これで戦いは終わりです。
修学旅行編自体は、あと1、2話で終わる予定です。
宜しくお願いします。
鉄がかち合う音が夜空に響く。
「しゃあらああああ」
斬り下しから返す刃で、斬り上がり。足でけん制しつつそのまま刃で突く。
隼人は
刃を振るうたびに刀から炎が飛び、相手を炙った。
「随分と激しい攻撃だ。体がゾクゾクするね」
白髪の少年フェイトは隼人の攻撃を全て捌いていく。
「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ 時を奪う 毒の吐息を」
「西洋魔法か!?」
隼人はすぐさま障壁を張ろうとした。
しかし、彼の経験則が退避を促す。
本能に従い、後退。
その瞬間、フェイトの魔法が発動した。
「【石の息吹】!!」
爆発と共に煙が噴出。
辺りにある物を手当たりしだい石化させた。
「おや、惜しいね。もう少しでカッコイイ石像が出来たのに」
隼人は冷や汗をたらす。
「なんつー威力だ。あれが、生徒たちや本山の人間を石化させた魔法か」
あのまま障壁で防いでいたら、障壁ごと石化させられていた。
あどけない少年の姿をしているが、彼の使う魔法は苛烈だった。
「でも、もうちょっと本気を出してくれないかな? でないとあのお方に報告できない」
「あのお方?」
隼人は怪訝そうな顔をする。
「そうだよ。悠久の時を生きる偉大な悪魔。知っているだろう?」
フェイトの目が妖しく光った。
隼人は直感でそれが誰か分った。
震える声で尋ねる。
「ま、まさか、ヴェルガか!!!」
その答えに満足したのか、にこやかな笑みを浮かべる。
「その通り。かつて君が仕留め損ねた悪魔。オーボス・ヨルゲザド・アインツバルレン・サシフェリ・キャルタ・フォン・ヴェルガ様だ」
そのとき隼人の全身に衝撃が走った。
十五年間ずっと探し続けていた宿敵。己の人生を破壊した最悪の悪魔。
「そうか。アイツの差し金か。くくくくかかかかあははははははははは――っ」
隼人は高笑いする。それは、暗い憎悪の笑い。
「フェイト。奴は今どこにいる!」
ギラついた目がフェイトを射抜く。
「残念だけど、それを簡単に教えるわけにはいかないね」
フェイトの手に魔力が宿った。
「良いだろう。だったら力ずくで聞くまでだ」
隼人の周りを闘気と殺気が渦巻く。
「がああああああああああああああ!!」
鬼の慟哭が天を震わす。隼人は、せんと君を倒した力、究極技法【爆熱真紅】を発動させた。
灼熱の殺気がフェイトを焼き炙る。
「凄い力だ。だけど、未完成だね」
「余裕ブッコいてる場合じゃないぞ」
一瞬で間合いを詰めて、相手の左腕を切り裂いた。
「ぐっ!」
今まで技を避けていたフェイトが始めてダメージを喰らう。
「そらっ」
刀を高速で振り下ろして攻撃。
今度は円弧を描いてフェイトの右腕が切り跳んだ。
「ぐううううううう」
苦しげな悲鳴を上げる。
「このぉ!」
両腕を再起不能にされながらも、無詠唱魔法【魔法の射手】砂の矢 三十六本を放つ。
しかし、その矢は隼人に当たる前に闘気と怒気と殺気で打ち消される。
「な、ばかな!?」
隼人の【煉獄】が力を増す。
危険を察したフェイトが障壁を張った。
が、構うことなく技を放つ。
「流派・花鳥風月 鳥の章奥義【
一撃目の上段攻撃が来ると認識した瞬間、二撃目の下段攻撃がフェイトを襲った。
上からの攻撃で障壁が消滅し、下からの攻撃で体が裂かれる。
「ぬぐがああああああああ」
高々と打ち上げられてから、湖に入水した。
鳥の章奥義【比翼連理】は神速の剣術。上下に目にもとまらぬ速さで斬撃を繰り出す。
一撃目で相手の防御を破壊し、二撃目で仕留める。シンプルゆえの強力な攻撃だ。
水に沈んだフェイトが勢いよく飛び出す。
「随分とやってくれたね。流石の僕でも効いたよ」
顔を歪めて隼人を睨む。
フェイトの体に刀傷が真直ぐ入っていた。
「だけど、これで死ね」
いつの間にか腕が再生している。
