霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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接触

この世界に生まれ変わってからそれほど時間がたってはいないが、それでも石はある程度自分の周りの事を把握しつつあった。

 

自分が居を構える洞窟は、砂漠にぽつりと佇む小さな岩山の側面に空いた洞窟であり、人間が住むには過酷な環境で人の集落はここから遠く離れた場所に位置するらしい。

 

一応地上に人間と思われる気配が各地に点在しているように感じていたが、自分が想像するよりも気配を感じる範囲は広かった様だ。

 

「うーん!良く寝たぁ!!」

 

「まったく、不用心甚だしいぞラナ」

 

「あ、おはようカシム。」

 

寝ぼけた表情で目を覚ましたのが、ラナという少女で、周囲の警戒をしつつ仮眠をとったのがカシムと言う壮年の男性らしい。

 

「・・・・交易ルートから離れすぎている。砂嵐が収まっている今のうちに戻るべきだろう。」

 

「え~?折角珍しい場所見つけたのに、探索しないで帰るっていうの?」

 

「キャラバンの長の娘であるお前の護衛が俺の仕事だ。水の補給も終わっただろう?言う事を聞いてくれ。」

 

「いやいや、適当に言っている訳じゃないんだよ?だってさ、この洞窟湧水が出たんだよ?もしかしたら、新しい中継地点になるかもしれないじゃないか!」

 

カシムが顎に手を当てて少し考えると、ため息をつきながら背嚢を背負う。

 

「ふむ、確かに水源があれば交易ルートの開拓も可能・・・か?いや、いっその事拠点を構えるというのも悪くはないか・・・。」

 

「でしょ?でしょぉぅ?にひひっ!探検しよう!た・ん・け・ん!」

 

顔を近づけるラナ、面倒くさそうに彼女の額を掴んで押しのける。赤銅色の髪の毛がくしゃくしゃになる。

 

「そう言う所がまだ子供なんだよ、しょうがない、少しだけだぞ?」

 

睡眠不足で多少乱れた黒髪を櫛でオールバックにとかしなおし、カシムは武器や道具の確認をした後、洞窟の奥へと歩いて行く。

 

石はこの洞窟の中に地下水の類が無い事に、多少申し訳なく感じ、先ほど地下水を作り出した要領で、比較的浅い場所に広間を作り地底湖を作り出し、発光する水晶を彼方此方にちりばめて光源を確保した。

 

「何だか空気が冷たくなってきたな・・・。」

 

「外は灼熱の大砂漠だからねぇ・・・水たまりみたいな物でも良いから、水源が干乾びずに残っていてほしいもんだよ。」

 

「・・・・ラナ、気を付けろ洞窟の奥に明かりが見える。」

 

「先住者が居たって事?カシム・・・うん、わかった様子見してくれないかね?」

 

「それが俺の仕事だからな・・・任せておけ!」

 

ラナも腰に提げた護身用と思われる短剣に手を伸ばし、いつ襲撃があっても対処できるように周囲を警戒した。

 

カシムが、明かりの方向に向かった後も洞窟内の観察は欠かさず行っており、意外としっかりとした地盤の洞窟であると分析した。

 

「ラナ!凄いものを見つけたぞ!早く来てくれ!!」

 

カシムが興奮交じりで叫び、ラナを呼ぶ。

 

「カシム!?・・・わ・・・わかった!今行く!」

 

二人が地底湖の入り口に立った時、唖然とした表情で暫く佇んでいた。

 

「た・・確かにさぁ、冗談交じりで水源が無いか調査しようと提案したけどさぁ・・・こりゃぁ、とんでもない事だよ?」

 

「こんな大砂漠にこんな地底湖が存在するとは、どれだけの時間をかけて形成されたんだろうか・・・?」

 

石は心の中で、今さっき作ったばかりだと謝罪をし、二人の反応を見守った。

 

「ここに住もう!村のみんなにこの場所を伝えてさ!だって、村の井戸も年々湧水の量が減って行っちゃっているし、これだけ水があれば何とか生きていけるよ!」

 

「落ち着けラナ、見えている範囲だけでも相当な量の水だが、それがいつまでも続くとは限らんのだぞ?」

 

