とある右方の英雄学園   作:弥宵

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お ま た せ


半年経っても応援してくださる方があれだけいらっしゃるとは。感無量であります。
アンケートに挙げていただいた他の作品も鋭意執筆中です。 しばしお待ちを。


悪意なんてどこにでもある

『私が投影された!!!』

 

 手紙を開いての第一声がそれだった。

 手紙なのに第一声という表現もおかしいが、実際に立体映像から声が聞こえてくるのでそう呼ぶほかない。

 投影された人影――オールマイトは、普段通りの豪快な笑顔で口を開いた。

 

『初めまして、右方神威君!ちょっと時間が押しててね、早速ですまないが結果発表といこう!!』

 

 手紙の内容は合格発表。雄英高校の合否を伝えるものだった。自信はあるが、流石に多少の緊張はするというものだ。

 

『まず筆記は合格!そして実技だが―――こちらも合格!! 文句なしで入学決定だ!!!』

 

「――まずは第一関門突破、か」

 

 ひとまず合格ということで、緊張していた身体がやや弛緩する。だがメッセージに続きがあることを察し、フィアンマは再び気を引き締めた。

 

『実技試験での獲得ポイントは62!これだけでも合格圏内なんだけど――それに加えて、実は救助活動(レスキュー)ポイントというものが存在する!!』

 

 救助活動ポイントはヒーローとしての基礎能力である、他人を救けようとする心意気を測るためのものだという。そういった要素があることは想定していたため、特に驚きはしない。

 

『右方少年は積極的に救助活動を行っていただけあって中々の高得点、46Pだ!合計して108P、総合順位一位!! おめでとう!!!』

 

「ふむ。出だしは上々といったところか」

 

 とはいえ今回は、課題が『敵を倒す』というフィアンマの得意分野であったことも大きい。まだまだ慢心はできないだろう。

 

 そんなことを考えていたフィアンマだったが、ふと疑問が生じた。

 

(確かにオールマイトは雄英の卒業生ではあるが、だからといって合格発表にまで携わるものか?)

 

 しばし思案していたフィアンマが一つの可能性に思い至った時、オールマイト(立体映像)がまさにその旨を告げていた。

 

『そうそう、実は今年度から、私オールマイトは雄英高校の教師を務めることになったんだよ!』

 

「……なるほど。これは嬉しい誤算だな」

 

 目標とする人物の一人との思わぬ接近に、フィアンマは僅かに口角を上げた。最悪プロとして独立するまで顔を合わせる機会がないことも覚悟していたが、これならば少なくとも在学中には対面が叶うだろう。

 

『えー、それでは〆させてもらうが……改めて、合格おめでとう右方神威君!来いよ、雄英(ここ)が君のヒーローアカデミアだ!!』

 

「――ふっ、」

 

 力強い言葉と笑みに、思わずこちらも笑みが溢れる。

 人を惹きつけて離さない魅力。それもまたヒーローの資質なのだろうと、フィアンマは思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 登校日初日。

 異形系の『個性』に配慮したと思われる巨大な扉の先は、これからフィアンマが共に過ごす雄英高校一年A組の教室である。

 特に気負うこともなく扉を開き、教室に足を踏み入れたフィアンマの視界に飛び込んできたものは―――

 

 

「あ、もしかして君もこのクラス?」

 

 

 制服だった。

 紛うことなき雄英高校の女子制服だった。

 より正確には、宙に浮いた(・・・・・)女子制服だった。

 更に付け加えるならば、その制服はちょうど女子高生の(・・・・・)背丈くらいの(・・・・・・)高さ(・・)に浮いていた。

 

 ――つまりこれは制服が浮いているのではなく、制服を着ているであろう人物が透明で見えないということなのか。

 

 

「……ああ。右方神威だ。お前も新入生か?」

 

「そうだよ、私は葉隠透!よろしくね!」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 朗らかな笑みを浮かべて挨拶してきた(と思われる)彼女に、フィアンマも挨拶を返す。

 

(『個性』は透明化、あるいは光の屈折か?それでよくあの入試を通過できたものだ)

 

 救助活動ポイントという制度こそ設けられていたものの、やはりあの入試は物理的な破壊力を伴わない『個性』では突破は難しい。そんな中で見事合格を果たしたからには、よほど『個性』の扱いに熟達しているのか、あるいは―――

 

(―――よほど身体を鍛えているのか?)

