魔法教師はやト!   作:沖彦也

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過去編です。
次回はいよいよ主人公、最大のトラウマの事件が起こります。
宜しくお願いします。


第三十二話「挑戦する刃たち。トライブレード誕生!」

 人類軍メガロメセンブリア本部。

 

 円卓の机に座り、軍上層部は頭を抱えていた。

 

「まさかストロンガー隊が壊滅するとは」

 

 険しい表情で立派な髭をした男が呟いた。

 

「だが、彼らが持ち帰った情報は貴重だ。此度の戦争には魔王が二体いる。今後の方針に修正が必要だ」

 

 深い皺を刻んだ老人が言う。

 

「現在、ググラガは各地で暴れているようです。法則性や戦略は無く、気まぐれで動いています」

 

 若い男が空中に浮かんだモニターに戦況を表示する。

 

「人類軍でググラガに対応できる部隊はいません。対峙した部隊は軒並み壊滅。生き残った者も強大な力に心折れてリタイアしています。現在唯一、対抗できているのは戦闘集団『紅き翼』です」

 

 モニターに七人の男達が映し出される。

 

「千の魔法を使う男。ナギ・スプリングフィールドか」

 

 髭の男がナギの写真を見つめる。

 

「彼らは軍には属さないと表明しています。彼らの協力を得ることは難しいでしょう」

 

「誰かおらんのか、あの魔王級に対抗できる部隊は!」

 

 老人が声を荒げて苛立つように机を叩く。

 

「おるではないか」

 

 今まで黙っていた近右衛門が口を開いた。

 

 一斉に注目する。

 

「ストロンガー隊の生き残りじゃ。彼らならばあの悪魔にも対抗できよう」

 

「しかし、彼らの部隊は壊滅した」

 

 他の者達が否定の声を上げる。

 

「じゃが、生き残った。彼らならば出来るはずじゃ」

 

 髭の男が若い男に尋ねた。

 

「今、彼らはどうしている?」

 

「生き残った八人は待機中です。闘志を失わず鍛錬を続けているようです」

 

「つまり、まだ戦う気はあるのだな」

 

「はい。魔王級と対峙してもまだ心は折れていません」

 

 会議に参加している者達はその心の強さに驚いた。

 

 近右衛門は言う。

 

「ならば、彼らを中心に新たな部隊を編制するのじゃ」

 

 その一言に全員が頷いた。

 

★

 

 会議の後、近右衛門は隼人がいる軍の訓練場に向かった。

 

「え、新部隊を結成する?」

 

 隼人は近右衛門に訊き返した。

 

「そうじゃ、隼人。お前さんが率いる部隊じゃ」

 

「ちょっとまて。確かに総隊長の座を託されたが、それはストロンガー隊のだ。壊滅して解散した今、俺は隊長じゃない」

 

 近右衛門は首を振る。

 

「ストロンガー隊の生き残りを中心として編成する。つまり、新生ストロンガー隊じゃ」

 

「良いじゃねぇか。隼人。やれよ」

 

 近くで聞いていた悠馬が言った。

 

「けど、悠馬。俺が隊長の器じゃないのは知っているだろ。実際、五番隊は俺達三人だった。隊というには人数が少なすぎた」

 

 同じく近くで聞いていた菫が言う。

 

「でも何だかんだ、昔から私達を引っ張っていたのは隼人だったよ。私は隼人の命令なら安心できるな」

 

「おう、それは俺も同じだ」

 

 悠馬も同意する。

 

「いや、でも」

 

 隼人は渋る。

 

 すると、ゴウやアンリ。他の者達がやってきた。

 

「オーボス総隊長はお前を中心に強くなれって言ってただろコラ」

 

「そうそう。私も反対しないわ。ねぇ皆、隼人ちゃんなら良いんじゃない?」

 

 アンリが重蔵たちに振る。

 

 重蔵は鋭い目で隼人を見る。

 

「不安はある。だが、他の者に任せることも反対だ。俺と言う剣を振るう資格があるのはこの中ではお前だけだな」

 

