よろしくおねがいします。
7/28追記。時系列を修正するために、ちょっと文章を変えました。すいません……。
ピピピピピピピピ
けたたましく目覚ましが鳴る。
「うーん」
隼人は唸りながら、目覚ましに手を伸ばして消した。
ムクリと起き上がると大きく欠伸をする。
「ふあ~ふぅん、むやむぅ」
首を左右に振って首の骨を鳴らし、ボリボリ頭をかいた。
完全に目を覚まし、ランニングウェアに着替え始めた。
ここは、麻帆良島居住区にある「リリカルマンション」。
隼人は教職員寮に入らず、ここに部屋を借りて住んでいた。
理由としては時間帯を気にせず済むなど色々とある。
準備が完了して、昔からの日課のランニングに出かけた。
「さてと、ひとっ走りするかね」
朝の空気を吸って、気合を入れて走り出す。
暫くすると、ツインテールの人影が見えた。
「よぉ、明日菜おはよう」
声をかける。
「あ、おはようございます。隼人先生」
明日菜も挨拶する。
麻帆良島に来て一週間。
隼人は朝のランニング途中で、新聞配達のバイト中の明日菜と会うのが常になっ
ていた。
「いつも思うけど、いまどき珍しいな。学費稼ぐためにその年でバイトしてるんだ
から」
隼人は感心したように言う。
並走しながら明日菜はテレた。
「いやだって、いつまでも高畑先生を頼れないし」
「えっらい! さすが明日菜だ。というわけでバイトがんばれよ」
いつまでも仕事の邪魔はできない。
隼人は明日菜と別れると、フルスロットルで駆け出した。
★
キーンコーンカーコーン
朝のHRのチャイムが鳴る。
隼人は2―Aの扉を開けた。
「うぃーす。おはよう」
教室に入ると同時に、タライが落ちてくる。
何事もなかったかのように身体を捻り、タライを避けた。
タライが床と激突して空しい音をたてる。
「ちっ、失敗しちゃったです」
双子の片割れの舌打ちが聞こえた。
隼人は勝ち誇ったように笑う。
「そう何度も同じ手はくわないさ。ま、次に期待だな」
教卓まで来る。
急にタライが落ちてきた。
「ノボ――――――!?」
カーンと涼しい音がしてクリーンヒット。
「イヤッタ――――――。引っかかったぁ」
歓声が上がる。
頭を押さえつつ、クラスメイト達を睨む。
「お~ま~え~ら~。手の込んだイタズラしやがって」
腹が立つから説教の一つでもくれてやろうかと口を開くが、違和感。
「おまえらどうした? なんかあったか?」
いつもより覇気がない。どことなく歓声も少ない。
代表で「いいんちょ」こと雪広 あやかが答えた。
「隼人先生。実は皆さんの下着が盗まれたんです」
「下着が盗まれただぁ?」
素っ頓狂な声を上げる。
詳細はこうだった。
朝起きると、あやかは下着が足りないことに気がついた。
不思議に思って、同じ部屋に住む、夏美にも聞いてみる。
夏美も足りなかった。
千鶴にも聞いてみる。
やっぱり足りなかった。
首をかしげていると、他の部屋も同じように下着が盗まれていた。
確認すると、なんと麻帆良学園中等部女子寮に住んでいる全員の下着が盗まれて
いた。
「……ということなんです」
話し終えた、あやかはため息をつく。
話を聞いた隼人は腕組みをして唸った。
「うーん。寮にいる全員の下着が盗まれるとは奇怪な」
「そうでしょ、先生」
和美が同意を求める。
隼人は独り言をつぶやく。
「大人の女性ならまだしも、中学生の下着なんか盗んで何がしたいんだ?」
セクハラ発言に頬膨らますまき絵。
「あ~センセ酷い。私達だってぼんきゅぼーんだよ!」
「やかましい。鏡見ろ。鏡」
「ヒドっ」
がっくりうなだれる。
「まぁ冗談はさておき、寮の管理人には言ったのか?」
あやかが頷く。
「はい。もちろんですわ。あと不思議なことに防犯装置は正常なのに、作動しなか
ったし、防犯ビデオにも映ってないんです」
眉をしかめて考え込む。
「むぅ。姿なき下着ドロか。あ~この件は保留。とりあえず出席とるぞ」
納得いかないものの、2―Aは隼人に従った。
★
放課後。
隼人は木乃香と一緒に麻帆良学園中等部女子寮に来ていた。
「ここが男子禁制の女の園か」
感慨深げにつぶやく。
「隼人、それオヤジ発言や」
苦笑しながら、扉をくぐる。
