作家のすなる勘違いというものも私もしてみんとてするなり。 作:菊池 徳野
続きはまたテンションが上がったときに書きます。
その男が提督に着任したのは梅雨の入り、6月中旬の事だった。
國に命を捧げ、怨敵を討ち滅ぼさんと心の臓に鉄のような想いを秘めた男であった。
海洋貿易を生業とする商家の出、父と母は既に亡く近しい親類はおらぬという。
母を、父を、我が愛しき日常を焼き払った深海棲艦共を滅ぼさねばと志願をした――。また、顔に負った大きな火傷が、日常を捨て戦争に生きることに拍車をかけたと彼は語った。
軍学校では血反吐を吐く程の修練をしていたと聞いている。命を燃やす様というのはかくあるか、と話題に出ていたのを聞いたのは一度や二度ではない。
その顔の火傷を指して、彼の事を鬼と呼ぶ者もいた。
「五十嵐三尉、まもなく到着いたします」
「…そうか、わかった」
『鬼五十嵐』、彼を着任する鎮守府に送り届けることが一下仕官である自分の仕事である。
徒に他人を恫喝したり気性が特段荒いということもない、五十嵐という男は噂とは裏腹に物静かな男であった。ただ、その顔は火傷のせいもあり鬼という言葉で表すに相応しい物だと心の中で呟いたのだが――。
ちらり、と鏡越しに様子を伺うとしきりに顔の火傷に指を這わせ、顰め面をより濃くしていた。
聞きかじった程度の知識でしかないが、雨で古傷が傷む事があるらしい。わざわざこんな日に着任とは、少しあんまりな気もする。
「着きましたよ」
「あぁ、ありがとう」
車を停めて傘を出す。
普通、新人提督は内地の目が届く言うなれば出来合いの鎮守府に配属されるが、稀に前線に程近い新造の鎮守府に回される場合がある。それは人員の一時的な飽和によるものであったり能力適正の高さであったり様々あるが、彼は…自己申告によるものだと聞いている。
ガレージもなく未だに一部はブルーシートを被ったままの鎮守府を見るのは初めてのことだった。ろくに整備の済んでいない道路はぬかるんでいて、軍靴を泥で汚していた。
「では、私はこれで失礼します」
「あぁ、感謝する」
敬礼、答礼――格式に乗っ取った行為を交わし彼を見送る。
その時になって初めて正面から見た彼の顔は、未だ幼さを残しながらも意思の確りとした男の表情であった。ただ、その目にはどろりとした暗いものが確かに存在しており――。
「年若い奴等がなんであんな目をしなきゃならんのか…」
彼の姿が見えなくなってから車に乗り込み、男は独りそうごちた。
心の中に釈然としない物がどろどろと燻って、黒い煙をあげていた。
「日本國万歳ッ…!」
吐き出すようにそう口にする。
苦虫を噛み潰したような表情で、そう呟くに留めた。
不敬や怒りなど、様々な思いを押し止めた言葉の真意は、押して知るべしである。
ポツポツと雨が傘に当たる音を聞きながら、少し苛立たしげに男、五十嵐は眉をひそめた。
皮膚が張る様な僅かな痛みに顔の火傷がうずくのである。
中に入ってしまえばそれも少しはよくなるだろうと鎮守府の入り口らしき扉に手をかける。
そのまま中を見ると、初めに、幼い少女がどこか落ち着きがなくそわそわとしているのが目についた。
音に気づいたのか目があった。
「あっ!提督さんが鎮守府に着任…ひっ!」
既に決めていたのだろう口上を述べ元気に挨拶をする、そういう予定だったのだろう。しかし少女は予想外の事に途中で小さく悲鳴を上げてしまう。
「あの、あの…暁型駆逐艦 電なのです。司令官…提督さん、でしょうか?」
それでも職務は全うせねばならない。初めの勢いはなりを潜めていたが、駆逐艦 電は必要な事を口にした。
顰め面をした鬼面の男が本当に提督なのか、流石にそのまま口にはしなかったが。
「あぁ、本日よりここに着任する五十嵐三尉相当官だ、よろしく頼む」
返事は当然是であった。この鎮守府は最近できた、未だに建造中のものである。戦争の激化を恐れて派遣されるという提督以外には、近づく人間などそう多くはない。
「は、はい!電は電なのです!よろしくお願いします!」
先の無礼を取り戻そうと彼女のできる精一杯を返す。
もとより電は大本営より鎮守府の経営を共に支えて欲しいと送り出されて来たのである。初対面で軋轢を生んでしまっては元も子も無い。
「あ、あの、あの司令官?」
しかし、頭を下げた電に提督から返されたのは、罵声や許しの言葉ではなく――頭を撫でられることであった。
何故こんなことに?と考えるが、既に頭が追い付いていない。
頭を少し上げて提督の様子を伺うが、顰め面では無いものの何を考えているのか分からない。
結果――
「あうあうあう…」
電はショートした。
ぐりぐりと割りと優しく撫でられながら電は思考を放棄したのだ。
そして、脳内では小さな電達が提督が悪い人ではなさそうだ、という結論だけだしてSケンを始めていたりと大変である。
「(可愛いなー、電ちゃん。やっぱり海軍入って良かったかもしれない)」
そんな電の様子を知ってか知らずか撫でることを止めず、己の欲望のままに電を構い続ける。
表情は火傷を負った時に抜け落ちたとでも言わんばかりのポーカーフェイスを保つ男、五十嵐提督。
この男、実は可愛いもの好きであることは誰にも知られていない。そして、海軍に入ったのも実はただの生活苦からであることを理解している人もまたいないのである。
電の本気を見るのです!
あわあわ言ってる女の子って可愛いよね。
諸葛亮とかさ。
この作品は、三人称描写の練習用の作品です。
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