魔法教師はやト!   作:沖彦也

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修学旅行編です。
予定した文字数で収める力量が欲しい……。
今回も長いです。すいません。
宜しくお願いします。


第十話「修学旅行はドタバタ騒ぎ」後編

 そんな風呂場での事件があった後の自由時間。

 

 明日菜たちはロビーに集まるように、事前に隼人に言われていた。

 

 明日のことについての打ち合わせである。

 

 ちなみに清水寺で酒を飲んでしまったグループは、酔いつぶれて寝てしまっていた。

 

 やかましいグループが寝てしまっているため、ほかのグループも早めに寝ることにしたらしく、旅館内は静かだった。

 

 隼人は職員のミーティングに行っている。

 

 隼人が来るまで、明日菜、刹那、のどか、木乃香、茶々丸の四人はおしゃべりしていた。

 

 明日菜は先ほどの風呂の事件を思い出して憤慨したように言う。

 

「まったく、教師の風上にも置けないわね」

 

「まぁまぁ、押さえて押さえて」

 

 木乃香がなだめる。

 

「でもビックリしました。露天風呂に入ったら先生がうつ伏せで浮かんでるから」

 

 のどかがしみじみと言った。

 

「まぁ、先生は私たちのことを心配してきたんですから、可哀相ではあったかな。タイミングが悪かったとしかいえませんね」

 

 苦笑いする刹那。

 

 すると懐かしむように木乃香が笑う。

 

「そういえば昔は、せっちゃんとよう二人でお風呂入ったなぁ」

 

「そうですね」

 

 同じく刹那も懐かしむように言った。

 

「へぇ~。桜咲さんと木乃香って幼なじみなの?」

 

 明日菜が聞く。

 

「はい。私とお嬢様は昔、関西呪術協会総本山である、お嬢様の実家で暮らしていました」

 

 刹那がうなずく。

 

「隼人もやで」

 

 木乃香が補足した。

 

「ええええええええ!? 一緒に住んでたぁ?」

 

明日菜が驚いた。

 

「でもなんでですか?」

 

 のどかが聞く。

 

「私はもともと捨て子だったんです。それを隼人先生が拾ってくれて、当時一緒にいたお嬢様のお父様、詠春さんに相談して、十年ほど一緒に育てられたんです」

 

 明日菜とのどかは捨て子という言葉で少し暗くなる。

 

 それを察して手を振る。

 

「いえ、神楽坂さんも宮崎さんも、そんなに暗くならないでください。別に気にしてないんで。先生が拾ってくれたから今の私がある。何も後悔してません」

 

 う~んと悩むように明日菜が考え込む。

 

 そして言った。

 

「私も親が居ないのよ。でも、そうか」

 

 うんうんと頷く。

 

 皆を見回す。

 

「あのさ、名前を呼ぶとき下の名前で呼び合わない? 同じクラスメイトだし。今は一緒に隼人の協力してるし。どう?」

 

 ニカッと笑う。

 

「あ、それ賛成や」

 

「わたしもいいですー」

 

「私も了解しました」

 

「私も良いです」

 

 全員が了承した。

 

「うん。じゃあヨロシクね」

 

 明日菜が手を差し出す。

 

「はい。こちらこそ」

 

 全員がにっこり笑ってその手を取った。

 

 一つの友情がうまれた。

 

「せっちゃん、ようやく笑ったな」

 

 木乃香が嬉しそうに言う。

 

「いえ、そのしばらく会っていなかったからどう接したらいいのか分らなくて。心配かけてしまったようですいません」

 

 謝る刹那。

 

「そんなんええって。でもなんか嬉しいなぁ」

 

 ニコニコと本当に嬉しそうに笑う。

 

 和やかな雰囲気。

 

「あ、そうだ。隼人って昔どんなヤツだったの?」

 

 明日菜が聞いてくる。

 

 刹那は思い出すように言う。

 

「そうですね、厳しい父親のような、優しい兄のような人でしたね」

 

「いまとそう変わらんよ。いい加減で、ダメな人間やったよ」

 

「だ、ダメ人間ですかー」

 

