完全オリジナルで展開します。
暫くの間お付き合い下さい。
宜しくお願いします。
第二十六話「隼人の過去。全ての始まり」
文化祭が二週間後に控えたある日。今日も今日とて、エヴァの別荘で明日菜達は自らを鍛えていた。
「やぁっ」
気合と共にハリセンが鋭く振り下ろされる。
刹那が木刀で受け止めた。
すると、そのまま明日菜は踏み込んだ足を軸に、蹴りを繰り出す。
「そうです、明日菜さん。貴方は身体能力が高い。体術で上手く相手をけん制して、剣術を叩き込むんです」
後ろに下がって、間合いを空ける。
「今だ」
さらに刹那に踏み込んで、明日菜はハリセンを横に振るった。
「甘いっ!」
木刀を上に切り上げて、ハリセンを叩き落とす。
「げっ」
明日菜は焦った。が、時すでに遅かった。
「神鳴流【イカズチ】」
返す刀で振り下ろしを極める。
「ひゃっ」
思わず目をつぶる明日菜。
刹那は直撃の瞬間に止めて、木刀を下げた。
「もう少し、鍛える余地がありますね」
彼女はにっこりと笑った。
「とほほ。上手くいったと思ったんだけどなぁ」
そんな悔しがる明日菜と、アドバイスする刹那が訓練する場所の片隅で、夕映は咒式の練習をしていた。
咒式に必要な魔杖剣と呼ばれる特殊な剣を確認する。それは鍔の部分に引き金と赤い宝珠が付いた、刃渡り802ミリメートルの剣だ。
夕映は咒弾と呼ばれる触媒を剣の柄のマガジンに装填する。
「え~と、まず咒印組成式を思い浮かべて、それを演算装置の付いた魔杖剣で計算させる」
教科書に描かれた基本組成式を見ながら頭に思い浮かべて、手にした魔杖剣『思考する者ヴォルケイン』の柄を握る。
すると、魔杖剣に装着された赤色の宝珠が光り輝いて演算が開始される。
「次に、自分の体に流れる咒力を感じてそれを組成式と組み込むイメージを浮かべる。なになに、ポイントは世界の法則を理解しつつ書き換えるイメージをすると上手くいく」
書き込まれた書類を消して、書き換えるようなイメージを思い浮かべて、咒力を感知。頭の中で組成式に流し込むような感覚で、剣の柄を強く握り締める。
剣先が光り輝いて魔法陣のような組成式が思考世界から現実世界へ展開する。
「そして、思い切り引き金を引く!」
人差し指にかけた引き金を引いた。
バリバリと電撃を発して、夕映の前に銀色に輝く鉄の輪が生成された。
震える手で出来立ての鉄の輪を手に取る。
「や、やったです! 成功したです!」
飛び上がってガッツポーズ。
「すごい。夕映!」
「おめでと~」
練習を見学していたハルナとのどかは手を叩いて喜ぶ。
「エヴァさんの城で四ヶ月間、ひたすら基礎を叩き込んでようやく出来たです」
彼女は小躍りして喜びを表す。
「しっかし、まさか四ヶ月でここまでこぎ着けるとはな。人間どこに秀でているかわからんもんだ」
エヴァも珍しく褒めた。
もちろん才能だけではない。夕映は咒式を学ぶことを決意してから、エヴァの城に通い続け、休む間も惜しんで練習した。それは努力のなせる業。高速で思考出来る夕映の特技と相まって初めてやってのけることが出来たのだった。
夕映は教科書を読み進める。
「たしか、出来た輪っかで得意系統が決まるです」
興奮して教科書の記述と鉄の輪を見比べる。
「どうなの? 夕映?」
ハルナが興味津々に聞いてくる。
「どうやら、私は『化学練成系咒式』がメイン系統で派生系統が『化学鋼成系』と『電磁雷撃系』のようです」
「それって、どういうものなの?」
のどかは教科書を覗き込んだ。
「化学練成系は爆薬や毒ガスなど化学物質を生成するタイプです。そして化学鋼成系は金属を生成したり変形させたりできるタイプ。電磁雷撃系は電撃を使役するタイプです」
夕映は二人に説明した。
「なるほど、ということは遠距離タイプの咒式士というわけだ」
エヴァは合点がいったように頷いた。
「エヴァさんの別荘に泊まりこんで訓練した甲斐があったです」
「そのために歳を取らない魔法具を貸してやったんだ。感謝しろ」
