霊晶石物語   作:蟹アンテナ

27 / 92
砂漠の青き雫

緑の帯と言う交易路を確立した商人達は、安全に砂漠を渡れることによって大河の国同士の交易を活発化させ、水源が細り鈍っていた経済を再び回し始めた。

 

それに伴い、情報的な交流も深まり、各地の情報も集まるようになっていた。

 

「あの国は主力商品としている麦が不作らしい、国民の不満をそらすために戦争するための口実を探している様だ。」

 

「厄介だな、うっかり俺たちが火種にならないように気を付けないと・・・。」

 

「莫大な量の水源に胡坐をかいて農作物を育てるための工夫を怠ったツケが回ったんだろうよ、干ばつ対策に奔走していた他の国を笑っていたからこうなる。」

 

「大河上流の国と下流の国での諍いも多くなってきたし、本当に困ったもんだ。」

 

「水を使いすぎている?冗談じゃない、水が少なくて済む作物や農法の導入、使用した水の可能な限りの再利用、雨が降った時の為の溜め池など、出来る事は全て試している。」

 

「昔は大河が氾濫した時の為に対策を練っていたものだが、逆に水源の枯渇に対策を練らねばならなくなるとは・・・。」

 

「雪解け水を利用できる我が国は幾分かマシとは言え、清浄な水源の確保は急務だな、学士連中に知恵を絞って貰わなければ・・・・。」

 

大河の国々の商人たちは、干ばつと言う異常気象によって寸断されていた交易路の謎の復活に伴い、交易品と共に情報を持ち帰り小銭を稼いでいた。

噂程度の情報でも、この危機的な状況では宝石よりも価値があり、大河の国々はそれらの情報をかき集め吟味し、それらを元に国の方針を決める材料としていた。

 

 

ある緑の帯のオアシス村にて・・・。

 

「しかし、何故最近になって枯れていた水源が復活したのだろうか?」

 

「この泉自体はそれ程大きくないのだが、それでも清浄な水がこんこんと湧き出ているじゃないか。」

 

「各オアシスの中心に浮かぶ水晶の祭壇は一体なんだろうな?ここの住人は毎日のように祈りを捧げているが・・・。」

 

「ただでさえ干ばつで厳しい環境なのに祭壇を設置するのも大変だったろうに・・・何処から調達した物かは判らんが・・・・。」

 

「依頼主はこの村の長老と交渉中・・・・薬効のある砂漠の植物を工具と交換しているそうだ。」

 

「商人の護衛は命がけではあるが、最近は安全に砂漠を渡れるし、治安も良くなったから割の良い仕事になったな。」

 

「そう言えばアンタ、元衛兵だったんだって?何で傭兵なんてやっているんだ?」

 

「国の資金繰りが厳しくてな、軍の規模を縮小し農地の拡大に回して退役する事になった。まぁ、畑を耕すのは苦手でも用心棒なら出来るしな、俺にはそうなる資質があったんだろう。」

 

「へぇ、苦労しているもんだなぁ・・・俺はただ単に世界を見て回りたくて行商人見習い(まぁ雑用ばかりなんだが)をさせて貰っているんだよ。」

 

「そうか、早く一人前になって独立出来ると良いな。」

 

「あぁ、お陰様で楽しませてもらっているよ、仕事は厳しくても苦痛では無いんでね。」

 

水瓶から陶器の椀で水をすくい、一杯煽る。

 

「しっかし、小さな泉でやりくりしている割には此処の住民は水を贅沢に使うなぁ、作物の水やりにせよもう少し節約するもんだと思っていたが。」

 

「ふむ、確かにあれだけ各家庭で水を消費していて泉の水かさが減らないと言うのも不思議なものだ、実は表に出ている泉はほんの一部分でもっと深いところに水源があるのかもしれんな?」

 

「はぇぇ、アンタ元衛兵の割には博識なんだなぁ、実は学士さんでも目指していたとか?」

 

「あぁ・・・いや、仕事柄こう言った情報は良く耳にするのでな、自然とそう言った知識が得られるんだよ、まぁそれは商人も変わらんと思うが?」

 

「ははっ、そりゃ違いねぇ、俺も未熟もんをさっさと卒業して、色んな知識を得て世界中を自分の足で歩いてみたいもんだな!」

 