 のどかが少し苦笑い。

 

 じーっと聞いていた茶々丸は首をかしげて聞いてみた。

 

「刹那さんは隼人先生のことが好きなんですか?」

 

「ちょ、そんな、わたしは」

 

 刹那は慌てる。

 

「先ほどから、隼人先生のことを話されると、少し体温が上昇して、声がやや艶っぽくなります。コレは私のデータでは好きな人のことを話しているときにでる現象です」

 

 茶々丸は淡々と説明する。

 

「せっちゃん。隼人のこと好きやったんかぁ」

 

「お、お嬢様。違います!」

 

「あれ? じゃあ、のどかに取られてもええの?」

 

 急に話を振られたのどかも動揺する。

 

「ちょ、木乃香さん」

 

 刹那とのどかは顔を合わせると、真っ赤になった。

 

「二人は恋のライバルやね」

 

 木乃香は二人の肩をぽんぽんとたたく。

 

「う~ん。こういう話にはついていけない」

 

 少し残念そうに明日菜が言った。

 

「お、なんか楽しそうだな」

 

 職員ミーティングを終えて隼人がやってきた。

 

 明日菜はあからさまに嫌そうな顔をする。

 

「あ、でたな。ロリコン変態教師」

 

「だれがロリコンだ!!!」

 

「あれ? 変態教師は否定せいへんのや」

 

 木乃香の鋭いつっこみ。

 

 グサッと心に何かが刺さった音がした。

 

 隼人は一息ため息をつく。

 

 一人足りないことに気がついた。

 

「あれ? エヴァはどうした」

 

「マスターは昼間はしゃぎすぎたので、疲れたから寝るといってました。ですからここには来ません」

 

「あいつ、本当に吸血鬼か?」

 

 やや呆れるように首をかしげた。

 

「でも、伝言は言付かってます」

 

 茶々丸はそういうと内蔵のレコーダーを起動。伝言を再生する。

 

『私は眠いから寝る。茶々丸がいるから話のほうは大丈夫だろう。追伸、女子中学生の裸見て鼻血流したそうだな。やっぱりロリコンだったな。くれぐれも夜、襲うなよ。おやすみ』

 

 再生が終了する。

 

「以上がマスターの伝言です。って先生?」

 

 隼人は額に青筋を浮かべながら泣いていた。

 

「あのヤロオオオオオオ!!! 叩き起こしてぶん殴ってやる!!」

 

 叫んで向かおうとする。

 

「落ち着いて、落ち着いて」

 

 木乃香が止める。

 

「とりあえず、打ち合わせを始めましょう」

 

 刹那もなだめている。

 

「くうううう。俺はロリコンじゃない」

 

「分ってる。分ってるから」

 

 カモも加わって、なだめる。

 

 落ち着いた隼人はおもむろに油性マジックと紙を取り出した。

 

 そしてマジックでエヴァの顔を書いて、そこに何か書き込むとその紙とマジックを茶々丸に渡した。

 

「これは?」

 

「修学旅行でさっさと寝るやつは、顔に落書きされても文句をいえないのだ。だから、この図の通りに落書きしといてくれ」

 

 渡された紙を覗き込む面々。

 

 そこには、額に「肉」と書かれてあり、ほっぺたに「バカ」、「つるぺた」と書かれてあり、鼻の下に髭を書き、目の周りに黒い丸が書かれてあった。

 

「「「「………」」」」

 

 子供の落書きだった。

 

 皆、非難の目を向ける。

 

「な、なんだ。その目は。俺は間違ったことをしてるわけじゃない。ある意味修学旅行の定番であり、誰かがせねばならない儀式だ」

 

「「「「………」」」」

 

 また非難の目をする。

 

 茶々丸だけ、少し考え込むと頷いた。

 

「了解しました。修学旅行の定番ならばしかたありません」

 

「……茶々丸さんって大人やね」

 

 と、木乃香。

 

「はぁ、それに比べて隼人はガキね」

 

 と、明日菜。

 

「うー。先生少し大人気ないです」

 

 と、のどか。

 

「失望しました」

 

 と、刹那。

 