エヴァはふんぞり返った。
「はい。ありがとうです。ここまで来たら、あとは組成式を覚えて、咒力を高める訓練して、発動実験を繰り返していくだけです」
「咒力と魔杖剣そして触媒の咒弾さえあれば、誰でも使えるのが咒式の利点だからな」
その話を聞いてハルナは首をかしげた。
「あれ? じゃあなんで使い手が少ないの?」
エヴァは彼女に解説する。
「魔法と違ってそこまで普及している技術じゃない。また、科学の力を利用する点が魔法使いにとって嫌われる一因になっている」
「へぇ~なるほど」
「さぁ。どんどん頑張って咒式を覚えるです」
夕映はヤル気満々だった。
そんな和やかな練習風景とは間逆の光景が、彼女たちの近くで展開されていた。
「むん!」
楓は空中に飛び上がり、無数のクナイを投げて隼人に攻撃する。
「でぃやっ」
隼人は木刀を振り回して、全てを叩き落とし跳躍。
楓に強襲して木刀を横薙ぎに振る。
直撃した瞬間、楓の体が煙と共に消失した。
「げっ、分身か」
背後から闘気を察知。
「せいっ」
楓は背中に強烈な拳を見舞う。
隼人は殴られて地面に落ちる。
地面に激突する前に、体を捻って着地。
しかし、狙ったかのようにくーふぇが構えていた。
「ふぅぅぅぅぅぅぅ」
大きく息を吐き、拳に気を集中させる。
「はあああああああああっ」
裂帛の気合、地面を踏み砕いて、落ちてきた隼人を攻撃する。
爆音と共に隼人は吹っ飛ばされて、壁に激突。
「よしっ。やったアル」
くーふぇは勝ちを確信する。
「だれが、やったって?」
どこからともなく声が聞こえた。
その声が聞こえた瞬間に、くーふぇの体は回転しながら空中に放り出されていた。
「へ!?」
キリモミ回転しながら、明日菜たちの練習場所まで吹っ飛んだ。
「くーふぇ!」
楓が叫ぶ。すると、後ろから声が聞こえた。
「相手の心配してる場合じゃないぞ」
とっさに振り向いて牽制するが、隼人はそこには居ない。
「正面だよ」
隼人は木刀を彼女に叩き込み、夕映たちの練習場所まで吹っ飛ばした。
彼は構えを解くと、木刀を肩に乗せる。
「まだまだ、甘いな」
「むむ~。やっぱり強いアル」
くーふぇは頭から血を噴出して、起き上がる。
「ちょ、くーふぇ大丈夫?」
その様子をみて明日菜は心配する。
「あいたたた。やはり、一瞬の判断が命取りでござるな」
楓はふらつきながらも立ち上がった。
「派手に吹っ飛んだわね」
ハルナが呆れた声をだす。
「ふぅ。じゃあ少し休憩しよう」
隼人は全員に呼びかけた。
★
呼びかけに応じて、全員集まった。
いそいそと茶々丸と和美がタオルや飲み物を運んでくる。
「それにしても、楓やくーふぇはともかく、明日菜まで訓練しだすとはな」
隼人はタオルで汗を拭きながら言う。
「いや、だって皆強いじゃない。だからそれに影響されて私も鍛えようかなって」
「ふ~ん。ま、体を動かすのはいいことだ。見た感じ筋は良いし、案外、武道家としてやっていけるかもな」
「そ、そんな。私はただ必死なだけよ。だって、私はアンタのパートナーでしょ。だからいつでも役に立てるようにしておきたいだけよ」
照れるように頭をかく。
その言葉を受けてハルナたちも頷いた。
「そーそー。私たちの唇を奪ったんだから責任取ってよね」
「そういや、仮契約したヤツは六人か。随分とやったもんだ。このロリコン」
エヴァがいやらしい笑みを浮かべてからかった。
「だれが、ロリコンだ!! まったく。……そうかパートナーか」
エヴァのからかいに反論しつつ、悲しそうな顔をする。
「あの、先生どうしたです」
不思議そうに夕映は首をかしげた。
「いや、昔の事を思い出してな」
「昔のこと?」
「ああ、昔もこうやって仲間と過ごしたっけ」
思い出すように空を見上げる。
「アニキ。ちょうど皆そろってるし、過去に何があったか教えてくれないか?」
遠慮しがちにカモが言った。
「ん? ああ、そうだな。丁度良い機会か」
「え、なになに? 先生の過去? うは~それは気になるなぁ」
