宜しくお願いします。
隼人たちが反撃を開始する一方、彼らとは別に飛ばされた残りのメンバーは、敵の攻撃に苦戦していた。
鳥居の道の左側。刹那と明日菜は月詠と戦っていた。
「あははははははははははははははははは。せんぱあああああああああい」
狂ったように笑いながら月詠は刀を振るう。
「くっ。明日菜さん気をつけて!」
刹那が月詠の攻撃を弾く。
「っこのぉおおお」
明日菜が、ハリセンの一撃を月詠に入れるが腕で防がれた。
「うふふふふふ。ざんねぇん♪」
痛みが快感なのか、愉悦に顔が歪んでいる。
「痛ぁいの、痛ぁいの、飛んでいけぇ~。あはは」
二刀流の月詠は悪魔の如き剣術で暴れまわる。
刹那と明日菜は月詠の執拗な攻撃を必死で捌いていた。
「せいっ」
刹那の刀が小柄な月詠を弾き飛ばして、間合いを空ける。
「刹那さん大丈夫?」
明日菜は額から垂れてくる血をぬぐう。
「ええ、なんとか」
刹那は月詠に斬られた傷を治癒符で応急処置。
現状、彼女たちはかなりやばかった。
月詠の攻撃は冷徹で正確。その小柄な体から繰り出される、スピードに乗った剣術は強力だった。
小太刀を使った二刀流。それが月詠の剣術。
「おそらく、神鳴流の剣術に独自のアレンジを加えて、完成したものだと思います」
刹那が分析する。
「本来、神鳴流は魔物退治の剣術。人外の相手を倒すために野太刀を使うんですが、あれは対人戦用に小太刀を使ってます」
「それって、どう言うこと?」
明日菜が首をかしげた。
「私の場合、刃が長い分動作が大きくなります。しかし小太刀を使う月詠は、刃が短い分小回りが利いてスピードも速い。加えて彼女は小柄だ。その小ささを生かした戦いはかなり厄介です」
苦しげに相手を見つめる。
「うふふふ。先輩」
月詠は陶酔したような目でこちらを見ていた。
白いゴスロリの服に返り血がついて凄惨な姿になっている。
その姿が行動と合わさってさらに異常な雰囲気をかもし出していた。
刹那は引きつった顔をする。
「しかも、なぜか私を狙ってきている」
「だね。気持ち悪いストーカーみたい」
明日菜も引きつった顔をしている。
月詠が言う。
「先輩。向かってこないんですかぁ? じゃあこちらからイキますよ? イッちゃいますよ?」
月詠の体から冷たい殺気があふれ出す。
「受け取ってください。私の思い」
風に揺らいだように体が動く。
縮地による一瞬の間合い詰めで近づき、小太刀を振るった。
「さぁ、一緒に踊ってください」
二人同時に相手をする。
右腕と左腕が別々の動きをして、明日菜たちを翻弄していく。
「くぅっ」
「きゃっ」
二人はなんとか捌いていくが、あちこちを斬られていった。
月詠は血が飛び散るたびに恍惚の表情を浮かべる。
「嗚呼。嗚呼。ゾクゾクする。楽しい。嬉しい。もっと、もっと、踊りたい」
「このっ、いい加減にしなさいよ!!」
遂に明日菜がキレた。
歴戦の戦士の如く超反応でハリセンを振るって、相手の小太刀を弾く。
「な!?」
弾かれたことで、丁度バンザイした格好になる。
あまりの完璧な動きに月詠も刹那も驚いた。
「今よ、刹那さん!」
明日菜が呼びかける。
刹那は驚いたものの、隙を逃さず刀で攻撃。
「神鳴流【斬岩剣】!!」
横薙ぎの一閃で相手の腹を切り裂いた。
鮮血が飛び散る。
「ぶっ飛べぇっ」
さらに明日菜の蹴りが腹部を直撃。
勢いで吹っ飛ばした。
月詠は地面にぶつかり、転がって止まる。
彼女の体がビクビクッと痙攣を起こした。
「倒したの?」
明日菜と刹那は油断なく構える。
すると、月詠は立ち上がった。
「あはは。痛ぁ~い。絶頂しちゃったぁ。先輩も、そこの人も容赦ないですねぇ」
腹から血を流しながら、これ以上にないほど口が裂けて笑っている。
彼女は腹部の傷を確かめるように撫でながら言った。
「やっぱり、私の目に狂いはなかったぁ。先輩なら私の愛を受け止めてくれるって思ってたぁ」
「何が言いたい!」
刹那が叫ぶ。
「だって私が愛したものは皆、死んじゃうんだもの。でも先輩は違う。私の攻撃を受けても簡単に死んでくれない。嬉しいなぁ」
ドブ川のような腐った目で見つめてくる。