 アニエスが穏やかに言う。

 

「そうですね。この中で皆を引っ張れるのは隼人君くらいでしょうね。他は性格に難があります」

 

 ギンガが無言で頷いた。

 

「決まりだな。隼人」

 

 悠馬が隼人の肩を叩く。

 

「大丈夫。私達も手伝うから」

 

 菫がにっこり笑う。

 

 隼人は目を瞑って考えた。

 

 総隊長の遺志。皆の期待。それを背負って戦えるのか。自分に問いただす。

 

 そして、結論は出る。

 

「分かった。俺がやる」

 

 近右衛門はその言葉に満足して頷いた。

 

「では、さっそく準備に取り掛かろう。まずは部隊名をどうするかじゃな」

 

「近右衛門爺さん。ストロンガー隊で良いんじゃねぇかコラ」

 

 ゴウが提案する。

 

 隼人は首を横に振った。

 

「ストロンガー隊は壊滅した。これを忘れないために俺はあえて別の名前にしたい」

 

「ふぅん。それもそうねぇ。壊滅した部隊名を継いだんじゃ縁起悪いしねぇ」

 

 アンリが思案する。

 

 アニエスが手を挙げた。

 

「この部隊はきっと、隼人君だけでなくそれを支える悠馬君と菫さんの力も必要になる。だから三人の腰に差してある刀にちなんで『トライブレード』はどうでしょう?」

 

 重蔵が顎に手を当てて言う。

 

「ふむ。ストレートに『三つの刃』か。いや、『挑戦する刃』の方が良いな。その方が俺という剣を振るう部隊名にふさわしい」

 

「木刀にゃ刃はねぇけど、俺はナイフも装備してる。それに単純で気に入ったぜコラ」

 

「うーんでも、私とギンガは魔法使いだから刃は無いわよ」

 

 アンリが指摘する。すると、ギンガが口を開いた。

 

「僕たちにもある。呪文は言葉の刃だ。それを紡ぐ魔法使いもまた剣士だ」

 

 ギンガの言葉に全員が納得する。

 

「じゃ、決まりだね」

 

 菫がまとめた。そして自分の刀を引き抜いて掲げる。

 

 それに倣って悠馬が刀を掲げる。

 

 重蔵も自分の大剣を掲げた。

 

 ゴウが木刀を取り出して掲げる。

 

 アニエスは白衣の裏からメスを取り出す。

 

 アンリとギンガが杖を掲げた。

 

 最後に隼人が刀を引き抜いて掲げた。

 

「どんな使い手でもその身に刃を持つ。たとえどんな絶望であっても俺達は挑み続ける。勝つまで。絶対に諦めない。この信念を刃に乗せて戦うぞ!」

 

「「「「「「「応!」」」」」」」

 

 全員が気合いで答えた。

 

 これが人類軍最強の部隊「トライブレード」の誕生した瞬間だった。

 

★

 

 それから、部隊の編成が進められた。壊滅した他の部隊の生き残りを集め、さらに新たに募集して編成された。

 

 結成当初は、寄せ集めの部隊、残り物部隊、負け犬部隊。周りからは散々な評判で迎え入れられた。

 

 だが、トライブレードはその評判を覆すように最前線に赴き戦果を残していく。最強の部隊という印象を決定づけたのはググラガとの再戦だった。

 

「部隊の三分の二が壊滅! 依然悪魔軍の進行が止まらず、最終防衛ラインを突破されますっ!」

 

 悲痛な叫びが戦場にこだまする。

 

「ええい、此処を突破されるわけには行かん! 此処を落とされるとメガロメセンブリアまであっという間だ。死んでも動くな!!」

 

 決死の覚悟で上官が指示を出す。

 

 生き残った兵士達も自分達が守りきれなければ、悪魔が進攻して、国に残してきた家族が死ぬことになるのを理解していた。

 

「最終防衛ライン突破! 第三竜艇部隊消滅!」

 

 奮戦空しく、ググラガに率いられた悪魔軍が侵攻してくる。

 

