いよいよ終わりが見えてきました。
宜しくお願いします。
隼人とエヴァ、茶々丸は暗闇を抜け、スクナが封印されている祭壇「両面湖」に出た。
祭壇は、湖の上に長い廊下が十字に通っていて、中心に大きな舞台があった。
「見えた。一気に叩くぞ」
隼人は抜刀して、水面を彗星のように駆け抜ける。
「茶々丸は上空で待機しておけ。いつでもぶっ放せるようにな」
黒衣のマントを羽織ったエヴァがパートナーに指示を出す。
「了解です。マスター」
祭壇で儀式を見ていたフェイトが隼人たちに気がついた。
「いけ、ルビカンテ」
肩に乗っていた悪魔が一声鳴く。
木乃香をさらった時のように大きな姿となって、向かってくる隼人たちに突っ込んだ。
「邪魔だぁぁぁぁああああああああ」
激突する瞬間、隼人の刀が火炎を発し両断。
一瞬でルビカンテを焼き斬る。
そのまま勢いを殺さず、祭壇まで一直線に駆けていく。
湖面を蹴り上げて水の瀑布でかく乱。
「なんや!?」
儀式に集中していた千草が驚いた。
「敵襲だよ」
すぐさまフェイトが迎撃体制をとる。
水しぶきが霧状態になって周りが見えない。
その霧にまぎれてエヴァがフェイトの前に現われた。
「おやすみ。坊や」
手に収束させた魔力を開放。
「【冷血の処刑剣】!」
腕から伸びた氷の刃がフェイトの体を叩き斬る。
体が真っ二つに割れるが、一瞬で水に変わる。
「む、幻影か!?」
一方隼人は、祭壇で慌てふためく千草に一撃。
「だらぁあああああああああ」
灼熱の刃で千草を両断。
その衝撃で霧が晴れる。
「あっぶないなぁ。もうちょっとで死ぬところやったで」
千草は木乃香を抱え、紙一重で避けて空中に逃げていた。
「くそっ。失敗か」
エヴァが隼人のとなりに跳んで並ぶ。
「奇襲が失敗した以上、正面からいくぞ」
エヴァが臨戦態勢をとった。
「ああ、俺とお前なら無敵だ」
刀が唸りをあげて炎が噴出する。
千草は向かってきそうな二人に、勝ち誇ったように笑った。
「残念やけど、一足遅かったな」
彼女が湖畔を見つめると、地面が揺れた。
「な!?」
地鳴りとともに湖が光り輝く。
「まさか、儀式が完成したのか!」
隼人は焦った。
「ピンポーン。大正解。さぁ来るで、二面、四つ手の大鬼が」
木乃香を空中に吊り下げると、千草は両腕を広げる。
「召喚! 古の大鬼神・
湖面が一際眩く発光。
一瞬の静寂の後、轟音と共に鬼神が顕現した。
【罵雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄】
大地を揺るがす咆哮。天を突く巨体。巨木の如き四つの腕。見るもの全てに畏怖を与えるような眼光。
遂に悠久の時を超えてスクナは蘇った。
「おいおい。でか過ぎるだろ。四十メートルはあるぞ」
隼人はその姿をみて苦笑い。
「くははははあはははははああああははは。これで、夢が叶う。この鬼神で関西を、そして関東を、全てを焼き払ってやる」
心底楽しそうに千草は笑う。
隼人の背後からフェイトの声がした。
「さて、逆転だね」
鬼神、フェイト、千草三つを同時に攻略しなければ勝ち目はなかった。
隼人とエヴァは背中合わせになって、敵と対峙する。
「おい、隼人。あの鬼神を倒せるか?」
「昔の俺なら倒せたけど、今はギリギリ無理だ。そういうエヴァは?」
「ふん。私を舐めるなよ。楽勝だ」
「オーケー。なら千草は刹那に任せよう」
互いに不敵に笑う。
「俺がフェイトを相手する。鬼神は頼んだぞ。不死の吸血鬼」
「ふん。私の切り札を見て腰抜かすなよ。紅蓮鬼」
勝利への算段は整った。あとは勝つだけ。
二人は敵に向かっていった。
★
「ななななな、なにあれ!?」
明日菜はスクナを見て驚く。
「あれが、スクナですぅ」
二刀流のゴスロリ少女、月詠は説明した。
「どうやら、あの二人は間に合わなかったようですねぇ」
月詠と対戦していた刹那はスクナを見つめた。
「あれが、スクナ……」
スクナの威圧が大気を振るわす。
「流石の私でもアレは無理だな」
「あいやー。凄いアル」