「もっと斬りあいましょう。死合いましょう。そして互いに切り傷を付け合いましょう。大好きです先輩」
突然の告白。かなり危険な思い。
得体の知れない恐怖が、明日菜と刹那の全身を駈け巡った。
★
刹那たちが月詠と戦っている頃、のどかと木乃香は千草と対峙していた。
のどかはアーティファクト『いどのえにっき』を持ち、木乃香は杖を持って身構える。
「もう逃がさへんで。お嬢様には嫌でも協力してもらいます」
千草が立ちはだかり、危険な殺気を発した。
「あんたらスクナを復活させるゆうけど、スクナってなに?」
木乃香は構えを解かずに聞く。
「スクナいうんは、伝説の鬼神や。はるか古代に暴れまわって、ようやく京のこの地に封印された。この鬼を使ってウチを虐げた輩に仕返しするんです」
にっこり笑ってそう言った。
「残念やけど、ウチはそんなことのために協力したない」
「言うたはずや。嫌でも協力してもらうで」
懐から札を取り出して投げつける。
「のどか逃げて!」
「は、はい」
二人は慌てて飛びのいて回避。
札が光り輝き、爆発を起こす。
戦闘が開始された。
次々と投げてくる札を避けながら、木乃香はのどかに念話で言う。
『今からウチがあの人を食い止める。のどかはそのアーティファクトで敵の心を読んでウチに伝えて』
『そんな危険です。とにかく先生と合流しましょう』
『それはできへん。魔力の流れからみてこの空間だけ閉じとる。たぶん大本の結界を壊すか、あの千草を倒すかせんと、出られへん』
『でも、あの人倒せるんですか? なんかとっても強そうですよ』
『大丈夫。倒すことできへんけど、守って避けることならできる。そうやって時間稼いでたら、せっちゃんか隼人が結界を破壊してくれるはずや』
『分りました。充分に気をつけてください』
二人は立ち止まる。
「もう逃げへんのか? ほな覚悟しい」
千草が札を手に持った。
「のどかは下がってて」
木乃香はのどかの肩を軽く叩いて下がらせた。
「ほな大人しく捕まってください」
千草は捕縛の札を投げつける。
札が発動して鎖が飛び出る。
その瞬間、木乃香は魔法を使った。
「えええいっ」
木乃香の前方に結界が展開。伸びてくる鎖を弾いた。
「なんやて!?」
千草は驚く。
それもそのはず、それはあまりに見事な結界だった。
西洋魔法、無詠唱【風塵結界】。
「その程度の魔法やったら、ウチの結界で防げるで」
木乃香は不敵な笑みで相手を見た。
「っく。舐めるなぁっ。このガキが!」
千草は札を数枚取り出して投げつける。
最初に閃光符が発動して、目くらまし。
次に、四方から捕縛符が発動して、鎖が襲う。
「捉えたっ」
確実に避けきれない、攻撃。
しかし、その場所に木乃香は居なかった。
「ウチはここや」
千草の背後に立っていた。
「ちぃっ」
爆裂符を投げる。
木乃香は、魔法の射手を放って攻撃して、すぐさま離脱。
千草の爆裂符は外れた。
「この、ちょこまかと」
千草はイラついたように睨んでくる。
だが、彼女は歴戦の術者。
すぐに冷静になって、分析する。
「なんで、ウチの攻撃が避けられたんや? 確実に当たったはずやのに」
後ろに居るのどかを見た。
「そうか。あんた、読心術者やな。その本は『いどのえにっき』か」
バレた。
「先にあんたを始末したるわ」
邪悪な笑みを浮かべる。
「っつ……!」
殺気を向けられてのどかは息を呑んだ。
「死ね」
千草は懐から雷撃符と爆裂符を取り出して、投げつけた。
雷撃と爆発が荒れ狂って、のどかを直撃。
煙が立ち込める。
「これで終了や」
勝ち誇ったように言う。
ところが煙が晴れるとそこには、無傷ののどかが居た。
強力な結界がのどかを守っていた。
「な、アホな」
驚く千草。
「ざんねんやったね」
今度は木乃香が勝ち誇ったように言った。
「バレた時のためにウチが結界を張ってたんや。攻撃が当たる瞬間、発動するように仕掛けてな」
遠隔操作の結界【風塵守護】。
「そんな、どないなってんねん」
千草は驚愕していた。
遠隔操作の条件付け結界は中位の魔術だが、特殊な訓練が必要になってくる。だから使用できる術者は少ない。防御のみに特化した術者でなければ習得しようとは思わないのだ。