「ヴィシュ・タル リ・シュタル ヴァンゲイト 小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ 全てを見つめ、全てに普く死を!」
手のひらから怪しげな光が放たれた。
「【石化の邪眼】!!」
触れるものを石化させ砕くビームが隼人を直撃。
石像と化した隼人が、バラバラの破片となって辺りに散らばる。
が、その破片が花吹雪となって崩れていった。
「え?」
「どこを見ている。フェイト!」
フェイトは背後から殺気を感知。
「そんな!?」
隼人は花の章【桜花幻影】で攻撃を回避していた。
そして刀に気を送り込み二つ目の奥義を発動。
「流派・花鳥風月 花の章奥義【
刃の周りを色とりどりの花びらが取り巻いて、回転。
「チェストォオオオオオオオオオ」
気合一閃。袈裟懸けに振り下ろし、フェイトの肉体を削り取った。
「ぐがあああああああああああああああああああああああ」
肉が爆ぜてミンチになり、血煙が花吹雪のごとく吹き荒れる
そのままフェイトは祭壇の廊下に叩きつけられて撃沈。
花の章奥義【千紫万紅】は気力で数多の花びらを生成し、体の一部を掘削してミンチにするという技。
さらに作り出された花びらには、多種多様な毒が含まれている。そのため傷口は腐り、全身には激痛が走り、内臓は機能不全を起こす。
一撃必殺の技ではないが確実に死に至る最凶最悪の技だ。
「っ……………………」
うつ伏せで倒れたフェイトは、傷口からとめどなく血を流し、全身を痙攣させて声にならない悲鳴を上げる。
隼人は血溜まりに沈む彼に近寄り、刃を背中に突き立てた。
「花の章【
刃から解毒の呪いが放たれ、フェイトの多種多様な毒を治していく。だが、その解毒の呪いが体の血液と反応してさらに毒が生成。その毒も解毒の呪いが治癒。そしてさらに毒が生まれる。
「ぎあああああああああああああああ」
治癒と毒が延々とフェイトの体で渦巻く。
「教えろ、ヴェルガはどこだ?」
隼人は辛うじて喋られる程度に呪いを緩めて言い放つ。それは地獄の底から響く声だった。
「ふ、ふ、ふ。まる、で悪、魔のよ、うだ」
フェイトは弱弱しく言う。
隼人はフェイトの腕を踏み砕いた。
「がぁっ」
悲鳴が漏れる。
「言え」
隼人は燃え盛る獄炎の目でフェイトに尋ねる。
「教え、な・いよ。スク、ナが倒され、た以上、こ、こ、に長居する気はな、い」
フェイトの背中から魔方陣が展開。
「逃がすか!」
すかさず、拘束技を出そうとする。
しかし、掻き消えるようにフェイトは消滅した。
「ちぃっ! 血溜りをゲートにして、転移したのか」
歯をむき出しにして怒り狂う。
「逃げられると思うよ! 地獄の果てまで追いかけて、ヴェルガの居場所を吐かせるっ!」
すぐさま、索敵を開始した。
両面湖祭壇戦・フェイト撤退で決着。
★
「どうやら、呼び出した主も、スクナも倒されてしまったな」
大鬼は大きな金棒を地面に突きたてて空を仰いだ。
「え?」
明日菜は手を止める。
大鬼は満足そうに笑うと明日菜に言った。
「強き娘よ、楽しかったぞ。我はここまでのようだ。機会があるならまた会おう」
大鬼はすぅっと姿が消えていった。
明日菜は額から流れている血を拭って、一息つく。
「お、終わったのね」
緊張の糸が切れてその場にへたり込んだ。
一方、月詠と対峙していた楓、真名、くーふぇも戦いが終わっていた。
月詠が誰かと念話するように動きが止まった。
この間に攻撃をしようにも隙がない。
「はい。はい。では、そのように~」
間延びした声で念話を打ち切ると、三人に笑顔で終戦を告げた。
「どうやら、ここまでです。クライアントが負けたので私も退散します」
小太刀を収めて、深々と礼をする。
「逃がすと思うか」
真名は銃口を向けた。
すると、獰猛な笑みで月詠は言った。
「残念ですが、今の貴方たちでは無理です。次までにもっと美味しそうになっていてくださいね」
そして付け加える。