 

 透明であるため正確には見て取れないが、制服のシルエットは至って一般的な女子高生のものだ。だが、実はその中身は筋肉の塊だったりするのだろうか。

 

 筋肉という言葉から真っ先に連想された人物―――後方のアックアが女子制服を着ている姿を想像しかけたところで、フィアンマはその思考を必死に打ち消した。

 

(いかん、この先には地獄しかない。これ以上考えるな)

 

 脳内で『私は聖母である』とかぬかし始めた筋肉(アックア)を百回ほど爆殺したところで、ようやくフィアンマは我に返った。

 

「だ、大丈夫?」

 

 心配そうな顔をしている(気がする)葉隠の問いに、フィアンマは首を振って答えた。

 

「……問題ない。少々地獄を覗いただけだ」

 

「本当に大丈夫それ⁉︎」

 

「問題ない」

 

 なるべく葉隠(の制服)を視界から外しながら繰り返すフィアンマ。葉隠は困惑している。

 その微妙な空気を打ち破ったのは、既に教室内にいた男子生徒だった。

 

「おっ、お前もA組か!俺は切島鋭児郎、よろしくな!」

 

「ああ。俺様は右方神威だ」

 

「俺様系‼︎ マジか初めて見た‼︎」

 

 赤髪を逆立てた男子生徒――切島鋭児郎はフィアンマの一人称がツボに嵌ったらしく爆笑している。切島と話していた黒髪の男子――瀬呂範太も同様だ。

 

「別にそう興奮するほどのことでもないと思うがな」

 

「いや激レアだろ!自己主張強すぎだろそれ!!」

 

「そうか?」

 

『神の右席』という自己主張の塊のような連中の一員であったフィアンマとしては、一人称程度では然程インパクトを感じはしない。

 黄色の舌ピアス、緑の狂信者、青の筋肉ダルマ聖母………この話はやめよう。

 ともあれ、フィアンマにとって一人称など些細なことなのだ。

 

「そもそも自己主張と『個性』はほぼ同義だろう。突き抜けた力を持つ者の自己主張が強いのは、ある意味必然とも言えるんじゃないか?」

 

「さりげなく強さ自慢してんぞこいつ!」

 

「流石は俺様系!」

 

 切島と瀬呂が盛り上がる中、こちらを射抜くような視線をフィアンマは捉えた。

 

「随分と物騒な視線だな。俺様に何か用か?」

 

「用なんざねぇよ!調子乗ってんじゃねぇぞ右手野郎!」

 

「おい待て。色々と言いたいことはあるが、とりあえず右手野郎はやめろ」

 

「あァ⁉︎ てめーなんざ右手野郎で十分だクソが!!」

 

 恐らくフィアンマの『個性』を指して言ったのだろうが、流石に右手野郎はない。

 

「そもそも何故俺様の『個性』を―――ああ、そういえば実技試験で見かけたな」

 

 眼前の爆発頭の少年が、実技試験中に何度かすれ違った人物だとフィアンマは思い至った。中々のハイペースで仮想敵を破壊していたのを覚えている。

 確か掌を爆破させていたので、そういう『個性』なのだろう。

 

(なるほど。この刺々しさは対抗心の表れという訳か)

 

 実技試験でフィアンマの『個性』を見て、その強大さ、理不尽さの一端を感じ取ったのだろう。見るからにプライドが高そうであることだし、対抗意識を燃やしてもおかしくはない。

 

 フィアンマはこの程度でキレはしないが、中々友人ができなさそうな難儀な性格をしているな、と思った。向上心があるのはいいが、目つきや態度が凶悪すぎてヒーローとしての人気は出なさそうだ。

 

(いや、(ヴィラン)っぽいヒーローランキングなんてものもあることだし、それなりに需要はあるのか?)

 

 そんな考えが頭をよぎったが、まあどうでもいいことだ。現実に意識を戻すと、爆発頭――爆豪勝己は入試の時も声を上げていた眼鏡――飯田天哉に態度の悪さを指摘され、それに反抗していた。

 

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか⁉︎」

 

「思わねーよ!てめーどこ中だ端役が!」

 

 見るからに生真面目な飯田と、こいつ本当にヒーローになる気あんの?と思わざるを得ないレベルの暴言を連発する爆豪。当然ながら馬が合うはずもなく、口論は激化の兆しを見せる。

 

「ヒェッ、か、かっちゃん……」

 

 幸か不幸か、そのタイミングで教室に入ってきた男子生徒によって断ち切られることとなったが。

 

「デェクゥゥ……!」

 

「む、君はあの時の……」

 