和美は急いで懐からメモ帳をとりだす。
「う~ん。話すにしても長いしな。それに下手すりゃオッサンの不幸自慢になってしまうし」
暫く熟考して、結論をだした。
「よし、あの手を使うか。お前ら、ちょっと中庭に行こう」
立ち上がって中庭に向かう。
隼人はポケットからチョークを取り出して、地面に魔方陣を描いた。
「隼人、これなに?」
木乃香が興味津々に聞いてくる。
「これは、あらゆる記憶を組み合わせて、過去を再現する魔法だ。それをお前たちに見せる」
その言葉にエヴァは驚いた。
「まて、それは【回想の劇場】か?」
「ああ、そうだ」
隼人は頷く。
エヴァは察するように言った。
「なるほど。不老というのはそういうわけか」
「え? どういうこと?」
明日菜達の頭に疑問符が浮かぶ。
「この魔法は『時間の女神』と契約した人間だけが使える魔法なのさ。ま、その辺もこの劇場を見ればわかるよ」
隼人は呪文を書き終えると、魔方陣の中心に立った。
「じゃあ、この魔方陣に入ってくれ」
皆ぞろぞろと魔方陣に入る。
「今から見せる過去は、中学生のお前たちにはキツイかもしれない。だが、今後、俺のパートナーとして付いてきてくれるのなら知っておいて欲しい。そして、この魔法の世界に足を踏み入れるべきか否かを見極めてほしい」
そう前置きして、全員の顔を見回す。
隼人の顔を非常に険しく、そして重々しかった。
その雰囲気を感じて皆、無言で頷く。
「よし、では、行くぞ。まずは俺がこの魔法の世界に足を踏み入れた事件から見ようか」
魔方陣が起動する。
「ラス・テル マ・スキル マギステル。過去、現在、未来をつかさどる女神よ。我、煉城隼人を中心とした記憶の記録を呼び覚まし、円に集いし者達を過去へと誘え……」
朗々と歌うように呪文を唱える。
「開け【回想の劇場】!!」
鋭く叫ぶと魔法陣が光り輝き、全員を記憶の世界へと誘った。
★
19XX年。八月九日。奈良県のとある川原。
真夏の太陽がさんさんと降り注ぎ、森からはセミの大合唱。川はキラキラと光っている。夏休み真っ盛りだからか、川原は親子連れや大学生の集団で賑わっていた。
時刻は昼前。あちこちで昼食の準備が進められていた。
そんな賑やかな場所で遊んでいる少年が居た。歳は背格好から12歳ぐらいだろうか。
少年は川原に落ちている平たい石を拾い上げる。
「うりゃ、水切り!」
川にめがけて投げて水切りで遊んでいた。
「う~ん。三回か」
自分としてはもう少しいけたはずだった。
「お~い、隼人。遊んでないでこっちを手伝え」
近くにいた父親が隼人に呼びかけた。
「は~い。ちょっとまって、トイレ行ってくる」
離れたところにある駐車場のトイレまでダッシュでかけて行った。
駐車場には車が止まっているだけで誰もおらず、セミの声しか聞こえない。
「夏だなぁ。こういう静かなところってなんか良いな」
そんな独り言を言いつつ、用を済ませて川原に戻ろうとした。だが、なにか違和感がした。
「ん、なんだろ? なにか騒がしいような?」
首をかしげながらも川原に戻るために駆けていく。
そのとき隼人は気がついていなかった。駐車場には誰も居ないわけではない。死角になって気がついていなかっただけで、たしかに人はいた。そう、ズタズタに切り裂かれて死んでいる人が。
川原に戻った隼人は言葉を失った。
今の今まで、騒いでいた人たちが皆、血だらけになって死んでいる。
慌てて、近くいた人を確認する。
物言わぬ、光を失った瞳がただ、天を見つめていた。
腰を抜かして、後ずさりする。わけもわからず、涙がこみ上げてくる。
「うああああああああああああああ!!!」
泣きながら、急いで走る。
川原のあちこちで死体が転がっている。その中を全力で走る。
「お父さん!! お母さん!!」
叫びながら両親の元へ戻ってきた。
が、そこに居たのは親だけではなかった。
「ぐるうるるるるるうううううう」
