第1章 案外俺の卒業式は間違っていない。   作:あらがき@北宇治高校

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初めまして、あらがきと申します。
特に意味もなくペンネームを変えました。
pixivでも『あらがき@材木座以下のss』というユーザー名で投稿しておりますが、こちらにも投稿させて頂きます<m(__)m>
ただ、pixivに投稿しているものに若干の修正を加える場合もありますので、ご了承ください。
まだ勝手が分かっておりませんので、取るに足らない部分は多々あると思いますが、よろしくお願いします。
第2章も投稿いたします!


⑧ようやく彼と彼女は正しい答えを受け入れる。

⑧ようやく彼と彼女は正しい答えを受け入れる。

 

「よーし

それじゃあ、焼き始めるぞぉーー!」

由比ヶ浜は握った手を高くあげ、やる気満々だが…

こいつの好きにさせてはいけない。

生地は雪ノ下が作ったし大丈夫だろうが、レシピ通りに作ったクッキーがあれな由比ヶ浜のことだ…。

どうなるか、想像できやしない。

まぁ、流石にどっかの〇妙さんみたいにダークマターを生成したりはしないだろうが…。

「由比ヶ浜さんは具材を入れてちょうだい。

私が焼き加減を見て、ひっくり返していくから。」

ナイスアシストだ雪ノ下!

由比ヶ浜にも役割を与えることで、疎外せずに美味しいたこ焼きにありつける!

「うん!分かった!」

由比ヶ浜はちょっと待っててとキッチンの方に向かう。

「それじゃあ、生地を流し込んで…」

雪ノ下があまりにも慣れた手つきで進めていくからふと思った。

まさかとは思うが…。

「なぁ、雪ノ下。

もしかして、お前1人でたこ焼き作る練習してたのか?」

雪ノ下は顔色を全く変えず、黙々と作業を続ける。

「図星かよ…。」

「いいでしょう?

由比ヶ浜さんが1週間前にたこ焼きパーティーを提案してくれたのだし、当日出来る限りのパフォーマンスをするために準備しただけよ。」

お前…意識高すぎだろ。

SHUZOなんて目じゃないくらいの意識の高さだぞ。

まぁ、雪ノ下はそんなに熱くなってはいないが。

「ま、まぁ、美味しいたこ焼きが食べれるのはいいことだしな。」

あ!こうやってフォローを入れてあげるのって八幡的にポイント高い!

 

「よーし、いくよー(^^♪」

何やら色々抱えてルンルンで戻ってきた由比ヶ浜は、いきなりフルーツミックスを…

 

って!え!?

 

雪ノ下はあまりのショックで手に持っていたキリを落とした。

残念だったな雪ノ下。

お前のパフォーマンスは一瞬で打ち砕かれた。

しかも、まずかったのは由比ヶ浜は缶詰に入ったフルーツミックスを汁ごと投入したことだ。

「由比ヶ浜…なんで汁まで入れたんだ?」

「え?

だって生地もフルーツの味がした方が絶対おいしいじゃん!」

おい、何がおかしいの?みたいな顔すんな。

頭の中で描いたものが全て味に反映されると信じて疑わないあたり、料理のセンスはゼロだな。

「ねぇ?ゆきのん?

ゆきのん??」

雪ノ下は放心状態だ。

「今はそっとしておいてやれ。

焦げちまうし、とりあえずひっくり返していくぞ。」

俺は雪ノ下が落としたキリを拾って、たこ焼きを、いや、由比ヶ浜スペシャルを無難にひっくり返していく。

「うわぁー

ヒッキーうまーい♪

てか、あたしにも出来そう!

