長いお付き合いありがとうございました。
次回から舞台は、再び麻帆良に戻ります。
宜しくお願いします。
両面湖の決戦から一夜明けた午前七時。
隼人が目を覚ますと、そこはかつての自分の部屋だった。
「あ~。なんで寝てるんだっけ?」
寝ぼけた頭が覚醒するまで時間がかかる。
「そうか、そういやエヴァに止められて気絶させられたんだった」
仇の情報を握る敵と出会い、熱くなってしまった自分に恥ずかしくなる。
隼人は起き上がると、新しい服に着替えて、部屋を出た。
「目が覚めたか、バカ教師」
部屋の前ではエヴァが居た。
庭を眺められる廊下で茶を飲んでいる。
「心配かけてスマン。どうしても抑えきれなかった」
エヴァの隣に座る。
「あれからどうなった?」
隼人は聞いた。
エヴァは一口茶をすする。
「綾瀬が連絡してくれたから、援軍はすぐに来た。あとは治療と後始末。今、ガキ共は大部屋で雑魚寝してるよ」
「了解。どうやら皆、無事みたいだな」
生徒の安否が確認できてホッとした。
エヴァは隼人の顔を見る。
「どうした、俺の顔になんかついてるか?」
「お前、過去に何があった? あの究極技法といい、尋常じゃない憎悪といい、ただ事ではないと思ったぞ」
一息つくと、隼人は言った。
「ここで話すと長くなる。また機会を見て話すよ」
「ふん。期待しないで待っているよ」
隼人は伸びをすると立ち上がった。
「さてと、どうやら全てに決着がついたみたいだし、俺は出かけるよ。あいつ等が目覚めたら旅館に戻るように言っといてくれ」
エヴァは怪訝そうに言う。
「どこへ行くつもりだ?」
「ちょっと、墓参りにな」
そういうと、隼人はさっさと立ち去った。
★
京都、六道の辻周辺。
隼人は本山を出てから、そこに向かった。
向かう途中、花屋によって花を購入していた。
六道の辻は、大昔の葬送地帯。あの世とこの世の境があるといわれる場所。
静かな道を歩く。
そして、とある古びた寺院に足を踏み入れた。
奥に進むと墓地が見えた。
線香の匂いが立ち込める。
水桶と柄杓を借りて、ある墓の前に来た。
そこには「煉城家之墓」と書かれてある。
墓に花を添えて、線香を立てる。
水をかけて、しゃがみ込み手を合わせた。
「ただいま。父さん。母さん」
その墓は、隼人の両親が眠っていた。
「俺は元気にやってる。今は関東の方で中学校の教師やってるよ」
近況を墓前に報告する。
ひとしきり報告し終えると立ち上がった。
「じゃあ、また」
手を振って立ち去ると、さらに墓地を歩いていく。
そして、ある墓の前で立ち止まった。
墓には「桜咲家之墓」と書かれてある。
先ほどと同じように、花を添えて線香を立てる。
水をかけて、しゃがんで手を合わせた。
「師匠、
隼人はつぶやく。
「久ぶりに来たよ」
呼びかけても当然、返事は返ってこない。
隼人は報告する。
「師匠。ヘルマンはまだ、俺の前に現れません。正直、あの大戦で死んでしまったのかもしれません。でもまだ生きているのなら、あの時の約束を俺は必ず果たします。待っていてください」
そして、ため息を吐くと続けて報告する。
「悠馬、菫。あれから世界中を回ってみたけど、まだヴェルガの潜伏先は見つけられない。だが、手がかりは見つけた。だからもう少し待ってくれ。必ず決着をつけて戦争を終わらせる!」
無言の墓に語りかける。
それは新たな決意。隼人の目が地獄の炎で燃え盛る。煮えたぎったマグマのような怒りが爆発しそうになる。
だが、その激情を押し殺して、静かに息を吐く。
落ち着くと、ゆっくり呟いた。
「しばらくは日本にいるから、盆と正月ぐらいは様子見に来るよ。それじゃ、また」
一礼すると、そこから立ち去った。
水桶を返すと、ケータイに連絡が入る。
「はい、もしもし」
詠春からの連絡だった。
要件を聞くと、隼人は返事をした。
「分った。それじゃ、今から、そっちに合流する」
電話を切ると、隼人は寺を出た。
★
京都某所。そこに明日菜たちは集まった。
「お父様~。隼人~」
木乃香が手を振るその先には、詠春と隼人がいた。
隼人たちもこちらに気づき、手を上げる。
「よう。観光は楽しめたか?」
あれから、明日菜達は旅館に戻ったが、またすぐに京都の町へ繰り出した。
親書を届ける任務や、天ヶ崎一派との戦いでろくに観光していないことに気が付き、連れ立って京都を満喫したのだった。
隼人の問いに、全員が満足そうに頷く。
「まぁね。お土産も買えたし」
「いっぱい写真もとれたし」
