今回は長谷川千雨がメインです。
ちょっと長くなりましたが、よろしくお願いします。
荒れ果てた大地を一人の男が往く。いや、正確に言うならば一人と一匹だ。
その男の右手には赤い紐が握られ、その先に結ばれた首輪も赤く、男の傍を歩く黒銀の犬は小さく吼えた。
飼い主である仮面の男に語りかけるかのように。
「分っているとも、プルー。久しぶりに友の呼び出し。一体なんだろうね」
しばらく歩くと暗い穴が見えた。
「ここで待っていてくれ」
プルーと呼ばれた犬は大人しく従った。
仮面の男は暗い穴を通ると、蝋燭の炎が揺らめく、広間に着いた。
「お呼びかね? 我が友よ」
見つめる先は光すら入らない黒い空間。
「おお、来たか。ヘルマン。実は仕事を頼みたい」
黒い空間から低い、しかし透き通るような男の声が響いた。
「仕事? また厄介な仕事かな?」
「なに、簡単な仕事だ。頼みたいことは二つ。一つはこの人間がどれだけ使えるか調べて欲しい」
ヘルマンは目の前に飛んできた写真を受け取る。
ツインテールの活発そうな少女。瞳の色が左右で違う。
「ほほぉ。これはなかなか美しい少女だ。彼女こそ私のエリスかね?」
「絶対に違う。その人間の名は神楽坂明日菜。世にも珍しい魔法無効化能力者だ」
彼は驚いたように目を見開いた。
「なるほど。それはとても興味深い。あの大戦の生き残りかな?」
「それも調べなければならない。あと、もう一人。隼人がどれだけ強くなったか調べて欲しい」
飛んできた写真を確認すると、とても嬉しそうに笑う。
「これは! そうか。あの時、私と別れた後。少年は剣を取り、そこにどんなロマンを描いたのか」
当時の記憶を思い出すよう天井を見上げた。
ヘルマンは身を正すと、黒い空間の向こうの男に宣言した。
「よろしい。このヘルマン・サンホラ・アビス・クリストフ・ジャンジャック・サン・ローラン、謹んでこの依頼引き受けよう」
マントを取り出して羽織る。
そのとき、背中に描かれた気味が悪い首吊りピエロが笑った。
高山帽を被ると、きびすを返す。
「さぁ、往こうか『オルタンシア』『ヴィオレッタ』」
いつの間にか彼の後ろには二人の少女がいた。
「はい。ご主人様」
美しい双子の少女は小さく頷くと、ヘルマンの後に続いた。
彼らが居なくなった後、友と呼ばれた男はため息をつく。
「俺は必ず復活する。そしてまた殺し合おう。我が終生の敵、隼人よ」
どこか懐かしむように、そして愛おしそうに言う。
しかし、出発したヘルマンが隼人に会うのはまだ先の話。
男の望みが叶うのもまだ先の話。
★
ところ変わって、麻帆良学園。修学旅行も終わり、日常が戻ってきた。
後残っている、一学期のイベントは文化祭のみとなっていた。
「というわけで、今日は文化祭の出し物について話し合え」
隼人はそれだけ言うと、教室の後ろに行き、話し合いの成り行きを見守る。
代わりに学級委員長のあやかが前に出て話を進めた。
「では、皆さん何が良いか意見のある人?」
すっと手を挙げたのはハルナだった。
「コスプレ喫茶が良いと思う。このクラスには美人がそろってるから、上手くいけばウハウハで儲けられるよ」
おおっとドヨメキが起こる。
「なるほど、コスプレ喫茶か。案外良い案かもね」
和美があごに手を当てて賛同した。
「コスプレがどんなものか存じませんが、他にはありませんか?」
かの雪広財閥のお嬢様はコスプレを知らなかったようだ。
別の意見を求めると、今度は裕奈が手を挙げる。
「バーチャルオバケ屋敷なんてどうよ? ウチには天才である超さんとハカセが居るから、リアルなものが出来るんじゃない?」
自分の名前が出てきて、超は笑う。
「うん。今開発中の三次元変換投影装置【ソリッドビジョン】を使えば、リアルなオバケを見せることが出来るネ」
未来からの道具のような名前が出てきて、教室は盛り上がる。
「やっぱ、オバケ屋敷にしよう!」
まき絵は目を輝かせて言う。
「いや、やっぱここはコスプレ喫茶でしょ。可愛い衣装を着てみたい」
この意見を言ったのはチアリーダー三人組だ。
「う~ん。拙者はどちらでも良いでござるなぁ」
「コスプレて何アルか? 強いアル?」
「マスター。オバケだとマスターの出番です」
