魔法教師はやト!   作:沖彦也

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過去編です。
今回は詠春が登場しています。この当時は結婚してないので苗字が違います。
旧姓が良くわからなかったので、ラブひなの青山素子と同じ青山家にしてみました。

よろしくお願いします。


第二十八話「互いに強くなる! 詠春との出会い」

 19XX年。八月。隼人は十四歳になっていた。

 

 修行の一環として魔物退治を引き受け、毎日が充実した日々だった。

 

 悠馬とケンカして、菫にからかわれて、師匠に鍛えてもらって。日増しに隼人は強くなっていった。

 

 そんな夏のある日。

 

 

★

 

 

 鬼の鳴き声が聞こえる。それは一体ではなく複数いるようだ。

 

 ここは京都の某所。森の中。大小様々な鬼が鋭い目に殺気を宿して、ある少年を睨んでいる。

 

 長身でスラリとした体形。メガネをかけている。歳は十六歳くらいだろうか。手には大業物の太刀を握っていた。

 

 少年の名は青山詠春(あおやま えいしゅん)。後に関西呪術協会の長となる男だ。

 

 詠春は毅然とした態度で鬼達と対峙している。だが、その体からは血が流れて息が荒い。

 

 一匹の鬼が口を開く。

 

「もう諦めたらどうだ。その体で我々に勝てるとでも思っているのか?」

 

 詠春は口の端を歪めて不敵に笑った。

 

「勝てなくても勝つ。貴様ら鞍馬童子(くらまどうじ)一派と一族の因縁。ここで断つ!」

 

 命を懸けた宣言。

 

 詠春が、鬼達が、同時に動く。

 

 互いの必殺の間合いに入る瞬間。

 

「ちょおおおおおっと待ったああああああああああ」

 

 威勢の良い声が森に響く。

 

 両者の間に黒い影が割って入り、地面を踏み砕き粉塵が上がる。

 

「なんだ!」

 

 鬼達が驚いて立ち止まる。

 

 濛々と立ち込める粉塵が晴れて、現れたのは刀を携えた少年。

 

「あなたは煉城隼人」

 

 詠春は乱入した少年の名前を言った。

 

「よう。詠春。間に合ったようだな」

 

 隼人は軽く跳ぶと詠春の隣に立つ。

 

 詠春は険しい顔をして怒鳴った。

 

「何しに来たんですか! 来るなと言ったでしょう。この争いは貴方達に関係ない!」

 

 拒絶の叫び。

 

 だが、隼人はどこ吹く風で答えた。

 

「仕事だ。鞍馬童子が率いる鬼どもを討伐しろってな」

 

 隼人は刀を引き抜いて鬼に向けた。

 

 鬼達は何故か動かない。否、全員が動けなかった。不安と恐怖の表情が張り付いている。

 

 詠春は隼人の言葉に戸惑う。

 

「仕事って、いったい誰が」

 

「近衛のジジイだ。詠春」

 

 女性の声が後ろから聞こえた。

 

 ポニーテールに髪を結んだ凛とした女性。桜咲都子だった。

 

 彼女の両脇には悠馬と菫もいた。

 

「近衛のジジイが依頼してきた。未来の婿殿が死ぬは困るそうだ」

 

 都子は三本の刀の内、赤い刀【煉獄】を抜刀する。

 

「そうそう。詠春さんも意地張らないで素直になろうよ」

 

 菫が笑いながら抜刀。

 

「はん。テメェの因縁なんざ知ったこっちゃねぇ。だがよ、テメェにゃまだ勝ってねぇんだ。ここで死なれると困るんだよ」

 

 悪態をつきながら悠馬も抜刀する。

 

「というわけで、遠慮せずに共闘だ」

 

 隼人は詠春の肩を叩く。

 

「みなさん……。ありがとうございます」

 

 詠春は吹っ切った顔で刀を構えた。

 

「この雑魚共は私が引き受ける。お前達は詠春のために道を作れ」

 

 都子が指示を飛ばす。

 

「詠春。青山家の因縁はお前が片をつけろ。お前ならできる」

 

「はい。勝ちます。必ず」

 

 先ほどの決死の覚悟とは違い、未来を見据えた力強い決意。

 

 都子はその決意に満足そうに頷くと告げた。

 

「では、待たせたな。鬼共。そろそろ動いてもいいぞ」

 