階段を上り、五階にある木乃香たちの部屋へ。
「さてと、下着のある引き出しは?」
木乃香は指を指す。
隼人は遠慮なく引き出しを開けて中を確認した。
「ふむ。どれどれ」
泥棒のように、漁って犯人の手がかりを捜す。
「おお! これは!」
何か見つけた。
「なんか見つかったん?」
取り出したのはかわいらしいクマのパンツ。
「くまパンだ。珍しい」
「……隼人、それはアウトや」
木乃香はもの凄く冷たい目で見つめた。
隼人は無言でタンスに戻して、再び物色。
「ん? これは」
また何かを見つける。
と、急に背後から物音がした。
振り向くと、明日菜が愕然としたように突っ立っていた。
「な、なにやってんの?」
「パンツを探している!!」
堂々と言ってのける変態教師。
次の瞬間、強烈なストレートパンチが顔に命中した。
「げぶん」
奇声を上げて転がる。
「この変態教師!! あんたが犯人だったのね!」
明日菜は仁王立ちして叫ぶ。
殴られた顔を抑えて弁明しようとする。
「ま、まて、今のは冗談で俺は下着ドロの手がかりを」
「問答無用ぉぉぉぉぉぉぉぉ」
見事な蹴りが隼人に命中した。
「あばおれぼぷろ――――――!?!?!?」
そのままぶっ飛ばされて、玄関から外の通路へ弾き出された。
「な、なんで物理障壁を貫通できるんだ?」
通路に弾き出された隼人は疑問を口にする。
しかし、その疑問の思考をする前に、殺気を感知。
前を見ると、明日菜が凄まじい怒気で睨んでいた。
「サッッツイテーね。いっぺん死んだほうがいいんじゃない?」
当てられる殺気に冷や汗をかきながら必死に弁解する。
「いや、だからマジで手がかりを探してたんだって」
「嘘でしょ」
「ほんまやで、明日菜」
明日菜の横からひょっこり顔を出して、木乃香が助け舟を出した。
「え、ホント?」
「うん、ホント。うちと一緒に下着ドロの手がかり探しててん」
蹴られた箇所をさすりながら立ち上がる。
「だから言っただろう。俺は無実だ」
慌てて、謝る明日菜。
「あ、そうだったの。ゴメン」
隼人も頬をぽりぽりと掻きながら謝る。
「ああ、まぁ俺の冗談がシャレになってなかったってのはあるな。すまん」
とりあえず、誤解は解けた。
「それで、何か分ったの?」
明日菜が聞いてくる。
「大体の目星は付けた」
「ええホント!?」
明日菜は驚く。
「本当だ。とにかく、木乃香ちょっと一緒に来い」
言うが早いか、さっさと歩いていく。
「あっ、ちょっと待ってぇな」
慌てて後を追った。
「私も行く」
明日菜も追いかけようとする。
だが、隼人に止められた。
「お前は来んな」
「え、なんでよ?」
「付いてこられると困るからだよ」
そいうと地面を蹴って走って行った。
「ゴメンな明日菜」
軽く謝ると木乃香も走っていった。
後に残された明日菜はニヤッと笑う。
「いいわよ。無理にでも付いていくから」
と言って、後を追いかけた。
★
隼人と木乃香は寮を後にして、道に出た。
「それで、犯人は誰やの?」
立ち止まって木乃香が聞く。
隼人も立ち止まって答えた。
「盗られなかった下着に残っていた気配から読み取ったんだが」
そこで一拍置く。
「小動物か何かの妖精だと思う」
「妖精?」
頷く隼人。
「信じられん話だが、現場に残った証拠からそうしか考えられない。とにかく、俺はこの気配を地上から追跡する。お前は空から俺の後についてきて、上から探してくれ」
「了解」
承諾した木乃香は、何もない空中に手をかざす。
「箒よ」
鋭く叫ぶと、何もない空間から箒が出現。
箒にまたがると地面を蹴って飛翔した。
隼人はそれを確認すると、探査魔法を使って気配を探り、目標を感知。
「あっちだ」
見定めると走っていった。
ちなみに、追いかけてきた明日菜は一歩出遅れて、隼人たちをまた追いかける羽目になった。
「もう! どこに行ったのよ」
★
居住区の外れにある、小さな公園。その林の奥。
一匹のオコジョがいた。
「ぐへへへへ。大漁♪ 大漁♪」
オコジョの目の前には大量の下着があった。
タバコに火をつけながら、戦利品を眺める。
「まさか、こんなに大量の下着をゲットできるとは、ラッキーだった」
昨日の夜、このオコジョは女子寮に侵入して、下着を盗んだ。