「アホか。私は吸血鬼であってオバケじゃない」
やいのやいのと口々に意見を述べる。
「皆さん落ち着いて。意見を言う時は手を挙げてください」
あやかがパンパンと手を叩きながら注意を呼びかける。
今日も今日とてクラスは賑やかだった。
そんな賑やかなクラスの中、一人だけ全く参加していないクラスメイトが居た。
出席番号二十五番、長谷川千雨だった。
黙って下を向きひたすら何かに耐えている。実は彼女は、心の中でこんなことを思っていた。
『おいおいおいおい。だからなんでこのクラスは知能が幼稚園児並みの奴が大量にいるんだよ! 明らかにオバケ屋敷はないだろう。いや、コスプレ喫茶も実態をわかって述べてるか怪しいぞ。だいたい、もう少し建設的な話し合いをしろよ!』
顔を上げてクラスを見る。
『それにしてもウチのクラスには留学生が多すぎる。しかも、小学生かと思われるような双子までいる。天才が二人いて、忍者とロボットまでこのクラスにいる。担任に至ってはアタシと歳がほとんど変わんないんだぞ。高校生に教えてもらうなんてどうかしてる。なんだこの人外魔境は!? 二次元か!? 現実で起こるなよ!!』
目元をひくつかせて、青筋が浮かぶ。
『もう我慢の限界だ。帰ろう。そしてアタシの本当のいるべき場所へ行こう。ここはあまりにも非現実的すぎる』
ガタッと立ち上がると、後ろに座っていた隼人のところまで来た。
「およ? どうした千雨。顔色悪いぞ」
見事なまでに引きつった笑い顔を浮かべて、千雨は言った。
「あの、先生。気分が悪いんで早退します」
「なに? 保健室……は今日、閉まってるな。分かった早退を許可する」
隼人から許可が出て、千雨は急いで鞄を取る。
「あれ? 千雨ちゃん帰っちゃうの?」
明日菜が不思議そうに尋ねる。
「
木乃香も話に加わってきた。
「あらら。そらアカン。お医者さん行ったほうがええんちゃう?」
「
いそいそと教室を出て行った。
その出て行った後の扉を見つめる隼人。
「大丈夫すかね。千雨嬢ちゃん」
肩に乗ったカモがぼそりと言う。
「ふむ。そうだな」
隼人は立ち上がると、生徒に言った。
「あ~、悪いがちと抜けさせてもらう。チャイムなっても決まらないようなら明日また話すことにしてくれ。じゃあ、あと頼むよ」
あやかに全て任せて教室を出る。
千雨の姿を探すがもう居なかった。
「少し気になるな」
「アニキ、追いかけようぜ」
カモは千雨を追いかけようとする。
しかし、隼人は職員室に向かった。
「どこ行くんだ? アニキ」
「追いかける前にパソコンを持っていこうと思ってな」
「パソコンを?」
怪訝そうな顔をするカモに、隼人は意味深に笑った。
★
千雨は急いで寮の部屋に直行する。
現在、千雨の部屋は人数の関係上、二人で使う部屋を一人で使っている。
部屋に入るなり、鞄を放り投げて、クローゼットを開けた。
そこには、様々な衣装がかけられていた。
メイド服、ガンダムの連邦軍の軍服、管理局の白い悪魔の服、プリキュアの衣装etc……。
その中から、お気に入りの『超魔法少女ビブリオン』のルーラン・ルージュの服を選んで着る。
その衣装は、黒を基本として、見えそうで見えない絶妙な長さのスカート、胸元は開いてセクシーに。また、アクセントで背中に羽根が生えている。小悪魔的な衣装だった。
「うりゃおおおおおおおおお」
雄叫び上げて、撮影機材をセッティング。
様々なポーズをとって写真撮影して、パソコンに取り込んで、修正。
そして、自分のホームページにアップした。
『はろはろ~。ちうなのだ~☆。今日は、私のお気に入りの衣装、ルーランだよっ★』
コメント蘭に反響が返ってくる。
『おー今日は早いですな』
『やべぇ、相変わらず可愛い』
『ビブリオンのルーランじゃないか。完成度高ぇーなオイ』
『この見えそうで見えない、絶妙なスカートが良い仕事してる』
『ちくしょー。パンツ見えない』
『何いってんの。心の目で見ればいいじゃないか』
『おい、それよりお前、俺のパンツみて、どう思う?』
『……すごく。ブリーフです』
『昼間から、変態が多いなここはw』
などなどコメントがきた。
それを見て悦に入る千雨。
「むふふふふ。やっぱりネットは最高だな」
