よろしくお願いします。
下着盗難事件から、暫く。
学年末テストの時期が迫っていた。
そんなさなか、隼人は学園長の近右衛門に呼び出された。
「なんか用か? 爺さん」
「おお、実はな」
近右衛門は話し始めた。
「来年度もお前さんを担任として迎えたいんじゃ」
「それなら別に良いぞ。この学園でやりたいことがあるんでな」
近右衛門はその答えに頷く。
「うむ。しかし、条件がある」
隼人は眉を吊り上げた。
「条件?」
「それが2―Aは毎回、毎回、定期テストは最下位なんじゃ」
「ああ、まぁうちのクラスはちと勉強嫌いのヤツが多いからな」
「そこで2―Aを学年上位に、出来れば一位にしてほしい」
隼人は無茶な要求に叫ぶ。
「最下位を一位にしろだぁ? ボケたな爺さん」
「ダメならお前さんはクビじゃ」
近右衛門は親指を首に持っていき、真横に切った。
「了解」
了承するしかなかった。
★
英語の授業中。
「え~、お前らに小テストやってもらったが、このままではやっぱり最下位にしかならないと判断した」
重々しく告げる。
「いや~やっぱりね~」
「当然問い言えば当然です」
「あちゃ~。まぁ別に良いしょ」
などどと口々に言って笑いあう。
隼人は、教卓の上を思い切り叩いた。
「お前ら! もう少し危機感を持て!」
明日菜が人差し指を立てて言う。
「でも、うちはエスカレーター式だから別に受験もないし良いんじゃないの?」
「それがな、そういう訳にもいかないんだよ。俺のクビがかかってるから」
「ええ!? 隼人先生辞めちゃうの?」
まき絵が驚いたように叫ぶ。
のどかは衝撃を受けたかのように体が跳ねた。
隼人はため息を一つ吐く。
「お前らが学年末で一位取ってくれなきゃ、俺はクビなんだよ」
その事実に、沈痛な空気になった。
「短いつきあいだったけど、さよならだね」
「隼人せんせー、ばいばい」
「ジ・エンド」
既に諦めムード。
「お前ら、もう少し俺を助けるとかないのか!」
非情な教え子に腹を立てる隼人。
和美が苦笑いしながら答えた。
「いや、だって学年上位の成績を持つ人間がこのクラスに何人かいるけど、それの足を引っ張ってる人間が五人いるし」
「足を引っ張る五人だぁ? どこの誰だ!」
クラスメイトは一斉に指で示す。
示した先には、明日菜、まき絵、楓、くーふぇ、夕映の五人がいた。
「お前らか。俺の人生を妨げる連中は」
青筋を浮かべて睨む。
「そんなに怒らないでよ」
と明日菜。
「え~ん。先生が恐いよ」
とまき絵。
「ん~。凄まじい怒気でござるな」
と楓。
「あいや、ムチャクチャ怒てるアル」
とくーふぇ。
「まぁ怒るのも無理ないです」
と夕映。
がっくりとうなだれた隼人は、思案する。
悪魔の結論が導き出された。
「よーし。お前らバカレンジャーは、クラスが一位にならねば、もう一度小学一年からやり直しさせてやる」
その発言を聞いて2―A全員は「わははは」と笑う。
隼人は邪悪な笑みを浮かべた。
「笑い事ではないぞ。十六歳の少年を教師に採用するぐらいの学校だ。お前らを小学校に編入させるぐらい簡単だ」
ピタッと笑いが止まる。
隼人は追い討ちをかけた。
「モチロン。他の連中も平均八十点以上取らなきゃ、小学校に編入させてやる」
教室が爆発したように騒がしくなった。
「酷い! 横暴よ」
「先生、ヒドイ」
「あや~。これは大変やな~」
「あらあら、大変ねぇ」
「おいおい。冗談じゃねぇぞ」
隼人は鬼の顔で言った。
「やかましい。ここでお前らに一位とってもらわにゃ職を失って地獄に落ちるんだ。地獄に落ちるならお前らも一緒に地獄へ落としてやる」
そして唇の端を吊り上げて教え子達を睥睨する。
「せいぜい、頑張るんだな。フハハハハハハハハハ」
と高笑いして、教室を出て行った。
その後、2―A緊急会議が行われた。
あやかが黒板の前に立つ。
「みなさん。隼人先生をクビにさせないためにも頑張りましょう」
委員長の宣言に何人かは頷いた。
「え~でも、めんどくさいじゃん」
