とある右方の英雄学園   作:弥宵

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……第三話の反響ヤバない?お気に入り一気に3倍くらい増えたんだが……


戦闘訓練

「わーたーしーがー‼︎ 普通にドアから来た!!!」

 

 ヒーロー基礎学。文字通りヒーローとしての基礎を学ぶ科目であるが、その記念すべき第一回が始まろうとしていた。

 教室の扉を開けて入ってきたのはオールマイト。銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームを纏い、豪快な笑い声とともに現れた彼に教室が騒然とする。

 

「早速だが今日はコレ‼︎ 戦闘訓練!!!」

 

 緊張、興奮、平常通りなど多様な反応に分かれる生徒達。フィアンマは三つ目のグループに含まれるが、それはこの授業を軽視してのものではない。

 

 ヒーロー業を行う上で、戦闘行為は必ず付いて回る。入試や先日のテストからも察せるように、戦闘に活かしやすい物理干渉系の『個性』が優遇されているのもそのためだ。

 中には精神干渉などの非物理攻撃で戦う者や完全に補佐役に徹する者もいるが、それも優秀な前衛と組んでの話だ。それにフィアンマの場合、『個性』からして明らかに直接戦闘の方が向いている。

 

(まあ、流石に負けるとも思えんが)

 

 軽視してはいないが弱腰な訳でもない。一度は文字通り世界に手をかけた『聖なる右』だ、相応の自負がある。エリートとはいえそこらの学生に破れるものとは思っていない。

 ただ、これはルール無用の殺し合いではない。ヒーローの勝利条件はただ敵を倒すだけでは満たされないのだ。

 

(故に、焦点を当てるべきは勝敗ではない。いかにヒーローとしての原則に沿えるかだ)

 

 かつての過ちより学んだのだ。

 力で君臨し、ただ上から与えるだけの救済など、人々には不要なのだと。

 

 

 

 

 

 コスチュームに着替え演習場へと集合したA組の面々。各々の『個性』を最大限に引き出す装いが並ぶ中、異彩を放っているのは緑谷出久のコスチュームだ。

 簡潔に表せば、緑色の全身タイツ。増強系と思しき彼の『個性』に対応している訳ではなさそうだが、本人の要望であるならば何かしら理由があるのだろう。

 

 そしてもう一人、そのような思考を巡らせていたフィアンマ自身も注目の対象だった。

 

「右方それ、スーツだよな?」

 

 赤を基調とし、縦縞の入ったスーツのような装い。あまり戦闘に適しているとは思えない格好だった。

 

「ああ。俺様はこれでいい」

 

 問いかけてきた切島に肯定を返す。

 

「こう見えても機能性は高いぞ?動きづらさなど感じない程度にはな」

 

「まあ、お前がいいなら俺が口出すことでもねぇか。それにお前『個性』バカ強いもんな!」

 

「そうそう。ボールかっ飛ばしたり瞬間移動したり、その腕何の『個性』なんだよ?」

 

 切島の発言に瀬呂が同調し、フィアンマの謎の『第三の腕』について問う。

 

「そうだな。『奇跡』とでも称しておくか」

 

「奇跡ぃ?」

 

 これは強ち嘘でもない。『聖なる右』は『神の如き者(ミカエル)』が成した偉業を由来とする、十字教において神聖視された『右』という概念の具現なのだから。

 

「そんなことより前を向いておけ。そろそろ授業が始まるぞ」

 

「おっと」

 

「だな」

 

 詳細を語るつもりのないフィアンマは早々に話を切り上げる。二人も優等生(エリート)だけあって素直に聞き入れ、オールマイトの方へ意識を向けた。

 

「君らにはこれから『(ヴィラン)組』と『ヒーロー組』に分かれて、二対二の屋内戦を行ってもらう‼︎」

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知る為の実践さ!ただし今度は、ブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」

 

 習うより慣れろ。まずは実戦の空気を、現時点での自分や周囲の実力を知り、そこから改善点を炙り出していく。成程、ただ黙々と基礎訓練を行うよりも合理的に思える。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

 

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

 

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

 

「んんん~~~、聖徳太子ィィ‼︎」

 

 先程の問答を皮切りに一斉に問いが投げられる。

 ヒーローとしては最高峰でも、教師としてはド新人のオールマイト。悪戦苦闘しつつ、どうにか概要の説明を行う(カンペ参照)。

 