引きちぎられた母親の首を咥えながら、振り向いたのは青い体毛をした怪物。二本の鋭い角が頭から生え、背中からは禍々しい翼が生えている。それは悪魔だった。
「ひっ」
それも一体ではなかった。
父親の腕を取りながら、見つめてきたのは黄色い体毛をした怪物。同じく角が生えて背中には翼がある。
「隼人! 逃げろ!!!」
必死の形相で父親が叫ぶ。
「あ、ああ、あああああ」
震えて動けない。
ニタァっと青い悪魔が笑う。咥えていた首を落として、隼人に襲い掛かった。
「ぐろおおおおおおおおおおおおおおお」
思わず目をつぶった。
「【魔法の射手】!!」
青い悪魔が爆発して吹っ飛ぶ。
「隼人! 逃げろ!! 走れええええええええええええ」
父親は力一杯叫んで、黄色い悪魔の拘束を振りほどき投げ飛ばす。
隼人は弾かれたかのように逃げ出した。
「ごおおおおおおおおおおおおおおおおおん」
背後から、青い悪魔が怒り狂う雄叫びが聞こえる。
「来い、悪魔! 息子には指一本触れさせんぞ」
父の怒号が聞こえた。
隼人は無我夢中に走る。走る。走る。
顔をグシャグシャにしてひた走る。
どれだけ走っただろう。息が切れてへたり込む。
「はぁ、はぁ、はぁ」
息を整えて、落ち着こうとした。
急に、空からなにか落ちてくる。
道に転がったそれは父親の首だった。
「お、お父さん」
「ケケケケケケケケケケケケケケケケ」
甲高い高笑いと共に二体の悪魔が降りてきた。
「あ、あああ、ああああ」
失禁し、言葉も出ず、体は動かなかった。
黄色い悪魔が腕を振り上げる。
「ケケェエエエエエエエ」
一瞬で切り裂かれるかと思われたそのとき、凛とした声が響いた。
「流派・花鳥風月 鳥の章【鳥羽針】!!」
無数の羽根が悪魔たちに飛んでくる。
慌てて飛びのく悪魔たち。
「ふん。闇の世界から来た愚か者どもよ。随分と暴れまわったようだね」
隼人は羽根が飛んできた方向をみる。
そこには髪をポニーテールに結んだ黒髪の女性が立っていた。歳は高校生くらいだろうか。腰には三本の刀を差し、その三本は赤、青、黄の色をした鞘だった。赤い鞘の刀は抜かれて女性の手に握られている。
女性の鋭い目が悪魔たちを射抜く。
「ぎ、ぎぎぎぎ」
その威圧に圧倒されたのか悪魔たちは逃げ出した。
「ふん。アレは他の魔法使いに任せるか」
刀を鞘に戻して、隼人に近づいた。
「大丈夫かい? 少年」
柔らかい笑顔で隼人に微笑みかけた。
隼人は言葉が出ず、ただ、彼女を見つめていた。
彼女はしゃがみ込むと、隼人をそっと抱きしめる。
「すまない。私たちが遅れたばかりに。でももう大丈夫だよ」
優しい鈴のような綺麗な声。
「あ、ううううああああああああああああああああああん」
そこで、始めて隼人は叫び泣いた。
彼女は隼人をあやすように背中をポンポンと叩く。
ひとしきり泣いたあと、隼人は彼女に連れられて、大きなテントが張られた場所につれてこられた。
あわただしく、人が行きかっている。
「敵の動向はどうだ?」
「生存者を確かめろ!」
「こっちに治癒術者を呼んでくれ」
声が飛び交うなか、髭を蓄えた老人が二人の下へ走ってくる。
「生存者か!?」
女性は頷く。
「ああそうだ。え~っと、少年の名前は?」
「え? 煉城隼人です」
「煉城? では、あの煉城君の息子かの」
髭の老人は驚いた。
「そうか、少年の名前は隼人か。私の名前は
桜咲都子と名乗った女性はフッと笑う。
「近衛ジジィ。この子を頼む。私はまだ生存者がいるか確かめてくる」
隼人は駆け出そうとした彼女の裾を掴む。
「い、行かないで!!」
不安と恐怖をない交ぜにしたような顔で訴える。
「いや、しかし私は」
「いいよ、ワシが行こう。お前さんはこの子の傍にいてやれ」
そういって、老人は去っていった。
「やれやれ、しょうがない。じゃあとりあえず、着替えようか。漏らししたままのパンツじゃダメだろう」
都子は隼人を連れて着替えに行った。
これが隼人が体験した最初の事件であり、全ての始まりだった。
つづく