 体が自由になり鬼達はざわついた。

 

 鬼達が動けなかったのは、都子の殺気に中てられて金縛りにあっていたからだった。

 

「往くぞ。お前達!」

 

「「「「応っ!」」」」

 

 全員が鬼に向かって駆け出した。

 

 出鼻をくじかれた鬼達も慌てて応戦する。

 

「月の章【月面殴弾(げつめんおうだん)】!」

 

 都子が刀を振るうと、空から無数の岩が落ちてきて地面に着弾。鬼達を押しつぶしていく。辺りは月面のようなクレーターが出来た。

 

 鬼達が怯えて悲鳴を上げる。

 

「逃げられると思うなよ。そらそら!」

 

 【月光焼閃(げっこうしょうせん)】【月下氷刃(げっかひょうじん)】【千乗三日月(せんじょうみかづき)】【かぐや姫】

 

 次々と月の章の技を出して鬼達を圧倒していく。

 

 その隙に、隼人達は走り去り森の奥を目指す。

 

 森のあちこちから鬼が現れる。

 

「邪魔だあああああああああ」

 

 悠馬が先陣を切って鬼に襲い掛かる。

 

 一角鬼を切り伏せて、返す刀でもう一体の鬼を斬る。

 

「鳥の章【鳥羽針(ちょううしん)】」

 

 刀を振るって悠馬は技を発動。

 

 無数の鳥羽が針状になって鬼に突き刺さる。

 

 悠馬の使用する章は「鳥」だ。

 

「私もっ」

 

 菫は右に集まる鬼の集団に向かって刃を振るう。

 

「風の章【風刃閃】」

 

 風の刃が飛んでいき、一体に着弾。体が上下に切り分けられた。

 

 菫は疾風のように木々を縫って、鬼達に肉薄する。

 

「風の章【竜巻昇天】」

 

 刀の切先から竜巻が吹き起こり強烈な烈風が鬼達を巻き上げた。

 

 菫は「風の章」の使い手だ。

 

「道は開いたよ。隼人、詠春さん!」

 

 隼人と詠春はさらに森の奥へと駆けていく。

 

 鬼達が上空から降りてきて立ちふさがる。

 

「詠春、止まるなよ」

 

 隼人は詠春の前に出ると、刀に気を込める。

 

「花の章【花道驀進(はなみちばくしん)】!」

 

 振るった刃が花びらを放ち、穿孔するような衝撃波を放つ。

 

 鬼達の体に穴が開き、花びらが舞う道を作る。

 

 隼人がこの当時、使っていたのは「花の章」だった。

 

「往け! この先だ!」

 

「承知!」

 

 詠春はトップスピードで突撃して鬼の本陣にたどり着く。

 

 本陣に座っていたのは身長五メートル。五本角の大鬼。その名も鞍馬童子。

 

 鞍馬童子は立ち上がって大鉈を担ぐ。

 

「鞍馬あああああああああああああ」

 

 詠春の怒号が響く。勢いを殺さずそのまま突進。

 

「ぶははははは。青山の小童。死ぬがよい」

 

 思い切り振り下ろした鉈が詠春に襲い掛かる。

 

 瞬間。詠春の姿が掻き消えた。

 

「む!?」

 

 雷速のような足さばきで鞍馬童子の横へと移動。鉈の一撃を回避。

 

「神鳴流奥義【雷光剣】!」

 

 雷の煌めきが刃に宿って鞍馬童子を一閃。

 

 しかし、鞍馬童子が身に着けていた鎧が攻撃を弾いて防ぐ。

 

「がああああああ!」

 

 衝撃は伝わったが堪えて鞍馬童子は一撃を見舞う。

 

「くぅっ」

 

 体を無理に捻って回避。鉈が肩口をかすって肉を削ぐ。

 

 互いに間合いが開く。

 

「くかか。弱し、弱し」

 

 顎を撫でて鞍馬童子は嗤う。

 

 詠春は削げた傷口に治癒の呪符を張って応急処置。だが、体が動かない。隼人達が来るまでに受けたダメージが動きを鈍らす。

 

「動け、動いてくれ!」

 

「無駄だ。貴様も先祖と同じく挽肉になれぃ」

 

 鞍馬童子が野太い声で宣言して、詠春に向かって突撃。

 

 だが、自分の横側から衝撃。

 

「風の章【突風陣】」

 

