魔法教師はやト!   作:沖彦也

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修学旅行編はこれで終わりです。
長いお付き合いありがとうございました。

次回から舞台は、再び麻帆良に戻ります。

宜しくお願いします。


第二十二話「修学旅行編完結。さらば、京都」

 両面湖の決戦から一夜明けた午前七時。

 

 隼人が目を覚ますと、そこはかつての自分の部屋だった。

 

「あ~。なんで寝てるんだっけ?」

 

 寝ぼけた頭が覚醒するまで時間がかかる。

 

「そうか、そういやエヴァに止められて気絶させられたんだった」

 

 仇の情報を握る敵と出会い、熱くなってしまった自分に恥ずかしくなる。

 

 隼人は起き上がると、新しい服に着替えて、部屋を出た。

 

「目が覚めたか、バカ教師」

 

 部屋の前ではエヴァが居た。

 

 庭を眺められる廊下で茶を飲んでいる。

 

「心配かけてスマン。どうしても抑えきれなかった」

 

 エヴァの隣に座る。

 

「あれからどうなった?」

 

 隼人は聞いた。

 

 エヴァは一口茶をすする。

 

「綾瀬が連絡してくれたから、援軍はすぐに来た。あとは治療と後始末。今、ガキ共は大部屋で雑魚寝してるよ」

 

「了解。どうやら皆、無事みたいだな」

 

 生徒の安否が確認できてホッとした。

 

 エヴァは隼人の顔を見る。

 

「どうした、俺の顔になんかついてるか?」

 

「お前、過去に何があった? あの究極技法といい、尋常じゃない憎悪といい、ただ事ではないと思ったぞ」

 

 一息つくと、隼人は言った。

 

「ここで話すと長くなる。また機会を見て話すよ」

 

「ふん。期待しないで待っているよ」

 

 隼人は伸びをすると立ち上がった。

 

「さてと、どうやら全てに決着がついたみたいだし、俺は出かけるよ。あいつ等が目覚めたら旅館に戻るように言っといてくれ」

 

 エヴァは怪訝そうに言う。

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

「ちょっと、墓参りにな」

 

 そういうと、隼人はさっさと立ち去った。

 

 

★

 

 

 京都、六道の辻周辺。

 

 隼人は本山を出てから、そこに向かった。

 

 向かう途中、花屋によって花を購入していた。

 

 六道の辻は、大昔の葬送地帯。あの世とこの世の境があるといわれる場所。

 

 静かな道を歩く。

 

 そして、とある古びた寺院に足を踏み入れた。

 

 奥に進むと墓地が見えた。

 

 線香の匂いが立ち込める。

 

 水桶と柄杓を借りて、ある墓の前に来た。

 

 そこには「煉城家之墓」と書かれてある。

 

 墓に花を添えて、線香を立てる。

 

 水をかけて、しゃがみ込み手を合わせた。

 

「ただいま。父さん。母さん」

 

 その墓は、隼人の両親が眠っていた。

 

「俺は元気にやってる。今は関東の方で中学校の教師やってるよ」

 

 近況を墓前に報告する。

 

 ひとしきり報告し終えると立ち上がった。

 

「じゃあ、また」

 

 手を振って立ち去ると、さらに墓地を歩いていく。

 

 そして、ある墓の前で立ち止まった。

 

 墓には「桜咲家之墓」と書かれてある。

 

 先ほどと同じように、花を添えて線香を立てる。

 

 水をかけて、しゃがんで手を合わせた。

 

「師匠、悠馬(ゆうま)、菫(すみれ)、ただいま」

 

 隼人はつぶやく。

 

「久ぶりに来たよ」

 

 呼びかけても当然、返事は返ってこない。

 

 隼人は報告する。

 

「師匠。ヘルマンはまだ、俺の前に現れません。正直、あの大戦で死んでしまったのかもしれません。でもまだ生きているのなら、あの時の約束を俺は必ず果たします。待っていてください」

 

 そして、ため息を吐くと続けて報告する。

 