そのつまようじみたいなやつ貸してー」

つまようじね、もう突っ込む気も起きねぇよ。

「はいよ」

まぁ、どうせ由比ヶ浜スペシャルを上手く焼いたとしても味がまずいし、今のうちにやらせてやろう。

でも、こうやって俺も雪ノ下も由比ヶ浜をおざなりに扱ってるようではあるが、気持ちとしてはなかなか悪くないと思っている。

多分、雪ノ下も。

由比ヶ浜がバカなことをやってるおかげで、この和やかな雰囲気が出来ていると言っていい。

由比ヶ浜はいつも周りに合わせようとしない俺と雪ノ下を他の奴らと繋いでくれた。

奉仕部が存続できたのは由比ヶ浜のおかげだろう。

 

「えー、全然、ひっくり返らないよー」

「こうやるのよ」

おおっ、雪ノ下さん復活しましたか。

雪ノ下は慣れた手つきで俺より鮮やかに、形も美しくひっくり返していく。

「すごーい!

ゆきのん、たこ焼きも出来るんだー」

「まぁ、れn…」

と、俺が言いかけた瞬間に雪ノ下の目から放たれたアイススタチューが俺の表情筋の自由を奪った。

こいつ、どんだけ強がりなんだよ。

特に由比ヶ浜の前では強がるよな。

「どうしたの?

ヒッキー?」

「いや、別に…」

ったく…怖い、怖すぎる。

あと、怖い。

 

「そろそろね」

雪ノ下は小皿に3個ずつとりわけた。

「いただきまーす!」

なんで、そんな乗り気なんだよ。

明らかにまずいだろ。

 

「おいしーー!」

「「え!?」」

ハモったのも妥当だろう。

だって、流石に…

「おいしいよ!これ!」

いやいや、そんなわけ…

一つ食ってみるか…

恐る恐る口に運ぶと、意外にもまずくない。

というか、むしろうまい。

「確かに…普通にうまい」

「本当ね

ごめんなさい、由比ヶ浜さん。

流石にこれは美味しくないと予想していたわ」

そりゃそうだろうよ。

こうして、由比ヶ浜スペシャルは思わぬ好評を博した。

 

そんな感じで俺たち3人にしては珍しく賑やかにたこパは進んでいった。

世間で言われている、たこパってやつを出来ているように思う。

 

時間も7時過ぎになり、それなりに腹もふくれ、落ち着いてきた時だった。

由比ヶ浜の携帯が鳴る。

「ちょっとごめんね」

由比ヶ浜は食べる手を止め、電話に出る。

「もしもし?

あ、ママ?

うん、今、友達の家。

え?そんないいよ~。

うん。分かった。じゃあね。」

「どうしたの?」

「いやぁー

ママが卒業祝いしてくれるって」

「いい母ちゃんだな。

俺なんて誕生日さえまともに祝われないぞ」

「本当に大切にされているのね。」

「いやぁーそんなことないよー。

でもさぁ…」

「いいわよ。

片付けは比企谷くんに全部してもらうから。」

おいおい、何を勝手に…って、俺は今こいつに反抗できないんだった…。

「でも…」

「あぁ、こっちはいいから

どうせ、片付けは俺がやるつもりだったしな」

あ!今のも八幡的にポイント高い!

「そう…?

ありがとね…。

また、パーティーしようね!」

「ええ。」

「おう。」

由比ヶ浜はかばんを持って立ち上がる。

「ほんとごめんね!

またね!」

由比ヶ浜は本当に申し訳なさそうに手を合わせて謝りながら、帰って行った。

 

由比ヶ浜が帰ると一瞬で部屋は静まり返った。

「残りの生地、入れちまうか。」

「そうね」

 

特に話すこともなく、ただたこ焼きを作る作業を2人で進めていく。

 

「比企谷くん、もう一杯いる?」

そう言って、雪ノ下はシャンパンのビンを見せる。

「いや、帰れなくなったらまずいから、もうやめとくわ」

「そうね、ここに泊まられたら困るもの。」

そうだろうな。

悪評が流れるとかなんとかだろ?