 いたたまれなくなってきたので、隼人はさっさと本題に入った。

 

「え~とにかく、これは置いといて。打ち合わせを始める」

 

 皆、不承不承に頷いた。

 

★

 

「まず、さっきの風呂場の襲撃で敵の目的がハッキリした」

 

 隼人が言う。

 

「え、敵の目的って修学旅行の中止なんじゃ?」

 

「いや、それはあくまで表向きだ。目的は別にある」

 

「やはり、お嬢様ですか」

 

 刹那が重々しくつぶやく。

 

 隼人は肯定するように首を振った。

 

「そうだ。敵の狙いは木乃香だ」

 

「でもなんで木乃香さんなんですか?」

 

 のどかが首をかしげた。

 

 刹那が説明する。

 

「実はお嬢様は、世界でも稀なほどの強大な魔力を有しているんです。その魔力を狙うものは大勢います。今回もその一つだったわけです」

 

 その説明を隼人が引き継ぐ。

 

「しかも木乃香は、日本の魔法協会の元締めである近衛家の一人娘。人質に取れば両陣営に対して交渉を持ちかけられる」

 

「そんな、じゃあ今回の敵の目的って木乃香の誘拐?」

 

 刹那、隼人、そして対象である木乃香自身が頷いた。

 

「残念やけど、そうみたいやな」

 

 空気が重くなる。

 

「だが、そう心配することは無い。敵の狙いが木乃香だけなら俺たちで木乃香を守れば良い。オマケに木乃香は魔法使いだ。そう簡単に掴まったりしないさ」

 

 隼人は明るく言った。

 

「では、どのように明日は動くのでしょうか?」

 

 茶々丸が聞いてくる。

 

「明日の奈良観光は、木乃香を護衛するのを刹那と明日菜に任せたい。アドバイザーにカモを入れる。」

 

「わかりました」

 

「オッケー」

 

「合点承知っす」

 

 二人と一匹は了承した。

 

「茶々丸とエヴァは引き続きクラスメイトの護衛だ。万が一の場合呼び出す可能性があるから気をつけてくれ」

 

「了解しました」

 

 茶々丸が頷く。

 

「そして、俺とのどかは奈良周辺を見回りながら敵を探す。適当に捕らえて『いどの絵日記』使って敵の情報を入手する」

 

「わ、わかりました」

 

 のどかが了解した。

 

「でも、蛙とかお酒とかふざけた嫌がらせしかしてこなかったし、楽勝なんじゃない?」

 

 明日菜があっけらかんと言う。

 

 カモがそれを否定した。

 

「それは違うぜ、明日菜の姐さん。電車内で蛙騒ぎがあったら、運行は停止。そのあと足止め喰らってそこを襲撃されればアウトだ。飲酒のほうも、他の教師にばれたら修学旅行を中止して、そのあとどうなったか分らねぇよ」

 

 隼人は困ったように首を振る。

 

「地味に痛い罠を張っている。しかも相手は相当の使い手だ」

 

「なに? 強いの?」

 

「今回の敵は俺に感づかれず罠を張っていた。敵の目的はわかっても戦力が分らん。それに場所が京都なだけに万が一、神鳴流の使い手が居たら非常に厄介だ」

 

 刹那が同意する。

 

「確かに、神鳴流が相手となると警戒する必要がありますね」

 

「でも、刹那さんも神鳴流なんじゃ?」

 

 のどかが聞いてくる。

 

「神鳴流を扱うからこそ、恐ろしさを知っているんです。式神使いも確認されているわけですし、油断は禁物です」

 

「式神ってどういうものなんですか?」

 

「これのことだよ」

 

 隼人が懐から札を取り出す。

 

 何事かつぶやくと、札を投げた。

 

 すると札の形が変わって小鳥が現われた。

 

 隼人の周りをぐるぐると飛び回る。

 

「うわ、手品っぽい」

 

 明日菜が感心する。

 

 その感想に苦笑しながら隼人は説明した。

 

「こんなふうに、札を別の何かに変えて使役する。これが式神だ」

 

 小鳥が肩にとまった。

 

「呪術師はこの式神を護衛にして術を放ちます」

 