「これまでか……! だが、一匹でも多く道連れにしてやる」

 

 生き残った兵士全員が特攻の精神で立ち向かおうとしたそのとき、戦場に涼やかな声が響いた。

 

「流派! 花鳥風月 風の章【剛雷暴風陣】!」

 

 地鳴りのような音がして凄まじい嵐が敵陣中央に出現。雷と竜巻が悪魔の部隊を切り崩していく。

 

「な、なんだあれは!?」

 

 兵士全員が唖然となる。そして、一人の兵士が後方より近づいてくる部隊に気がついた。

 

「あ、あの旗印は!」

 

 三つの刀が三角形を形作り、中心に炎と水と雷のシルエットが描かれている。

 

「アレは、トライブレードです!」

 

 上官は驚いた。

 

「トライブレードだと? 軍の切り札とか言う部隊か」

 

 荒れ狂う戦場にトライブレードは進軍する。先頭に立つのは三人の剣士。火炎模様の戦闘用コートに身にまとった隼人。青色を基調とした戦闘用コートに身を包んだ悠馬。黄色を基調とした戦闘用コートを着た菫。

 

 隼人は刀を引き抜き、切っ先を敵陣に向けた。

 

「「連中の隊列が崩れてる今がチャンスだ。一人残らずぶっ飛ばすぞ!」

 

「「「「「「「応!!」」」」」」

 

 それぞれ違う武器を持ち、軍隊らしからぬ出で立ち。しかし、その誰もが一騎当千の兵。

 

 刃が煌めき悪魔軍を押していく。

 

「ほう。これはいつぞやの人間達」

 

 ググラガが先頭に出てくる。

 

 それを確認して、隼人達、八人の主力が立ちはだかる。

 

 隼人は燃え盛る刀を向けた。

 

「会いたかったぞ。オーボス総隊長の仇、取らせてもらう!」

 

「では、強さを見てやろう」

 

 ググラガが手を振るって爆裂を撃ちだす。

 

 隼人に向かってくるが、途中で折れ曲がるように反れる。

 

「む?」

 

 反れた爆裂は菫が構えた刀にからめ捕られる。

 

「風の章【台風陣】」

 

 起こした風が爆裂を巻き込んでいた。

 

「そのまま返すわ」

 

 刀を振るって爆裂を返す。

 

 ググラガはそれを手のひらで受け止めた。

 

「残念。打ち返すだけでは甘い」

 

 さらに強力な爆裂にして打ち出す。

 

「それが狙いよ」

 

 アンリとギンガが魔法陣を展開。

 

 巨大な口を召喚した。

 

 巨大な口は飛んできた爆裂を食らい咀嚼する。

 

「ほう! 古代魔法【貪食の王】ではないか」

 

 ググラガ感心する。

 

「その通りです。では、この効果も知っていますね」

 

 アニエスがさらに魔法陣を重ねる。

 

「はっ」

 

 メスを投げて仲間に突き刺す。

 

「リンク完了。行きますよ!」

 

【貪食の王】が吸収した魔力を展開した魔法陣へ転写して、メスを伝って全員の強化にあてがう。

 

「【転換の法・身体強化】です」

 

「よっしゃああああああ」

 

 ゴウと重蔵が突撃する。

 

「往生せいやコラアアアアアアアアア」

 

 ゴウは木刀とサバイバルナイフを両手に持って飛びかかる。

 

 ググラガは防御結界を張る。

 

「無駄だ」

 

 重蔵が大剣を思い切り振り下ろす。

 

 結界が薄紙のごとく破けた。

 

「ほう!」

 

 ググラガ感心する。

 

 その瞬間を逃さず、ゴウは木刀を叩きこみ、ナイフを相手の首筋に突き立てた。

 

「がああああああああああああ」

 

 獣の雄叫びを上げて重蔵が、大剣をさらに振ってググラガに叩きつける。

 

「ぐうううううう」

 

 苦悶の悲鳴を上げてググラガはダメージを受ける。

 

 だが、体が崩れて離れた場所に現れた。

 

