東方 追想遊戯伝   作:一生送信中@

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ゆったりと始動して、ゆるゆると進行していく葛西です。
2話目ともなるともう折り返し地点ですよね(白目

何はともあれスランプが僕を放してくれなくて3話が湧いてこないのが悪いと思いました。


第2話 Aパート はぐれ吸血鬼と一途な勘違い娘

「アルベール様?」

 

 訝しむような声に呼ばれ、ふと我に返る。

 どうやら胸のうちにわき上がった狂喜的な感情に流されていたらしい。今更ながらに表情を取り繕って、声の方に視線をやればそこには咲夜がいた。

 

「どうかいたしましたか? ずいぶんと嬉しそうですが」

「いや、何でもないです。ただ、幻想郷に来るのが悲願だったというだけですから」

 

 俺の答えに咲夜は納得しかねているようだったが、追求しても無駄と悟ったのかそれ以上のことを訪ねてくる気配はなかった。

 

「そんなことより咲夜さん」

 

 沖田佳代が一瞬の沈黙を破る。すかさず咲夜がそれに応じ、

 

「はい、なんでしょうか」

 

 と返した。

 すると、沖田佳代はベッドから出て、なぜか上機嫌な顔で咲夜に問うた。

 

「夜になったらこの館の主さんに会わせてくれるって言ってましたよね。色々お礼もしたいですし、早く行きましょうっ。何より、咲夜さんがあんなに嬉しそうに話す人に早く会ってみたいです!」

「へぇ、それは俺も興味があるな」

 

 意図的に抑えているのだろうが、先程からほとんど感情を表に出さない咲夜が『嬉しそうに話す』という人物には非常に興味がある。よほど信のおける、尊敬できる人物なんだろう。それでなくとも、たいていの場合人間の敵として伝えられる吸血鬼に咲夜は自ら忠誠を誓ってここにいるのだ。それはつまり、この館の主はそうさせるだけの傑物だと言えるのではないだろうか。

 

「ですよね! 気になりますよね! というわけで咲夜さん! 早速お願いします!」

 

 かぶりつくような勢いで俺に賛同した後、同様の威勢で咲夜ににじり寄る沖田佳代。

 妙な気迫を纏う彼女に気圧されたように、一瞬だけ表情を歪めた咲夜はその直後にはどういうわけか沖田佳代の数メートル前方、扉の前で部屋の外に出る用意をしていた。

 まるで咲夜が瞬間移動したような光景に「えぅ?!」とわけの分からない悲鳴のようなものを上げた沖田佳代だったが、いくら考えても自分には理解できないものだということを悟ったらしく「すごいですっ、今何をやったんですか!? 一瞬でびゅって!」などとはしゃぎながら咲夜に駆け寄っていった。

 

――高速移動なんてレベルの話じゃない。まるでコマ送りされたみたいな動き……まさか……。

 

「アルベール様、行きますよ」

 

 咲夜の声に思考を中断する。

 今考えたってしょうがないな。というかそもそも考える必要がない。別に彼女と敵対するわけではないのだ。どうやって攻略すべきかなど、考えるだけ時間の無駄というものだろう。

 おおよそ組みあがりかけていた対処法を頭の外へ追いやって、部屋の外で待つ二人を追う。

 咲夜が自ら忠誠を誓った主人、どんな人物なんだろうか。まだ見ぬその姿を想像して、自然、緊張と期待が胸の中に広がった。

 

 * * *

 

 少々お待ちください、と言って咲夜が扉の向こうへ消えてから数分。

 さっきから隣にいる沖田佳代の視線が鬱陶しい。

 口を開けば恩返し恩返しとバカの一つ覚えみたいに連発してくるし。

 そして、十何度目かの開口。

 

「恩返しはどんなことをしたらいいですか? 食事でもおごりますか? あ、いっそわたしの手料理とかどうです? 自信ならあります! それとも美味しいお店をお教えしますか? あ、でもそれだと幻想郷を出てからじゃないと恩返しできませんね。じゃあ……」

 

 ガンガン列挙される恩返しのレパートリーを聞き流しながら、咲夜が消えていった扉をじっと見つめる。

 まだ、なのだろうか。なにか手間取っているとか?

 

「あれ? 甘いものは嫌いでしたか? では辛いものならどうでしょう、定番でいうとカレーですかね。おすすめは○○駅の近くにある隠れた名店なんですけど……あ、そうです、その近くにあるうどん屋さんのカレーうどんがまた絶品でして気づいたら服がカレーまみれになってしまっていていつもお洗濯が大変なんですよね、えへへ」

 

 隣で百面相しながら尚もしゃべり続ける沖田佳代。

 っていうかこいつさっきから食い物の話しかしてないな。こいつの恩返しのレパートリーには食べ物以外の項目はないのだろうか。

 いや、いかん、考えるな。少しでも反応を示すと我が意を得たりとばかりに猛攻撃を受けるのはさっき森の中で身を持って体験したんだ、隙を見せるな。

 

「……食べ物がダメなんですかねぇ。んー、となると……あ、体? でも大丈夫かしら? スタイルにはあんまり自信が……でもお兄さんのためだし……よし」

 

 決意から数瞬、躊躇いもなくブラウスのボタンに指をかける沖田佳代。

 