「悠馬、菫。あれから世界中を回ってみたけど、まだヴェルガの潜伏先は見つけられない。だが、手がかりは見つけた。だからもう少し待ってくれ。必ず決着をつけて戦争を終わらせる!」

 

 無言の墓に語りかける。

 

 それは新たな決意。隼人の目が地獄の炎で燃え盛る。煮えたぎったマグマのような怒りが爆発しそうになる。

 

 だが、その激情を押し殺して、静かに息を吐く。

 

 落ち着くと、ゆっくり呟いた。

 

「しばらくは日本にいるから、盆と正月ぐらいは様子見に来るよ。それじゃ、また」

 

 一礼すると、そこから立ち去った。

 

 水桶を返すと、ケータイに連絡が入る。

 

「はい、もしもし」

 

 詠春からの連絡だった。

 

 要件を聞くと、隼人は返事をした。

 

「分った。それじゃ、今から、そっちに合流する」

 

 電話を切ると、隼人は寺を出た。

 

 

★

 

 

 京都某所。そこに明日菜たちは集まった。

 

「お父様~。隼人~」

 

 木乃香が手を振るその先には、詠春と隼人がいた。

 

 隼人たちもこちらに気づき、手を上げる。

 

「よう。観光は楽しめたか?」

 

 あれから、明日菜達は旅館に戻ったが、またすぐに京都の町へ繰り出した。

 

 親書を届ける任務や、天ヶ崎一派との戦いでろくに観光していないことに気が付き、連れ立って京都を満喫したのだった。

 

 隼人の問いに、全員が満足そうに頷く。

 

「まぁね。お土産も買えたし」

 

「いっぱい写真もとれたし」

 

 ハルナと和美は観光の戦利品を見せた。

 

「良かった。あの何ともいえない美しい和の芸術。長生きするもんだな」

 

 エヴァは歳よりじみたことを言って感慨に浸っていた。

 

「隼人はどうやったん?」

 

 木乃香が尋ねた。

 

「ああ、俺も寄りたいところに行けたし良かったよ。あとは、ナギの手がかりを見つければ、修学旅行の予定コンプリートだ」

 

「おお、そうだ。あのバカの別荘に行かねば話にならん。さぁ行くぞ」

 

 エヴァはテンション高めに言って歩き出す。

 

「それじゃ、行きましょうか。ここから十分ほど歩いたところにあります」

 

 詠春に連れられて、みんなも歩き出す。

 

 隼人は詠春と並んで歩く。

 

「詠春。その後、連中はどうなった?」

 

 詠春は少し険しい顔をして答えた。

 

「結局捉えたのは、犬神小太郎だけです。月詠は行方不明。首謀者の千草とフェイトは惨殺体で見つかりました」

 

「そうか」

 

「フェイトの方は、毒物による腐敗が進んでいたので、貴方の奥義で死んだのでしょう。千草は首を飛ばされていたので、月詠が口封じしたと思われます」

 

 詠春の報告に隼人が少し首を傾げた。

 

「妙だな。フェイトに放った【千紫万紅】は、その後に撃った【解毒地獄】で中和したはずだ。苦しんで倒れることはあっても、死ぬことは無いはずだ」

 

「ですが、こと切れていました。詳しく調べようにも、腐敗しすぎて調べようがありません」

 

 隼人は少し考える。

 

「解毒地獄の呪いは生きている者に作用する。呪いが反応しないで腐り果てるには、自分から命を絶つ必要がある。まさか、自殺したのか。あるいは口封じで同じく殺された?」

 

 詠春が首を横に振った。

 

「いずれにせよ、彼らから身元を辿ってヴェルガを探すのは不可能でしょう。月詠に至っては何者なのかさっぱりわかりません。あれほどの使い手が無名であるはずがないのですが、情報が一切出ません」

 

 隼人たちの会話に刹那が割り込む。

 

「確かに月詠は底が知れませんでした。人外の、それも特級の化け物だと思います」

 

「引き続き、調査をします。何か分り次第、連絡を入れますよ」

 

 詠春の言葉に隼人は首を縦に振る。

 

「頼む。今回、ヴェルガが確実に生きていたことが分ったからな。魔法界の賢老たちにも連絡入れて探したほうが良い」

 