ハルナと和美は観光の戦利品を見せた。
「良かった。あの何ともいえない美しい和の芸術。長生きするもんだな」
エヴァは歳よりじみたことを言って感慨に浸っていた。
「隼人はどうやったん?」
木乃香が尋ねた。
「ああ、俺も寄りたいところに行けたし良かったよ。あとは、ナギの手がかりを見つければ、修学旅行の予定コンプリートだ」
「おお、そうだ。あのバカの別荘に行かねば話にならん。さぁ行くぞ」
エヴァはテンション高めに言って歩き出す。
「それじゃ、行きましょうか。ここから十分ほど歩いたところにあります」
詠春に連れられて、みんなも歩き出す。
隼人は詠春と並んで歩く。
「詠春。その後、連中はどうなった?」
詠春は少し険しい顔をして答えた。
「結局捉えたのは、犬神小太郎だけです。月詠は行方不明。首謀者の千草とフェイトは惨殺体で見つかりました」
「そうか」
「フェイトの方は、毒物による腐敗が進んでいたので、貴方の奥義で死んだのでしょう。千草は首を飛ばされていたので、月詠が口封じしたと思われます」
詠春の報告に隼人が少し首を傾げた。
「妙だな。フェイトに放った【千紫万紅】は、その後に撃った【解毒地獄】で中和したはずだ。苦しんで倒れることはあっても、死ぬことは無いはずだ」
「ですが、こと切れていました。詳しく調べようにも、腐敗しすぎて調べようがありません」
隼人は少し考える。
「解毒地獄の呪いは生きている者に作用する。呪いが反応しないで腐り果てるには、自分から命を絶つ必要がある。まさか、自殺したのか。あるいは口封じで同じく殺された?」
詠春が首を横に振った。
「いずれにせよ、彼らから身元を辿ってヴェルガを探すのは不可能でしょう。月詠に至っては何者なのかさっぱりわかりません。あれほどの使い手が無名であるはずがないのですが、情報が一切出ません」
隼人たちの会話に刹那が割り込む。
「確かに月詠は底が知れませんでした。人外の、それも特級の化け物だと思います」
「引き続き、調査をします。何か分り次第、連絡を入れますよ」
詠春の言葉に隼人は首を縦に振る。
「頼む。今回、ヴェルガが確実に生きていたことが分ったからな。魔法界の賢老たちにも連絡入れて探したほうが良い」
「そのつもりです。平和になって約十五年。もう二度と戦争を起こさせはしませんよ」
などと会話している内に目的の場所へ付いた。
そこは洋風のオシャレな家だった。
「天文台があるです」
夕映が指差した先にはドームがあった。
「ここが、奴の別荘か」
まじまじと家を見上げるエヴァ。
詠春は鍵を取り出すと、扉を開けて、隼人たちを招きいれた。
「おお!」
全員が感嘆の声を漏らす。
吹き抜けの広間。
壁一面に置かれた本。
三階建ての家だった。
「なんていうか、モダンね~」
明日菜が見わたす。
「くぅ~。図書館探検部としてはこんなに本があったら黙ってられない」
嬉々としてハルナは本棚に駆け寄る。
「あ、まって、私も」
「では、私はこっちを見るです」
のどかと夕映も本棚に駆け寄った。
「じゃあ、二階でも見ようかな」
「ワタシは三階を見てくるアル」
それぞれ散らばった。
「おいおい、いいのかアレ? 魔道書あったらやばいぞ」
エヴァは困ったように言う。
「まぁ、ほとんどが外国語ですし、読めないでしょう。それにここには魔法具は置いてませんから大丈夫でしょう」
そういうと、散らばった明日菜たちに呼びかける。
「お嬢さん方。ここは故人のものですので、あまり荒らさないようにお願いしますね」
各々、調べていく。
隼人も中を歩き手がかりを探す。
「それにしても、詠春。お前、なにか知らないのか?」
手に取った本を棚に戻しながら聞く。
「いえ、残念ながら教えることが出来ません。彼との約束でもあるので」
隼人はため息をついた。
「やれやれ、タカミチと詠春はだんまり。ラカンとアルは行方不明。ガトーとゼクトは死亡。お前ら『紅き翼』に何があったんだ?」
「それは秘密です。ナギとの約束ですから。ですが、彼もまたあの悪魔を追っています。このまま行けばいつかは会うでしょう」
隼人はニヤッと笑う。
「そうか。ならアイツに先こされないようにしなきゃな」
そんな二人に、二階から明日菜が呼びかけた。
「隼人。ちょっとこっち来て」
隼人と詠春は顔を見合わせると、二階へ上がった。
「ねぇ。この写真って隼人たちよね?」
明日菜が写真立てを見せる。
それは、かつての隼人たちの姿だった。