 追いついた菫が、衝撃波を放って攻撃。

 

「小娘が、舐めるなぁ!」

 

 衝撃で体勢が崩れるが大足で踏ん張る。

 

「なら、これでどうだ?」

 

 背後から声。

 

 童子の腹から刃が生えた。

 

「鳥の章【啄木鳥一衝(きつつきいっしょう)】」

 

 悠馬が後ろから刀を突き立てた。

 

「つづけて、鳥の章【抉り喰い】」

 

 刀を捻って抉り引き抜き後退。

 

 鮮血が鬼から噴き出す。

 

「馬鹿めが。穴を空けたくらいで良い気になるな!」

 

 鞍馬童子は歯を剥きだして吠える。

 

「いや、それでいい」

 

 隼人が正面から現れて、空けた穴に刺突を繰り出す。

 

「花の章【萌芽爆春(ほうがばくしゅん)】」

 

「何をやっているのだ? 小童、がっ……?」

 

 自身の体に違和感。体の内側から何かが這いまわる。

 

「き、さ、ま!」

 

 苦悶の表情で鞍馬童子は隼人を見る。

 

「咲け、花々よ」

 

 隼人の言葉で鞍馬童子の全身から芽が出て色とりどりの花が咲く。

 

「か、か、か、か、か」

 

 最早、言葉にならない。花はいよいよ盛り、鎧を砕いて咲き乱れる。

 

「いまだ! 詠春!!」

 

 隼人の言葉が詠春の体を動かす。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 渾身の力を振り絞って刃に気を込める。

 

「これで終わりだああああああああああああああ」

 

 神鳴流【雷光剣】の軌跡が走った。

 

 雷鳴が轟き、雷が鞍馬童子の体を貫き、電熱が焼いていく。

 

「ぐぎゃああああああああああああああああああああああああ」

 

 断末魔が辺りに響き、鞍馬童子は崩れていった。

 

 雷鳴が遠くの空へと消えていく。

 

 詠春は膝から崩れ落ちた。

 

「詠春!」

 

 隼人が駆け寄って抱きかかえる。

 

「おい、大丈夫か」

 

「はは、は。やりましたよ。私は一族の因縁を断ち切った」

 

 小さく、だが力強く言う。

 

「ああ! 凄い一撃だった」

 

 隼人は頷く。

 

 鞍馬童子が死んで、配下の鬼達は三々五々に逃げていく。

 

「残党は他の人間に任せるか」

 

「そうだね」

 

 悠馬と菫は逃げていく鬼達を見て言う。

 

 ところが、空から岩の雨が降り注ぎ、残っていた鬼達は全滅していく。

 

「あれは、師匠の技か」

 

「他の人に任せる必要なさそうだな」

 

 隼人と悠馬は逃げていく鬼達が少しだけ可哀想になった。

 

「よう、お前達。良くやったね。お疲れさん」

 

 都子が涼しい顔でやってきた。

 

「師匠。なんで無傷なんですか」

 

 隼人は呆れた。

 

 詠春は言わずもがな。隼人、悠馬、菫も傷だらけだった。鬼達より強くても流石にダメージを負っていた。

 

 だが、都子は全くの無傷。信じられない光景だった。

 

「鍛え方が違うんだ。あの程度の雑魚共は相手にならん。それに最初の【月面殴弾】であらかた片付いていたからな」

 

「貴方達のお師匠は何とも規格外ですね」

 

 詠春が疲れたようにため息をついた。

 

 

★

 

 

 桜咲邸。客間。

 

 詠春は先の戦いの礼をするために訪れていた。

 

「本当助かりました。私一人では決して勝てなかったでしょう。一族を代表して感謝します」

 

 深々とお辞儀する。

 

「別にいい。青山家の呪いはこれで断ち切れた。お前もこれで晴れて自由の身だ。これから益々精進すると良い」

 

 都子は穏やかに言う。

 

「はい。そのつもりです。隼人。貴方にも礼を言いたい」

 

「俺?」

 

 都子の隣に座っていた隼人が不思議そうな顔をする。

 

「鬼の集団に追い詰められたとき、真っ先に駆け付けてくれた。きっと貴方が来てくれなければ死んでいたでしょう。この恩は決して忘れはしない」

 

 真っ直ぐな瞳で隼人に言った。

 

 隼人は照れくさそうに頭を掻く。

 