「そのつもりです。平和になって約十五年。もう二度と戦争を起こさせはしませんよ」

 

 などと会話している内に目的の場所へ付いた。

 

 そこは洋風のオシャレな家だった。

 

「天文台があるです」

 

 夕映が指差した先にはドームがあった。

 

「ここが、奴の別荘か」

 

 まじまじと家を見上げるエヴァ。

 

 詠春は鍵を取り出すと、扉を開けて、隼人たちを招きいれた。

 

「おお!」

 

 全員が感嘆の声を漏らす。

 

 吹き抜けの広間。

 

 壁一面に置かれた本。

 

 三階建ての家だった。

 

「なんていうか、モダンね~」

 

 明日菜が見わたす。

 

「くぅ~。図書館探検部としてはこんなに本があったら黙ってられない」

 

 嬉々としてハルナは本棚に駆け寄る。

 

「あ、まって、私も」

 

「では、私はこっちを見るです」

 

 のどかと夕映も本棚に駆け寄った。

 

「じゃあ、二階でも見ようかな」

 

「ワタシは三階を見てくるアル」

 

 それぞれ散らばった。

 

「おいおい、いいのかアレ? 魔道書あったらやばいぞ」

 

 エヴァは困ったように言う。

 

「まぁ、ほとんどが外国語ですし、読めないでしょう。それにここには魔法具は置いてませんから大丈夫でしょう」

 

 そういうと、散らばった明日菜たちに呼びかける。

 

「お嬢さん方。ここは故人のものですので、あまり荒らさないようにお願いしますね」

 

 各々、調べていく。

 

 隼人も中を歩き手がかりを探す。

 

「それにしても、詠春。お前、なにか知らないのか?」

 

 手に取った本を棚に戻しながら聞く。

 

「いえ、残念ながら教えることが出来ません。彼との約束でもあるので」

 

 隼人はため息をついた。

 

「やれやれ、タカミチと詠春はだんまり。ラカンとアルは行方不明。ガトーとゼクトは死亡。お前ら『紅き翼』に何があったんだ?」

 

「それは秘密です。ナギとの約束ですから。ですが、彼もまたあの悪魔を追っています。このまま行けばいつかは会うでしょう」

 

 隼人はニヤッと笑う。

 

「そうか。ならアイツに先こされないようにしなきゃな」

 

 そんな二人に、二階から明日菜が呼びかけた。

 

「隼人。ちょっとこっち来て」

 

 隼人と詠春は顔を見合わせると、二階へ上がった。

 

「ねぇ。この写真って隼人たちよね?」

 

 明日菜が写真立てを見せる。

 

 それは、かつての隼人たちの姿だった。

 

 後ろの列の右端には本を持った優男。その隣に刀を持った詠春。さらにその隣にタバコを咥えた背が高い背広の男。次に色黒で大剣を担いだ男。最後は青い刀を差した少年。

 

 前の列には、緑の刀を差した黒髪の少女が、少年時代のタカミチとピースサインしている。隼人と赤髪の少年が肩を組んでいる。その隣にはめんどくさそうな顔をして背の低い少年がいた。

 

 草原を背後にして、全員、楽しそうに笑っていた。

 

「おお! 懐かしいなこれ。セフィーロ高原攻略戦のとき撮ったやつじゃないか」

 

 隼人は嬉しそうに写真を眺める。

 

「おや、こんな時もありましたね。たしか、私が二十一の時でしたかね」

 

 詠春も懐かしむように言う。

 

「ね、ね。この人たちは誰なん?」

 

 木乃香が聞いてくる。

 

「右の優男がアルビレオ。その隣が若かりし頃の詠春。その次がガトー。色黒の男がラカン。青い刀を差しているのは悠馬だ」

 

 詠春が続けて説明する。

 

「前の列のタカミチ君とピースサインしているのが菫さん。隼人と肩を組んでいるのがナギ。その隣でめんどくさそうにしているのがゼクトです」

 

「スゲーな。誰も彼も有名人ばかりじゃないか」

 

 カモが驚いたように言った。

 