 刹那が補足説明する。

 

「西洋魔術師が仮契約なんかでパートナーを護衛にすることと同じです」

 

 のどかと明日菜は納得した。

 

「へー。なるほど」

 

「不思議ですねー」

 

 肩にとまっていた小鳥を手で握る。

 

 手を開くと札に戻っていた。

 

「ま、こんな可愛いやつならいいけど、中には札を介して魔界から召喚する呪術師もいるそうだ」

 

「警戒するに越したことはないですね」

 

 茶々丸が気を引き締めるように言った。

 

「とにかく、明日はそういうことで頼む。外の警戒は俺に任せて、安心して寝ろ」

 

 全員が頷くと立ち上がる。

 

「おやすみ」

 

「隼人、おやすみ」

 

「先生、おやすみなさい」

 

「では、私もこれで」

 

「良い夢を」

 

 それぞれ挨拶して部屋に向かった。

 

 彼女たちを見送ると、隼人は外に出て行く。

 

 すれ違いざまに背の高い女性が通った。

 

 自動ドアが閉まって、隼人は外へ。

 

 女性は振り向き、去っていく隼人の背中につぶやく。

 

「ふふ、護衛するんやったらもう少し気をつけた方がええで。煉城隼人」

 

 メガネを懐か取り出してかけると、邪悪な笑みを浮かべた。

 

「ほな、お仕事を始めましょか」

 

 女性は行動を開始した。

 

★

 

 明日菜たちは部屋に戻った。

 

「あら~、ふたりともぐっすりね」

 

 夕映とハルナは可愛い寝息をたてて寝ている。

 

 刹那はカバンから呪符などの道具を取り出すと、外へ出て行こうとした。

 

「せっちゃん、どこ行くの?」

 

 木乃香が質問した。

 

「外は先生が見回りますけど、中は手薄だと思うので、私が見回ります」

 

 木乃香たちは、納得できなかったが、安全面や実力を考慮すると頼まざるを得なかった。

 

 明日菜が渋々頷く。

 

「わかった。じゃあお願い。でも無理しないで適当なところで寝てね」

 

「はい、わかってます。では」

 

 一礼すると部屋を出て行った。

 

 それを見送ると三人は布団にもぐりこむ。

 

「あ、うちトイレ行ってくる」

 

 木乃香が布団から抜け出して部屋のトイレに向かった。

 

 明日菜とのどかは気にせず、目を瞑る。

 

 十分後。

 

「木乃香、遅いわね」

 

「そうですね」

 

 二人は不審に思った。

 

 するとのどかの隣りで寝ていた夕映がおきてくる。

 

「う~。もるです~」

 

 寝ぼけ眼でトイレに向かう。

 

 ドアを開けようとすると鍵がかかっている。

 

「?」

 

 夕映はドアをたたいた。

 

「入っとりますえ~」

 

 声が返ってきた。

 

「あ、そうですか」

 

 引き下がる夕映。

 

 明日菜とのどかは首をかしげた。

 

 三分後。

 

「木乃香さん。まだですか?」

 

 夕映がもじもじしながら聞く。

 

「入っとりますえ~」

 

 また声が返ってきた。

 

 いよいよ不審に思った二人は飛び起きて、トイレの前に行く。

 

「木乃香、大丈夫?」

 

 明日菜が聞く。

 

「入っとりますえ~」

 

 同じ声が返ってきた。

 

 二人は互いに顔を見合わせる。

 

「木乃香、ゴメン。ドア破るよ」

 

 二人がかりで、トイレのドアを蹴破った。

 

 空いたドアの向こうに、木乃香は居なかった。

 

 便座に呪札が貼り付けられており、それが繰り返しセリフを流していた。

 

「そ、そんな!」

 

 二人は驚き、慌てて部屋を出る。

 

 ちょうど刹那が居た。

 

 血相を変えて飛び出してきた二人に驚く。

 

「何かあったんですか?」

 

「ゴメン! 木乃香が居なくなった!!」

 

 その言葉を聞き、刹那は急いで部屋に戻る。

 

