東方 追想遊戯伝   作:一生送信中@

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遅ればせながら投稿させていただきます。

のろのろちまちまと更新させていただいています――これからもそうなると思います――が、お楽しみいただければ幸いです。


第3話 Aパート はぐれ吸血鬼と紅き幼月

「私はレミリア・スカーレット。紅魔館の主にして、偉大なる吸血鬼の末裔よ」

 

 目の前の少女――レミリアは、静かな笑みを浮かべてこちらを見つめる。

 口の端からのぞく小さくも鋭い牙が、彼女が吸血鬼だという事を証明していた。

 

「あー……、その。随分と、幼いんだな」

 

 開口一番、最も気になっていたことを口にする。

 ぴくりと吸血鬼の少女の眉が動き、その途端失言だったと悟る。

 

「いや、すまない。咲夜さんが仕えるほどの吸血鬼だから、もう少し威厳ある姿を想像していたんだ」

「……貴方、それわざとなの?」

「悪い、今まで敵か、味方ではない連中くらいしか出会ってこなくてな」

「そう、それはお気の毒ね。まぁ、出会い頭の無礼については不問としましょう。私は心が広いから」

 

 広い心の持ち主でよかった。しかしまさか今までぼっちだったことがこんなところで害を及ぼすことになろうとは……。今後は努めて気を付けることにしよう。

 

「で、あなた達は誰なのかしら?」

「ああ、そうだな。俺はアルベールだ。アルベール・ロッソ。君と同じで吸血鬼だよ。……まぁ、俺は君と違って決まった住処を持たないはぐれだが」

「わたしは沖田佳代といいますっ。アルさんに助けていただいて一目惚れしちゃった女子高生です。あ、魔法使いやってます」

 

 この女また適当なことを……。って、ん? 魔法使い?

 

「あら、貴女魔法使いなの。うちにも一人いるわよ、凄腕のがね」

 

 レミリアが得意げに微笑み、一方で俺は訝し気な目を沖田佳代に向ける。

 この女が魔法使い? どっからどう見てもだいぶ頭のねじが抜けたあほの子にしか見えない。

 というか力の片鱗さえも感じないんだが。まさかとは思うが隠匿能力が高いのか?

 隠し事はできなさそうな性格だが……。

 いや、考えるのはよそう。なにせ時間の無駄だ。

 この女が本当に魔法使いなのだろうとそうでなかろうと、いくらこいつの力について考えたところで俺では対処できないんだから。今の俺で対魔法とか無理な話だ。

 

「ところで、貴方たちはこれからどうするつもりなの?」

 

 いきなり投げかけられた問いに一瞬首をかしげる。

 どうする、とはどういう意味だろうか?

 

「咲夜から聞いていると思うけれど、貴方たちは幻想郷へやってきた。そう簡単に元の世界へは帰れないわ。そんな中、貴方たちはどうやって幻想郷で生き抜くつもりかしら」

 

 言われてみれば……住むところはなく、自給自足のアテもない。まぁ、最悪の場合でも食料は大丈夫か、十年は食べなくても生きていけるのは実証済みだ。

 あとは適当に隠れられる場所を探して外敵を躱していけば何とかなるだろう。

 

「一応言っておくけど、外敵にさえ見つからなければ、食事はしなくても平気、なんて甘い考えは通用しないわよ」

 

 え……? 心読まれた……?

 さ、さすがに人間を従者にできるようなカリスマある吸血鬼だと相手の心の一つや二つ簡単に読めるってか。……見た目が幼いからと侮れないな。

 

「……アルベール、なぜだか貴方から不快な感じがしたけれど、今は許すわ」

 

 くっ、やはり読まれてる。

 レミリアの傍らに佇む咲夜の目も心なしか鋭い感じだ。いや、あれは呆れかえってる目だな。

 

「んー、わたしはアルさんに恩返しできる環境なら何でもいいのでアルさん次第ですかねぇ……」

 

 ちらりとこちらに視線を送ってくる沖田佳代には辟易した顔を向けておいて。

 さてと、

 

「しかしなぁ、俺としてはこっちに頼れるような当てはないし、正直行き当たりばったりで何とかするしかないのが現状だろう?」

「ふふ、そんなことだろうと思ったわ。……そこで私から提案があるの。咲夜」

 

 レミリアの不敵な笑み、そして主人の呼びかけに応えて銀髪のメイドが一歩に前に出た。

 

「お嬢様からの提案はこうです。お嬢様はあなた方二人に衣食住を提供する。その代わりあなた方には有事の際、或いは平時であっても、食客としてお力を貸していただく。いかがですか?」

「え、それだけ?」

「不満かしら?」

 

 不満、なんてあるはずがない。

 むしろ優遇されていると言っていい待遇に驚きを隠せない。

 今までの経験から「衣食住を保証するから昼も夜もなく奴隷のように働け」と言われるなら理解できた。前に言われたときは納得できなかったから早々にその命ごとすべてを掻っ攫って事なきを得たが。それでも対価として「奴隷のごとく働け」と言われるならまだ理解できたのだ。

 

 それが先ほどの言はどうだ。「客として遇するから、何かあったとき、或いは日常的なお使いでもあるときは頼まれてくれ」と。

 これほどの館でかなりの数の妖精メイドがいた。殆どの仕事は彼女らがやってしまうだろう。それでなくとも咲夜はメイドとしてかなり優秀だろうし、大抵のことは彼女だけで事足りる。こちらにお鉢が回ってくるなどほんとに簡単なお使い程度の物しかないだろうというのは想像に容易い。

