トラウマの事件が起こると言っていましたが、
長くなってしまったので、前編後編に分けました。
後編は来週以降にアップします。
よろしくおねがいします。
あたり一面の岩肌。空がとても近い。ここは、魔法界第三位の高さを持つガセス山。
「左前方に魔法障壁展開!」
隼人の怒号が飛ぶ。
障壁が展開された直後に爆発音。
空気が震えて体の奥まで振動が響く。
「隊長! まだ来ますっ!」
「菫!」
「うん。任せてっ」
菫が気を放出して技が発動。
「風の章【竜巻昇天】」
全方位に巨大な竜巻が起こって、飛来する攻撃魔法を防ぐ。
「これで暫く大丈夫よ」
竜巻が隼人達の部隊を囲み、相手から守ってくれる。
「くそっ。完全に囲まれてんぞ。どーすんだ隼人。このままじゃ負ける」
「今、考える」
状況は最悪に近かった。ガセス山を越した先にあるセフィーロ高原。そこを目指すために、輸送船で移動している最中に突然、悪魔軍が攻めてきた。
邪竜に乗った悪魔が次々と襲撃して、輸送船は墜落。なんとか、無事だったものの悪魔軍の追撃を受けて現在、ガセス山で撤退戦を強いられていた。
「これだけの戦力。明らかに罠を張っていたな」
「ありえないでしょ。それ。だって、ここは誰も通らない一番危険なルートよ。私達が通ることを悪魔軍が予想して罠を張るわけないじゃない」
菫が反論する。
「どこからか、情報が漏れてるのかもな」
隼人は悔しそうに臍を噛む。
「敵に囲まれてる状況を打破するには、一点突破で突き進むしかない」
結論を出して、指示を出す。
「竜巻が消滅すると同時に、左右に障壁を展開。俺と悠馬が先頭に立つ。残りは俺達が討ち漏らした悪魔を始末しろ。一点突破でブチ破るぞ」
「「応っ!」」
トライブレード全員の意思が一つになる。
竜巻が消滅した。
「往くぞっ!」
全員が駆け抜ける。
「おおおおおおおおおっ」
裂帛の気合で相手を圧倒。悪魔を切り裂いていく。
「もうすぐ切り抜ける。気張れえええええ」
悠馬が仲間を鼓舞する。
が、包囲を切り抜けた先に絶望が待っていた。
「な、なんだと」
目の前に広がるのは邪竜の軍勢。
中には特大の邪気を発する悪魔もいる。
「二重に軍を展開していたのか!?」
「それも準魔王級もいるようね」
アンリが険しい表情をする。
後方に悪魔軍の陸戦部隊。前方に悪魔軍の空戦部隊。さらには準魔王級がいる。完全に手詰まりだった。
「隼人ちゃん。これはちょっとヤバいかもね」
アンリが冷や汗を流す。
輸送船の墜落で負傷した隊員もいた。機動力が奪われ、かつ彼らを守りながらの戦いに勝利の文字は無かった。
「諦めるなコラ。まだ手はあるはずだコラ」
ゴウが前方を睨む。
相手は完全に勝利を確信して、攻撃してこない。
「総隊長。俺達の事は置いて逃げてください」
「そうです。隊長。怪我をした俺達を置いていけば、まだ助かります」
怪我をした隊員は最早、死を覚悟して提案する。
「それは出来ねぇぞコラ。かつて俺達は仲間を見捨てて生き残った。それを繰り返すつもりはねぇ」
ゴウはストロンガー隊が壊滅した時のことを思い出していた。
「ゴウの言うとおりだ。仲間を見捨てて生き残るならば、敵を一体でも多く道連れにして戦うことを選ぶ」
重蔵が死を覚悟して大剣を構えた。
他のメンバーも賛同するように構える。
「だが、それでも見捨てる手は有効だ」
全員が隼人の顔を見た。
「犠牲になるのは俺と悠馬、菫だ。俺達で逃げ道を作るから、全力で逃げろ」
「そんな、本気で言っているんですか!?」
アニエスが驚いて叫ぶ。
「この状況下で逃げ道を作れるのは、規模のデカイ攻撃が出来る俺達三人だけだ。それでも全員が助かるのは無理だが、半分は生き残れるはずだ」
非情な判断。隼人は相手を道連れにして全員が果てる選択肢より、半分を犠牲にして半分を生かす方法を選んだ。
「生き残った部隊員はこれからもこの世界のために戦ってくれ。死んだ部隊員は、あの世で文句を聞いてやる。だから今は命令に従え」
隼人の決断に全員が覚悟を決めた。
「往くぞ。悠馬、菫」
「死なばもろとも。一蓮托生ってな」
「ま、私達三人は一緒じゃないとね」
不敵な笑みを浮かべて三人は、前方の敵部隊に突撃。全力全開の技で相手の軍に風穴を開ける。
「今だ! 走れえええええええ」