 トイレを終えて、布団に入ろうとした夕映が聞いてくる。

 

「どうしたですか?」

 

 しかし、その質問を無視して、トイレに残った気配を探る。

 

「まだ、近くに居る」

 

 そうつぶやくと再び部屋を出て、廊下に待機していた明日菜たちに指示を出す。

 

「私はこのまま、敵の気配を追います。明日菜さんたちは隼人先生に連絡を入れてください」

 

「分った」

 

 了承を聞くと、刹那は風のように走っていった。

 

 のどかのほうを見ると、既に携帯で連絡を入れていた。

 

「はい。はい。わかりました。では」

 

 携帯を切る。

 

「なんて?」

 

「外に出て、追いかけるそうです。私たちも行きましょう」

 

「オーケー」

 

 部屋に戻って、仮契約カードを取る。

 

「一体どうしたですか?」

 

 夕映が聞いてくるが明日菜は無視して出て行く。

 

 のどかが律儀に謝った。

 

「ごめん。夕映。ちょっと出かける」

 

「出かけるってどこへ?」

 

 返事を待たずに、のどかも部屋を出た。

 

「一体なにが……」

 

 後に残された夕映は呆然と立ち尽くした。

 

★

 

 隼人はのどかの連絡後、急いで全方位に探知魔法を走らせた。

 

 敵を捕捉。

 

 刹那が旅館から飛び出してきた。

 

「あっちだ!」

 

 指で示して教える。

 

 刹那がその方向へ走っていく。

 

 やや遅れて、明日菜たちが来た。

 

 来るのを確認すると、隼人も走り出す。

 

 明日菜とのどかが並ぶ。

 

「ゴメン! 私達がしっかり見てなきゃダメだったのに」

 

「すいません」

 

 しきりに謝る。

 

「気にするな、俺以外にも外や内に魔法教師や呪術者はいた。その包囲網を無視して連れ去ったんだから、お前たちに責任は無い」

 

 前方に刹那が見えた。

 

「刹那!」

 

 隼人が叫ぶ。

 

「先生。アレです」

 

 合流すると、さらに前方に走っていく人間が見えた。女性のように見える。

 

 木乃香を抱えていた。

 

「足止めさせる。その後、一気に叩くぞ」

 

「「「了解」」」

 

 指に嵌められた魔法発動体が光る。

 

「契約執行。明日菜、のどか」

 

 二人の体を魔力が包む。

 

「アデアット!」

 

 二人はアーティファクトを出現させる。

 

 そして隼人は呪文をつむぐ。

 

「ラ・ステル・マ・スキル・マギステル! 疾風まといて敵を討て、三十六柱の矢! 【魔法の射手・風の三十六矢】!!」

 

 鋭く叫んで魔法の射手を放つ。得意属性と違うため、呪文詠唱が必要だが足止めするにはもってこいの性能。

 

 三十六本の風の矢が相手に襲い掛かる。

 

 着弾。

 

 相手の足が止まる。

 

「今だ!」

 

 全員地面を蹴って突貫。

 

 しかし、目の前に三体の人影が現われて、それを阻んだ。

 

「な!?」

 

「え?」

 

「きゃっ!」

 

「ひゃっ!」

 

 急停止する。

 

 逃げていた女性は、隼人たちのほうを向いた。

 

「よーここまで追いかけてこれたな。ご苦労さん」

 

 その女性は、年は二十代。髪が腰まであり、メガネをかけている。そのメガネの奥からのぞく目は、黒く静かな狂気を湛えていた。

 

 抱えた木乃香は口をふさがれて、縛り上げられていて身動きが取れないようだ。

 

 そして、隼人たちの前に躍り出た三体の人影は、月夜に照らされてその姿を現す。

 

「おいおい、奈良観光は明日だぞ」

 

 呆れるような、驚嘆するような声で隼人はつぶやく。

 

 明日菜たちはその姿を見て唖然とした。

 

 そこに立っていたのは、頭に鹿の角を生やし、優しげな目。ぽっちゃりとした体、仏教を思わせる格好をした、あの奈良・平城遷都1300年祭記念マスコットキャラクターの「せんと君」だった。