つまり、コイツが犯人だった。
タバコの煙を吐き出しながら、次の計画練る。
「次はどこに忍び込もうかな?」
「次は無いと思うぞ」
急に声をかけられた。
慌てて振り向くと、そこには隼人がいた。
「げ、しまった!」
見つかったため急いで逃げようとするが、体が動かない。
「逃げるなよ、犯人」
隼人から凄まじい焼け付くような殺気が放たれて、オコジョの体を引き止めていた。
オコジョは観念して、隼人に向き直る。
「えっと、どこのどちら様でせう?」
裏声になりながら聞いてきた。
隼人はしゃがみこみ、オコジョに語りかけた。
「煉城 隼人だ。よろしく」
「煉城 隼人?」
オコジョは体を捻り疑問を口にする。
獰猛な笑みを浮かべて隼人は言う。
「『
ビクッと震える。
「あの『大戦の赤い悪魔』? 赤みのかかった髪、鬼のような鋭い目、紅の鞘の日本刀……」
一つ一つ確認していくなかで段々と声が小さくなる。
ポトっとタバコを落とした。
顔面が蒼白になる。
隼人はタバコを拾い上げて火を消した。
「この公園は禁煙だ♪」
にっこり笑う。けれど目が笑ってない。
「ひぃいいいいいいいい。お助けをぉおおおおおおおおおお」
ガクガクと震えて涙を流し、オコジョはもがいた。
「まぁ、そう慌てるなよ」
手を伸ばして、オコジョを掴むと連行していった。
★
明日菜はいまだ彼らを探していた。
近くで声がする。
声のするほうへ行ってみる。
小さな公園があった。
明日菜はその公園を覗いた。
★
「ぎゃああああああああ、殺されるぅううう」
手の中でウナギのようにうねりもがくオコジョ。
隼人はオコジョを握りながら林から出てくる。
「お~い。木乃香」
上空にいた木乃香に呼びかける。
呼びかけに応じて木乃香は降りてきた。
「捕まえたん?」
笑みをこぼしながら、オコジョを見せた。
「コイツが犯人だ」
「はぇ~、このオコジョ君が犯人か~」
じっと見た。
「ひぃいいいいいい。お助け~」
ガクブルと震えている。
「なんや、めちゃくちゃ怯えとるで」
「ちょっと脅したら、こうなった」
そういうと、オコジョに話しかける。
「おい、オコジョ。お前、名前はなんていう?」
「ア、アルベール・カモミールっす」
「カモか。さて、こいつをどうしてくれよう」
邪悪な笑みを浮かべて、隼人は思案する。
木乃香はカモに質問してみた。
「なぁ、なんで下着なんか盗んだん?」
「それは、妹のためっす」
「「妹のため?」」
隼人と木乃香はハモる。
「そうっす、故郷に残してきた妹がいるんす」
カモは語り始めた。
「俺っちの故郷は、イギリスはウェールズ。ウェールズの冬は寒い。生まれつき病
弱な妹のため、保湿効果に優れた女性の下着を拝借してたら、何故か逮捕されて投獄。妹を心配させまいと俺っちは脱獄を決意した。そして日本行きの貨物船に揺られて、ここにいるってわけでさぁ。それで、下着を盗んで妹に送ろうと昨日忍び込んだっす」
長々と語り終えた。
思いっきり胡散臭い話だった。
しかし、木乃香は涙を流して共感していた。
「うううう。大変やったんやねぇ」
「姉さん分ってくれるかい」
二人で泣いていた。
木乃香は隼人に向き直ると上目遣いで頼む。
「隼人、カモ君を許してあげようや。妹さんのためだったわけやし」
あまりにも可愛い頼み方。美少女が上目遣いに頼んできて、断る男はいない。
「だが、断る!!」
けれど隼人は鬼だった。
「そんなぁ」
「たとえ妹のためでも、下着を盗めば罪だ。罪は償わねばならん。反省して罪を償う気はあるのか?」
全てを射抜くような視線でカモを見つめる。
「あるっす。あるっす」
必死の表情。
隼人は裁きを下す。
「だったら、俺の使い魔になって罪を償え。故郷の妹のためにも、俺のサポートをして反省するんだな」
ニッと笑って許す。
その笑みにカモは漢を見た。
「アニキと呼ばせてください!!」
「好きにしろ」
「アニキぃいい」
「良かったわ~」
一件落着。の訳なかった。
人の気配がする。
二人と一匹は振り向く。
明日菜がいた。
「木乃香が空から降りてきて、オコジョが喋ってる……」
「「「あ」」」
バレた。
★
再び寮。木乃香たちの部屋。