しかし、それを木乃香はやってのけた。しかも千草に気づかれずに、のどかに仕掛けたのだ。
「いつや? いつ結界を張った」
千草は思わず質問する。
「さっき、のどかを下がらせたときや」
そのときの情景を思い出す。
「あの肩に手を置いたときか」
「そうや」
「でも、特殊結界なぞ滅多に使う奴おらへん。いったい、どこで学んだんや?」
「ウチのおじいちゃんに習ったんや」
そう。世界最高の魔法使いと謳われる近衛近右衛門は、木乃香に魔法を教えるとき、最初に自分の身を守るための魔法を教えた。
それは、彼女の莫大な魔力を狙ってくる者達がいるからだった。
彼女が学んだ魔法は身を守る「結界魔法系」と、怪我をしたときに役立つ「治癒魔法系」。
自らの身を守るために、また彼女が安全に暮らせるために、近右衛門はそれらを徹底的に叩き込んだ。
優秀な師。古来より受け継がれてきた近衛家の血。そして莫大な魔力。あらゆる要素が相まって彼女は、結界術師として開花し始めていた。
「あんたを倒すことは出来へんけど、あんたの攻撃を防ぐことは出来る。他の仲間が助けてくれるまでここで粘らせてもらうえ」
のどかの読心術で相手の行動を先読みし、木乃香の結界で身を守る。
今、二人は難攻不落の要塞のごとく、千草と対等に渡り合っていた。
「ぐっ。予想外やった」
千草は唇をかんで悔しがる。
と、そのときだった。のどかと木乃香の頭に隼人の念話が響く。
『刹那、明日菜、のどか、木乃香に連絡。戦っている最中だと思うから、返事はしなくて良い。今から結界を破壊する。そのときガラスが割れたような音が鳴る。それを聞いたら、相手を鳥居の道までおびき寄せながら、全力で反対側の森まで走り抜けろ』
その念話は、二人をさらに勇気付けた。
勝てる見込みが出てきた。それだけで、恐ろしい術者でも恐くなかった。
のどかと木乃香は互いに頷きあって、そのときを待つことにした。
★
「ふぅ。これでよし。あとは結界を破壊するだけだ」
隼人は散らばった仲間に念話で連絡を入れると、一息ついた。
現在、隼人は鳥居の道の真ん中に座り込んで、相手を倒すための準備をしていた。
すでに和美の探査型アーティファクト『渡鴉の人見』で結界の破壊点は見つけている。
やはり、隼人の予想通り百メートル先の鳥居に、空間を繋いでいる札が三枚貼り付けられていた。
そこにハルナのアーティファクト『落書帝国』で作り出した小型の簡易ゴーレムを配置している。
ちなみに、そのゴーレムの姿はなぜか「ストライクフリーダムガンダム」だった。しかも小型のため、ご丁寧にSD版になっている。
「なんでガンダム?」
隼人は首をかしげた。
「だって、三点同時攻撃なら、ファンネルが良いでしょ」
「いや、ストフリならドラグーンって名前じゃなかったか? まぁ良いけど」
ハルナの発想に苦笑する。
そして、咳払いして改めた。
「オホン。じゃ、始めるぞ」
全員が頷く。
隼人は朗々と歌うように呪文を紡いだ。
「ラス・テル マ・スキル マギステル。来たれ火の精、熱の精。劫火を纏いて猛れ! 灼熱の風」
右手に赤い光が宿る。
さらに隼人は紡ぐ。
「条件付け設定、遅延呪文。右手に魔法固定」
光っている右手に呪文の帯が漂った。
「これで良し」
隼人は座り込んだまま、右手を前にかざす。
「夕映、背中を支えてくれ」
「は、はい」
夕映が背中に手を置いた。
これで人間固定砲台が出来上がる。
「ハルナ、結界を破壊しろ」
「オーケー!」
待機させていたストライクフリーダムガンダムが起動する。
「いけっ! ファンネルもとい、ドラグーン!!」
ハルナの合図で背中のドラグーンが幾重にも分離して飛んでいく。
「シュート!」
ドラグーンのビームが結界の破壊点を同時に攻撃した。
札が燃えて消え去る。
ビシビシっと何かがひび割れる音があたりに響いた。
そして、ガラスが割れたような音がして結界が壊れた。
「あとは、敵がここに来れば俺たちの勝ちだ」
★
明日菜と刹那は何とか持ちこたえていた。
そろそろ限界が来る頃に、タイミングよく空間に亀裂が入って結界が砕けた。
「結界が砕けたみたい」
「明日菜さん! こっちです」
月詠と対峙していた二人は反転して、全速力で鳥居の道まで戻る。
