魔法教師はやト!   作:沖彦也

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修学旅行編2日目です。
宜しくお願いします。


第十二話「修学旅行の決闘! ~隼人VSせんと君~」

「いざ、尋常に勝負!」

 

 互いが駆け出す。

 

「ぬおおおおおおおおお」

 

「でぃやあああああああああ」

 

 裂帛の気合で刀と拳がぶつかり合う。

 

 爆裂。

 

 大気が震える。

 

 近くにいた鹿が驚いて逃げ出した。

 

「ふん。気合は充分のようだな」

 

 せんと君が不敵に笑う。

 

「死にたくないんでな」

 

 弾いて間合いがあく。

 

 あたりを見回してせんと君が言った。

 

「ここでは鹿達がいて全力で戦えない。場所を移動するぞ」

 

「いいだろう」

 

 隼人が了承する。

 

 せんと君が印を結んだ。

 

「遷都真拳絶技【平城の原】!!」

 

 一瞬、空間が歪み、正常に戻ったとき、広い原っぱにいた。

 

「ここは、もしかして平城旧跡か?」

 

 かつて奈良に住んでいた時のことを思い出して隼人は周りを確認する。

 

「その通り。我がかつて守り抜いた都。その跡地を我が魔法によって再現した異空間也」

 

 せんと君が答えた。

 

「そして、我の最強の力を出すことの出来る唯一の場所也!」

 

 手を合わせて気合を入れる。

 

 せんと君の体が筋肉隆々とした姿へと変わっていく。

 

「これで、準備完了也」

 

 そこにはあの温和な姿をした、せんと君はいなかった。

 

 現われたのは金剛力士のような武人だった。

 

 隼人はその姿を見て苦笑い。

 

「金剛奈良明王ってこのことを指してたのか」

 

 溢れる闘気が肌を刺す。

 

「いくぞ。紅蓮鬼よ」

 

 隼人の二つ名を呼んで、向かってくる。

 

 それは弾丸のように速かった。

 

 隼人はそれを紙一重で回避して相手へ刀を振り下ろす。

 

 金属音が鳴った。

 

「な!?」

 

 せんと君の体が、刃を弾いた。

 

 一瞬、体勢が崩れて隙ができる。

 

 それを見逃す、せんと君ではなかった。

 

「遷都真拳奥義【古都の波動】!」

 

 強烈な気合砲が隼人を直撃。

 

 吐血して吹き飛ぶ。

 

 せんと君はすかさず追撃を叩き込むために跳躍。

 

「遷都真拳神技【盧舎那仏の大掌】」

 

 巨大な手のひらの形をした衝撃波が隼人を襲った。

 

 轟音。

 

 手のひら型のクレーターが出来て、隼人は地面にめり込む。

 

 しかし、隼人の体が桜の花びらへと変わって消える。

 

「むぅ!」

 

 驚くせんと君の後ろから殺気。

 

「流派・花鳥風月 花の章【桜花幻影】」

 

 背後から現われた隼人は、せんと君へ一撃を叩き込む。

 

 しかし先ほどと同じように弾かれ、体勢が崩れる。

 

 今度は強襲するせんと君の顔に無詠唱【魔法の射手】炎の矢・六十本を放った。

 

 爆発。

 

 なんとか相手の間合いから離れて、着地。

 

 口に溜まった血を吐き出す。

 

 爆発の煙が晴れると、無傷のせんと君がいた。

 

「くそっ。ノーダメかよ」

 

 隼人は悪態をつく。

 

 せんと君はゆっくりと構えると言った。

 

「さっきの技は、古の呪法剣術『流派・花鳥風月』と、西洋魔法の組み合わせか」

 

「そっちの技は、古式練気功法の応用みたいだな」

 

 互いの能力を理解。

 

 せんと君の力は、練りに練り上げた気を使って身体を操作。鋼の肉体へと変質させていた。それは堅牢な鎧でもあり、強力な武器にもなる。

 

 対する隼人は、西洋魔法を補助に使用し、エヴァンジェリン戦の時は使うのをためらった『流派・花鳥風月』をいきなり使っていた。それは、出し惜しみしていると死に直結することが分っているからだ。

 

 久々の強敵に思わず笑みがこぼれる。

 