「どのみち悪魔と親交のあった鞍馬童子は俺の獲物だった。お前が戦わなくても、俺が殺していた」

 

「近右衛門様から聞きました。ご両親を悪魔に殺されたと」

 

「ああ。だから俺は悪魔が許せない。人々を苦しめる魔物も許せない」

 

 詠春は頷く。

 

「はい。私も同じ気持ちです」

 

 都子は険しい顔で言う。

 

「悪魔は日増しに侵攻してきている。既に魔法界では悪魔との大規模戦闘も起こっていると聞く。もうすぐ全面戦争に突入するだろう」

 

 隼人と詠春も同意する。

 

「ああ、だからこそ俺はもっと強くなる。連中に好き勝手させるわけにはいかない」

 

「強くなりましょう。隼人。私と貴方、そして悠馬君や菫さんとならばきっと悪魔にだって勝てる」

 

「おう」

 

 互いに拳を合わせて誓う。

 

 都子はその光景に微笑むと立ち上がった。

 

「さてと、それじゃ道場にでも行って鍛えてきな。もうすぐ悠馬と菫もロードワークから帰ってくるだろう」

 

「あれ? 師匠はどうするんですか?」

 

「私はちょっと墓参りに行ってくるよ」

 

 そういうとさっさと出て行った。

 

「ちょうどお盆ですし、色々とあるんでしょうね」

 

「うーん。師匠の過去ってイマイチ知らないんだよなぁ。尋ねても答えてくれないっていうか、黙っているって言うか」

 

「人には触れられたくない事もありますよ」

 

「ま、それもそうだな。よし、じゃあ詠春、相手してくれ」

 

「ええ、望むところです」

 

 二人は連れ立って道場へと向かった。

 

 そして、その夜の事である。

 

 隼人は蒸し暑さになかなか眠れず、部屋を出た。

 

 草木も眠る丑三つ時。月が煌々と輝く静かな夜だった。

 

「あれ? 師匠まだ寝てないのかな」

 

 都子の部屋の明かりが点いていた。気になったので部屋の前まで行ってみた。

 

 隙間が開いている。中を覗いてみた。

 

「!?」

 

 都子が写真を眺めて泣いていた。

 

 隼人は驚いて、部屋に転がり込んだ。

 

「師匠! どうしたんですか!?」

 

「うわ、隼人。ノックぐらいしろ!!」

 

 都子は彼の頭を叩いた。

 

「いや、だって、師匠が泣いているから驚いて」

 

 心配そうに都子を見る。

 

 少し恥ずかしそうに頬掻いて、都子はため息をついた。

 

「やれやれ、油断した。恥ずかしいところを見られた」

 

「師匠、一体、どうしたんですか?」

 

 もう一度聞く。今度は答えてくれた。

 

「写真を見ていたんだよ」

 

「写真?」

 

 差し出された写真を見た。古びた写真には都子と、白金の髪をした外国人の男が写っていた。二人とも幸せそうに笑っている。

 

「ここに写っているのは、大好きだった、私の大切な人さ」

 

「大好き”だった”って、もしかして」

 

 都子は頷いた。

 

「ああ、そうだ。二十年前に死んだ」

 

「え!? 二十年前? でも、師匠全く年取ってないような」

 

 隼人は、写真と今の姿を見比べて首をかしげた。

 

「そりゃそうだよ。私は二十年前から歳を取らなくなった」

 

 衝撃発言。隼人は唖然とした。

 

「な、なんで、そんなことに」

 

「そろそろ話す時期かもしれないね、私の過去を」

 

 写真を返してもらって、座りなおす。

 

 語りだした過去は、悲しい物語だった。

 

 

★

 

 

「私は昔、魔物退治の専門家だった。凶悪な魔物との戦いに明け暮れる日々。やれ子供を殺しただの、やれ人を食っただのと、そんなえげつない魔物と戦っていた私の心は荒んでいった」

 

 都子の瞳が過去を見つめる。

 

「でも、そんなある日、私の前に現われたのはあの人だった。あの人の名前は『ヴェルガ・アルスター』。イギリスから来た西洋魔術の使い手で、日本には東洋呪術を勉強しに来ていた」

 

 写真を愛おしそうに撫でた。

 

「当時、抜き身の刀のようにギラついていた私は、いつも一人だった。でも、そんな私に話しかけてきたのが彼だった。どんなに冷たくあしらっても話しかけてくる。孤独だった私はそれが嬉しかった」

