いよいよ、最終決戦です。
宜しくお願いします。
夕映は自分の足元の影を見つめる。
「!?」
影が揺らめき、そこから手が出てきた。
「よいしょ」
プールから上がるように体を持ち上げて、影からエヴァが出てきた。
「う~ん。凄いでござるな」
続いて楓が出てくる。
「うは! 楽しいアル」
嬉々として笑いながらくーふぇが出てくる。
「はしゃぎ過ぎだ」
たしなめる様に言って真名が出てきた。
「これで全員転送完了です」
最後に茶々丸が転送されてきた。
「待たせたな、綾瀬。ってなに驚いてる?」
「いや、自分の影から人が次々と出てきたら、驚くです」
冷や汗を拭う。
エヴァはそれを笑うと、隼人たちが向かった先を見つめる。
「奴等はあっちに向かったな。どうせ苦戦してるだろうから、急いで行ってやるか」
「く~。燃えてきたアル」
拳を打ち鳴らしてくーふぇは飛び上がる。
「はしゃぎ過ぎて、怪我してもしらんぞ」
真名は持ってきたアタッシュケースに入っている銃を確かめる。
「急がねば。なにやら不穏な空気でござる」
楓は敵の方角を見つめて険しい表情になる。
向かおうとする彼女たちに夕映は言う。
「あの私はどうしたらいいです?」
「お前は、ここに残って待機。その携帯でジジイ、学園長に連絡しろ」
「分ったです」
「では、行くぞ」
隼人たちの向かった先に駆け出した。
★
隼人たちは敵を追いかけてひた走る。
「こっちでいいの?」
並走しながら明日菜が聞く。
「敵の気配が向こうから感じる。間違いなくこの先だ」
敵がいるのは森を抜けた先。
夜の森林を月明かりだけを頼りに走っていく。
「先生、見えました」
大きな岩が転がる、浅瀬の沢に敵はいた。
「見つけたぞ! 天ヶ崎千草!!」
叫んだ向こう側には千草が木乃香を抱えていた。
木乃香はさるぐつわを嵌められて、体を縛られていた。
「けっ。もう追いついてきたんか。しつこい男は嫌われるで」
「アホが。貴様のようなババァに興味はない」
隼人は凶暴な笑みを浮かべて言い放つ。
「な、ウチはまだ二十六や! ババァやあらへん!!」
顔を朱に染めて怒る。
興味がないように鼻で笑った。
「ふん。二十六は立派なババァだ」
すると隣にいた明日菜と刹那が嫌そうな顔をした。
「やっぱり、ロリコンだ」
「先生、今それ言う時じゃありません」
隼人はそれを無視すると、刀を引き抜く。
「友人の大切な娘を、俺の大切な生徒を、返してもらうぞ!」
「あんた等の相手してるヒマあらへんねんけどなぁ。けどまぁ、お嬢様の力で足止めさせてもらおか」
千草は木乃香に札を貼り付けると、呪を唱える。
「来たれ、来たれ、鬼さんこちら。手のなる方へ!」
パンと手を打ち鳴らすと、周囲に魔力が満ち、転送陣が現われる。
「来るぞ! 気をつけろ!」
隼人は警戒を促す。
辺りが光り輝くと、一瞬で百数十体の鬼や妖怪が現われた。
「ちょ、これはさすがにヤバくない?」
明日菜は囲まれた状況に顔を青ざめる。
「アニキ! 風を起こしてくれ。作戦を立てる」
刹那の胸元からひょっこり顔をだしたカモ。
「分った。風の章【竜巻昇天】」
風を纏った刀を天に突きたてると、隼人たちの周囲を竜巻が囲んだ。
「どうやら、閉じこもったようやな」
この隙に、千草は木乃香を抱えて目的の場所、スクナの眠る祭壇に向かった。
★
「この障壁は長くは持たんぞ」
「よしっ。手短に作戦を立てるぜ」
カモが必死に思案する。
「二手に分かれましょう」
刹那が提案した。
「私が一人、ここに残って魔物を相手にします。その間に先生と明日菜さんはお嬢様を奪還してください」
「無茶言わないでよ。あれだけの数相手に一人でなんて!」
明日菜が否定した。
「ですが、もうこの手しかありません。私は大丈夫です。元々魔物退治が私の専門なんで」
もちろん、彼女一人で相手に出来る数ではない。だが大切な木乃香を助けるための悲壮な決意だった。
「隼人! 何とか言って」
明日菜は隼人に話を振る。
無言で考え込んでいた隼人は口を開く。
「刹那の言うとおり、二手に分かれよう。ただし、刹那と明日菜がここに残れ」
「私も?」
「そうだ。もう気づいてるかもしれんが、お前のアーティファクトは魔法を無効化し、なおかつ召喚された魔物を一発で送り返すことができる。この状況なら無敵アイテムだ」
「このハリセンが……」
彼女は自分の手にあるハリセンを見つめた。