真名とくーふぇはあまりの大きさに呆れていた。
刹那は視線を全体へと移す。
既に召喚された鬼はのこり一体。明日菜が相手をしている身の丈三メートルの大鬼ただ一人。
タイマンを張って、互角に戦っていた。
そして最大の障害は月詠だった。
刹那、くーふぇ、真名の達人三人を相手に全くの無傷。
斬りつけても、殴られても、撃たれても、その瞬間にダメージが回復していく。
しかも、まだ本気を出していなかった。
「うふふふ。本当に楽しいですねぇ」
ゆらゆらと体を揺らして、楽しそうに刃を舐める。
三人は攻めあぐねていると、念話が入った。
『おい。聞こえるか! お前たち』
「先生!」
戦闘中の急な連絡。返信しようか迷う。
「どうぞ。私は待ちますよ~」
月詠が促した。
刹那は警戒しつつ返信する。
「先生! そちらの状況は?」
『かなりヤバイ。鬼神はエヴァが、フェイトは俺が相手してるが、千草の相手がいない』
「そちらに駆けつけたいんですが、月詠が化け物級の使い手で行けそうにありません」
『大丈夫だ。仮契約カードの力を使って、お前をこっちに召喚する』
「しかし、それでは、月詠の相手が」
「それは拙者に任せるでござる」
凛とした声が割り込んできた。
草陰から気絶した小太郎を掴んで、楓が現われた。
「楓、参上」
ボロボロの雑巾のようになった小太郎を傍に捨てて、月詠に殺気を向けた。
「うふふ。貴方も美味しそうですねぇ」
警戒に値する相手の登場に、月詠は構える。
『頼むぞ楓。刹那、仮契約カードをかざせ』
隼人の指示通り、カードをかざす。
足元に召喚魔方陣が現われて、姿が掻き消えた。
「さて、一手ご教授願うでござる」
クナイを両手に握って構える。
「楓。気をつけろ。コイツ私たち三人でも倒せなかった」
真名が弾を入れ替えて月詠に標準をあわせた。
「く~。燃えてきたアル」
くーふぇはさらに気を廻らせて力を倍化させる。
「ふむ。三人がダメなら、これはどうでござるか?」
楓が印を結ぶ。
「忍法【影分身の術】」
彼女が十七人に増えた。
「さぁ、行くでござる」
十七人の楓が一斉に月詠に襲い掛かった。
★
隼人は念話をしながら飛び掛る。
「俺の生徒たちを石化させた罪。その体で償ってもらうぞ」
刀を斜めに切り下ろす。
「おっと、激しい攻撃だ」
フェイトは後方へ退却。
その隙にカードの効果を発動させた。
「頼むぞ楓。刹那、仮契約カードをかざせ」
念話を打ち切り、カードをかざす。
「召喚! 隼人の従者・桜咲刹那」
隼人の隣に魔方陣が展開、刹那が召喚された。
「刹那、推参」
フェイトを前にして、愛刀の夕凪を構える。
「コイツの相手は俺がする。お前は木乃香を助けに行け」
「はい。それでは」
軽く一礼すると、反転して千草のもとへ駆けていった。
「さぁて、ぶっ飛ばすか」
凶暴な笑みを浮かべて刃を向ける。
向けられた刃を一瞥しながらフェイトは戦闘態勢にはいる。
「じゃあ。始めようか」
二人は同時に飛び出した。
★
刹那は夜空を見上げる。
千草が高笑いしながらスクナを制御している。
「天ヶ崎千草ぁっ!」
ありったけの声で叫ぶ。
「あははは……っん?」
千草はその声に気がついた。
「おや、誰や思たら、お嬢様ラブの桜咲刹那やないか」
冷たい目で刹那を射抜く。
それに負けじと怒りの気を相手にぶつけた。
「お嬢様を返してらうぞ」
「ふん。空も飛べないお前に何が出来る言うんや。そこで指をくわえてみとれ」
悪魔の顔で言った。
刹那はそれを不敵な笑みで撥ねつける。
「それはどうかな?」
「は?」
腕を交差させて気合を発する。
「はぁあああああああああああっつ!」
背中が盛り上がり、服の背部がはじけ飛ぶ。
「な、アホな」
千草は絶句した。
刹那の背中から月光に照らされて、純白に輝く翼が生えた。
それは天使のように美しく、また凄然とした雰囲気だった。
上空にいる千草を睨む。
「神鳴流・桜咲刹那。推して参る!!」
地面を蹴って飛翔。
一直線に相手へと向かっていった。
「だあああああああああああああああああ」
両手で握った野太刀を思い切り、斬り上げる。