「へぇ~。お父様若いなぁ」

 

 木乃香は写真の詠春を見つめた。

 

 思い出すように遠い目をして、隼人は言う。

 

「思い出すなぁ。ちょうど『紅き翼』と『トライブレード』がそろってたのはコレが最後だったっけ。あの後、各地を転戦して、色々あって、二度と全員とは会えなかったからな」

 

 詠春は少し悲しそうに言う。

 

「ええ。悲しくも楽しかった青春時代ですね」

 

「先生は全然変わってないですね」

 

 刹那は笑いながら言った。

 

「仕方ないだろ。俺は年を取らないんだから」

 

 ふと、隼人が明日菜に目をやると、じーっと写真を見つめていた。

 

「おい、どうした?」

 

 はっと我に返り、首を横に振る。

 

「ええと、なんでもないわよ。多分気のせいだと思うから」

 

「はぁ?」

 

 隼人は怪訝そうに首を傾けた。

 

「ああ、そうだ。アレを渡しましょう」

 

 詠春は奥から大きな紙を持ってくる。

 

「なんだそれ」

 

 隼人は興味深そうに紙を見た。

 

 詠春は持ち運べるように丸める。

 

「これはナギに繋がる手がかりです」

 

「おい、良いのか。俺に教えらないんじゃないのか?」

 

 隼人は訊く。

 

「まぁ追いかけてくる奴がいれば、これを渡せってナギからの伝言があったので」

 

 輪ゴムで止めると、隼人に渡した。

 

「なるほど、そりゃありがたい。ありがとう」

 

 隼人は嬉しそうに礼を言った。

 

 そんなやり取りをしていると、今度は和美が呼びかけた。

 

「ねー! 話がまとまったんなら、記念写真撮ろうよ~」

 

 呼びかけに応じて皆が集まる。

 

「じゃあ、撮るよ~」

 

 セルフタイマーをセットして、和美も加わる。

 

 シャッターが下りて撮影終了。

 

「この写真も、さっきの写真みたいに思い出になるのかな?」

 

 明日菜がしみじみと言う。

 

「そりゃそうよ。なんていったって私が撮ったんだから、バッチリ思い出の一枚になるよ」

 

 自信たっぷりに和美は胸を張る。

 

 こうして、この日は終わった。

 

 

★

 

 

 修学旅行最終日、京都駅。新幹線ホーム。

 

「お前ら、全員そろったな。じゃあ乗り込め」

 

 隼人が3-Aに指示を飛ばす。

 

 全員乗車して、新幹線が発車する。

 

「嗚呼、これで修学旅行も終わりかぁ」

 

「楽しかったよね!」

 

「皆さん、帰るまでが修学旅行ですわ。気を抜かない!」

 

 口々に語り合う。

 

 しかし、発車してすぐ電車内はとても静かになった。

 

 皆、幸せそうに寝ている。

 

「やれやれ、流石の3-Aもはしゃぎ疲れたかな」

 

 引率の新田先生が苦笑する。

 

「まぁ、あれだけ暴れたら疲れますよ」

 

 同じく引率の瀬流彦先生が笑う。

 

「彼女たちの引率やら何やらでお疲れでしょうし、隼人先生も少しお休みになられたらどうです?」

 

 しずな先生が提案した。

 

「あ、それじゃお言葉に甘えて。あとよろしくお願いします」

 

 一礼して隼人は自分の席に向かう。

 

 席に座り、窓を眺めると、景色が矢のように飛んでいくのが見えた。

 

 それとシンクロする様に、修学旅行の出来事を思い出す。

 

 京都観光のこと。せんと君との死闘のこと。天ヶ崎千草一派との激闘。そして白髪の少年フェイトのこと。

 

 この四泊五日の旅は非日常すぎて忙しかった。

 

「色々あったが、楽しかったかねぇ?」

 

 誰に聞くでもなくそうつぶやき、目を瞑る。

 

 駅に着けば、また騒がしい日常が待っている。

 

 隼人は英気を養うために、しばらくの間、休むことにした。

 

 

 

【修学旅行編・終】

 

【クラスメイト編その1】に続く

 

 

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