とある右方の英雄学園   作:弥宵

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入学試験

 ヒーローになる。

 そう決めたのはいいが、ではそのためにすべきことは何か。

 まず思いつくのは『個性』の強化だが、フィアンマに関してはこれは当てはまらない。

 フィアンマの『聖なる右』は、『倒すべき敵』の強大さに応じて出力が変動する。ただし、そこには速さも強さもない。

 振れば当たり(・・・・・・)当たれば倒せる(・・・・・・・)相手を一撃で確実に倒せる(・・・・・・・・・・・・)だけの出力に、常に自動で(・・・・・)調整されるのだ。

 つまり、鍛えるまでもなく既に最強と呼べるだけの火力を有しているということだ。加えて、本来課せられていた制限の大半が何故か外れているため、少なくとも一戦や二戦程度で空中分解することはない。全盛期にこそ及ばないものの、『ベツレヘムの星』実行以前の不完全な状態よりはかなり安定している。更に持続時間を延ばす訓練はできなくもないが、優先順位は低いと言っていいだろう。

 

 次に、身体能力の強化。これは必要だろう。上条当麻の幻想殺し然り、抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』の個性無効化然り、『聖なる右』が封じられる可能性はゼロではない。そうなった時、並の身体能力しか持たなくては太刀打ちは難しい。

 

 それから学力。ヒーロー科に進むだけならば大して必要にはならないが、どうせ目指すならば頂点を狙うべきだろう。そうなると、入試倍率が三百倍にも及ぶ国立雄英高等学校が第一候補になる。国語や英語は問題にならないが、数学や理科は多少学び直す必要があるだろう。歴史の類も、世界が異なる以上どこかしら変わってくるはずだ。

 

 最後に、社会情勢の把握。(ヴィラン)の実力や数、性格、思考回路等を知ることだ。起こり得る悲劇を未然に防ぐには相手の思考を辿るのが一番であり、そのためには多くの情報が必要になる。これが四つの中で最も重要だ。『倒すべき敵』さえわかっていれば、フィアンマは確実に勝てるのだから。

 そんなわけで最優先で取り組むべき課題ではあるのだが、フィアンマの家庭は多少裕福な一般家庭に過ぎないのだ。当然裏社会の情報など入ってはこない。

 

(あの男ならば、情報(そんなもの)などなくとも誰かを救ってみせるのだろうがな)

 

 上条当麻ならば、あるいはオールマイトならば。

 

「だが俺様は俺様だ。右方のフィアンマであり、右方神威でしかない」

 

 そんな仮定は無意味だ。どうあっても彼らと同じにはなれない以上、自分のやり方でやるしかない。

 

「とはいえ、現状情報源の目処は立っていない。不本意だが後回しにせざるを得んな」

 

 となると、まずは体力作りからか。

 高校受験は十一年後。ひとまず、そこを目標にしてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…懐かしいな」

 

 ふと思い出したのは十一年前。この世界において、ヒーローを志すことを決めた当時の記憶。

 『個性』は当然ながら、体力と学力の向上も順調だ。雄英の入試の基準はとうに上回っているだろう。問題は情報だが、こればかりはプロになるまでは手に入らないと思っておくべきだ。

 

「ともあれ、今日ここからだ」

 

 国立雄英高等学校、入学試験当日。筆記試験を目前に控えた朝。会場入りを済ませ自分の席に腰を下ろしつつ、フィアンマは思案する。

 

(筆記はともかく、実技の内容が気がかりだな。単純な戦闘能力だけで測るわけではあるまい)

 

 戦闘能力以外にも、ヒーローを目指す者としての精神性や戦闘以外の方面での長所も見られるような内容であるはずだ。ならば災害時の人命救助などか?あるいは人質の奪還というのもあり得るか。その辺りの説明は筆記試験終了後にあるとのことだが、今のうちにある程度考察を進めておくべきだろう。

 筆記試験など眼中にないと言わんばかりの態度だが、彼の学力ならばまず落とすことはない。実際、その後の筆記試験は恙なく終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『今日は俺のライヴへようこそー!!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

 ハイテンションな大声の主は、ボイスヒーロー『プレゼントマイク』。誰にも反応を返されず若干震えているようだが、フィアンマの知ったことではないのでそのまま要項に目を通していく。

 

(……ただの市街地演習。仮想(ヴィラン)を倒すだけだと?)