「でも、だって・・・!」

 

「・・・少々危険だが湖に入ってみるか、どんなもんだか」

 

カシムは、靴を脱ぎ、下着姿とまでは行かずとも身軽な服装になると、恐る恐る地底湖の水に足を差し込み、湖の中央まで歩いて行く。

 

「む・・・急に底が深くなっているな?これは思ったよりも水量があるのかもしれん、これは期待できるぞ?」

 

息を止めて地底湖の底へと潜り始める。ラナは心細そうにカシムの様子を見守る。

 

「カシム?・・・大丈夫?おーい!カシムぅぅ!」

 

カシムが潜った場所に、ポコポコと泡が浮かんできて、水しぶきと共にカシムが水面まで戻ってくる。

 

「ぶはぁっ!・・・久しぶりに泳いだから息が持たないと思ったぞ・・・ラナ!朗報だ!底が深いし相当な水量だ!見えている範囲だけでも十分に水が使えるぞ!」

 

「うそ・・・うそぉ・・・。」

 

ラナは体が震え、涙がこぼれ始める。

 

「これで・・・これで村が救える・・・水が、水がこんなに一杯に・・・。」

 

「魚の類はどうやら生息していないみたいだな、太陽光が差し込まないからか水草一本生えていない・・・水質は料理に使ったものと大差ない様だ。飲めるぞ」

 

バシャバシャと、浅瀬を歩きながらラナへと近づくカシム。

感動に震えるラナの背中を叩き、洞窟の調査を良く提案してくれたとほめたたえる。

 

「有難う、カシム・・・でも、背中・・・濡れちゃったんだけど?」

 

「うぉっ・・・すまん!」

 

石は、二人のやり取りを微笑ましい穏やかな気持ちで見守っていた。

 

(ふむ・・・試してみなかったけれど、地表まで影響を与えることは出来ないだろうか?地底湖を作ったことで、何かの力・・・それを結構消費してしまった。)

 

(・・・・今でも微量ながら彼らから私に何かの力が流れ込んでゆくのが解る。しかし、彼らの健康面で悪影響が及んでいない事から、もしかしたら彼らと共生関係を持てるかもしれない。)

 

キャラバンの長の娘ラナは、早速彼らの集落にこの洞窟の情報を持ち帰るんだと息巻いており、護衛のカシムも武具の点検をした後、黙々と集落へ帰る準備をし、最後に二人で水分補給を行った後、洞窟を去って行った。

 

(洞窟の中を監視カメラの様に見渡すことは出来るけど、洞窟の外になると離れれば離れるほどノイズ交じりになるな・・・最後はもう何も見えないか。)

 

石は、洞窟周辺までなら視点移動が可能なことを確認すると、早速地表に影響を与えることが出来ないか、実験を始めた。

 

結論から言うと、洞窟の外の方が何かの力を多く消費してしまう事、そして砂嵐や灼熱の日光などで容赦なく地形が風化されてしまうため、多少丈夫に作らないと持たないことが分かった。

 

(洞窟の岩山の上部にオアシスでも作れれば、彼らが定着した時に助かると思うけれど上手くいかないものだなぁ・・・そもそも洞窟の外に出た水はあっという間に干乾びてしまうし、何か保水性の高い構造はないものか・・・。)

 

石は神経細胞すら持たないはずの脳裏に、ふと思い浮かぶものがあった。

 

(スポンジだ!スポンジ状の構造を岩の間に作り出せばある程度の保水が出来るかもしれない・・・鍾乳石の一部に管を通して毛細管現象で地下水を地表に吸い上げるようにすれば・・・・。)

 

石は、彼らが去った後も試行錯誤を繰り返して少しずつ洞窟内や洞窟周辺の土地を弄り、生物がすむのに適した環境になるように整えていった。

 

そして、石が彼女らが戻らない事を心配し始めた頃に、地平線の奥に黒い影が見えた。

・・・・それは少しずつ大きくなって行き、ラクダの様な生物に荷物を載せた大規模な集団が、石の居を構える洞窟へと向かってくることが分かった。

 