「伝説の魔人ってのは、嘘じゃないようだな」

 

 せんと君も幻と謳われている剣術使いと戦えて笑っている。

 

「紅蓮鬼の名は伊達ではないよう也」

 

 互いの出方を窺う。

 

 先に動いたのは隼人だった。

 

 【縮地】を使って一瞬で間合いをつめて、せんと君の胸に刀を突き立てた。

 

「鳥の章【鶏穿(けいせん)】」

 

 一点集中させた気が鋼の身体を貫く。

 

 すぐさま、引き抜いて蹴り飛ばして後退。

 

 せんと君の口から鮮血が零れ出る。

 

 更に隼人は追撃とばかりに、気で作られた無数の鳥の羽根を召喚。射出して、せんと君を強襲。

 

「鳥の章【鳥羽針(ちょううしん)】」

 

 せんと君はとっさにガードしたものの、細かな針が鋼の身体を削り取っていった。

 

 全身から血を噴出すが、気にせずに隼人に猛烈なスピードで向かっていった。

 

「喝!」

 

 口から気を放出。空気が振動して、隼人は一瞬動きが鈍った。

 

 そこへ、突進。大砲のような衝撃が隼人を襲った。

 

 その場で体が崩れる。

 

「遷都真拳【合衝】」

 

 隼人の身体を両手で挟んだ。

 

「ぐぇっ」

 

 つぶれたような声をだして直撃した。

 

 せんと君は隼人の体に気を送り込んで内臓を破壊したのだ。

 

 そして鋼鉄の拳が振り下ろされて脳天を殴打。

 

 最期に顎を打ち抜かれて吹っ飛ばされた。

 

 隼人は地面に手をついて体勢を整えた。

 

 しかし、既に満身創痍だった。

 

 速さは隼人が上だが、威力はせんと君のほうが上だった。

 

「ちくしょ、やっぱ鈍ったかな?」

 

 青ざめた顔で隼人は苦笑い。

 

 あっという間に戦況を覆されてしまい笑うしかなかった。

 

 対するせんと君は無言で隼人を見つめる。

 

 良く見ると、隼人が付けた傷がすでに癒えていた。

 

 再びせんと君が突撃してくる。

 

「このおおおおおお」

 

 なんとか受けとめ、攻めて、回避し続ける。

 

「やばいな。このままじゃ負ける」

 

 隼人は必死で思考をめぐらす。

 

 今の状況で、せんと君には勝てない。これは事実だった。

 

 だが、勝てる奥の手はある。昨日の夜、使った技。しばらく戦えない体になるが、強大な力が出せる。

 

「おおっ。花の章【梅花】」

 

 せんと君の猛撃を受け、流し、防ぐ。じわじわと削られていく。昨夜の戦闘ダメージが尾を引いていた。

 

 敵の戦力がいまだに不明のまま、後さき考えずに戦うのは無茶だった。

 

 隼人は現状を分析して結論を出す。

 

「おりゃああ」

 

 せんと君のわずかな隙を見つけて、後退。間合いを変える。

 

 それは、刀の間合いとは違う。

 

「何をするつもり也」

 

 警戒するせんと君。

 

「それは、見てのお楽しみだ!」

 

 隼人の指にはめた魔力発動体が光り輝く。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

 朗々と謳うように呪文詠唱をする。

 

「西洋魔法か!?」

 

 すぐさませんと君は詠唱を潰そうと攻撃してくる。

 

「遷都真拳奥義【古都の波動】ぉおおおおおおおお!」

 

 強烈な気合砲が隼人を強襲。

 

 しかし、風に揺らめく柳のように、ふわりと避けて、呪文をつむぐ。

 

「ものみな焼き尽くす浄北の炎!」

 

 せんと君は避けた隼人に鋼鉄の拳で見舞う。

 

 それを軽く受け流して更につむぐ。

 

「破壊の王にして再生の徴よ!」

 

 右腕に高熱の光が宿る。

 

「我が手に宿りて敵を喰らえ! 【紅き焔】!!」

 

 隼人の右手から、紅蓮の焔が噴出。

 

 せんと君を飲み込んだ。

 

「ぐあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 悲鳴とも怒号ともつかぬ、声で叫ぶ。

 