「それに安心しろ。今さっき感知した。エヴァたちが援軍としてくる。しかも楓たちも来てるみたいだ」
「本当ですか!?」
刹那が驚く。
「逆転の一手はすでに打たれている。あとは、どれだけ持ちこたえられるかだ。出来るな?」
隼人は明日菜と刹那の顔を見る。
「もちろんよ」
「この命に代えても」
二人は頷いた。
「よし、ならば後は俺が木乃香を奪還して、ケリをつける」
「それなら、手札を増やすために仮契約、一発いっとくか」
カモがニヤッと笑った。
「いや、それは流石にちょっと」
隼人は急に渋る。
刹那は顔を真っ赤にした。
「なぁに照れてるんだよ! 一発ぶちゅ~っとするだけだろ。ほれやっちまえ」
いつの間にか仮契約の魔方陣が出来ている。
カモの勢いに負けて互いに向き直る。
「えと、それじゃ」
耳まで赤く染めて刹那がおずおずと言う。
珍しく隼人は冷や汗をかきながら見つめる。
「いくぞ」
「はい」
互いに唇が近づき、合わさる。
「パクティオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
カモが思い切り叫ぶ。魔方陣が光り輝き、カードが出てくる。
カードには純白の翼を生やした刹那が匕首を持っている絵だった。
「【
隼人はコピーカードを刹那に渡す。
刹那は受け取ると頷く。
「竜巻が解けるよ」
明日菜はハリセンを構える。
隼人は手のひらをかざして、呪文を唱える。
「ラス・テル マ・スキル マギステル。来たれ火の精、熱の精。劫火を纏いて猛れ! 灼熱の風」
竜巻が解けた瞬間、放った。
「【焦熱の嵐】!!」
猛る熱風の嵐が敵陣を貫く。
道が出来ると、隼人は弾丸のように駆け出した。
「さて、やりましょう。明日菜さん」
「オーケー。刹那さん」
不敵な笑みを浮かべて、群がる鬼どもに立ち向かっていった。
★
隼人は夜の森を風のように走る。
木々を縫うように走り抜ける。
川原を飛び越え、岩を飛ぶ。
「アニキ、奴等の居場所は分るのか」
肩にしがみついたカモが聞いてきた。
「ああ、連中の狙いがスクナの復活なら、森の奥の『両面湖』にいるはずだ。そこの祭壇で儀式を行わなければ復活しない」
「てことは、その儀式を阻止できればスクナは復活しないんだな」
「そうだ。復活したら京都の町は阿鼻叫喚の地獄になる。ここからは時間との勝負だ」
復活を阻止するために、儀式を妨害する。それが隼人たちの唯一の勝利だった。
木乃香を奪還するためにも、隼人は一層スピードを上げて向かう。
が、ふいに横から数匹の黒い犬が飛び出してきた。
「なっ!?」
黒犬は隼人にぶち当たって、足止めする。
「なんだ、いったい?」
体勢を崩されるも、なんとか踏みとどまった。
見つめた先には、学生服に身を包んだ、少年が一人。
「よぉ。ここから先は通さんで。昼間のリベンジといこか」
犬神小太郎だった。
「悪いがお前の相手をしている暇はないっ」
ムリヤリ押し通るために、刀を振るって、けん制する。
「はっ。暇ないんなら、作れや」
黒犬を召喚して刀の攻撃をいなす。
「くそっ。時間がないってのに」
負ける気はしないが、簡単に通してくれそうになかった。
「ほな。いくで!」
鋭い爪で襲い掛かる小太郎。
迎撃体勢をとる隼人。
しかし、その間を割って巨大な手裏剣が飛来した。
「むっ」
「おっ」
互いに後退。
巨大な手裏剣は地面に突き刺さり煙を上げる。
飛んできた方向を見ると、一本の木の上に、二つの影。
「全く、そんな雑魚に手間取っているようじゃ、助けるものも助けられんぞ」
「大丈夫でござるか?」
エヴァと楓だった。
「エヴァ、楓!」
隼人は強力な援軍に喜んだ。
彼女たちは隼人の傍まで跳んでくる。
「来るのが遅れたが、祭りには間に合ったかな?」
エヴァは牙を見せて笑う。
「ああ、大丈夫。パーティはこれからだ」
「ふむ。なんと面妖な。犬耳の生えた少年でござるか」
楓は小太郎を見て、嘆息する。
隼人は楓を見て頼んだ。
「楓、アイツの相手をしてくれ」
「承知」
短い言葉で承諾。
隼人はエヴァと共に急いで湖に向かった。
「あ、まてぇ」
小太郎は追いかけようとするが、殺気を感知して動きが止まる。
「甲賀忍者、長瀬 楓。参る」
分身の術で十七人に増えた楓が、一斉に飛びかかった。
「上等!!」
小太郎は追いかけるのを諦めて、迎え撃つことにした。