裕奈は口をとんがらせて文句を言う。
「では、裕奈さんは小学生からやり直してもいいんですのね」
「う、それは嫌だけど。でもあれ本当は冗談でしょ」
木乃香と明日菜は否定した。
「でも、隼人ならやりかねへんなぁ」
「そうね。マジで一位達成しなきゃ、小学生からやり直しさせられるわ」
真剣な口調。
皆に危機感が伝わったのか、それぞれの頭に上に小学一年生と一緒にランドセル背負って登校する自分の姿が映る。
サーっと青ざめた。
「真面目に勉強しよ」
裕奈はつぶやいた。
「私も」
「同じく私も」
「僕も」
それぞれ決意する。
その様子に満足したあやか。しかし、一瞬で表情が曇った。
「では、最大の問題はバカレンジャーをどうするかですわ」
う~んと皆が唸る。
明日菜は慌てて言った。
「だ、大丈夫よ。なんとかするから。ね」
他のメンバーを見る。
「うん。がんばる!」
「あいあい」
「やってみるアル」
「のどかのためにも頑張るです」
気合は充分だった。
★
明日菜たちバカレンジャーは必死に勉強した。
しかしやっぱりというか当然というか、滅多に勉強しない彼女たちにはかなり厳しい状況だった。
そしてテスト期間を三日後に控えたある日、彼女たちはある情報を手にして行動を開始する。
明朝。麻帆良学園図書館区域。通称『迷宮図書館』。そこに彼女たち五人は集結した。
明日菜はメンバーを見わたす。
「いい? 皆。この作戦に私達の人生がかかってると思うのよ!」
バカレンジャーたちは重々しく頷く。
「で、なんで俺まで付き合うんだ?」
隼人はため息をついた。
「あんたの人生もかかってるんでしょ。だったら協力して」
更にため息をつく。
「協力って、ったく。こんな朝っぱらから呼びつけてやがって」
ちなみに、隼人の使い魔であるカモは、隼人の肩ですやすや寝ていた。
明日菜は隼人に近寄り耳打ちする。
「仕方ないでしょ。これから行くところはかなり危険だっていうし。あんた、私達の担任でしょ。魔法も使えるし、ピンチになったら助けてよ」
本日三回目のため息。
「やれやれ」
そのほかにも呼び出された人間がいた。
木乃香と、のどかと、ハルナだった。
「明日菜、気合はいっとるなぁ」
「先生。眠たそう。だいじょうぶかな」
「う~ん。ダンジョンに向かうパーティーってところだね」
明日菜は手を振りかざす。
「それじゃ、出発!」
「お――――――っ!」
一同は、迷宮に足を踏み入れた。
★
ここで、夕映に今回の目的と迷宮図書館について説明してもらおう。
迷宮図書館は世界一の蔵書数を誇り、明治初期に創立した麻帆良学園とともに建てられたです。
もともと麻帆良島にあった巨大遺跡を利用して造られ、設立当初から世界中の本を収蔵してたそうです。
時代が進み第一次、第二次世界大戦中に戦禍から世界中の貴重本を守るために、ここの図書館に膨大な量の本が収蔵・保管され、今現在も蔵書数は増えており、誰も全貌を把握できないでいるです。
そのため、今から三十年ほど前に、麻帆良大学の学生たちよって『迷宮図書館探検部』が発足。その後中学、高校にも同様の部を設立して、中・高・大合同の部となったです。
目的は、迷宮図書館に収蔵されている本の発掘。迷宮の調査。
そして今回我々は、この迷宮図書館にあるとされる「読むだけで頭が良くなる本」を探して、中学生・高校生は立ち入り禁止で大学生も近衛学園長の許可が必要な危険区画のさらに奥を目指すです。
と、いうことらしい。
★
隼人たち一行は、巨大な本棚の上を通り、崖のような本棚を降下して、奥へ奥へと進む。
すでに二時間が経過した。
「おいおい。まだ着かないのかよ」
隼人は文句を言う。
道案内している夕映は地図を取り出して確認。
「もう少し、あとこの洞窟を抜ければ着くです」
「りょーかい」
気だるげに返事して歩いていく。
肩に乗っているカモが小声で話しかけてくる。
「それにしてもアニキ。この図書館凄いっすね」
肯定するように頷いた。