 爆豪と飯田の注目が緑髪の少年に移る。特に爆豪はフィアンマに向けていた以上の、真の英雄(ヒーロー)は目で殺すと言わんばかりの強烈な眼光を向けている。

 何らかの因縁があるのかもしれないが、フィアンマの知るところではない。狂犬(爆豪)の注意が自分から逸れているうちに撤退しておくことにする。

 

 

 座席表で自分の席を確認し着席する。隣は口田甲司という男子生徒で、どうやら喋るのが苦手なようだった。フィアンマとしても無理に会話をしたい訳でもないので、大人しくホームルームの開始を待つことにしたのだが―――

 

「お友達ごっこしたいなら余所へ行け」

 

「なんか!いるぅ!」

 

 寝袋に入りミノムシを思わせる姿の男が、廊下からこちらを覗き込んでいた。

 

「ハイ、静かになるまで八秒かかりました。時間は有限。君達は合理性に欠くね」

 

 相澤消太と名乗ったこの男、どうやらA組の担任であるらしい。どう見てもホームレスにしか見えないが、この雄英で教師を務めているということはプロのヒーローということだ。実力は確かなのだろう。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 わざわざ着替えさせるということは、これから入学式という訳ではないらしい。実力テストの類かと当たりをつけたフィアンマは、手早く着替えを済ませグラウンドへと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「個性把握……テストォ⁉︎」

 

 やはりというか、入学式やガイダンスの類は行わないようだ。他のクラスの生徒を見かけないところを見ると、あるいはA組以外は普通にやっているのかもしれないが。

 

 これから行う内容は、要するに『個性』ありの体力テストだ。中学までの『個性』なしの体力テストでは測れない本来の(・・・)能力を測るという主旨なのだろう。

 

「それにしても、ここでも物理的な力がものを言うのか。ヒーロー活動の大半は戦闘行為が前提となる以上、ある程度は仕方ないのだろうが」

 

 精神干渉や感覚増強、瞬間移動など、単純な破壊力とは別のところで真価を発揮する『個性』も数多く存在する。それらへの風当たりが強いとフィアンマは感じたが、どのみち戦闘力が必要なのも確かだ。

 明らかに破壊力の低そうな『個性』で入試を突破した葉隠のような例もあることだし―――いや、これ以上考えるのはよそう。

 

 とにかく、このテストでも物理干渉系の『個性』が有利なのは間違いないだろう。

 

 

「じゃあ試しに右方、お前やれ。ちなみに中学の時の記録はいくらだった?」

 

「確か61mだったな」

 

「じゃあ『個性』を使ってやってみろ」

 

 相澤からソフトボールを渡されたフィアンマは、しばし思考を巡らせる。

 

(さて、何を対象とすべきか)

 

『第三の腕』は倒すべき相手の規模に応じて出力が変わる。ここでソフトボールを対象に選んでも、普通に投げるのと大差ない出力しか発揮できないだろう。

 故にもっと強大な、倒し甲斐のある(・・・・・・・)ものを選びたいところだが―――

 

「……ああ、これでいくか。実験にも丁度いい」

 

 フィアンマはそう呟くと、直後に右肩から『第三の腕』を顕現させる。ソフトボールを軽く投げ上げ、落ちてくるタイミングに合わせて対象を指定し腕を振るった。

 

 

(対象―――この学園内に存在する悪意(・・・・・・・・・・・・))

 

 

 ゴバァッッ!! という轟音と共に爆風が巻き起こり、辺り一帯を蹂躙した。フィアンマがそれに指向性を持たせると、煽られたソフトボールは彼方へと吹き飛んでいく。

 その数十秒後、ピピッという電子音が鳴り相澤のタブレットに記録が表示された。

 

『1052.3m』

 

「せんごじゅーに⁉︎」

 

 通常の体力テストではまず見られない数値に生徒達から歓声が上がるが、当のフィアンマの表情は優れない。

 

(ヒーロー育成校の頂点でこれか。人の悪意というものは、やはり根が深い)

 

 今しがたの『第三の腕』の出力はそこそこのものだった。かつて惑星全域の悪意を相手取った時とは流石に比べるべくもないが、高潔な精神が求められるヒーローの卵、あるいは現職のプロヒーローが集う場所としては決して小さいとは言えない。

 いかにヒーローといえど完全に悪意を捨て去ることはできないのは当然だが、それにしても無視できない規模だ。

 

(学校内部に何かある(・・・・)なこれは。内通者か、あるいは扇動を受けた輩か。一生徒の立場で探るには限度があるが、何もしないよりは―――)