テーブルを囲んで隼人たちは座っている
「で、どういうこと?」
明日菜が口を開いた。
木乃香は隼人を見る。
少し思案してから隼人は言った。
「まぁ木乃香と同室なわけだし、いつかはバレるか」
「今から話すことは、全て真実だ。あと、他言無用で頼む」
そう前置きして説明しだした。
「お前が見た事は全部本当にあることだ。錯覚ではない」
「じゃあ、なんなのよ」
「魔法だ」
「魔法!?」
「そうだ。この世界には魔法がある。それは恋の魔法から破壊魔法まで様々だ。そして、木乃香は魔法使いだ」
明日菜は木乃香を見た。
少し不安そうな顔している。
「この学園は魔法使いが大勢暮らしてる島でな。木乃香は魔法使いの家系なんだ。
さっきの箒で空を飛んだのも魔法が使えるからだ」
木乃香が割ってはいる。
「ゴメンな、明日菜。別に隠すつもりはあらへんかってん」
「木乃香を責めないでやってくれ。魔法使いであることは、隠さなきゃいけない掟がある」
「いや、別に責めるわけじゃないけど。信じられないなぁ」
「証拠を見せようか?」
隼人は、指を鳴らすと、テーブルに乗っていた紅茶のカップが浮かび上がってクルクルと円を描いて飛んだ。
「わ、すごい!」
更に指を振る。
カップの中にある紅茶が噴出し、空中で紅茶の塊として止まった。
「おお、きれい」
紅茶をカップに戻して、テーブルに降ろす。
「まぁこんなもんだ」
パチパチと拍手。
「すごい! 木乃香もできるの?」
「うちはまだ、見習いやからコレぐらいしか」
といって、携帯用杖を出す。
「プラクテ・ビギナル 火よ!」
杖をくるんと回転させて、日を灯す。
「おおおお。すごい」
拍手。
「まぁ、木乃香は半年前、始めたばかりだからな。上出来だよ」
「えへへへ」
明日菜はカモをさして質問した。
「で、このオコジョはなんなの?」
「ああ、下着盗難事件の犯人だ」
隼人はさらりと言った。
「えええ!? 犯人!?」
明日菜は驚く。
「明日菜の姐さんヨロシク。俺っちはアルベール・カモミール。カモって呼んでください。人呼んで『パンツ神』。三十歳のオコジョ妖精っす」
手を上げて挨拶。
「反省はしてるし、盗んだ下着はすべて元に戻したし、問題なかろう」
頭を掻いてカモは謝った。
「ちょっとした出来心でして。すみませんでした」
「まぁ戻ってきたならいいけど。次ぎやったら殺す(とる)わよ」
「はい、了解しました!」
目が据わっていたので慌てて敬礼して了承した。
そして感慨深げに言った。
「いや、それにしてもまさか、紅蓮鬼に会えるとは思ってもいなかったっす」
隼人は少し嫌そうな顔をする。
「そんなに珍しいか?」
「そりゃそうっすよ、アニキ」
明日菜と木乃香は首をかしげる。
「ねぇ、紅蓮鬼ってなによ」
カモが説明した。
「一般人の姐さんたちは知らないかもしれないっすね。アニキは、十四年前の『大戦』で活躍した英雄なんす」
明日菜は怪訝そうな顔をする。
「え、十四年前? だって隼人は十六でしょ? 計算が合わないんじゃ」
「ああ、俺、実年齢は三十四歳だ。十六歳は表の年齢だ」
驚愕の発言。
「さんじゅうよん!?!?!?!?」
明日菜は叫んだ。
「そういや、そうやね」
木乃香は思い出した。
明日菜は聞く。
「なんで、三十四歳なのに、年とってないのよ」
「ちょっとした理由があって、十八年前から成長を止めている。つまり『不老』だ」
木乃香は隼人を見た。
「うちが小学校四年生になるまで一緒に住んでたんやよ」
隼人は肯定するように頷く。
「だから木乃香は赤ん坊のときからの知り合いでな。おしめも取り替えてやったんだぞ」
わはははと笑いあう二人。
明日菜は更に聞く。
「じゃあ隼人も魔法使いなの?」
「いや、正確には『気道使い』だ。魔法も使えるけど専門は呪術や気術だ」
明日菜は自分の目の前にいる男がよく分らなくなってきた。
「ま、とにかくそういうことだ。誰にも言うなよ」
隼人はにっこり笑ってそう言った。
午後のお茶会は平和に過ぎていく。
★
明日菜に魔法がばれた。
この日を境に魔法に関わる事件が起こり始める。
けれど、その前に隼人たちに難関が迫り来る。
それは学年末テストであった。
【つづく】