「ああ。おそらく大昔の魔法使いが造り出した遺跡だ。貴重な魔導書とかあるかもな」
そんな話をしていると前方に光が見えた。
「みて、出口だ」
まき絵が喜ぶ。
そのまま進み、出口を抜けた。
「うわぁ。凄い」
全員が驚く。
目の前に飛び込んできたのは、大きな空間だった。
何かの遺跡のようにあちこちに石の装飾がある。
前方には、巨大な石像が二体、左右に立っていた。
その石像の間に台座があり、上に一冊の本が乗っている。
「ん? あれは……」
隼人は目を凝らす。
「あああああああああああああああああああああああああああああ!」
急に叫んだ。
「うわ、なに?」
「どうしたん」
「何事アルね」
皆ビックリする。
「ありゃ『真理の書』じゃないか!!」
のどかが首をかしげた。
「真理の書?」
隼人は興奮したように説明する。
「真理の書ってのは、文字通りこの世の真理が記された本だ。読めば真理を理解できるそうだ」
夕映は聞く。
「では、アレが我々の求めていた本ですか」
「ああ。そうだ。アレ読めば天才になれるぞ。一説によれば片腕と片足が義手・義足の錬金術師が記したとされている」
「詳しいでござるな」
楓は感心したように言った。
「とにかく、アレがあればオッケーだね」
まき絵は本を取ろうと駆けていく。
「おい。ちょっとまて。こういう珍しいものが保管されている所には罠が……」
「へ?」
カチリと不吉な音がした。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴと振動音がして、二体の石像が動き出した。
「あわわわわわ」
まき絵は慌てて戻ってくる。
「いわんこっちゃない」
石像は歩き出すと、襲い掛かってきた。
「いかん。逃げろ!」
慌てて逃げるが、のどかと夕映が転んだ。
「のどか! 夕映!」
隼人は戻って、二人を抱きかかえる。
「ふんぬばら!!」
地面を蹴って、跳躍。石像の攻撃を避けて、皆と合流する。
「あ、ありがとうです」
「ありがとうございます」
二人は隼人に礼を言う。
「んなもん後回し! とにかく逃げるぞ」
来た道を戻ろうとする。
ガキンと再び不吉な音がする。
隼人たちの足元の床が消失した。
「げっ。ヤバイ」
奈落へまっさかさまに落ちていった。
「うわあああああああああああああああああああああああああああ」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああ」
隼人は近くにいた、のどかと夕映を引き寄せると、頭を守るように抱きしめる。
「放すなよ」
武空術を使って空を飛ぼうとしたが違和感。
「魔術と気道が使えないだと!?」
そのまま地面へ激突した。
★
荒い呼吸。
手が真っ赤に染まっている。
目の前には、血まみれの死体が二体。
「ああああ……そんな……」
悲痛な声。
「お前が殺したんだよ。親友であるお前がね」
「違う! 俺じゃない!! お前が」
「直接殺したのはお前だよ」
認めたくない。認めざるを得ない。嫌悪感が湧き上がる。
「うあああああああああああああああああああ」
耐え切れず叫んだ。
★
「うああああああああああ」
ガバッと飛び起きた。
「って、ここは」
辺りを確認。
「さっきのは、夢か」
安堵のため息をはく。
傍にのどかがいた。
「先生。だいじょうぶですか」
不安そうに聞いてくる。
「ああ、大丈夫だ」
ニッと笑った。
「それより、あいつらは?」
「皆、無事です。ここがどこか確認するために探検してます」
「そうか」
あらためて辺りを見まわす。
どこからか光が差して、とても明るい。
本棚があちらこちらにあり、湖が見える。
隼人が寝ている場所は大きな岩の上だった。
「のどか。怪我はないか?」
「はい。大丈夫です。先生が守ってくれましたから」
嬉しそうに頷いた。
その様子を見て満足。
「そうか、ならいい」
「あの、ありがとうございました」
「いや、別に気にするな」
そう言うと立ち上がる。
のどかは慌てて止めようとした。