「クカカカ。やるではないか。一回死んだぞ。面白い。さらに相手してもらう!」

 

 無傷のググラガは狂気を浮かべた表情で邪気を発する。

 

 瞬間、巨大な爆発が起こって戦場を抉る。

 

 巻き込まれた人類軍と悪魔達は消し飛んだ。

 

「カカカッカカカカカカカッカカカグアアガガガガガガヒイイイイイイイイイイイッヒヒ」

 

 ググラガは言葉にならない狂気の雄叫びを上げて、あちこちを粉砕。爆破していく。

 

 阿鼻叫喚の地獄絵図。爆音が爆音を呼び、悲鳴が、爆裂が、血肉が吹き飛んでいく。

 

「ヒャアアアハハハハハハハハハハハハハハアアアアアアアアアアアアアアアアア」

 

 その光景が心底楽しいと言わんばかりの笑顔で、戦場を地獄に変えていく。

 

「それがどうしたあああああああああ」

 

 勇猛な叫びをあげて悠馬が現れた。

 

 爆裂を掻い潜り、爆風を物ともせず、真っ直ぐググラガに向かって行き、肉薄する。

 

「鳥の章奥義【比翼連理】!!」

 

 二対の斬撃がググラガを襲う。

 

「ヒェァ」

 

 短い悲鳴を上げて直撃。一撃目で胴体の半ばで切り裂き、二撃目で高々と打ち上げる。

 

「菫!」

 

「任せて!」

 

 呼ばれた菫が空で待機していた。

 

 打ち上げられたググラガが、菫が浮かぶ位置まで到達。

 

「風の章奥義【疾風怒濤】!!」

 

 嵐のような斬撃でググラガを切り裂いていく。

 

「うおおおおおおおおおおりゃああああ」

 

 最後の斬撃で頭を破壊した。

 

 しかし、ググラガの体が消失。また別の場所へ現れた。

 

「クカカカカカ。やはり強い。これで二回死んだ。そうではなくては」

 

 無傷のググラガが楽しそうにいう。

 

「お前達が魔王級と呼ぶ悪魔は、そう簡単に死なないぞ。人間のように脆弱な魂ではないのだ」

 

 余裕を見せるように隙だらけのポーズをとる。

 

「さぁ、殺せ。殺してみろ。人間よ。その強さと痛みをこの私に刻んでくれ」

 

 手を叩き、両手を広げる。

 

「だったら、望み通り死ぬほどの痛みを刻んでやる」

 

 隼人がググラガの背後から現れた。

 

「は?」

 

「花の章奥義【千紫万紅】」

 

 色とりどりの花びらが刃を覆って回転。

 

「せえええええええええい」

 

 掘削するようにググラガの体を抉り取った。

 

「ぐおおおおおおおお」

 

 悲鳴を上げて倒れる。

 

 そして、千の苦しみと万の痛みがググラガを襲った。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ」

 

 あまりの苦しみと痛さにのた打ち回る。

 

 動けば動くほど毒は回りさらなる痛みと苦しみを生み出す。

 

 すると、ググラガは消失して別の場所へ現れた。

 

「その程度でわた、ぎゃあああああああああああああああ」

 

 何かを言いかけたが、毒の苦しみと痛みが生まれる。

 

「な、なぜだあああああああああ」

 

 隼人は苦しみのた打ち回るググラガに冷ややかな目を向けた。

 

「当然だ。俺の毒は、解毒や再生をすれば、その変化を受けて新たな毒を生み出す。死ぬまでその苦しみと痛みからは逃れられない」

 

「ぞ、ぞんな、ばかなああああああ」

 

「さぁ、貴様の命はどれくらいで尽きるかな?」

 

 隼人から立ち上る気配が、鬼の形を成してググラガを睥睨する。

 

「おおおおおおおおののののののれれれれええええええええええええ」

 

 口から血泡を吹きながらググラガは自分の心臓を抉り出す。

 

「な!?」

 

 隼人はその行為に驚いた。

 

「集まれえええええええええええ」

 