「うお。危な」
横っ飛びで緊急回避。
「逃がすかっ」
追撃で切り下ろし。
「阿呆が。お嬢様が目に入らんのか」
刹那の前に木乃香を突き出す。
「そんな人質など、私には効かん! 行けっ【匕首・十六串呂】!!」
刀を緊急停止させて、アーティファクトで攻撃。
自在に動く十六の刃が、木乃香を避けて千草を急襲した。
「な、なんやて!?」
縦横無尽に襲い掛かる刃が千草の体を切り刻む。
「ぎゃああああ」
木乃香の拘束が緩んだ。
「お嬢様!」
すかさず、突っ込んで木乃香を奪還。
「むぅ。おのれ! 返せ、化け物があああ」
懐から雷撃符と爆炎符を取り出して投げつける。
雷撃と爆発が荒れ狂った。
もうもうと煙が立ち込める。
「ふん。やったか」
千草は勝ち誇った。
しかし、煙が晴れると無傷の刹那と、箒に跨った木乃香がいた。
「バカな!?」
木乃香が結界を張り、刹那を守ったのだ。
「せっちゃん大丈夫?」
「お嬢様、ありがとうございます」
「なんでや、気絶しとったんちゃうんか? それにスクナの復活で魔力はもう残ってないはずや」
千草は信じられないものを見るように、驚愕の色を顔に浮かべる。
それを鼻で笑うと木乃香は告げた。
「何言ってんの。たとえ気絶してようと、友達のピンチは必ず助ける。魔力が残ってないなら気合で搾り出すまでや」
「こっの、小娘があああああああああああああああああああああ」
逆上してありったけの呪符を投げつける。
爆裂と雷撃と氷結と烈風が一度に襲い来た。
「せっちゃん。任せて」
両手を突き出して気合をこめる。
「猛る力から我らを守れ。禁っ!」
二人の前に分厚い透明な壁が出現して全ての攻撃を防ぐ。
「そ、そんなバカな!!」
「鳥居での戦いのとき言ったはずや。あんたを倒すことは出来へんけど、あんたの攻撃を防ぐことは出来る。ってな」
「くっ」
明らかに怯む。
その隙を逃す刹那ではなかった。
「終わりだ。天ヶ崎千草! その腐りきった浅ましい妄執とともに散れ!」
一瞬で必殺の間合いに詰め寄る。
「神鳴流奥義! 【百裂桜花斬】!!!」
桜の吹雪が千草を切り裂いていく。
「ぐがああああああああああああああああああああ」
悲鳴を上げて落ちていった。
「勝った」
「やったね、せっちゃん」
木乃香はにっこり笑ってVサイン。
「ええ。お嬢様」
頷く刹那。
その態度が気に入らなかったのか、ぶすっと頬を膨らます。
「ああ、せっちゃん。このちゃんって呼んで。ノリが悪いで」
「ああと、えと、その、このちゃん……」
照れながらVサインしてそう言った。
「うん。オーケー。オーケー。ってそれよりせっちゃんの翼、天使みたいやな」
モフモフと触る。
「ちょ、このちゃん、くすぐったい」
「あははゴメンゴメン」
二人は笑いあった。
両面湖上空戦、勝者・桜咲刹那。
残る敵は鬼神スクナとフェイト。
★
エヴァは空へと上がり、スクナと対峙する。
「ふん。古の鬼神だかなんだかしらんが、速攻で終わらせてやる」
スクナは未だ動かない。
「直立不動で動かないなら、それでいい。そのまま死ね」
エヴァの体を怪しげな光が包む。
「第一拘束・学園結界はここにはない」
さらに禍々しい邪気がエヴァから発せられる。
「第二拘束・登校地獄の呪いは隼人のおかげで解除された」
邪悪な気がスクナに当たる。
その気を感知して、スクナは初めて自分の前に現われた者が、特大の危険だと理解した。
【罵雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄】
巨大な腕でエヴァを叩き落とそうとする。
「おっと。危ない」
ヒラリと風のように回避。
しかし、回避したとたん、スクナの口から極太の妖魔砲が発射。
「うお。やばっ」
回避しきれず、光に飲み込まれた。
エヴァを飲み込んだ光はレーザーのように直進して、遙か彼方にある山を中腹から消し飛ばした。
「マスター大丈夫ですか?」
後方で待機していた茶々丸がエヴァの安否を確認。
「不死身じゃなかったら今ので死んでたな」