(無事だったのか!良かった・・・かなり土地をいじったから、力も大分消費してしまったが、まだまだ蓄えはある。彼らが定着してくれればその内、消費した分も取り返せるかもしれない。)

 

「見えたぞ!間違いない!あれが私たちが見つけた水の洞窟だよ!!」

 

キャラバンの皆は、歓声を上げる。多少やつれていた表情がぱっと明るくなり、慌てた様に駆け出す者もいた。

 

「はぇ・・・うそ、洞窟の外に小さな湖が出来ている?」

 

「砂嵐で視界が遮られてはいたが・・・風化作用だけでここまで地形が変わるものだろうか?」

 

少しだけ身長が伸びたラナと、以前来た時よりも風格の増したカシムが久しぶりに訪れた洞窟の岩山に驚きの声を上げる。

 

「日陰になる山もあるし、心なしか砂の量が減ったというか・・・砂の底に沈んでいた岩山が姿を現したって事なのかな?」

 

「解らん、だがこれは良いぞ・・・とても良い事だ。日陰も多いし、洞窟に潜らなくても水が汲める、どういう訳か新たにできたオアシス付近の砂は常に湿り気を帯びているし干乾びる様子もない。」

 

キャラバンの者は、オアシスに飛び込むものもいれば、皮袋に水をためる者もいる。農地に適した土地かどうか検証する者も居た。

 

「あの後、村の井戸水も干乾びちゃったし、村丸ごと移動して良かったよ・・・本当に・・・。」

 

以前訪れた二人の後ろに、白髪交じりの男性が歩いてくる。

 

「あ・・父さん!」

 

「ラナ、カシム、良くやった。そして、村の大移動を決断させてくれたことに感謝する。」

 

「父さん、これで隣国に避難しなくて良かったよ。いいように使いつぶされることも無くなったんだよ?」

 

「あぁ、お前は自慢の娘だ。」

 

「村長、これで我々は滅びずに済む、オアシスが枯れて消滅した集落のなんと多い事か・・・。」

 

「カシム、ラナをよく無事に護衛してくれた。ラナだけなら半信半疑だったが、お前が私や村の皆を説得してくれたおかげで我らは新たな故郷を得ることが出来たのだ。」

 

「えへへ、やったねカシム!」

 

石は、洞窟周辺の様子を伺いながら、自分の支配する領域に居る者たちから力が流れ込んでくるのを確認し、これならば消費した分を取り返せるのはそう遠くはないだろうと、満足そうに心の中で頷いた。

 

(そう言えば、地底湖に生き物がいないと言っていたな・・流石に生物まで生み出す事は出来なかったが・・・?なんだ?何をしているんだ連中は?)

 

洞窟の中に入り込んだキャラバンのメンバーの一部は、地底湖に白い泥の塊の様な玉を籠一杯に放り込み、何かの植物の種子の様なモノを岩の隙間に差し込んでいた。

 

「オアシスが干乾びる前に、肺魚の卵を確保できて良かったよ・・・上手く増えてくれれば良いな。」

 

「水モロコシも、この水晶の光源で育ってくれれば良いんだけど、大丈夫かなぁ・・・?」

 

石は地底湖に生物が居ない事に悩ませていたが、彼らが洞窟の外から勝手に持ち込んでくれたことに安堵しつつ、洞窟が・・・知らぬ間に自分の支配領域が改造されて行くことに僅ながら怖さを感じていた。

 

(何だか色んな種類の作物だか卵だかを地底湖に入れているけれど、大丈夫なのだろうか・・・あっ、卵から力が流れ込むようになった・・・水に反応して孵化する生物なのかな?それまで生物と言うよりも物体に近かったみたいだけど・・・。)

 

石は、この世界の生物の力強さに驚きつつも、これから始まる不思議な共生関係に希望を持ち、まだ見ぬ未来へと思いをはせた。

 

(ま、いっか・・・これから賑やかになれば良いな。)




ずっと続きを描きたくて妄想こねくり回しておりましたけど、アイディアの整理を兼ねて思いついたときに、続きを書くようにしたいと思います。

そろそろタイトルもダンジョンマスターもの試作(仮から正式なタイトルに変えないとですね。

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