「ああ、あと刹那先輩にもよろしく伝えてください。今度会うときは必ず殺しますと」
体が闇夜に溶けていく。
「では、ごきげんよう」
完全に姿が消えた。
三人は構えを解いた。
「やれやれ、完全に遊ばれたでござるな」
楓はクナイをしまう。
「逃がしたのは残念だが、仕事でもないしここまでだな」
真名は銃をホルスターに入れた。
「まだまだ強くなるアル」
くーふぇは再戦に気合充分だった。
「皆のところへ行きましょ」
明日菜たちは隼人たちのいる湖へと向かった。
湖に着くと、なにやら様子がおかしい。
「先生、深追いは禁物です!」
「やかましい! そこをどけ!」
「ちょ、隼人落ち着いてぇな」
よく見ると、刹那たちが隼人を囲んで引き止めているようだ。
明日菜たちは顔を見合わせて傍まで行く。
「みんな!」
「明日菜さん。それに皆さんお疲れ様です」
茶々丸が手を上げて挨拶した。
「何があったでござるか?」
楓が質問する。
木乃香が困ったように説明した。
「それが、隼人が逃げた敵を追いかけるゆうて聞かへんねん」
「ようやく見つけた手がかりだ。逃がしてなるものか!」
彼女たちの会話を無視して飛び立とうとする隼人。
たしかにいつもの彼と様子が違っていた。
一言で表すなら「鬼」。それも先ほどまで戦っていた鬼と違って、こちらは怒り狂う鬼だった。
刹那が腕を掴む。
「先生。行ってはいけません。無傷に見えても先生は、満身創痍のはずです」
刹那の指摘はもっともだった。体に負担のかかる【爆熱真紅】を発動させ、流派・花鳥風月の奥義を二回使用している。
「先生の体は80%損傷しています。さらに気の総量は先ほどの究極技法と奥義の使用で既に10%も残っていません。付け加えて、この状況下で魔法使用した場合、最悪死に至ります」
茶々丸が冷静に隼人のダメージ状況を報告した。
「それがどうした! そんなもの気合で何とかなる。ここで逃がしたらまた振り出しだ!」
軋む体に鞭を打って、向かおうとする。
全員が止めに入ろうとするが、その気迫に気圧されて躊躇した。
しかし、敵を追いかけようとする彼の前に、エヴァが立ちはだかる。
「どけ」
隼人は睨む。
「愚か者が」
エヴァはそうつぶやくと、隼人の腹を殴った。
「ぐっ」
篭もった悲鳴を上げると、そのまま気絶した。
倒れた彼を見下ろす。
「ふん。私の一撃を避けられず、気絶した時点で貴様は限界だ」
「マスター、気絶しているから聞こえてないと思います」
茶々丸が静かにつっこみを入れた。
エヴァは全てに疲れたように、深いため息をつくと、戸惑っている明日菜たちに言った。
「お前たち、よくやった。本山に戻ってゆっくり休もう。おそらく綾瀬が学園に連絡を入れて、応援が来ているはずだ」
皆、疲れた顔で頷いた。
「あと、そこの大馬鹿者をだれか担いでやれ」
「では、拙者が」
楓が隼人を担ぐ。
そして、全員で本山に戻っていった。
★
関西呪術協会本山の外れ、真夜中の森の中を天ヶ崎千草は逃げていた。
「はぁはぁはぁ。完全に誤算やった。あんな化け物が出てくるとは。オマケにフェイトまでやられて」
先ほどの戦いを思い出して、悔しそうに唇を噛む。
戦いをこっそり見ていたが、あの隼人の姿と技を見て恐ろしくなり逃げ出した。
今は追っ手が来る前に何とかして本山を抜け出し、姿を隠す必要がある。
「起きたことはしゃあない。一度仕切りなおしや」
そう自分に言い聞かせた。
用意周到に事を進めてきた千草だったが、隼人たちのチームワークと圧倒的な力に敗北した。
それがとても腹立たしかった。自分も頼れる仲間を集めたのだ。それも女子中学生などと比べ物にならないような仲間を。
「でも、それは間違いやったんか。紅蓮鬼の力を見誤ったわ」
いつの間にか足を止めてガックリとうなだれた。
ふと、目をやると何かが転がっていた。
「ん?」
月明かりがそれを照らす。
「ひっ!」
思わず後ろへ下がった。
転がっていたそれは、フェイトの死体。傷口から血泡を吹いて腐り、物言わぬ躯となっていた。