 

 曰く、ヴィランは建物内に核兵器を隠しており、ヒーローはその処理に当たろうとしている。ヴィランチームには五分間の準備時間が与えられ、制限時間十五分の間にヴィランの二名を『確保テープ』で捕縛するか核兵器を回収すればヒーローの勝利、ヒーロー二名を捕縛するか時間切れならばヴィランの勝利となる。

 

(大規模破壊及び過度な加熱は不可、核兵器は極力丁重に扱う。ヒーロー側の留意点はこんなところか)

 

 あくまで本物の核兵器を想定して取り組むならば、ヒーロー側は万一にも核が起爆しかねないような行為は慎むべきだ。逆に、ヴィラン側はその状況を利用することも考えられる。総合的に見て、条件が有利なのはヴィラン側と言えるだろう。

 

 

「……お前か」

 

「うん!よろしく!」

 

 くじ引きでペア及び対戦カードが決められていく。フィアンマが組むことになったのは葉隠。正直まだ姿を見たくないが(そもそも見えないが)、決まったものは仕方がない。

 それに、実のところ彼女との相性自体は割と良い。火力はフィアンマ一人で事足りるので、搦め手やサポートに秀でた人員の方がありがたい。その点、透明化という葉隠の『個性』は有用だ。

 

「それにしても……」

 

「ん?どしたの?」

 

「……いや」

 

 普段は制服で輪郭くらいは掴める葉隠だが、現在は手袋とブーツしか見えない。透明なコスチュームなのか、それとも何も着ていないのか。『個性』を活かす最適解とはいえ、それでいいのか女子高生と思わなくもない。

 

 まあ、本人が納得しているのならいいのだろう。フィアンマはそう思い込むことにした。

 

 

 

 

 

 幕を開けた戦闘訓練、初戦は緑谷・麗日ペア(ヒーローチーム)vs飯田・爆豪ペア(ヴィランチーム)。対戦者以外は観戦のためモニタールームへと移動する。

 

「ねぇねぇ、どっちが勝つと思う?」

 

 隣の葉隠が問いかけてくる。

 

「単純なスペックならばヴィラン側有利。ただ、あの二人にチームワークは期待できまい」

 

「あー、確かに」

 

「正攻法ではヒーロー側に勝ち目は薄い。連携と機転が勝敗の鍵といったところか」

 

 生真面目な飯田、緑谷と因縁があるらしい爆豪。この二人の隙を突くのはさほど難しくないだろう。問題はそれをあっさりと覆しかねないだけの戦力差があることだが。

 

「そろそろ五分だ。準備はいいかい?それじゃあ―――戦闘訓練、開始‼︎」

 

 オールマイトの合図により、第一戦の火蓋が切られた。

 開始早々、爆豪が緑谷に仕掛ける。正面戦闘では緑谷は分が悪いと思われたが―――

 

「ほう」

 

「おぉー!」

 

 爆豪の動きを読みきったかのような動きで、流れるようにカウンターを決める緑谷。モニタールームに複数の感嘆の声が上がる。

 

(緑谷出久の強みは機転の利きかと思っていたが……観察、分析力が本命か?)

 

 見たところ、あの二人は知り合いではあれど仲が良いとは言えず、決して四六時中一緒にいるような間柄ではない。にも関わらずあれだけ鮮やかに行動を読めたのは、緑谷の観察力の賜物と見るべきだろう。

 彼がストーカーの類でない限りは、だが。

 

(まあ、仮にもヒーロー志望がそのような真似はするまい)

 

 爆豪がコスチュームに仕込んだギミックを発動させる。巻き起こった爆炎は余波だけでもかなりの威力を有し、緑谷が大きく吹き飛んだことでヒーローチームが分断される。

 その後、何か指示があったのか麗日がその場を離れていった。

 

「緑谷が爆豪を抑えているうちに麗日が核の位置を探る。順当と言えば順当だが……」

 

「順当だが?」

 

「緑谷が倒れればヒーローチームは詰みだ。爆豪と相討ちでも厳しい」

 

 爆豪を抑えるという緑谷の判断は正しいが、そもそも分断されて連携が取れなくなった時点で勝機はかなり遠のいた。麗日単体では正面から飯田を突破するのはほぼ不可能だ。

 

「二人がかりで爆豪を仕留め、そのまま飯田の元へ向かうのが最善だった。まあ、向こうもそれがわかっていて分断したのだろうが」

 