★
「たああああああっ」
「でやああああああああああっ」
刹那と明日菜はそれぞれの武器を振るう。
切り下ろす度に水しぶきが上がり煌く。
気合を発する度に風が渦巻き、髪がなびく。
月夜に照らされて戦う彼女たちは、美しかった。
「ふつくしい……」
総大将の立場の大鬼は思わずつぶやいた。
「ここまで強い娘は初めてだ。素晴らしいぞ。大いに素晴らしいぞ」
次々と、津波のように襲い掛かる魑魅魍魎。
「うりゃああ」
明日菜がハリセンを振り回して、強制送還。
送り損ねた妖怪は、刹那の【匕首・十六串呂】が突き刺さる。
「いけっ」
鋭い命令と共に、十六本の匕首が縦横無尽に飛びまわる。
すでに百数十体いた鬼共も十数体に減っていた。
二人は肩で息をしながら、背中合わせになる。
「大丈夫? 刹那さん」
刹那は擦り傷、打ち身などボロボロの体だ。
「問題ありません。そういう明日菜さんこそ大丈夫ですか?」
明日菜も同じようにボロボロだ。
「だいじょーぶ。なんか知らないけど、体が勝手に動くのよ」
たしかに、本人の言うとおり、歴戦の戦士並みに動いていた。
「本当に凄いです。その才能をこのままにしておくのは勿体ない。良かったら鍛えてみませんか?」
「ええ、やってみようかな。この戦いが終わって、学園に帰ったらね」
「わかりました。なら今は、奴等を片付けましょう」
「おっけー」
再び立ち向かう。
「とりゃあああああ」
明日菜は飛び上がって、ハリセンを打ち下ろした。
だが、急に現われた鉄の金棒に阻まれる。
「え?」
弾かれて後退。
ズンっと重たい音を響かせて、身の丈三メートルほどある大鬼が現われた。
「ふつくしい娘よ。気に入った。手合わせ願おうか」
殺気と闘気が入り混じる。
「ラスボス登場ってところかな?」
明日菜の頬に冷たい汗が流れる。
「明日菜さん!」
刹那は助けに行こうとした。
しかし、全身に怖気が走る。
弾かれたように振り向くとそこにはゴスロリの少女が一人。
「うふふふふふふふふふう。せんぱぁい。私とオドッテクダサアアアアアアアアイ」
狂った人形のように笑いながら、月詠が現われた。
「っく。ヤバイ」
最悪の敵の登場に表情が硬くなる。
明日菜VS大鬼。刹那VS月詠。
「くそっ。かくなる上は。あの力を」
刹那が切り札を使おうとした、そのとき。一筋の銃弾が大鬼の頭を打ち抜いた。
「が!?」
よろめく大鬼。
その隙を逃さず、銃弾の雨が降り注ぐ。
「ぬおおおおお」
こらえきれず、後ろへ引き下がる。
「なにが起こったの?」
明日菜は疑問を口にする。
「今の銃撃はまさか」
飛んできた銃弾の方向を見つめる刹那。
「後ろを向くなんて、危ないですよ~」
隙を見せた刹那に、月詠の刃が襲い掛かる。
とっさに防御しようとしたとき、黄色い影が月詠を殴ってぶっ飛ばした。
「油断大敵アル」
その影は黄色いチャイナ服に身を包んだくーふぇだった。
「くーふぇ!」
明日菜と刹那は驚く。
「この貸しは高くつくぞ。刹那」
物陰から現われたのはスナイパーライフルを抱えた真名だ。
「二人ともなんで?」
明日菜の疑問に真名が答えた。
「私は元々、こっちの世界の住人だ。あの
「ワタシは強い奴と戦えると聞いて来たアル」
くーふぇは半身になって構えた。
「先生の方にはエヴァと楓が行ってる。とりあえずこの化け物共を仕留めるぞ」
真名は冷たく言い放ち、懐からデザートイーグルを二丁取り出す。
そして腕を十字に交差させて言い放つ。
「暗闇から出てきた
嵐のような怒涛の勢いで銃を乱射する。
「く~~~。燃えてきたアル」
くーふぇは敵陣に突っ込んで次々と鬼をブチ飛ばす。
二人の凄まじさに唖然とする二人。
「龍宮さんて神社の娘じゃなかったっけ? 今、アーメンって言わなかった?」
明日菜はツッコミどころがありすぎて、とりあえず思いついたところにツッコミを入れた。
「いや、それより、くーふぇさんってあんなに強かったんですか?」
刹那は、猛獣のように暴れまわるくーふぇに顔を引きつらせる。
次々と撃たれ、殴られ、あっという間に大鬼と月詠だけになった。
マガジンを入れ替えて真名は言う。
「ふん。ノリだ、ノリ。最近読んだマンガで格好良かったからな」
くーふぇは手を払って一息。
「口ほどにもないアル」
「「あはははは……」」
明日菜と刹那は笑うしかなかった。
つづく