 

「師匠にそんな時代があったんですね」

 

 隼人は軽く衝撃だった。

 

「私だって若いころはあるんだよ。お前が昔の私を見たら泣き出すだろうね。四六時中殺気を振りまいていたし」

 

 苦笑いして言う。

 

「話を戻そう。彼とはどんな時でも一緒だった。戦いのときも、鍛えている時も、休んでいる時も。私の隣にはいつも彼がいて、それが当たり前になっていた。荒れていた私の心もやがて穏やかになっていて、彼に惹かれていった」

 

「なんだか、良い男過ぎて腹立つな」

 

 隼人の嫉妬に都子は笑う。

 

「ふふふ。そりゃあ良い男だった。好きだった。人をあれだけ愛したのは初めてだったよ。しかし、そんな幸せは長く続かなかった」

 

 都子の目に暗い光が宿る。

 

「あるとき、魔界から悪魔を召喚して、世を転覆させようとするテロ組織の情報を掴んだ。私と彼はすぐさま敵組織の召喚場に乗り込んで戦った。けれど、召喚は成功。現れたのは上位悪魔だった。召喚したテロ組織の人間は悪魔の暴走で全滅。悪魔は、当時の私たちでは手に負えない強さだった。正直、私は死を覚悟した。だけど、彼が私を庇って死に、悪魔は逃走。結局生き残ったのは私だけ」

 

 隼人は言うべき言葉を失った。

 

 都子はさらに続ける。

 

「私の全てだったあの人が死んでしまった。私は生涯かけて、彼を殺した悪魔を殺すことにした。そのために、体の時を止める「不老の呪い」を使って、私は歳を取らなくなった」

 

 

★

 

 

 長々と語り終える。

 

「丁度今日が、あの人の命日。だから写真を見ていると少し懐かしくなってね」

 

 本当に懐かしむように写真を抱きしめる。

 

「我ながらバカな女だよ。こんな復讐をしてもあの人は帰ってこない。あの人もきっと呆れてるよ」

 

「師匠……」

 

 隼人は都子の話を聞いて、自分と境遇が似ていることに気がついた。

 

 それをしっかりと理解したうえでこう言った。

 

「たしかに、自分に呪いをかけるなんてバカな行為だと思います。でも、師匠はその人のことが、今でも大好きなんでしょ?」

 

「ああ、大好きだ。愛している。あの人は、戦うだけしかなかった機械みたいな私に、心を与えてくれた。笑顔と恋を教えてくれた。あの人だけはどんなことがあっても忘れない」

 

 その答えを聞き、隼人はにっこりと笑う。

 

「だったら、良いと思います。だって、それだけ大好きで、今でも思い続けられるならきっと、死んだヴェルガさんも喜んでると思います。だって、人をそこまで一生愛し続けられるなんて素敵だと思うから」

 

 どこまでも純粋で真直ぐな瞳。都子は少し救われた気分になった。

 

「ふん。子供に慰められるなんて腹立つが、でもありがとう」

 

 彼女は隼人の頭を撫でた。

 

「それにしても、師匠に心を与えた人か。生きてたら一度会ってみたかったなぁ」

 

「そうだね。私もあんた達を紹介したかったよ。自慢の馬鹿弟子だって」

 

「馬鹿は要らないと思います」

 

「おや、馬鹿に馬鹿と言って何が悪い?」

 

「むぅ、ヒドイですよっ!」

 

 ぶぅと頬を膨らまして文句を言う。

 

「それで、その悪魔は倒せたんですか?」

 

 隼人は質問した。

 

「ああ、おかげさまでね。打ち倒せた」

 

「そっか、それならきっとヴェルガさんも浮かばれています」

 

「ああ。でもこれで終わればよかったんだけどね」

 

 都子は深いため息をつく。

 

「まだ何かあるんですか?」

 

「いや、これはお前が心配することじゃないよ。それより早く寝ろ」

 

「はい。おやすみなさい」

 

「ああ、おやすみ」

 

 隼人は都子の部屋を出て自室に戻った。

 

 都子は写真に語りかける。

 

「私はきっと勝ってみせるよ。ヴェルガ、私を見守っていてくれ」

 

 それは一体何の決意だったのか。都子の顔には決死の表情が浮かんでいた。

 

 

つづく

 

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