画面の前でにやける彼女であった。
この一連の行動を見て賢い読者ならお分かりだろう。そうである。長谷川千雨はネットで大人気のネットアイドルだ。
サイト設立から三年。その勢いは止まるところを知らず、あっと間にアクセスランキングがトップに躍り出た。
トップにでた理由は、可愛いコスプレと、展開される文体である。
斜に構えつつも、物事を鋭く捉え、発言する彼女の文章は読んでいて楽しい。
この二つの要素が相まって人気ネットアイドルとして君臨しているのだ。
そんな彼女のサイトには雑談コーナーがある。
そこでは、彼女に人生の悩みを相談したり、また彼女が相談したりする。
『今日は本当に腹が立った出来事があったの。クラスメイトと文化祭の相談してたんだけど、まったく実の無い話ばかり。オマケに担任は私に色目使ってくるしもう最悪。本当、学校辞めちゃおうかな』
すると、反応が返ってくる。
『まぁ、文化祭の話なんてそういうもんだろう』
『てか、その教師クビだろwww』
『しかし、学校辞めるのは止めとけ。俺たちみたいになるぞ』
『むしろ、それが良いんじゃないか』
などなど、励ましから煽りまでコメントが来る。
そんなコメントの欄に一際、目を引くコメントがあった。
『だったら、文化祭の相談に加われば良いのでは? ちうさんならそれが出来るでしょう』
千雨はこのコメントを呼んで言葉に詰った。
返してきた相手は「オニ」というHNの人。
いつも、千雨の発言に一味違うコメント返す。
「っぐ。痛いこと言ってくれるな。相変わらず」
パソコンの前で苦笑いした。
このオニという人物は、他のコメントを返す者たちから嫌われている。
平日の昼間からこのサイトを見ている人間は暇を持て余した人間ばかりだ。
だからこそ真剣に悩みを聞くつもりも無い。ただ、膨大な時間のヒマを潰せれば良いと考えている人間である。
しかし、このオニは、彼らの反応とは違う、大人の意見を発言するため、『空気嫁カス』と反論される。
だが、千雨は違った。彼の発言は彼女にとって本当に返してほしいコメントだったからだ。
オニともっと会話したい。その思いで、別ページにチャットの部屋を作って彼を招待して、たまに話していた。
千雨は、チャットルームに入ると、案の定オニがいた。
★
オニ:いらっしゃい。来ると思っていたよ
ちう:こんにちは。珍しいですね。こんな時間に居るなんて
オニ:それはお互い様だよw それより、学校で嫌なことでもあったのかい?
ちう:はい。実は……。
★
千雨は今日感じたことを、脚色せずありのまま話した。
オニに対しては何故か素直になれる。
おそらく、文面から大人の気配がするからだろう。
子供に囲まれた自分にとって、唯一大人と触れ合えるこの場所が千雨は好きだった。
★
オニ:なるほど。それは君が悪い。
ちう:え、どうしてですか?
オニ:話し合いに参加せず、一方的に馬鹿にして席を立っているからだよ。君は人を子ども扱いしているが、君も充分子供だ。
ちう:私は子供じゃないです。そもそも、あの人外魔境のクラスを知らないからいえるんです。
オニ:知らずとも、反論できるよ。自分が大人だというのなら、話し合いに参加して意見を述べるべきだ。それが、大人の対応だよ。
ちう:でも、私は……。
オニ:それに、登校拒否するのはよせ。どうしても我慢できないなら、教師に相談すべきだ。すくなくとも、君よりも長く生きている。答えは出なくても参考にはなるはずだ。
★
ちうは言葉に詰った。言っていることがどこまでも正しかったからだ。一時の感情に身を任せて早退した自分が恥ずかしかった。
けれど、素直に認めることも癪だった。それが、子供っぽい態度でもゆずれない。
しばらく、黙々と考え込む。
そのため、人が入ってくるのに気がつかなかった。
「な~に、悩んでるんだ?」
「いや、ちょっと」
後ろからの声に、思わず答える。
「あれ?」
違和感を覚えて振り向くとそこには、隼人が居た。
「どわああああああああああああああああああああああ」
思い切り驚いて飛びのいた。
「いや、そんなに驚かなくても」
隼人は苦笑いする。
「ど、どっから入ってきた!」