「なんで、結界が壊れたのか分らないけど、逃がさないぃぃぃ~」
月詠は二人を追って、鳥居の道へ向かった。
一方、千草と攻防を繰り広げていた、木乃香とのどかは、敵の執拗な攻撃でかなりピンチだった。
しかし、結界が壊れたのを確認すると、千草を誘うように鳥居の道へ逃げていく。
「鬼さんこちら、手のなる方へや」
挑発するように手を叩いて、走っていく。
「あ、まちぃ」
千草は反射的に追いかけていった。
★
「先生、もうすぐ刹那さん達が来るよ」
和美は「渡鴉の人見」による探査で確認。
その直後、両端の竹やぶから刹那と明日菜、木乃香とのどかが現われた。そのまま両サイドの森へと走り抜けていく。
それから後れること、数秒。
追いかけてきた、月詠と千草が鳥居の道に現われる。
「な、なんや?」
「え?」
二人は隼人たちを見る。
隼人は不敵な顔で笑った。
「くらえ! 【焦熱の嵐】!!」
隼人が叫んだ瞬間、右手から魔法が発動。
彼女たちは灼熱の奔流に飲み込まれた。
右手から発動したのは、直進する高熱の風。
どこまでも真直ぐな道であるこの場所におびき寄せれば、まとめて葬れる。
鳥居の道で待ち伏せして、一度に叩くという作戦。
だが千草と月詠は、灼熱の奔流に耐えていた。
「なんだと!?」
隼人は驚く。
よく見ると彼女たちの前に、白髪の少年が立っていた。
彼は、何重にも張り巡らせた障壁で灼熱の嵐から彼女たちを守っていた。
「フェイトはん」
「助かりました~」
二人はホッとする。
「くそっ、後もう少しなのに……っ」
重傷を負っている隼人は、全力で一撃が放てない。
「ぐぐぐぅ」
踏ん張りが利かず、徐々に、体が後ろに下がっていく。
隼人の口から鮮血が零れ、右手がブレる。
夕映が必死に押さえるが、魔法の反動で吹き飛びそうになった。
「皆で、アニキを押さえてくれ」
カモが叫ぶ。
慌てて朝倉とハルナが支える。
「アニキ! 思いっきりやっちまえ!!」
支えてくれているおかけで、体が安定する。
「ぬおおおおおおおおおおおおお」
隼人は全力全開。ありったけの力を放つ。
「むっ?」
敵の障壁が破壊された。
「くたばれえええええええええええええええええええええ」
隼人の叫びに応じるかのように、【焦熱の嵐】が大爆発を起こす。
魔法が停止して、猛り狂った嵐が収まった。
前方は煙が立ち込めている。
やがて、煙が晴れるとそこには誰も居なかった。
「やっつけたの?」
和美が辺りを見回す。
カモは首を横にふった。
「いや、爆発にまぎれて逃げたみてぇだ。あのフェイトとか言う奴、無茶苦茶だぜ」
「先生!」
「みんな!」
刹那達が戻ってきた。
「良かった。皆、無事やね」
木乃香がホッとする。
「敵は逃げたみたいね。今の内に本山へ行こう」
明日菜が促す。
彼女達は、頷いて立ち上がった。
しかし、隼人だけ動こうとしなかった。
「隼人?」
皆、怪訝そうな顔をする。
「……」
俯いたまま返事がない。
「ちょっと、隼人」
明日菜が揺すると、体勢が崩れて地面に転がる。
「っつ!」
全員が息を呑んだ。
生気を失った青白い顔。腹から血を零していた。
ボロボロの状態で戦い、全力で魔力を使った影響で彼は死ぬ一歩手前だった。
「アニキ! しっかりしてくれ」
カモが駆け寄る。
しかし、容態をみて青ざめる。
「ヤベエ。心臓止まって、息してねぇ」
全員の顔が絶望に染まる。
「ど、どうしよう」
「ウチが治す!」
木乃香はコチノヒオウギで治療を試みる。
ある程度、治癒されるが、それでもまだ息を吹き返さない。
「アカンか。なら!」
ありったけの治癒魔法で応急処置を施す。
コチノヒオウギで治せなかった傷口がふさがり、今度は息を吹き返す。
「心臓は動いてるけど、急がんと本当に死んでまう」
「とにかく、本山へ運びましょう」
明日菜が隼人を支える。
「オーケー。じゃあ私のスケッチブックで」
ハルナは急いで担架を描くと、実体化させた。
「これに乗っけて、急ごう」
彼女たちは隼人を担いで関西呪術協会本部へと向かった。
向かう途中。隼人はうわ言のように何度も呟いた。
「死なねぇ……。死んでたまるか。アイツを殺すまで俺は。俺の戦争は……」
つづく