後ろの列の右端には本を持った優男。その隣に刀を持った詠春。さらにその隣にタバコを咥えた背が高い背広の男。次に色黒で大剣を担いだ男。最後は青い刀を差した少年。
前の列には、緑の刀を差した黒髪の少女が、少年時代のタカミチとピースサインしている。隼人と赤髪の少年が肩を組んでいる。その隣にはめんどくさそうな顔をして背の低い少年がいた。
草原を背後にして、全員、楽しそうに笑っていた。
「おお! 懐かしいなこれ。セフィーロ高原攻略戦のとき撮ったやつじゃないか」
隼人は嬉しそうに写真を眺める。
「おや、こんな時もありましたね。たしか、私が二十一の時でしたかね」
詠春も懐かしむように言う。
「ね、ね。この人たちは誰なん?」
木乃香が聞いてくる。
「右の優男がアルビレオ。その隣が若かりし頃の詠春。その次がガトー。色黒の男がラカン。青い刀を差しているのは悠馬だ」
詠春が続けて説明する。
「前の列のタカミチ君とピースサインしているのが菫さん。隼人と肩を組んでいるのがナギ。その隣でめんどくさそうにしているのがゼクトです」
「スゲーな。誰も彼も有名人ばかりじゃないか」
カモが驚いたように言った。
「へぇ~。お父様若いなぁ」
木乃香は写真の詠春を見つめた。
思い出すように遠い目をして、隼人は言う。
「思い出すなぁ。ちょうど『紅き翼』と『トライブレード』がそろってたのはコレが最後だったっけ。あの後、各地を転戦して、色々あって、二度と全員とは会えなかったからな」
詠春は少し悲しそうに言う。
「ええ。悲しくも楽しかった青春時代ですね」
「先生は全然変わってないですね」
刹那は笑いながら言った。
「仕方ないだろ。俺は年を取らないんだから」
ふと、隼人が明日菜に目をやると、じーっと写真を見つめていた。
「おい、どうした?」
はっと我に返り、首を横に振る。
「ええと、なんでもないわよ。多分気のせいだと思うから」
「はぁ?」
隼人は怪訝そうに首を傾けた。
「ああ、そうだ。アレを渡しましょう」
詠春は奥から大きな紙を持ってくる。
「なんだそれ」
隼人は興味深そうに紙を見た。
詠春は持ち運べるように丸める。
「これはナギに繋がる手がかりです」
「おい、良いのか。俺に教えらないんじゃないのか?」
隼人は訊く。
「まぁ追いかけてくる奴がいれば、これを渡せってナギからの伝言があったので」
輪ゴムで止めると、隼人に渡した。
「なるほど、そりゃありがたい。ありがとう」
隼人は嬉しそうに礼を言った。
そんなやり取りをしていると、今度は和美が呼びかけた。
「ねー! 話がまとまったんなら、記念写真撮ろうよ~」
呼びかけに応じて皆が集まる。
「じゃあ、撮るよ~」
セルフタイマーをセットして、和美も加わる。
シャッターが下りて撮影終了。
「この写真も、さっきの写真みたいに思い出になるのかな?」
明日菜がしみじみと言う。
「そりゃそうよ。なんていったって私が撮ったんだから、バッチリ思い出の一枚になるよ」
自信たっぷりに和美は胸を張る。
こうして、この日は終わった。
★
修学旅行最終日、京都駅。新幹線ホーム。
「お前ら、全員そろったな。じゃあ乗り込め」
隼人が3-Aに指示を飛ばす。
全員乗車して、新幹線が発車する。
「嗚呼、これで修学旅行も終わりかぁ」
「楽しかったよね!」
「皆さん、帰るまでが修学旅行ですわ。気を抜かない!」
口々に語り合う。
しかし、発車してすぐ電車内はとても静かになった。
皆、幸せそうに寝ている。
「やれやれ、流石の3-Aもはしゃぎ疲れたかな」
引率の新田先生が苦笑する。
「まぁ、あれだけ暴れたら疲れますよ」
同じく引率の瀬流彦先生が笑う。
「彼女たちの引率やら何やらでお疲れでしょうし、隼人先生も少しお休みになられたらどうです?」
しずな先生が提案した。
「あ、それじゃお言葉に甘えて。あとよろしくお願いします」
一礼して隼人は自分の席に向かう。
席に座り、窓を眺めると、景色が矢のように飛んでいくのが見えた。
それとシンクロする様に、修学旅行の出来事を思い出す。
京都観光のこと。せんと君との死闘のこと。天ヶ崎千草一派との激闘。そして白髪の少年フェイトのこと。
この四泊五日の旅は非日常すぎて忙しかった。
「色々あったが、楽しかったかねぇ?」
誰に聞くでもなくそうつぶやき、目を瞑る。
駅に着けば、また騒がしい日常が待っている。
隼人は英気を養うために、しばらくの間、休むことにした。
【修学旅行編・終】
【クラスメイト編その1】に続く