「よし、じゃねぇ! なんでそうなる!? 飛躍しすぎだ!」

 

……しまった。思わず声を上げてしまった。だが、後悔しても遅い。すでに術中だ。

 

「こ、これまでで一番の食いつき……これは脈アリですかっ?」

「その嬉しそうな顔をまずやめろっ。下手なストーカーより性質が悪いなお前は!」

「な、ストーカーとは失礼な! わたしはお兄さんに一直線なだけです!」

 

 ぐぐい、と詰め寄ってくる沖田佳代。鼻先が触れるほどの距離で大きな瞳がまっすぐに俺を射抜いていた。

 ぐっ……こいつ、マジで言ってるな。この手の奴は厄介だ。特に諦めの悪そうなこいつみたいなタイプは特に。今みたいに当然のように、あるいはいつの間にかするりとこちらの間合いに入り込んで、気付いたら居座られているパターン。何度か経験があるが、その八割は天敵たちによる罠だった。だからこそ特定の眷属も、長い時間をともに過ごす連れ合いも作れなかったわけだが。

 

「さぁ、この一途な瞳を見てくださいっ。もうお兄さんしか見えてませんよっ!」

「それは物理的に近いだけだっ」

 

 わざと声を荒げて視線を逸らす。その時ふと鼻孔をかすめた花のような甘い香りに意識を占領される。

 偶然か、はたまた匂いに誘われた必然か、俺の視線は沖田佳代の白い首筋に吸い寄せられた。

 それを目敏く捉えた彼女は、待ってましたと言わんばかりに笑顔をはじけさせる。

 

「いま、わたしの首筋を見て吸血欲を覚えましたねっ? 知っていますよ、特に男性の吸血鬼にとって吸血欲は性欲に強く結びついているとかっ、つまりお兄さんはいま、わたしを異性として見てくれたというわけですよねっ。森での出会いから数時間、どれだけアピールしても暖簾に腕押し糠に釘だったお兄さんがようやく! ようやくわたしに興味を持ってくれました! これでスタートラインですっ、これから覚悟しておいてください!」

 

 言葉とともにびしりと指を突き付け、次いでフフンとドヤ顔で腰に手を当て胸を張る沖田佳代。これでスタートラインとか謙虚そうなことをのたまいながら、その目は

「こっからももっと攻めます!」と雄弁に語っている。

 

 くそ、不覚だ。……確かに、見目の良さは認めよう、目鼻立ちは整っているし、一見スレンダーな割にブラウスの胸の辺りを押し上げて存在を主張するバストは彼女の女らしさを引き出している。そして、本当に業腹だが一途さについても認めよう。先程の飾り気のない真っすぐすぎる言葉に思わずぐっと来たのは事実だし。これで俺が百年やそこら生きただけの若造だったらオチていただろう。だが、だがしかしだ……、それだけのプラス要素を持っていてなお、なんというウザさか……!

 

「お前、性格で損してるタイプだって言われるだろ」

「え、なんでわかるんですか? もしかしてすでにわたしの全ては把握済みです? こ、これは予想外の展開すぎて嬉し恥ずかしいですね、えへへ」

 

 常に勘違いと思い込みで脳みそを動かしている彼女には何を言っても無駄らしい。

 本気で照れて頬を押さえ、にへらと表情を崩している。

 

「……結局こいつのペースに巻き込まれた上にいつの間にか着実に話が進んでる。こいつホントは全部計算なんじゃないだろうな?」

 

 思わず呟くが、目の前で脳内お花畑状態の沖田佳代を見て「こいつにそんな奸計の才はないな」と思い直す。

 そんな時、

 

「そろそろよろしいでしょうか?」

 

 背後から声をかけられ小さく肩が跳ねた。

 

「お、っと。咲夜さん。いきなり現れないでください、驚きましたよ」

 

 振り返った俺に「失礼いたしました」と頭を下げた咲夜は、その後、俺と沖田佳代の様子を見て言葉を継いだ。

 

「ただ、ずいぶんと良い雰囲気のようでしたので、お邪魔をするわけにもいかず……」

「いえ、勘違いです」

「あら。私にはそうは見えませんでしたが?」

「それも勘違いでしょう」

「……まあ、良いでしょう。……ただ、あまり女性の気持ちを蔑ろにしますと後が怖いですよ?」

 

 お気をつけて、と最後に小さく付け加えて能面のような笑みを浮かべた咲夜。

 しかし次の瞬間には先程までの瀟洒なメイドの顔つきに戻っていた。

 恐ろしい……。

 

「では、こちらへ」

 

 静かに、流れるような動作で扉を開けて、俺たちを招き入れる。

 俺が寝かされていた部屋よりもはるかに広い一室、その奥に優雅な所作でティーカップを傾ける少女がいた。

 

――吸血鬼(お仲間)だ。

 

 一目で理解する。

 

「いらっしゃい、久方ぶりのお客様」

 

 凛とした、それでいて鈴の音のような耳に心地よい音が響く。

 こちらを品定めするように細められた紅玉の瞳が怪しく光り、背中に生えた蝙蝠のごとき翼がバサリと揺れた。

 




次もなるべく早く上げます。
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