 

 そして、もう一体。同じく鹿の角を生やし、つぶらな瞳。短い足、マントを羽織り、東大寺の屋根を被った、奈良・平城遷都1300年祭記念マスコットキャラクターの「まんと君」だった。

 

 最後に、聖徳太子をモチーフにし、目と眉が十七条憲法の「一七」を表している。マスコットキャラクターの「なーむ君」だった。

 

「な、なんで、せんと君!?」

 

 明日菜は思わずつっこむ。

 

 その疑問にカモが答えた。

 

「そういや、アニキのところにもチラシが来てたな。『奈良のマスコットキャラクターを模した式神を購入しませんか?』 とかなんとか」

 

「ああ、値段が高くて申し込まなかったけど、関西呪術協会に関係してる呪術者には大概送られてきていたな」

 

 くくくと笑いながら女性は言った。

 

「その三体は、見た目はアレやけど、改造して強なっとるで」

 

 三体の式神は戦闘体勢に入る。

 

「邪魔やし、ここで始末したるわ」

 

 メガネをずりあげて命令した。

 

「殺れ」

 

 三体の式神がそれぞれに襲いかかる。

 

 まんと君はのどかに。せんと君は刹那に。なーむ君は明日菜に。

 

 隼人はすぐさま指示。

 

「のどか、しゃがめ!」

 

「きゃあ!」

 

 まんと君は角を突き出す。

 

「【満都真拳・鹿角衝】!」

 

 襲ってくるまんと君の攻撃をしゃがんで避ける。

 

すると、まんと君は、のどかにぶつかってバランスを崩した。

 

「ぐげっ」

 

 小さな悲鳴を上げて真ん丸の体がコロコロと転がっていく。

 

「ナイス、のどか」

 

 そこへ、隼人が無詠唱【魔法の射手・炎の三十の矢】を放ち、焼却。

 

 さらに明日菜へ指示を飛ばす。

 

「明日菜! そのままそのハリセンでなーむ君を叩け」

 

「オーケー」

 

 鋭い一振り。

 

「無駄ですよ。【南都真拳・白刃どり】!」

 

 叫んで、手を合わせるなーむ君。

 

 受け止められるが、【ハマノツルギ】の能力が発動。

 

 明日菜の魔法無効化能力が増幅されて、なーむ君の魔力構成を分解。

 

 悲鳴も上げず消滅した。

 

 一方、刹那は向かってくるせんと君に、夕凪を雷の速度で振り下ろす。

 

「喰らえ! 【神鳴流・イカヅチ】!」

 

 せんと君は振り下ろされた、刀を難なく弾く。

 

「え?」

 

 一瞬隙が生まれる。

 

「むうううううううううううううううううん!!!!! 【遷都真拳・古都の波動】!!」

 

 せんと君は裂帛の気合を発し、手のひらより衝撃波を放つ。

 

 刹那はモロに喰らって吹っ飛ぶ。

 

 飛んできた刹那を受け止め、隼人は牽制で【魔法の射手】を放った。

 

 せんと君は後退。

 

 女性の横に降り立つ。

 

 隼人は驚愕していた。

 

 せんと君の力は式神レベルではなかった。

 

 一撃放っただけで分った。まんと君となーむ君のような式神と違う。

 

「改造してあっても、なんだ? あの強さ」

 

 驚く隼人に女性は得意げな顔をして言った。

 

「コイツは、式札を介して召喚した、本物の『せんと君』や。正式名称『金剛奈良明王』ゆう、魔人や」

 

 隣にいたせんと君は手を合わせて頷く。

 

「左様。飛鳥の頃よりこの奈良の地を外敵より守り抜いてきた也」

 

 武人を思わせるような物腰だった。

 

「んな、アホな」

 

「ふざけてますね」

 

「せんと君ってマジで居たんだ」

 

「オドロキです」

 

 全員、呆れた。

 

 女性は、愉悦で顔を歪めながら、木乃香を肩に担ぎ上げる。

 

「それにしても、こんなガキ一匹によう必死になるなぁ」

 

「なんだと?」

 

 隼人は睨む。

 