それを確認すると、部隊員が駆け出す。
そのとき、前方に強烈な雷撃の雨が降った。
「なんだ?」
雷撃に当たった邪竜が落ちてゆく。
「おい、隼人。後ろ!」
悠馬の声で後ろを振り向く。
後方の陸戦部隊が黒い球体に飲まれて潰されていった。
「雷撃魔法に重力魔法って。まさか!?」
「そのまさかだぜ。隼人」
自分の上から声がした。
そこにはナギ・スプリングフィールドがいた。
「ナギ! 助けに来てくれたのか」
隼人は戦友が来てくれたことに嬉しくなった。
「ああ、セフィーロ高原に来てみればお前達が居なかったからな。何かあったのかと思って来てみれば、危なかったようだな」
紅き翼のメンバーが次々と悪魔軍を倒していく。戦況は完全に逆転していた。
「隼人、これならイケるぜコラ」
「ああ、コレなら勝てる。フォーメーションを組んで各個撃破だ」
今までの屈辱を晴らすかのようにトライブレードも参戦。人類軍が誇る二大部隊を相手にしては、さしもの悪魔軍も敵わなかった。
あっという間に全滅。
そのままセフィーロ高原までなんとかたどり着いた。
★
セフィーロ高原人類軍拠点。その敷地内にある隼人の個室。
「本当に助かった。ありがとう」
隼人はナギに深々と頭を下げた。
「いいってことよ。困った時はお互い様だろ」
「ああ。それにしても紅き翼もセフィーロ高原に来てたんだな」
「おう、じーさんに頼まれたんだ。ここの悪魔軍の拠点を潰せば戦況はひっくり返るからな。確実に落としておきたいんだろうよ」
「なるほどな。トライブレードと紅き翼がそろえばあっという間だろうな」
はははとお互いに笑う。
すると、急にナギが真面目な顔になった。
「ところで、隼人。悪魔軍があの場所に罠を張っていたってことは、情報がどこからか漏れてるってことだよな」
「ああ、俺もそれは気になっていた」
周囲を気にしながらナギが顔を近づけてくる。
「実は、お前の部隊だけじゃなく、他の部隊でも情報が漏れて待ち伏せされてるらしい」
「なんだと? じゃあやはりスパイがいるってことか」
「ああ、人間を裏切って悪魔に着いた奴か、あるいは悪魔が化けて潜り込んでるか。どっちかは分かんねぇけどな」
二人の間に沈黙が起きる。
隼人が口を開く。
「どちらにせよ、調べる必要があるな。この戦いが終わったら近右衛門爺さんと話し合ってみよう」
一応の結論がでて互いに頷いた。
すると、ちょうどドアがノックされて、菫が入ってきた。
「ねぇ、なんか広報の人がトライブレードと紅き翼の集合写真を撮りたいって言ってるんだけど」
「写真? う~ん。まぁいいか。分った今行く」
ナギと二人で部屋を出た。
外に出ると、既に紅き翼のメンバーはそろっていた。
怪我人の治療や戦闘準備で他が忙しいので、トライブレードからは代表で隼人と菫と悠馬が出た。
「はい、じゃあ並んでください」
広報のカメラマンが指示を出す。
「やれやれ、なんでワシがこんなこと」
ゼクトが文句を言いながら並ぶ。
「まぁまぁ、ゼクトそう言わずに」
詠春がそれをなだめた。
「タカミチ君。一緒に並ぼっか」
菫がタカミチと並ぶ。
「俺と隼人は一番前ど真ん中な」
ナギと隼人が肩を組む。
「背の高い人は皆、後ろのほうが良いでしょう」
アルビレオが促し、詠春、ガトー、ラカン、悠馬が後ろに並んだ。
「はい、じゃあ皆さん撮りますよ。ビシッと決めてくださいね」
シャッターが下りて撮影終了。
「ありがとうございました。後日、この写真は皆さんにも焼き増ししてお送りします」
写真撮影の次の日、セフィーロ高原攻略戦が開始され、二日後、悪魔軍は撤退。
時は人魔大戦開戦から二年後。再び人類軍は悪魔軍に逆転した。
★
舞台は再び現代。エヴァの別荘。
過去の映像が中断された。
「あの写真が、修学旅行でみた写真やね」
木乃香が思い出すように言った。
「ああ、そうだ。あれが、トライブレードと紅き翼がそろった最後の戦いだった。俺達トライブレードはその後、メガロメセンブリアに戻って首都防衛に回った。少数精鋭の紅き翼は世界中を飛び回って活躍した」
隼人は懐かしむように説明した。
「で、この後お前のトラウマが分るのか」
エヴァが尋ねてくる。
隼人は暗い表情で頷く。
「じゃあ、続けるぞ」
映像が再び流れ始める。