 

 これだけの受験者がいては仕方がないのかもしれないが、これでは物理的な破壊力くらいしか測れないのではないか。

 

(流石にそれだけとは考えられん。何かしら別の基準が存在するはずだが)

 

 気がかりではあるが、やることは変わらない。仮想敵を倒せと言うならば倒すまでだ。

 

(まあ、やることが単純なのは別に構わん。『敵を倒す』ということならば尚更だ)

 

 少なくともその一点において、フィアンマを上回る者などそうそういないのだから。

 

 眼鏡をかけた委員長的な雰囲気の少年が質問したり、もじゃもじゃ頭の気弱そうな少年が咎められてビクビクしたりといった中、質問と回答を除き全て聞き流していたフィアンマは情報を整理する。

 

(仮想敵は三種類。行動不能にすることで相手に応じたポイントが入る。0ポイントのお邪魔虫もあり、時間は10分。『個性』持ち(超能力者)とはいえ高校生にもならない子供が相手取る前提ならば、強度はさほどでもないか)

 

 まあ『聖なる右』の前に強度は無意味なのだが、万一そちらに限界が来ても通常の機械程度の強度ならば何とか素手で相手取れるだろう。誘導して同士討ちでもさせれば倒すことも不可能ではない。よもや学園都市の機械を上回るAIが積んであるわけでもあるまいし。

 

『それでは皆、良い受難を‼︎』

 

「っと、終わりか」

 

 説明が終了し、演習場への移動が始まる。フィアンマも席を立ち演習場行きのバスへと向かう。

 

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

 当然、出るのは機械なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハイスタートー!』

 

「む」

 

『どおしたあ⁉︎ 実戦じゃカウントなんざねえんだよ‼︎ 走れ走れぇ‼︎ 賽は投げられてんぞ!!?』

 

 唐突に響き渡った開始宣言に呆気に取られた受験生一同だったが、気を取り直して会場内へと駆ける。フィアンマはいち早く反応していたものの、鍛えたとはいえ常人の域を出ない身体能力では異形系などの速さに特化した者には及ばない。『個性』を用いれば瞬間移動じみた高速移動も可能だが、それを使わなければならないほど出遅れているわけでもない。ここは温存しておいた方がいいだろう。

 

「ふむ、あれか」

 

 数人に追い抜かれつつ市街地入りしたフィアンマは、早速仮想敵を発見した。ポイントは2。

 

『標的確認‼︎ ブッ殺ス‼︎』

 

「おいおい、口が悪いな」

 

 銃口を向ける仮想敵を前に、フィアンマは『第三の腕』を顕現させる。

 

「―――さあ、始めるとしようか」

 

 次の瞬間。

『第三の腕』から、莫大な閃光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…凄まじいな」

 

「そうですね……仮想敵を全て一撃で破壊とは」

 

「0ポイントの巨大エネミーまで瞬殺するとは、一体どれほどの出力なのでしょうか」

 

「いや、それよりも制御能力だ。仮想敵はどれも一撃だったが、決してオーバーキルではなかった」

 

「最適な出力を咄嗟に判断、あるいは自動で調整を?」

 

「救助にも積極的に動いている。救助活動(レスキュー)ポイントもかなり高いぞ」

 

「ダントツだな。救助活動ポイント0で2位というのも驚きだが…」

 

「逆に(ヴィラン)ポイント0で合格圏内に入った子もいるぞ」

 

「今年の受験生は粒揃いというか、癖が強そうですね」

 

 モニターに映る入試の実技試験の映像を見ながら議論を繰り広げるのは、合否判定を行う雄英高校の教師陣だ。

 

「ですがやはり、特筆すべきは彼でしょう。『個性』の強さ、判断力、他者を助ける精神、どれも申し分ない。身体もなかなか鍛えられている」

 

(…確かに強い。そして、おそらくまだ上限を見せてはいない)

 

 相澤消太――ヒーロー名『イレイザーヘッド』は、右方神威という受験生の実力に戦慄していた。

 

(戦い方は『個性』頼みではあるが、身体も鍛えられているのを見るに『個性』封じ対策もある程度できている。およそ中学生の力量じゃないぞありゃ)

 

 一体どこであれほどまでの実力をつけたというのか。『個性』の強さは勿論、それが封じられた場合の対策まで身につけるとなると、一体どれだけの時間を鍛錬に費やしてきたのか。あるいは『個性』の制御は天性のセンスだとでもいうのか。

 

「相澤先生はどう思います?彼」

 

「…ええ、実力は間違いなく頭一つ抜けてますね。文句なしの1位でしょう」

 

 不可思議な点は多々あるが、その実力には疑いはない。見た限りでは精神性にも問題は見受けられない。どう考えても落ちる要素は皆無だ。

 

(入学してから見極めるしかないか)

 

 おそらく彼は自分の担当のクラスになるだろう。そこでその本質を見極めていこうと決意し、相澤はモニターに顔を戻した。

 

 

 

 右方神威――敵ポイント62、救助活動ポイント46。

 総合順位――1位。

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