 最後の力を振り絞ってググラガは心臓を握りつぶした。

 

「なんだ、一体」

 

 全員が警戒する。

 

 潰された心臓から漆黒に輝く球体が出現。それが、ふらふらと飛んでいき、強烈な爆光を発した。

 

 光に吸い寄せられるかのように、飛び散った周囲の肉片が集まり、肉体を形作る。

 

「まさか!」

 

 隼人は驚愕した。

 

 肉体は最終的にググラガの形になり再生した。

 

「危なかった。だが、魂までは毒せなかったな」

 

 ググラガは驚く隼人達を睨む。

 

「貴様たちはいずれ、私が殺す。覚えておけ」

 

 そう言い残すと、掻き消えるように姿を消した。

 

「魂を殺さないと魔王級は倒せないのか」

 

 隼人は悔しそうに歯噛みする。

 

「でも、あきらめない。そうでしょ」

 

 菫はぽんと肩を叩く。

 

 無言で頷くと、気持ちを切り替えた。

 

「ググラガは退けた! 残りの悪魔を倒すぞ!」

 

「了解!」

 

 隼人達は戦闘を再開した。

 

★

 

 この戦いが契機となり、トライブレードは軍から一目置かれる存在となった。

 

 入隊希望者も増え、その規模はかつてのストロンガー隊をはるかに超えた部隊になった。

 

 そして、トライブレードが活躍すると同時に、紅き翼も各地で活躍していた。

 

 二つの部隊は、戦争で疲弊する民衆の希望となり、軍の活力になっていった。

 

 そんな最中、世間である論争が持ち上がった。

 

 曰く、トライブレードと紅き翼のどちらが強いだろうか。

 

 片や達人、武人で構成される常勝無敗の部隊「トライブレード」。片や千の魔法を持つ男ナギ・スプリングフィールド率いる集団「紅き翼」。

 

 どちらも大戦で活躍する英雄の部隊だった。

 

 そんな紅き翼の話題を聞くたびに隼人は、会いたいと思った。

 

「軍に属さずスタンドプレーで戦う集団。千の魔法を持つ男か。一度手合わせしてみたいな」

 

 あるとき、そんなことを呟いた。

 

 その呟きを耳にした兵士達は沸き立った。

 

 あのトライブレードの隊長がナギ・スプリングフィールドと戦いたがっている。

 

 どちらが強いのだろう。隼人か。ナギか。

 

 誰かが言った。

 

「だったら、戦わせてみよう」

 

 戦争が激化する中、そんなイベントが開かれることになった。

 

「戦争中になにやってんだホント」

 

 隼人は流石に呆れた。

 

 だが、周りが盛り上がって着々と準備が進められた。

 

 そんなわけで数日後、トライブレード総隊長 煉城隼人VS紅き翼リーダー ナギ・スプリングフィールドの戦いが行われた。

 

 会場はメガロメセンブリア近郊の荒野。観客席が設けられ、人で一杯になっている。

 

 観客席が囲む中央付近に闘技舞台が整えられていて、静かな足取りで、司会者兼レフェリーがその中心に立った。

 

「レディース! アーンド、ジェントルメン! これより、ナギ・スプリングフィールドとハヤト・レンジョーの戦いを開催します!!」

 

 高らかに宣言して、会場は盛り上がる。

 

「さっそく選手入場です。赤コ~ナ~ッ、政府直属 特殊部隊トライブレード総隊長ハァァヤァァトォォ・レンジョォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 いつもの火炎模様のコートに身を包んで、隼人が舞台に上がった。

 

「青コ~ナ~ッ、紅き翼リーダー、ナギィィィ・スプリングフィィィィィィィィィィィィィルドッ!!!」

 

 勢いよく飛び出したのは、魔法使いのローブに身を包んだ赤髪の少年。背中に背丈より長い杖を背負っている。

 

「へっ。俺にケンカ売るなんていい度胸してるな」

 

 ギラリと尖った眼つきで隼人を睨む。

 

「お手柔らかに頼むよ。ナギ・スプリングフィールド」

 