「チャイム鳴らしても返事ないし、ドアの鍵はかかってないしで、心配して慌てて飛び込んだら、パソコンの前で考え込むお前がいたんだ」
千雨は思考に没頭して、来客に気がつかなかった。
「それでも、勝手に入ってくるなよ!!」
思い切り隼人を叩いた。
「いてて。それより、随分と悩んでたみたいだな」
「あん? アンタには関係ないね」
ツンとした態度であしらう。
「関係あるぜ~。画面見てみな。『ちう』」
にやけながら画面を指差した。
「ちょ、なんでアタシのHN知ってるんだよ」
そう言いながら、パソコンのディスプレイを見る。
チャットの画面が開いている。画面には、オニがコメントしていた。
『オニ:ふっふふ~。先生が後ろにいるだろう?』
そのコメントでピンときた。
「な、まさか!?」
慌てて振り向くと、憎たらしい笑顔で見つめる隼人がいた。手にはパソコンを持っている。
「このHN『オニ』は俺だよ~ん」
ピースサインで答えた。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」
本日二回目の悲鳴。今度は今までの恥ずかしい相談が、全て大嫌いな隼人にしていたことに耐え切れなかった。
その様子を見てこれ以上にないくらいに笑う隼人。
「ぶははははは。ネットのお前は随分と素直なのにな。リアルだとツンツン全開なんだからなぁ。良い感じのツンデレだ」
彼は感慨深げに思い出す。
「それにしても、この学校に赴任する前から閲覧していたサイトが、まさか俺のクラスメイトが運営していたとは、世の中狭いなぁ」
千雨は顔を真っ赤にして隼人を殴った。
「て、手前! そうやってアタシを影から笑ってたんだろ! そうだろ。絶対そうだ」
ポカポカと殴る。
「あの相談も、この相談も。みんな分っててやってたんだな。ちくしょ~」
「そういや、『世の中なんてつまらない。人生なんて死ぬまでの暇つぶしなのかなぁ』ていう相談もあったっけ?」
「ぎゃああああああああああああ。やめろぉおおおお」
ゴロゴロと床に転がって身悶える。
「恥ずかしすぎて死ぬ。マジで死ぬ」
隼人は心底楽しそうに笑う。
「ケケケ。随分とまぁ悩み多き少女だね。全く」
「ぐぐぐぐぅ」
彼女は親の仇を見るかのように睨んだ。
隼人はひとしきり笑うと、急に真面目な顔になって言った。
「で、学校を辞めたいってか?」
態度が急変して意表を突かれる。
「え? ああ。そうだ。学校なんてつまらないからな。別にやめても勉強は出来るし」
むすっとした表情で答えた。
その態度にため息をつく隼人。
「あのな。別に学校は勉強だけをするところじゃないぞ」
「はっ。友達作るところってか? アタシは元々一人だし、友達も必要ないね」
「たしかに友達作るところでもあるけれど、そうじゃない。学校ってのは世界を広げるためのところだ」
変わった答えが飛んできた。
千雨は怪訝そうに聞き返す。
「はぁ? 世界を広げる?」
「いいか。お前たちにとって学校は世界そのものだ。子供の世界と言い換えてもいい。お前は学校の外の世界を知ってるか?」
隼人が優しく質問してくる。
彼女は暫く考えて首を横に振った。
「そうだろう。お前たち子供は学校という世界を知っていても、それ以外の世界は知らない。けれど、人は成長するたびに世界が広がっていく。小学校、中学校、高校そして大学。順番に大きくなっていってやがて大人の世界と繋がる。だから登校拒否は世界を拒絶することなんだよ」
「子供の世界って、先生だって子供だろ。そんな大人の世界のことなんて言えんのかよ」
隼人は遠い目をして言う。
「たしかに、未だに俺も子供だ。けれど学校の外の世界を知っている。いや、正確に言おう。俺は学校の世界を知らない」
「え? それってどういうことだよ」
「俺は小学生から学校に通えなかった。それどころか、お前ぐらいの歳には戦場いたよ」
突拍子も無いことを言い出した隼人。
千雨は笑った。
「おいおい。そりゃないだろ。何の冗談だよ」
「冗談じゃないさ。見ろ」
隼人が服をめくり上げる。
彼女は目に飛び込んできた光景に言葉が詰った。
「っつ……!」
そこには無数の生々しい傷痕が刻み付けられていた。
「お前には分るか? 毎日、朝起きたら五体満足でいられることを感謝する気持ちを。刃が肉を切り裂く感触を。昨日出会った人間が、次の日バラバラになってる光景を」