商人の護衛として雇われた傭兵は、水瓶に水筒を沈め水を補充しながら砂漠の民を観察する。

 

(砂漠の民が言う砂漠の神とやらを祭る祭壇、夜になるとぼんやりと光を放つ仕組みになっているが、あんなものがこの緑の帯のオアシスに1つずつ必ず存在するのが不自然極まりない。)

 

(今は真昼間だから分かりづらいが、村人が祈りを捧げるたびに祭壇の紋章部分が淡く発光する・・・・もしや本当に砂漠の神とやらが?いや、そんな筈は・・・だがしかし。)

 

(村人曰く、復活したオアシスを発見した頃には祭壇が存在していたと言うが、もし彼らの言う事が本当ならばこの地の水源が復活した事と、あの祭壇・・・いや、砂漠の神と呼ばれる存在の関係性は噂として切って捨てるには尚早か?)

 

「旦那、アンタさっきからこの村の住人をじろじろ見てるが、何か気になる事でも?」

 

「いや、折角復活したオアシスの水が水の使い過ぎで枯れなければ良いなと思ってな。」

 

「まぁ、贅沢に水を使っているって言っても、大河の国みたいにだだっ広い農地に水を馬鹿みたいに使っている訳でも無いんだから、それはそれで良いんじゃないか?水も大切だが食いもんを育てないとやってられんしなぁ。」

 

「ふむ、大河の国からの輸入頼りでは集落としてやって行けんからな、最低限の自給自足は必要という事か・・・。」

 

(これは、国に報告しなければならんな、もしかしたら水不足の解決につながるかもしれん・・・む?)

 

オアシスの村の住民が数匹のラクダの商隊を送り出し、家族と思われる女性と子供たちが商人の男達とそれぞれ抱き合っている。

 

(この村のキャラバン隊か、物資の補充にでも出かけるのだろうか?)

 

麻布の袋を紐で絞めてラクダの背中に荷積みし、自分自身も大きな背嚢を背負い、ひらりとした重さを感じさせない動作でラクダの背中に乗る。

そこで、商人の護衛として雇われていた男は、信じられない物を目にする。

 

「なっ!?」

 

「あん?どうした旦那?」

 

「あぁいや、何でもない。」

 

(一瞬だけ袋の中身が見えたが、大量の水の魔石だと!?なぜ砂漠の民があの量の水の魔石を・・・・。)

 

(まさか、渦巻き沼のトカゲ共と何か繋がりが?いや、つい最近まで砂漠の奥地に避難していたという・・・その砂漠の奥地に何かが存在するのだろうか?)

 

(一体どういうことだ?・・・・こ・・この情報だけは何としても国に持ち帰らなくては・・・。)

 

緑の帯の交易路が確立されて以来、盛んに交易が行われ各地の情報のやり取りがされる中、砂漠の民が水の魔石を所持しているところが目撃され、大河の国々は砂漠の民に注目するのであった。

 

肯定的にとらえる者は、砂漠の民の交渉術がたけているから渦巻き沼の集落から水の魔石を大量に調達できたのだと言い、否定的にとらえる者は裏で盗賊をやっていて水の魔石を運搬中の商隊を襲い奪ったのだという。

 

だが、確証は得られないものの干ばつに襲われる砂漠を救うために砂漠の神が降臨し、水源を復活させたという砂漠の民の間で突如広まった信仰の情報を入手した国々は、情報の信憑性を高めるために更に直接的な調査に乗り出すのであった。

 

それが砂漠の民にとって歓迎せざるものであっても、世界は動く。

 

唯の知的好奇心を満たすためや、状況を打開するために砂漠の民から知恵を得たいのならば良い所だが、中には砂漠の神と呼ばれる存在の力(カリスマ的な指導力と交渉術を持つ人材や魔石調達先のコネクション・または本当に神の様な力を持つ存在)を独占しつつ、砂漠の土地を復活させ領土に組み込む野心を持つ国も存在した。

 

それぞれの国がそれぞれの国益を求めるために、干ばつに襲われる大地は更なる試練を迎える・・・。

砂漠の民と砂漠の神たる迷宮核が望むと望まざるとに関わらずに・・・。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。