 

「……方、おい右方!」

 

 思考の海に沈んでいたフィアンマは、相澤の数度目の呼びかけで我に返った。

 

「……失礼、少々結果が不服だった(・・・・・・・・)ものでね。つい考え込んでしまった」

 

「時間は有限だと言ったはずだ。進行を滞らせるなよ」

 

 相澤はフィアンマに釘を刺したのち、『個性』の全力使用の解禁に盛り上がっている生徒達に向き直る。

 

「……面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 冷たい視線を受け一気に鎮まる一同に、相澤は言い放つ。

 

 

「よし……トータル最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

「はあぁーーっ⁉︎」

 

 

Plus(さらに) Ultra(向こうへ)』。

 雄英高校の校訓であるその精神が、早速求められる時が来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とはいえだ。

 フィアンマにとって、この状況が窮地かと言われれば別にそんなことはない。

 

 一直線上であれば距離に関わらず一瞬で移動できるフィアンマにとって、50m走や立ち幅跳びは独壇場だ。持久走はカーブがある分時間はかかるが、それでも圧倒的なのは間違いない。

 握力はソフトボール投げと同じ要領でこなせばいい。実験がてら指定対象を変えつつ好記録を叩き出していく。

 長座体前屈は『第三の腕』の大きさからして有利だ。それを上回る記録を出す生徒もいたが、全体で見て上位には入っているだろう。

 残りの反復横跳びと上体起こしも、幼少期から鍛えただけあってそれなりの記録になった。『個性』を活かせなかった分やや見劣りはするが、決して低いものではない。

 

 そして結果は一位。やはり最初に挙げた三種目の功績が大きかったようだ。

 

 

「ちなみに除籍はウソな。君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

「はあぁーーー⁉︎」

 

(さて、どうだかな)

 

 さらっと伝えられた重要事項。

 唖然とする者、安堵する者、当然だろうと呆れる者など生徒達の反応は様々だったが、フィアンマはそもそもその言葉を信じていなかった。

 

(あの目はどう見ても本気の目だった。むしろ最下位でなくとも除籍していた可能性すらあったんじゃないか?)

 

 かつて惑星規模の一大事件を引き起こしたフィアンマとしては、『本気の人間の目』というものはある程度判別できる。あれは紛れもなく、覚悟も決意も完了している類の人間の目だ。本当に見込みなしと判断していれば、躊躇なく除籍を言い渡していたことだろう。

 

「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類あるから目ぇ通しとけ」

 

 そう言って立ち去る相澤。生徒達も教室へと向かう中、フィアンマは一人思索に耽っていた。

 

(今後の方針が見えてきたな)

 

 このテストそのものでは大して得たものはなかったが、それ以外での成果はなかなかに大きい。

 

 

 一つ、この学校に蔓延る悪意に気づけたこと。

 

 数回の実験の結果、雄英に内通者が入り込んでいるのはほぼ確定。現状で打てる手は少ないが、『あるもの』として行動できるメリットは大きい。

 真っ向から攻めてくるならば負けはしないが、これだけ周到に仕込みを行う人物がそのような愚を犯すとは考えにくい。 対策を練るのは早いに越したことはない。

 

 

 一つ、自身の天敵とも言える『個性』の持ち主と接近できたこと。

 

 相澤消太――抹消ヒーロー『イレイザーヘッド』。

 その名の通り、『抹消』というフィアンマに対抗し得る数少ない『個性』の持ち主だ。

 メディアへの露出を避けている彼が雄英の教師、それも担任という近い位置にいたことは僥倖だった。彼の戦法を知ることで、自分がそのような『個性』と相対した際の対処を考えることもできるだろう。

 

 

 そして最後に、そのイレイザーヘッドが前言を撤回する程度には見込みがあると判断した生徒。

 

 緑谷出久。

『個性』は恐らく増強型。制御しきれていないのか、一度発動しただけで指が不自然な方向に折れ曲がっていた。

 だが相澤が目をつけたのは、その出力よりも発想力の方だろう。

 腕一本捨てる愚を避け、指一本の被害に抑える機転。言ってしまえば大したことではないが、ここでは咄嗟に思いついたという事実が重要だ。戦闘では一瞬の判断が生死を分ける。機転が利くというのは、時に単純な実力よりも役に立つ能力なのだ。

 

 

(そういえば、あの男(・・・)も機転と根性だけで生き抜いてきたようなものだったか)

 

 

 そんな益体もないことを考えながら、フィアンマも教室へと足を進めていった。

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