 

 それで衣食住を保証されるというのは……いくら同族とは言えかなり優遇されていると思う。逆に怪しいと思えてしまうほどだが、レミリアからも咲夜からも俺を騙そうという雰囲気は感じない。

 

「……優遇され過ぎじゃないか?」

「かも知れないわね。けれど、今はこれが妥当よ」

 

 まるで俺の考えを見透かしていたかのように即答された。

『妥当』という彼女の真意は掴めないが、レミリアの赤い瞳に溢れんばかりの自信を見て取ったので、何かしら考えがあるのだろう。

 俺としても突然降って湧いた幸運をむざむざ手放すこともないので、ここは大人しく世話になることにしとこうかな。

 

「わかった。それじゃあ、しばらく世話になる」

「ええ。では、改めて。ようこそ、紅魔館へ」

 

 * * *

 

 レミリアとの顔合わせの後、咲夜に館の中を案内された。

 客とは言え館の中を移動するたびに誰かを呼ぶというわけにもいかないので、とりあえず内部構造だけは把握しておいてほしいとのことだった。

 まぁ、そりゃそうですよね。道案内のためだけにわざわざ呼び止められてたら仕事どころじゃなくなる。

 

 そんなわけでついさっきまで館の中を行ったり来たりで大忙しだったわけだが。

 この紅魔館という場所、さすがにこれだけの広さの館にレミリアと咲夜、そして大量の妖精メイドだけで暮らしているということではなかったようで、案内されている間に何人かキャラクターの濃い人物たちと出会った。

 例えば……。

 

 最初に案内されたのは外だった。やはり思っていた通り紅魔館がかなり大きな館だということが分かって驚いていたのも束の間、門の外でスタンディング昼寝をしていた中華っぽい服装の門番を紹介された。頭からかなりの量の血が流れていたが、咲夜曰く「まだ優しく起こした方ですよ」とのことだったのであまり深くは聞かないでおくことにした。

 

 続いて地下に案内された。ひと際大きな扉をくぐると、そこはいたるところに本、本、本、という凄まじい景観の部屋。いや、部屋と呼んでいいのかどうか疑問な広大さだったが。一緒に案内を受けていた沖田佳代曰く「す、すごいです。有名な魔導書やすでに絶版になった魔導書もある。あ、こっちには見たこともない魔法式が書かれた面白そうな本が……」ということらしく、一人でふらふらと本棚の森へと旅立って行った。

 そこで紹介されたのは紫色の少女だった。本を読むのに集中していたようで、咲夜が何度呼んでも返事がなく、彼女が本を読み終わるまで1時間ほど待ってからようやく自己紹介が始まったのはなかなか衝撃的だったのでよく覚えている。

 どうも体が弱いようで時おり咳き込むような仕草もあったが、自己紹介は滞りなく終わった。あと、彼女の使い魔らしい少女も併せて紹介された。なにか探したい本があるときは彼女に言えば大抵わかるそうだ。後で利用しに来よう。

 

 これにて主な案内は終わりと言われた直後、地下室の奥から軽快な鼻歌が聞こえたので足を止めると、金髪の幼女がいた。鋭い犬歯、奇妙な形の羽、なにより同族特有の雰囲気、確実に吸血鬼だった。見た目からしてレミリアと同じくらいだろうが、どことなく幼い印象を受ける。隣で咲夜がやれやれとため息をついていたのを見て、予定外の遭遇だというのが分かった。

 金髪の幼女もこちらに気付き、とてとてと歩み寄ってきてこちらを物珍しそうに観察していたのでこちらから自己紹介をすることに。あちらから返事もあり、曰く「お姉さまのお客様なら、わたしもオモテナシしてあげなきゃ。そのうちにまたわたしのところに来てね。いっぱいオモテナシしてあげるから――」とのことだったが、なんだか悪寒が背中を爆走したのでしばらくその機会はないかなと乾いた笑いの中に含めておいた。

 

 とまあ、想定外のエンカウントもあったが一通り館の中は案内してもらい、キャラクターの濃い彼女らとの面会も終わった。

 自分の足で探索してみて改めて思ったが、この館は外観を無視した内部面積を持っていることが判明した。そのことについて聞いてみれば、これは咲夜の能力の応用らしくそこまで労力を使ってはいないとのこと。

 この規模に影響を及ぼす力を使って「大した労力を使っていない」なんて、そんな強者みたいなセリフ俺も言ってみたいものである。今の俺では望むべくもないが。

 

 さて、こうして俺の(あと沖田佳代の)紅魔館ガイダンスは終了したわけだ。

 食客という立派な肩書があっても要はただの居候なのでふらふらしているばかりというわけにもいかない。

 いつ何を頼まれてもいいように準備はしておこう。とはいえ、俺にできるのは心の準備くらいのものなのが悲しいところだが。

 

 などと、頭の中で自虐しつつ俺用に与えられた部屋のベッドに無造作に寝ころぶ。

 明日からのことを考えながら目を閉じて、ゆっくりと意識は沈んでいった。

 今宵も、夜がゆっくりと更けていく。




というわけで第3話でした。

次回は、紅魔館のあの人とかあの人とかあの人とかあの人とかあの人とかあの人のことをほんのちょっとずつ掘り下げる予定です、ええ、その予定ですとも。
できなくても怒っちゃだめですよ? あくまで予定は未定ですから、ええ、予定は未定ですからね。過度な期待は厳禁です、はい。
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