 爆豪は一見考えなしにも思えるが、実際にはかなり頭が回るとフィアンマは見ている。いかに冷静さを欠いていても、その程度の考えが浮かばないということはないだろう。

 先日の様子から、爆豪がプライドの高い完璧主義であることは容易く想像できる。私怨があれど、それにかまけて勝ちを逃すような真似はしないだろう。

 

「つまり現状は?」

 

「ヴィランチームが圧倒的に優勢だな。覆すには緑谷が爆豪を倒すか、互いの位置が離れた状況下で何らかの連携を取る必要がある」

 

「うわぁハードモード!」

 

 二人の戦況は、序盤こそ緑谷が主導権を握っていたものの徐々に爆豪優勢へと傾いている。緑谷は加減が効かないと思われる『個性』を迂闊に使えず、そのせいでどうしても押し負けてしまうようだ。

 

 と、ここで麗日が核の置かれた部屋へ辿り着いた。核の正面に陣取る飯田から見えない位置に隠れていたが、

 

『ぷふぅっ‼︎』

 

 飯田のヴィランロール(なりきりっぷり)に笑いを堪えきれず噴き出してしまう。それによって飯田に気づかれ絶体絶命に。

 

「……おいおい」

 

「あちゃー……」

 

 流石に擁護不可である。こんなことで趨勢が決するのかと、フィアンマは少しやるせない気持ちになった。

 

 

 

 

 

 その後、麗日が捕らえられる寸前で階下の緑谷が『個性』を発動、天井をぶち抜き飯田にたたらを踏ませる。飛び散った瓦礫を麗日が『無重力』で浮かせ、同じく『無重力』にした柱を振るって弾き飛ばした。

 その間に麗日が核に触れ、まさかのヒーローチームの勝利となった。麗日がやらかした時点でほぼ諦めていたフィアンマとしても、やや反則気味とはいえ予想を覆される結果となった。

 

 

「えー、それじゃあ講評に入るんだが……」

 

 そこで口籠るオールマイト。生徒達から訝しげな視線が寄せられるが、当の本人はというと。

 

 

(ほぼ右方少年が言っちゃったから話すこと残ってないんだけど‼︎)

 

 

 非常に困っていた。

 

 フィアンマの解説は基本的に独り言か、あるいは葉隠へ向けた説明だったが、別段声を潜めていた訳ではないのでモニタールームの大半が耳にしていた。そしてその説明は非常に的確かつ理解しやすく、付け加えるような内容がほとんどなくなってしまっているのだ。

 

 割と心が折れそうになりながらも、何とか口を開くオールマイト。

 

「んん、まあ、大体は右方少年が言ってた通りなんだが、対戦者の三人は聞いてなかったし改めて解説しようか」

 

「はい!お願いします‼︎」

 

 威勢の良い飯田の返事にやや気を取り直す。

 

「まず今回のMVPは飯田少年な!理由としては、彼が一番状況設定に即していたってこと‼︎」

 

 爆豪は核の守護を放棄した独断専行、麗日は終盤での気の緩みによる失態、緑谷は『個性』の反動で行動不能。加えて核を本物として考えた場合、確保に至るまでの手順があまりにも荒すぎる。その点飯田は原則に忠実で、この訓練の主旨に最も沿っていたといえるだろう。

 ちなみにこれもフィアンマが大体語っている。

 

「ありがとうございます‼︎」

 

「うん、後はもうちょっと柔軟な対応力を身につければ完璧だ!今後の成長に期待だな‼︎」

 

「精進します‼︎」

 

 実直なのは美点、だが柔軟性にやや欠ける。そこを補えば飯田は大きく伸びるだろう。

 

 

「それじゃ、第二戦に移るとしよう‼︎ 対戦カードは……轟・障子ペア(ヒーローチーム)vs右方・葉隠ペア(ヴィランチーム)!!!」

 

「おっ、私達だ!頑張ろ‼︎」

 

「ああ、そうだな」

 

 モニタールームを後にする四人。ヴィランチームのフィアンマ達には準備時間が与えられるため、先に建物に入ることになる。

 別れる間際、対戦相手の轟焦凍に声をかけられる。

 

「……負けねえ」

 

「やってみろ」

 

 戦闘訓練、その第二戦がもうじき幕を開ける。

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