 

無事に完食した俺たちは片付けに取り掛かる。

主婦(夫)力の高い2人でやっただけあって10分弱で終わった。

 

俺たちは特に何をするでもないが、テーブルに着いた。

さすがに夜遅くに一人暮らしの女子の家にいるのはまずいし、もう帰るとするか。

「んじゃ、雪ノ下、俺もぼちぼち帰るわ。」

そう言うと、雪ノ下は俺から目を背けてボソッと呟く。

 

「もう少し…居てくれないかしら?」

俺の幻聴か?

もう少しいて欲しいと聞こえたのだが。

 

「いや、その…

ごめんなさい。

こんなことを言うなんて私、どうかしてるわね。

屋上で酔いを醒まして来るわ。」

「俺も行く」

「そう?

帰らなくていいの?」

「あぁ」

どうせ帰ってもアニメ見るくらいしかしねぇし。

 

俺たちはエレベーターに乗って、最上階で下りる。

高級マンションなだけあって、『使うための』屋上といった感じだ。

どちらが先導するでもなく、幕張を一望出来るベンチに2人して腰かける。

なかなかの絶景に少し気分が高揚する。

雪ノ下は夜景を見ているというより、外を眺めているといった様子だ。

 

数秒の無言状態の後、雪ノ下は立ち上がり、フェンスに凭れる。

外を眺めたまま、雪ノ下が口を切る。

 

「私ね…

 

奉仕部での1年半は楽しかったし、生きやすい居場所だったと思っているの」

 

 

 

突然、どうしたんだ?

それに、自ら雪ノ下が自分のことを話すなんて珍しいな。

 

「そして、あなたが居てくれたことも私にとっては大きかったわ

目は腐っているし、屁理屈ばかりこねるし、無駄にプライドを持ってるし…」

ここに来てお説教タイムですか!?

勘弁してくれよ。

 

「でも…あなたは私の知らない世界を見せてくれた。

 

全てが良い方法だったとはとても言えないけれど、私を、由比ヶ浜さんを、奉仕部を助けてくれた。

 

あなたが傷付くのは嫌だったけれど…。

 

それでも、今まで私を助けてくれた人なんていなかったから…。

 

だから私は一人で全部解決しようとしてきたし、出来ていたわ。

 

でも、私はいつの間にかあなたに頼っていた…。

 

あなたが居るものとして物事を考えたりもしていた。

 

それもいいことだと教えてくれた。

 

その点で私は比企谷くんに感謝しているわ。

 

私が今日、あなたにお礼を言ったのはそういうことだから。

 

それは本当の気持ちだから…。」

 

 

「そうか…」

 

 

俺は時々分からなくなる。

自分がどうしたいのか。

友達なんてものは生まれてこの方できたことがないし、そんなものがあったところで、言葉の上での飾りにすぎない。

所詮、人は完全には分かり合えない。

分かっているふりをして、表面的に付き合い、失望し、決裂するくらいなら、俺はゼロでいい。

そうやって生きてきた。

まぁ、そうやって生きざるを得なかったっていうのもあるが…。

 

だが、今、俺は確かに思っている。

 

 

雪ノ下雪乃の言葉を信じてみたいと。

 

 

そして、もし出来るなら、雪ノ下雪乃を理解したいと。

叶わないと分かっているのに、何度も期待する俺がいる。

 

「分かってくれないのかしら?」

 

雪ノ下の声は儚さを孕んでいる。

 

俺には雪ノ下の背中しか見えない。

雪ノ下は夜景を見つめているのだろうか。

俺はベンチに座ったまま黙り込む。

 

「…」

 

 

 

「まぁ、いいわ

そろそろ戻りましょう」

 

俺は最強のぼっちだ。

 

だが…

 

 

「雪ノ下。」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

最後の一回だ。

もうこれで最後だ。

俺はこれが無理なら二度と期待しない!