冷や汗を拭いながら、エヴァは瞬間再生した。
「京都の景観がこれ以上、壊されないようにやはり殺しておくべきだな」
エヴァは強大な力を持ったスクナを睨む。
「茶々丸。結界弾を撃て」
「イエス。マイマスター」
茶々丸の隣に魔方陣が出現。
その中からスナイパーライフルを取り出す。
「照準セット。目標・巨大鬼神」
自分に向けられた銃口に気づき、スクナは妖魔砲の第二射を放とうとした。
だが、それは叶わなかった。
「結界弾。発射」
スナイパーライフルから結界弾が射出。
スクナに着弾すると、結界が発動する。
スクナとエヴァの二人をドーム状の結界が包んだ。
【雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄】
縛り付けられて苦悶の雄叫びを上げた。
「バカが。この結界は魔法界の正規軍が拠点攻略用に開発した、特注の結界弾。そう易々と破れるものではない」
事実、スクナの動きが完全に封じられていた。
「マスター。それでも、おそらく三分しか持ちません。お早めに」
「ふん。分っておるわ」
エヴァの体を取り巻く邪気が肥大していく。
「第三拘束・太陽光も最早ない」
夜の帳が下りて月が煌々と輝いている。
エヴァは深呼吸。
「いい夜だ。最終拘束・月の有無も問題ない。今夜も綺麗な月が出ている」
全身が歓喜し、心が躍った。
「私を縛る物は何もない。私は自由だ」
縛られて悶えているスクナに目をやる。
「古の鬼神・リョウメンスクナノカミよ。お前に【夜が来る】」
死の宣告と共に、エヴァの体が崩れる。
そして、それはやって来た。
崩れた体から莫大な量の黒い影が噴出した。
それは、大きな津波となって、スクナを覆う。
【アアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ】
影は結界内を支配し、暗闇へ堕とす。暗闇の中から怨嗟の声が謳うように鳴り響き、スクナを歓迎した。
【雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄】
スクナはその声に苦しむように、一層に叫び声をあげて足掻く。
しかし、足掻けば足掻くほど黒い影に飲み込まれる。
暗闇の謳とスクナの悲鳴が重なって阿鼻叫喚の地獄を作り出す。
沈んでいくスクナは必死に這い上がろうとしたが、結界で身動きが取れない。
しかも、影から数千、数万の人の手が伸びてきて、スクナを引きずり込んでいく。
「あれが、マスターの切り札【億千万の夜】……」
茶々丸は初めて見る主の力に恐怖した。
【億千万の夜】は真祖の吸血鬼だけが使える必殺必滅の技。
自身の体を影に変えて、相手を飲み込み吸収する究極魔法である。その黒い影に触れたが最後、影が亡者の如き手に変じて、生きているものを全て引きずり込んでしまう。
【罵雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄】
スクナは遂に影に沈んでしまった。
這い上がろうと最後の力で腕を出すが、やがて力尽き、ゆっくりと沈んでいった。
それと同時に結界の効果が終わり、黒い影が収束していく。
映像が逆再生するように巻き戻り、エヴァの体を形作った。
完全に元に戻ると手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
エヴァはスクナを完全に食べた。
「マスターお疲れ様です」
「いや、ホント疲れたよ。結界なしで放つと、味方まで巻き込むからなぁ。気を使う技だよ」
ポンポンと腹を叩く。
「しかも、あの鬼神、結構高カロリーだった。帰ってからダイエットせんといかん」
「ダイエットより、マスターはたくさん食べて大きくならないと」
「だれが、チビだ!!」
茶々丸の頭を叩いた。
両面湖、スクナ戦。勝者、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
残る敵はあと一人。白髪の少年、フェイト。
つづく