服を戻して、千雨を見つめる。
「お前には分るか? 平和で笑顔が溢れる学校に通えるという幸せを」
彼女は隼人から放たれる気配に言葉を失う。
「ここまで酷くなくても、世界は厳しい。このまま学校という世界を拒否して閉じこもって、急に外の世界に出てこられると思っているのか?」
隼人は立ち上がって千雨を見下ろす。
「無理だよ。一歩踏み出した者にしか、世界は微笑まない。一歩も前に出られないお前は、今度は世界から拒絶されて野垂れ死にだ」
シーンと空気が沈む。
暫くの沈黙の後、千雨は口を開いた。
「一歩つっても、どうすればいいか分んねぇよ。どうすりゃ良いんだよ。あんなクラス、アタシは馴染めない。地味でメガネでパソコンしか世界と繋がれないアタシが、どうやって一歩を踏み出せって言うんだよ!!」
ジンワリと涙を浮かべて叫んだ。
彼女は知っていた。自分が友達も居ないただの引きこもりだと。人と話すことが出来ないから、他人を馬鹿にして拒絶していた。
隼人は座ると、フッと笑った。
「簡単だ。話しかけるしかない。別に話しかけたら殺される世界でもないだろ? 気楽にいけよ」
「いや、それが出来れば苦労はしてないよ」
「さしあたって、明日の文化祭の話し合いに参加すればいいだろ? これだけコスプレの服持ってんなら、コスプレ喫茶できるんじゃないか?」
「な、なるほど。たしかにそれはそうだ」
膨大な衣装を見つめて納得する。
「さて、お嬢さん。もう心は決まったようだな。ならば、君は君の思うとおりに頑張ればいい。んじゃ、また明日」
最後に芝居めいた口調で励まして、隼人は帰っていった。
立ち去った後の玄関を見つめて、意を決したように立ち上がる。
「よっし。やると決めたら、やるだけだ」
急いで使えそうな衣装をピックアップする作業に移った。
★
「なぁ、アニキ」
今の今までずっと、隼人のポケットに居たカモは彼に呼びかけた。
「なんだ?」
カモはポケットから出て腕を伝って肩に乗る。
「質問していいか?」
「ん? 質問?」
少し躊躇したが、カモは質問した。
「あの嬢ちゃんに話したことって本当のことなのか?」
隼人は立ち止まって、悲しそうな目をした。
しかし、それはほんの一瞬。
すぐに歩き出す。
「まさか。嘘だよ」
「なんだよ。嘘かよ。俺っちはてっきり……」
「カモ、ここで問題だ。嘘をそれっぽくするにはどうしたらいい?」
隼人はカモの言葉をさえぎって聞いてきた。
「はへ? 嘘をそれっぽく?」
暫く考えて、答えた。
「そりゃ、真実を混ぜることじゃね?」
「正解」
彼は満足したように言った。
「いくら、俺でも小学校は卒業してるよ。中学は無理だったけどな」
サラリと事実を告げる。
「え? じゃあ、アニキまさか」
「小学校の件以外は全部本当だ。お前も知ってるだろ? 『第二次人魔大戦』のことを」
「あ、そうか。アニキはあの大戦の英雄だったな」
納得したようにポンと手を叩いた。
だが、ある事実に気がつく。
「あれ? 大戦が終結したのが十四年前。んで、始まったのが大体、二十年前。アニキの歳が三十四だから、十四歳で戦ってたてことか!?」
「だから言っただろ。その歳でもう戦場に居たって」
「いや、ちょっとまってくれ。アニキは二十年前からずっと戦い通しってことか!?」
「正確に言うと、小学校六年生から刀を振り続けている」
隼人は日が傾いた空を見上げる。
「俺が経験した戦場には明日が無かった。今を生き抜くことで精一杯だからな。だから『また明日』って生徒に言うのが俺は気に入っているんだよ。戦場じゃ言えんかったからな」
そう言う隼人の横顔はとても悲しそうな顔をしていた。
「アニキ。一体何があったんだ。終結してもなお、戦い続けているのは、一体どんな理由があるんだ」
カモが不安そうに聞く。
「いつか話す。明日菜たちにもそろそろ話さないといけないと思ってるからな」
隼人はカモの顔を見る。
「だからそれまで待ってくれ。俺も整理したいんでな」
「分った。絶対に話してくれ。約束だぜ」
「ああ。モチロンだ」
力強く頷いて、隼人は学園に戻った。
彼の過去が明かされる日は近い。
つづく