「ひ、酷い」
裏の世界に生きる千草でさえ目を覆いたくなるような光景。
「大丈夫だよ。それは脱ぎ捨てたゴミだよ」
声がしたの、慌てて振り向く。
そこにはフェイトと月詠がいた。
「ふぇ、フェイトはん。それに月詠はん。無事やったんか」
仲間が事だったことにホッとした。だが、疑問が浮かぶ。
「じゃあ、あれは?」
フェイトはため息をつく。
「あれも僕だよ。ただ、もう使えなくなったから捨てたんだよ」
「捨てた?」
「僕は魂さえ無事なら大丈夫なのさ。スペアの身体を持ってきていて正解だった」
そのセリフに納得する。
「いや、あんた等が無事やったら、それでええねん。まだ巻き返せる」
力強い仲間がまだいる。それが千草に活力を与えた。
「よし、ほならとりあえず追っ手が来る前に、どこかに隠れよか。富士の樹海辺りなんてどやろ」
千草はそこで違和感に気づいた。
彼らはまるで悲しむような顔をしていた。
「どないしたん?」
不安に駆られて質問した。
フェイトが口を開く。
「千草さん。君には随分と失望したよ。まさかこの僕が任務失敗するとは」
ため息と一緒に首を振った。
「え、何いってんのや?」
フェイトの不穏な雰囲気に後ずさる。
「君に色々と教えたよね。本山のこと、スクナのこと、煉城隼人たちのこと。事が有利に運ぶように協力した」
思い出すように夜空を見上げる。
「だけど、君は失敗した。この僕がサポートしてあげたのに、失敗した。嗚呼、君はなんて無能なんだ」
芝居がかったように言う。
そして千草を見据えた。
「失敗は死で償ってもらう。そもそも生かしておく必要もないしね」
「え?」
そう千草が疑問を口にした時には、月詠によって首が跳ね飛ばされていた。
月詠は怪しげな笑みで血が付いた刃を舐める。
千草の首元から噴水のように血が噴出した。
首が地面に転がり、ばったりと胴体が倒れる。
「あ~。つまらないなぁ~。あっさりと死んじゃった」
月詠は刀を収めると、酷く残念そうに千草の死体を見つめた。
「始末ご苦労様。これで彼女から辿られることは無いだろう」
「小太郎君は殺さなくて大丈夫ですかぁ?」
「彼は何も知らないただの子供だからね。放っておいても問題ないよ」
フェイトはそういうと、念話を起動した。
「こちらフェイト。天ヶ崎千草の始末は完了。これより帰還する」
『ケケケケ。あのフェイトともあろうお方が失敗とは。面白いねぇ』
下卑た男の笑い声が響く。
『仕方ないでしょう、オルガロス。あの紅蓮鬼が相手だったんだし』
今度は女の声が聞こえてきた。
『リィファの言うとおりだ。気にするな、少年よ。人生とは失敗の積み重ねだ。命があるのなら次に活かすが良い』
低い声がフェイトを励ます。
「ありがとう、
フェイトは尋ねた。
『問題ない。所詮、保険は保険。出来の悪い者は斎冥院に必要ない』
『ヒャハハハハ。確かにテメェの娘じゃ出来が悪いわな。落ちぶれたクソ呪術師さんよ』
オルガロスは心底、愉快そうに笑う。
『口を慎め。トカゲ風情が斎冥院を愚弄するな。殺すぞ』
『イイねぇ。やってみろよ。
念話越しに一触即発。
『はいはい。ケンカしない。アンタら二人が戦ったら環境破壊で大迷惑よ』
リィファがたしなめた。
すると、威厳ある声が聞こえてきた。
『雑談はそこまでだ。我々に次の任務が下った。そこで先ほどから悶えている月詠をつれて一度、帰って来い』
「ググラガ、神楽坂明日菜はどうするんだい?」
フェイトは威厳のある声に質問した。
『あの少女のことは別の者が担当することになった。ついでに紅蓮鬼もな』
「別の者? だれだい?」
『ヘルマンだ』
「ああ、あの仮面の変態か」
フェイトは納得すると、股間を弄くって悶えている月詠を抱えると、闇へと歩き出す。
去り際に、捨てた自分の体を見つめる。
「アレは痛かったよ、煉城隼人。次に会う時は必ず殺す」
その静かな怒りは闇夜に溶けて消えていく。あとには静寂だけが残った。
つづく