「先生。まだ寝てたほうが」
「これぐらいどうってことない」
立ち上がると伸びをした。
隼人たちが落ちた場所は、夕映たちの調査により判明した。
石像に襲われた場所からさらに地下。『幻のオアシス』と呼ばれる場所だった。
「まさか、実在したとは思わなかったです」
夕映は感動したように言う。
「でもこれからどうする?」
ハルナが困った顔する。
「脱出に関しては俺に任せろ。お前達はテスト勉強でもするんだな」
「いや、でもテスト勉強といっても教科書がないアル」
その問題に夕映は答えた。
「幸い、何故か全教科の教科書から問題集。果ては参考書までそろってるです」
「勉強には困らないでござるな」
とういことで、バカレンジャーと図書館探検部はテスト勉強を開始した。
★
隼人はオアシスを一通り探ってみる。
「アニキ、探査魔法かなにか使ったほうがよくねぇっすか」
カモが提案する。
「ああ。そうだな」
隼人の指に装備している魔法発動媒体の指輪が光った。
「ラス・テル マ・スキル マギステル 俺の呼びかけに応じて出て来い! 火の精!」
炎の下級精霊が現れる。
「ここでは魔法が使えるようだな」
確かめるように手を握る。
下級精霊に辺りを探査させる。
「んで、俺も」
音波を発し探る。
一時間後。
散らばった火の精の一体から連絡が入った。
「どうやら、親切にもエレベーターがあるみたいだ」
「こうなってくると、この『幻のオアシス』は誰かの隠れ家かもしれないっすね」
カモの意見に頷く。
「そうだな。案外、爺さんの隠れ家だったりしてな」
自分で言って、ありえる結論に苦笑い。
「あの爺さんならありえそうっすね」
「まぁ、どっちにしろ、このままギリギリまであいつらの勉強を見て、三日後のテストに挑ませよう」
そう結論づけた隼人は、首をひねりながら悩んでいる彼女たちの元へ戻った。
★
三日後。テスト当日。
地獄のテスト勉強を終えて、いよいよ今日。テスト期間開始日になった。
しかし、隼人たちがテスト勉強を終えて帰ろうとした矢先、あの二体の石像が空から降ってきて、隼人たちに襲い掛かった。
「ちょっとぉおおお。追いかけてきたの!?」
明日菜が叫ぶ。
隼人は冷静に分析。
「どうやら、一度起動したら侵入者を排除するまで追いかけてくるみたいだな」
「隼人、どうするん?」
木乃香が携帯用の杖を取り出す。
隼人は決断した。
「お前らは逃げろ。こいつらは俺が何とかする」
「先生、無茶です」
「そうよ、先生。さすがに危ないって」
夕映とハルナが止める。
「ワタシも戦うネ」
「拙者も手伝うでござる」
楓とくーふぇが構える。
「アホか。お前らはテストがあるだろ。さっさと行け。あ~カモ!」
肩に乗ったカモが降りて、彼女達を手招きする。
「このオコジョについていけば、その先に直通のエレベーターがある。それで地上に上がれ」
明日菜は一瞬迷ったが、隼人の言うとおりにした。
「みんな行きましょう」
他のメンバーも渋々ついていく。
「先生、気をつけてください」
振り返ってのどかが声をかけた。
「応! お前達もテストがんばれよ」
ピースサインで答える。
「本屋ちゃん急いで」
彼女達は走り出した。
後に残された隼人は、石像を睨む。
「さてと、久しぶりに暴れるかね」
拳を打ち鳴らして不敵に笑った。
★
その後のことを書こう。
明日菜たちは、迷宮図書館での地獄の勉強が功を奏し、高得点を取れた。
他のクラスメイトも平均八十点台をたたき出し、めでたく2―Aは学年トップの成績で一位に輝いた。
とうぜん、一位になれたので隼人のクビも繋がった。
ただし、無断で三日間休んだおかげで、それ相応の罰が下されたと記しておこう。
そんなこんなで、三学期が終了。
短い春休みが終わり、新学期。
隼人は引き続いて彼女たちの担任となり、彼女たちは三年生へと無事進級した。
そして――
「三年A組ぃぃ。隼人センセ――――!」
物語は動き出す。
【二年生編】・完
【三年生/吸血鬼編】へつづく