★
首都に戻ったトライブレードは、首都防衛に着いた。戦況が逆転したとはいえ、未だに首都への攻撃は続いていたからだ。
そんなある日、隼人は悠馬と菫を自室に呼び出した。
「なんか用か? 隼人」
「重要な話ってなに?」
二人は部屋にやって来る。
「ああ、すまない。実はな、人類軍の中にスパイがいる可能性がある」
「スパイだと? 本当かよ」
悠馬は驚いた。
「俺達が遭遇したガセス山での戦いや、他の部隊の戦いで分ったことなんだが、どう考えても情報が漏れている」
「な、なるほど。たしかにそうね」
「そこで、各部隊の隊長が、調べることになったんだ」
すると、菫が少し嫌そうな顔をした。
「え、つまり犯人探しってこと?」
「まぁ、仲間を疑うのは嫌だが、またガセス山のようなことが起こったら今度こそ死ぬ。事は軍全体の危機だ」
「で、俺達にそれを伝えてどうすんだ?」
悠馬が不思議そうに尋ねた。
「いや、まぁ総隊長補佐のお前達には伝えておこうと思ってな」
「おいおい、俺達がスパイって可能性を考えなかったのかよ」
おどけるように言う。
「悠馬! そんなこと言わないで」
菫が怒った。
「大丈夫だ。お前達がスパイのわけ無いだろう。もしそうならすぐに分る。何年の付き合いだと思っているんだ」
隼人は笑った。
「ああ、そうだな。ありがとう。モチロン、隼人がスパイだったとしてもすぐに分るぜ」
「ありがとう。悠馬。そういうわけで、これから調べることになったんだ。お前達も何か分ったら教えてくれ」
「おう、分ったぜ」
「うん……。わかった」
二人は了承して部屋を出た。
★
三日後。諸々の仕事を済ませて、いよいよ調べることになった。
食堂で豪華なランチを食べながら、隼人は思案する。
「どうしたものか。まず何から調べるかな」
人を疑うのは気持ちの良いものではなかった。
「あの、総隊長。隣いいっすか?」
元気のいい声がした。
「んあ。おお、モンド」
声の主はトライブレード結成時に入隊したモンド・キャルタだった。
モンドが隣に座る。
「凄い、ランチっすね」
隼人の豪華ランチを見て驚く。
「隊長の特権だ。ん、エビフライ」
「あ、どうもっす」
エビフライをモンドの皿に置いた。
「なにか、悩みごとっすか?」
「ん。まぁな。ちょっと難しい案件を扱っていてな。どうしたものかって考えていたんだ」
「そうっすか。実は俺も悩みがあるんすよ」
「なに? それなら、ゴウやアニエスに相談したらどうだ」
「いや、それが誰にも言えないというか。その総隊長に相談したいんっす」
「俺に?」
隼人は首をかしげた。
「その、もしかしたらこの隊にスパイがいるかもしれないんす」
モンドは何かに怯えるように言った。
その言葉に隼人は険しい表情で答える。
「モンド。その話は俺の部屋でしよう。とりあえず、飯を食べろ」
「は、はい」
昼食をとった後、隼人の部屋に向かった。
「それで、詳しく聞かせろ」
「はい。一週間くらい前、夜中に目が覚めて、トイレに行ったんっす。そしたら宿舎の外で悠馬隊長と菫隊長がなにかしてるのを見かけて」
「悠馬と、菫が?」
信じられない名前が飛び出してきた。
「はい。そうっす。それで俺、何してんのか気になってこっそり物陰からみたんす。そ、そこで見てしまったんす」
「何をだ?」
「副隊長の二人が悪魔に変身するのを……」
「寝ぼけていたということはないか?」
「はい。それはないっす。信じられなくて顔を抓りましたから。それに三日前にもう一度見たんっす」
モンドの様子をみてウソを言っているようには見えなかった。
隼人はゆっくりと尋ねる。
「その悪魔の特徴は?」
「青い悪魔と、黄色い悪魔だったす」
その瞬間、隼人の脳裏に両親が殺された時の出来事が蘇った。
だが、そんなわけないと心の中で頭を振って言った。
「そうか。間違いないんだな」
「俺、どうしたらいいんすかね」
「モンド。お前は心配しなくて良い。とにかくこの件は俺に任せろ。誰にも言うなよ」
モンドは力強く頷いた。
「わかったっす」
隼人は、モンドが出て行ってから考えていた。
「にわかには信じられない。だが、事実を確かめるためにも張り込んでみるか」
その日から二人を監視した。
そして、監視してから三日目。それは起こった。
つづく