 隼人は後退した。

 

 燃え盛る焔が消えると、黒こげになった、せんと君が立っていた。

 

「ぐ、ぐぐぐぐぅ」

 

 その顔を憤怒に満ちていた。

 

「あらら、呪文の練りが甘かったかな?」

 

 ダメージはあるものの致命傷には程遠い。

 

「だったらコレでどうだ」

 

 再び呪文をつむいでいく。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル……」

 

「ぬがあああああああああああああああああああ」

 

 せんと君は憤怒の咆哮をあげて、隼人に向かって突っ込んできた。

 

「来たれ火の精、熱の精!」

 

 せんと君は隼人の手前の地面を殴りつけて、石の散弾で攻撃する。

 

 しかし、隼人は刀でそれを弾きながら、呪文をつむぐ。

 

「劫火を纏いて猛れ! 灼熱の風!!」

 

 散弾の雨を縫ってせんと君が強襲した。

 

 隼人を完璧に捉えた右の一撃を打つ。

 

 と、同時に隼人の呪文が完成した。

 

「【焦熱の嵐(しょうねつのあらし)】!!」

 

 隼人の左手に宿った魔法が放出。

 

 せんと君の至近距離で大爆発。

 

 灼熱の嵐が巻き起こって焼き焦がした。

 

 隼人は爆発の勢いで後方へ吹っ飛び、着地。

 

「へっ。こんどこそ焼いてやったぜ」

 

 ちりちりと熱せられた空気が肌を刺す。

 

 爆発の煙が晴れて、せんと君が姿を現した。

 

 全身にヤケドを負い、右腕が黒炭化していた。

 

「よっしゃ、大ダメージ……?」

 

 ガッツポーズをしようとした瞬間、視界からせんと君が消える。

 

 背後に殺気。

 

 気づいたとき、すでに遅かった。

 

 黒炭と化した右腕を振り下ろして殴りつけ、地面へめり込ませられた。

 

「がっ、か」

 

 さらに足で踏みつけられた。

 

「ぐが、かはっ」

 

 二連撃を喰らって動きが鈍る。

 

「死ね」

 

 極大の危険を感知して、

 

 緊急回避。

 

 ムリヤリ体を捻って、脱出。

 

 その瞬間、隼人がいたところに爆発してクレーターが出来た。

 

「な、なんだ!?」

 

 すぐさま状況を確認する。

 

 そこには、倍以上に盛り上がった筋肉、太く浮き出た血管、禍々しい気に包まれた、せんと君が立っていた。

 

「おいおい。マジかよ」

 

「許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さん。許さああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

 

 せんと君は天に響く大声で叫ぶ。

 

「何つー、大声だ」

 

 耳をふさいで呆れる。

 

 せんと君は隼人を睨みつけると言った。

 

「人間の分際で、我を焼くなど笑止千万!! 我が真拳で跡形もなく消し飛ばしてくれるわ!!」

 

 体から強烈な気が発せられる。

 

「遷都真拳究極奥義【大和の波動】!!!!!」

 

 両手から放出した莫大な気の奔流が隼人に向かっていく。

 

「げ、やべ!」

 

 これは避けられないと悟った隼人は、一瞬にして何十にも結界を展開して耐える。

 

 直撃。

 

 十数枚の結界を紙の如く破いて、貫通。

 

 気の奔流が隼人を飲み込んだ。

 

「ぐわあああああああああああああああああああああああ」

 

 吹き飛んで地面に転がる。

 

 暗転。隼人の意識は暗い深いところへ落ちていった。

 

 

★

 

 

 隼人は真っ暗な空間に浮かんでいる。金縛りにあったように全く体が動かせない。

 

『俺は何をやっているんだ』

 

 声が響く。それは自分の心の声。

 

『追い詰めても結局負けてしまった。俺はここで死ぬのだろうか』

 

 自分の過去が走馬灯のように駆け巡る。

 

『今までに何度も死ぬ機会があったのに、死ななかった。いや、死ねなかった』

 

 決して忘れないよう心に深く刻んだ過去がよみがえる。

 

『やり残したことが山ほどある。師匠の敵討ち。友の敵討ち。いまだに終わらない俺の戦争。スプリングフィールド姉弟との約束。学校の教師としての責任』

 