 

一度だけ…

 

もう一度だけ、信じてみたい。

 

「俺は…」

 

 

「俺はお前のことをもっとよく知りたい。

 

ずっと憧れだった。

 

孤高にして、完全無欠。

 

それでもってぶれない雪ノ下雪乃のことが。

 

俺は人を信じることに慣れていない。

 

というよりは意図的に避けてきた。

 

だが、1年半の奉仕部で長い時間、一緒にいて分かったのは…

 

お前が言うことは虚言じゃないってことだ。

 

それは、経験論的で断片的で主観的なものだが、俺は久しぶりにそういうのを信じてみようと思った。

 

だから、俺は雪ノ下が言った今日の昼間の言葉と今の言葉を信じてみようと思う。」

 

 

 

俺が話してる間も雪ノ下は夜景を見つめている。

 

俺は吸えるだけの空気を吸い込む。

 

 

 

 

 

 

「なぁ雪ノ下…。

 

 

俺と友達になってくれないか?」

 

 

 

 

 

 

雪ノ下はその場で体をこちらへ向けて、少し笑って答えた。

 

 

 

「ええ。

こちらこそ。」

 

 

 

「いいのか?」

 

「ええ。」

 

「虚言じゃないのか?」

 

「ええ。」

 

「そうか…」

 

 

 

そうか…。

 

友達か…。

 

なんか、嬉しいもんだな。

でも、友達になるのって、こんなに難しいことなのか?

 

 

「えっ…?」

気付けば、俺は頬からしたたるほどの涙をながしていた。

何をこんなことで…。

いつの間にか、制服が一部色濃くなるほどに俺は泣いていた。

血を見たら痛みが増すのと同じように、自分の涙を見て感情が不安定になってきた。

 

「ありがとう、雪ノ下。」

 

 

雪ノ下は俺の方にゆっくり近寄って来て、俺の隣に正座した。

無言のまま俺の方を向いて、そっと俺の頭に手を置き、優しく撫でてくれた。

 

いつ以来だろうか…。俺は吐きそうになりながら、延々と泣き続けた。

時間が過ぎることも忘れ、俺は雪ノ下に体を預けて、ただ泣き続けた。

その間、雪ノ下は片手で息苦しそうにむせている俺の背中をさすり、もう片方の手で俺の頭を撫で続けてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「んっ…?」

目を開けると、幕張の夜景が目に入る。

まだ夜か…。

携帯を見ると11時を過ぎていた。

横には正座していた雪ノ下が俺と同じ向きに座っていて、すーすーと静かに寝息をたてている。

 

「ありがとな…」

 

俺はそう言って、そっと雪ノ下の頭を撫でた。

すると、雪ノ下は目をこすって俺を見る。

「すまん、起こしちまったか。

まぁでも、ここじゃ風邪引くし、部屋に戻ろうぜ。」

雪ノ下は俺から目を逸らして、夜景を眺めながら答える。

「もう少しだけ、ここにいましょう。」

そう言って雪ノ下は目をつぶり、俺の上着の裾をちんまりとつまんだ。

雪ノ下は僅かに身を震わせているようだった。

「寒いのか?」

「ええ、少し。」

そう正直に言われて何もしないわけにもいかない。

「いいの?」

「あぁ、俺は寒くないからな。」

俺はそっと雪ノ下に上着をかける。

 

 

 

「ねぇ、比企谷くん?」

 

「なんだ?」

 

「友達なんだから…その…

 

今度、買い物にでも行くというのはどうかしら?」

 

 

 

「そうだな…。」

 

 

 

こういうのも悪くない。

まぁ、雪ノ下は若干酔いもまわってるのかもしれんがな。

 

 

自分のこの行動を成長だの進歩だのと言うつもりはない。

なんせ、俺はぼっちの頃も自分のことは嫌いじゃなかったしな。

 

だが、今の比企谷八幡を、雪ノ下雪乃を、俺は悪くないと思っている。

 

卒業式の1日…今日という日は悪くなかったはずだ。

 

 

それなら…。

 

こう言っても差し支えないのではないだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『案外俺の卒業式は間違っていない』(完)

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