 隼人はにこやかに笑って、挨拶をした。

 

「試合は制限時間無し、一本勝負。勝敗は片方が降参と宣言するか、あるいは戦闘不能となった時点で着きます。良いですね?」

 

 レフェリーが二人に確認する。

 

「ああ、それで構わない」

 

「いいぜ。あっという間に終わらせてやる」

 

 隼人とナギは了承した。

 

「では、両者構えて」

 

 隼人は刀の柄に手を添える。

 

 ナギは拳闘士のように構えた。

 

「始めっ!」

 

 レフェリーの合図で試合が始まった。

 

「おおおおおおおおおっ」

 

 最初に仕掛けたのはナギだった。縮地で間合いを一気に詰めて、連続で拳を繰り出す。

 

 高速の拳は一撃一撃が重い。だが、それを風の如く避けていく隼人。

 

 そして、右拳と左拳が入れ替わる僅かな隙を突いて一気に刀を引き抜いた。

 

「せいっや」

 

 切り上げでナギの顔面を切り裂く。ナギはのけぞって回避。

 

 隼人は刃を返して振り下ろし。ナギは慌ててバック転して避ける。

 

「はあああああああっ」

 

 今度は隼人が連斬を叩き込んでいく。

 

 ローブの端が切り裂かれつつ、なんとか捌いていくナギ。

 

 隼人が相手より一歩多く踏み込んだ。

 

「げっヤベ」

 

 ナギは焦る。

 

「でぃやっ」

 

 気合一閃。思い切り振り下ろされる刀。

 

 しかし、その刃はナギを捕らえず、空を切った。

 

 ナギは紙一重で後退して間合いをとる。

 

「あっぶねー。体術はやっぱお前のほうが上だな」

 

 強敵に出会えて嬉しそうに笑う。

 

「いや、そうでもないさ。あのレベルの体術で魔法を繰り出されると厄介だよ」

 

 隼人も獰猛な笑みを浮かべた。

 

 互いに実力を把握。

 

「じゃ、こっから本番だ」

 

 ナギの体から魔力が放射される。

 

「推して参るっ!」

 

 隼人から気が放出した。

 

 再び、戦いが再開される。

 

 その戦いは後世に語り継がれるくらいの名勝負となった。

 

 血が沸き、肉が踊る。観客のテンションも上がりに上がった。

 

 しかし、その盛り上がりもやがて静まり、段々観客の顔が青ざめてくる。

 

 それもそのはず。隼人とナギがぶつかり合うたびに、互いの気と魔力が反発し合い、あちこちで爆発が起こった。

 

 さらに、ナギが放った魔法の流れ弾が観客にぶち当たり、隼人の発した刀の火炎が観客席に飛び火する。

 

 戦っている当人達は、刃と拳が交わるたびにテンションが上がってさらに威力の強い攻撃を繰り出す。

 

 それに反比例して観客のほうは阿鼻叫喚の地獄絵図に変わっていった。

 

 結果。このままでは危ないと判断したレフェリーが、ストップをかけて試合は強制終了。遂に決着がつかなかった。

 

 隼人とナギは多少不満だったものの、お互い全力で戦えて満足だった。

 

「なかなかやるな。また今度決着をつけようぜ」

 

 ナギが握手を求める。

 

「ああ、モチロンだ。けど今は世界のために、互いに全力を尽くそう」

 

 ガッチリと手を握り合う。

 

 感動の友情シーンだったが、背景は戦場跡のように悲惨な状況だった。

 

★

 

 その後トライブレードと紅き翼は、何度も行動を共にして悪魔軍と戦った。もともと詠春という共通の知り合いがいた上に、軍らしからぬ自由な部隊だったトライブレードは紅き翼と相性が良かった。

 

 二つの部隊を中心に人類軍は悪魔軍を押していった。ググラガという魔王級が前線を退いたことも弾みとなった。

 

 だが、この活躍の先に、新たな悲劇が待ち受けていることを、この時の隼人はまだ知らない。

 

 

つづく

 

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