんのはもはや晩飯としてどうかと思うぞ。

「それじゃ、たこ焼き器を使って何かを作って3人で晩御飯を食べるということでいいわね?」

そうだな、不気味な『何か』だ。

由比ヶ浜に作らせるとその『何か』は食べ物ではなくなる。

「うん!」

「ああ、何でもいいぞ。」

まあ、こいつらが楽しめるのなら何でもいいさ。

どうせ、俺に選択権は無いんだし。

 

そして、俺たち3人はこの教室を去る。

教室を出ると、由比ヶ浜と雪ノ下は扉を閉めずにただ教室を眺めていた。

 

「なんだかあっという間だったね…。」

「そうかもしれないわね」

「あたしがゆきのんと初めて会ったのもここだったね!」

「そうね…」

雪ノ下の言葉はいつもの聞き流すような適当な返事ではなく、その言葉を受け止めて由比ヶ浜とともに記憶を辿っていることが容易に見てとれる優しい返事だ。

 

「ゆきのんっ…」

「なにかしら?」

 

「ありがとね…」

 

雪ノ下はキョトンとした顔で不思議そうに由比ヶ浜を見る。

 

「あたし、変われたよ。

ゆきのんに出会って。

なんて言ったらいいかよく分かんないんだけどさ

ゆきのんに会えて、友達になれて、仲良くなれて、一緒にいれて、ゆきのんのことを知れて…

今のあたしがあって…

ぜーんぶが良かったって思ってるんだ!」

由比ヶ浜は流れ落ちる涙を拭くことなく、雪ノ下をまっすぐ見つめている。

 

「これでお別れなんてやだよ!

 

これからも友達でいてよ!

 

月に一回は家に遊びに行くよ!

 

彼氏が出来たら教えてよ!」

 

 

「あたしは…ただ…」

 

 

由比ヶ浜の顔はくしゃくしゃで、しゃっくりが止まらず言葉が詰まる。

 

 

「ゆきのんの友達でいたいよ…」

 

 

 

以前、由比ヶ浜は雪ノ下のことが大好きだと言った。

雪ノ下のことをもっと知りたいと言った。

彼女もまた雪ノ下雪乃のあり方に惚れた人間の一人なのだ。

 

由比ヶ浜はようやく涙を拭いた。

雪ノ下は天使のような微笑みを浮かべ由比ヶ浜に語り掛ける。

 

「もちろんよ。

私も…その…

由比ヶ浜さんとずっと仲良くしていきたいと思っているわ。

あなたは、私にとって初めての…

『友達』だもの。」

 

「ゆきのん…」

 

ゆっくり雪ノ下に近づく由比ヶ浜を雪ノ下から抱き寄せた。

雪ノ下はネコを撫でるように、大切そうに由比ヶ浜の頭を撫でている。

 

「約束だよ…ゆきのん。」

 

由比ヶ浜の声はますます弱々しくなる。

 

「ええ、約束するわ」

 

 

雪ノ下は俺の存在を思い出したのか、俺を見るや否や由比ヶ浜から離れ、軽く咳払いをした。

「行きましょう。」

俺たちは奉仕部の教室に別れを告げた。

 

校門を出るまでずっと、雪ノ下はしゃっくりの止まらない由比ヶ浜の背中をさすっていた。

そして、校門を出てすぐの道路に差し掛かったその時だった。

 

雪ノ下を呼ぶ声がする。

 

 

 

「雪乃ちゃーん!」

 

 

 

「姉さん…」

 

雪ノ下はこれでもかというほど、不愉快さを露わにした声を漏らす。

 

この展開…

嫌な予感しかしないんだが…。

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