 体が少しずつ動くようになる。

 

『ここで負けるわけにはいかない。せんと君なんていうふざけた奴に殺されるわけにはいかない。でもどうすればいい? 剣術が通用せず、魔法もほとんど聞かない相手にどう戦えば良い』

 

 走馬灯に、大勢の悪魔と戦う自分が映る。返り血で濡れた顔。獰猛な笑み。鬼神のごとき剣術。

 

『昔の俺ならあの程度の敵に苦戦することなかった。俺は弱くなってしまったのか』

 

 かつての自分が、今の自分を見つめてくる。その目は力強く、そして何かを思い出させるように燃えていた。

 

『いや、忘れているだけだ。昔の自分を。思い出せ、あの頃の俺を。思い出せ、師と友に誓った約束を。思い出せ、俺が手にした修羅の力を』

 

 体の奥から力が溢れてくる。燃え盛る炎のように噴き出す。

 

『そうだ。俺は紅蓮鬼。全てを焼き尽くす破壊の鬼神だ!』

 

 

★

 

 

 全ての気を放出して、元のぽっちゃりとした姿に戻る、せんと君。

 

「ふん。愚か也。中途半端な力で我を愚弄するから」

 

 動かなくなった隼人にそうつぶやくと、立ち去ろうとした。

 

「待、てよ」

 

 倒れている隼人が言った。

 

 刀を杖代わりにふらふらになりながら立ち上がる。

 

「あの技を受けて生きているだと!?」

 

 せんと君は驚愕した。

 

「わ、悪いが、俺を見、く、びるなよ」

 

 ボロボロの状態でも不敵な笑みをこぼす。

 

「ならば、もう一度喰らわせて、引導を渡してやる也!」

 

 せんと君は再び気合を入れて、金剛状態になった。

 

「お前のおかげで大事なことを思い出した」

 

 隼人の周りの空気が一変する。

 

 せんと君は警戒する。

 

「昔の俺は後先考えなかった。体がぶっ壊れようが動き続けた。全力で目の前の敵を倒し続けていた」

 

 静かにつぶやく。

 

「もう、ゴチャゴチャ考えない。見せてやる。究極技法(アルテマ・アーツ)【爆熱真紅】の力を!!」

 

 空気が渦巻き、風が吹き荒れる。

 

「があああああああああああああああああああああああああ」

 

 天に地に轟く鬼神の咆哮。そして、隼人の姿が変わった。

 

 燃え盛る真紅の髪。

 

 立ち昇る気配は怒気、殺気、熱気、闘気が混ざり合った凄まじい気配。

 

 纏うオーラは炎のように揺らめき、高熱で周囲が燃え上がる。

 

 鬼のように鋭い眼光は焼け付くような波動を発していた。

 

「それは昨晩感じた気配!」

 

 せんと君は最大級の警戒をして構える。

 

 しかし、震えがとまらなかった。頭で戦おうとしても本能が戦いを拒否していた。

 

 気合も、根性も、戦う気力も、全てを焼き尽すような気配。

 

 「究極技法(アルテマ・アーツ)」とは気や魔力を使用する者が、己の限界を超えるための技術の総称である。

 

 隼人が使用する【爆熱真紅】も究極技法のひとつである。自らの気力、魔力、あらゆる力を、果ては魂までも燃焼させて爆発的に身体能力を上げる技である。

 

 しかし、使用者に絶大な力をもたらす代わりに、技を使用中、燃料になった力の全てが減り続けていく。そのため技の展開時間に制限があり、それは使用者が持つ全ての力によって変動する。

 

「今の俺の状態から計算して、【爆熱真紅】を展開できる時間はおよそ三分。三分耐えられたらお前の勝ちだ」

 

 隼人はそう言うと、刀の柄を握る。

 

「もっとも、爆熱真紅の補助効果【戦意焼却】で根こそぎ戦意を奪われたお前に、出来るかどうかは知らないがな」

 

 せんと君は邪悪な笑みを浮かべて叫んだ。

 

「舐めるな、人間! 我は負けぬ!」

 

 焼き尽くされた気力を奮い立たせて突進した。

 

「ぬがああああああああああああああああ、遷都真拳奥義【古都の波動・連撃】!!」

 