「そう恐い顔せんといてーな。まぁ、あっさり捕まるぐらいの間抜けやけど、膨大な魔力や立場を利用できるのは便利やな」

 

「お嬢様を侮辱するな!」

 

 刹那が飛びかかろうとするが隼人が抑える。

 

「悪いが、その子は俺の生徒だ。どう利用するつもりかは知らんが、返してくれ」

 

 隼人は頭を下げた。

 

 その態度にますます顔をゆがめる。

 

「ケケケケケ。かつての英雄が聞いて呆れるわ。勝てないと分ると、頭下げるかぁ」

 

 今にも飛びかかろうとする彼女たちを抑えて、隼人は懇願した。

 

「頭でも何でも下げてやる。だから木乃香を返してくれ」

 

 女性は邪悪な笑みを浮かべる。

 

「安心しぃ。呪薬で体弄くって、『スクナ』を召喚したら返したるわ」

 

 ひひゃひゃひゃと笑いながら木乃香の尻を叩く。

 

 ブチィィィィっと切れる音がした。

 

「ひゃひゃひゃひゃひゃ……え?」

 

 いつの間にか隼人は女性の目の前に居た。

 

 そして、思い切りぶん殴った。

 

 地面に伏せる女性。

 

 隼人は木乃香を奪う。

 

 あっと今の出来事。

 

 誰も反応できなかった。

 

 否、誰も動くことが出来なかった。

 

 木乃香を奪い返すと、隼人は射殺すように女性を見下ろす。

 

「これ以上、俺の仲間を利用させはしない」

 

 静かに言った。

 

 しかし、その隼人から立ち昇る気配は常軌を逸していた。

 

 怒気、殺気、熱気、闘気が混ざり合った凄まじい気配。

 

 髪は燃え上がるように真っ赤に染まっていた。

 

 射抜く目は焼け付くような波動を発していた。

 

「う、あ、あ」

 

 女性は言葉に詰まった。動けば殺されると本能が告げていた。

 

「失せろ」

 

 静かに睨む。

 

 せんと君は死の恐怖を振り払い、女性を抱えると跳躍。

 

 屋根伝いに逃げていった。

 

 それを見送ると、気配が消えた。

 

 髪も赤みがかった色に戻っている。

 

 いつもの隼人だった。

 

 木乃香の口に貼り付けられていたガムテープをはがす。

 

「怪我はないか? 木乃香」

 

 先ほどまでとは、うって変わって優しい声で言う。

 

「うん。大丈夫や。隼人も大丈夫?」

 

 恐る恐る聞いてみる。

 

 フッと笑って頷く。

 

「大丈夫だ」

 

 そういって、木乃香をおろす。

 

 明日菜たちが駆け寄ってくる。

 

 皆、先ほどの変化を気にしてか、妙にそわそわしていた。

 

 隼人はいつもどおりに軽い口調で言う。

 

「だーいじょうぶだって。ちょっとキレたらああなるだけで、心配するな」

 

 その様子を見て明日菜たちは安心した。

 

「でも、良かった無事で」

 

「ほんとうですね」

 

 皆、木乃香が無事でホッとしている。

 

「ほれ、俺は少し夜風に当たってからいくから、お前らはもう戻れ」

 

 しっしっと手を振る。

 

「あ、うん。わかった」

 

「は~い」

 

「おやすみなさい」

 

「では、お先に」

 

「アニキ、それじゃな」

 

 明日菜たちは旅館に帰っていく。

 

 その姿が見えなくなると、隼人はへたり込んだ。

 

「ふ~。久しぶりになるとキツイな」

 

 咳き込む。

 

 血を吐いた。

 

「やっぱりまだ、完成には程遠いな……」

 

 一息吐く。

 

体がきしむ音がする。

 

「ぐぅっ」

 

 歯を食いしばって痛みに耐える。まるで灼熱の炎が内側で猛り狂うような感覚。

 

 体が落ち着いてから立ち上がり、旅館に戻っていった。

 

「ほんと、燃費の悪い厄介な力だ」

 

 こうして修学旅行一日目は終了した。

 

 

【つづく】

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