 爆裂の気合砲の連撃。

 

 それは、全力全開の速さ。先ほどの隼人が捉え切れなかった速さ。

 

 だが、今の隼人には見えていた。

 

「でぃっや!!」

 

 刀を振るって二連撃。

 

 せんと君の両腕を斬り飛ばして焼いた。

 

「おうるおおおおおおるおおおおおおおお」

 

 両腕が消失してもなお、獣のような叫び声をあげて、頭の角で攻撃してくる。

 

「はあああっ」

 

 神速の太刀捌きで角を切り落とす。

 

 さらに蹴り飛ばして、相手を吹き飛ばした。

 

「これで終わりだ!」

 

 より一層、隼人の気が増大。灼熱の気は大気を焼いて陽炎を生む。

 

「流派 花鳥風月 風の章奥義!! 【疾風怒濤(しっぷうどとう)】ぉおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 地面を蹴って間合いをつめた。

 

「ぐぅうぬ」

 

 それは、せんと君が発した最期の言葉だった。

 

「だああああああああああ」

 

 隼人は刀を横に振りきり、胴体を切り飛ばす。

 

「しゃああああああ」

 

 さらに、分離させた胴体に右斜め斬り下ろし。

 

「ぬおおおおおおおおお」

 

 返す刀で左斜めに切り上げ。

 

「チェストオオオオオオオオオオオオオ」

 

 最期に上から振り下ろして、一刀両断。

 

 嵐のような斬撃でせんと君をバラバラに解体する。

 

 風の章奥義 【疾風怒濤】は怒涛の勢いで高速の連斬を叩き込んで、相手をバラバラにする奥義である。一度斬られたら最期、相手に逃げられる術は無い。

 

 隼人の顔が盛大に返り血を浴びて真っ赤に染まる。

 

 刀に付いた血を飛ばし鞘に収めた。

 

 究極技法【爆熱真紅】を解除。

 

「はぁはぁはぁ。勝った。マジでやばかった」

 

 肩で息をして一息つく。

 

 バラバラになった、せんと君の体が消滅した。

 

 空間が歪んで元の奈良公園に戻ってきた。

 

 最初いた位置と少しずれている。

 

 向こうのほうでは最初の戦闘で起こった爆音を聞きつけて野次馬が集まっていた。

 

「おーい隼人」

 

 野次馬と同じように爆音を聞きつけて、明日菜たちが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫? ってぎゃああああああああっ 血だらけ!!」

 

 明日菜は隼人の姿を見て思いっきり叫んだ。

 

「あや~、スプラッターやな」

 

 流石の木乃香も引いている。

 

「隼人先生、何があったんですか!?」

 

 刹那は心配そうに聞いてくる。

 

 のどかは無言で気絶した。

 

 ギャアギャアと騒ぐ彼女たちを手で制して笑う。

 

「心配するな。返り血をあび、ぐぼほおっごおお」

 

 盛大に吐血して、倒れた。

 

「ぎゃああああああああ」

 

「きゃああああああああ」

 

「せ、先生!」

 

「アニキ!!」

 

 さらに騒ぐ彼女たち。

 

 こうして、奈良観光は終わりを告げた。

 

 

★

 

 

 京都府内某所。

 

 白髪の少年は、せんと君が倒されたあとアジトに戻ってきた。

 

「おかえり、フェイトはん。どうやった?」

 

 昨晩現われたあの女性が、古びた本を読みながら、フェイトと呼ばれた少年に聞いた。

 

「天ヶ崎さんの望みどおりにはならなかったよ」

 

 フェイトは答えた。

 

「そうか。そら残念やなぁ」

 

 あまり残念そうに聞こえなかった。

 

「まぁあくまで、敵の戦力を測るための駒。これからが本番や」

 

 天ヶ崎は本から目を離し仲間を見回す。

 

「これから頼むで、月詠、小太郎、フェイト」

 

 呼ばれた三人は頷く。

 

 邪悪な笑みを浮かべて天ヶ崎は読んでいた本を見つめる。

 

「待っててなぁ。もうすぐ蘇るで、『スクナ』はん」

 

 その本には四本腕の鬼が描かれていた。

 

 

つづく

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