第三話から引っ張った、親友殺しの真相です。
そして、この物語のラスボスも登場です。
宜しくお願いします。
その日は今にも雨が降りそうな曇り空の夜だった。
「今日も収穫無しか。やはり勘違いだったのか」
隼人はモンドに言われてから、悠馬と菫を探った。しかし、それらしい感じは全くしなかった。いつも通りの二人だった。
試しに組み手をしたが、変わらずの実力。今まで培ってきた技術がそこにはあった。
「いくら変身上手でも技術まではコピーできない。ということは本物か」
二人を信じると言っておきながら、疑う自分に嫌気がさした。
「やめやめ。今日はもう寝る」
張り込みを止めて、部屋に帰ろうとした。が、そのとき悠馬と菫が現れた。
「あの二人」
思わず物陰に隠れる。
二人はキョロキョロと辺りを見回すと、外に出て行く。
「まさか。本当に?」
気配を消して、こっそり後をつける。
二人は、宿舎からはなれた、全く人がいない場所で立ち止まった。
「だれかを待っているのか?」
果たして、隼人の予想は当たった。
黒いローブを来た人物が二人の前に現れる。顔はフードを被っていて分らない。
何事か話しているが、声は聞き取れない。
「おいおい、冗談だろ」
信じたくなかった。だが、隼人は決して見たくなかった決定的瞬間を目撃した。
悠馬と菫の体が黒く光ると、姿を現したのは青い悪魔と黄色い悪魔。その姿を見ただけで、両親を殺した二体の悪魔だと直感で分かった。
そう思ったときには、隼人の体は動いていた。
「どういうことだ!」
隼人は物陰から躍り出て、二体に向かって叫ぶ。
黒いローブを着た人物は闇に消える。
「あ、は、隼人……!」
隼人に気づいた黄色い悪魔は驚いて後ずさった。
「……」
青い悪魔は無言で隼人を見つめる。
「貴様等、俺の事を覚えているか? 父さんと母さんの仇!」
隼人は鬼の形相で睨む。
「いや、そんなことより、悠馬と菫をどこへやった!」
「それは、その違うの! これは」
「よせ」
黄色い悪魔が言うのを青い悪魔が制した。
「その二人なら死んだ」
その言葉を聞いて、隼人は二体に襲い掛かった。
「きさまあああああああああああああああああああああああああっ」
対する二体も応戦する。
が、あまりにも実力に差があった。復讐という力。それを防ぐ手立てなどなかった。
隼人は二体の悪魔をあっという間に倒して、刃を喉元に突きつけた。
「答えろ。お前達は、俺の両親を殺したことを覚えているか?」
「ああ、覚えている。確かに俺とコイツはお前の両親を殺した」
青い悪魔は淡々と語る。黄色い悪魔は諦めたように涙を流している。
自分の両親と親友を殺した悪魔。隼人は憎悪に任せて、刃を振った。
二体の悪魔は無残にも首を飛ばされて血溜まりに沈んだ。二つの首が地面に転がる。
何も感じず、ただ隼人は死体を見つめる。
パチパチと拍手がした。
音のするほうを向くと、そこにはフードを目深に被り、黒いローブを着た人物が立っていた。
「おめでとう。これでお前の復讐は達成された」
隼人は刀を構えた。
「貴様は誰だ?」
「いやだな。俺っすよ。俺」
フードを捲る。
「モンド?」
それはモンド・キャルタだった。
「なんで、お前がここにいる」
「そりゃ、総隊長の復讐を見届けるためっすよ」
「なんだと? なぜ俺の復讐を知っている」
隼人は油断無く構える。
「お前は誰だ?」
「ふむ。その質問に答えるために、一から説明するっすね。総隊長、この顔に見覚えはないっすか?」
モンドの顔が崩れていき、再び形作られる。
「バカな! その顔は!?」
何時だったか、桜咲都子に見せてもらった写真。白髪の男。名前はヴェルガ。
「なんで師匠の恋人が?」
その言葉に相手はニタリと笑みを浮かべた。
「じゃあ、これは?」
白髪の男の顔が崩れて、今度は厳めしい顔になる。
「な、オーボス総隊長!」
隼人は驚いて叫ぶ。
「あるときは、白髪の美青年。またあるときは最強部隊の総隊長。そしてまたまたある時はトライブレードの部隊員。しかしてその実体は!」
男の体がグニャリと曲がり、別の体へ変化する。顔も崩れていき変化する。
「お初お目にかかる。俺の名前はオーボス・ヨルゲザド・アインツバルレン・サシフェリ・キャルタ・フォン・ヴェルガ。長いのでヴェルガと呼んでくれ」
現れたのは悪魔。とてつもなく美しい悪魔。長い輝く金髪。雄雄しい二本角。色白の肌。宝石のような翡翠の瞳。そして、圧倒的な気配。
「ちなみに、この戦争を始めた魔王だ」
隼人は呆然とする。
唐突過ぎて理解できなかった。
「混乱するのも無理はない。とりあえず、俺の話を聞いてくれ」
そういって語りだす。
★
「俺はとても退屈していた。悠久の時を生きる俺にとって、この長い人生、もとい悪魔生をいかに過ごすかはとても重要だった」
ヴェルガは長い髪をかき分けて語る。
「最初の結論は『愛』だった。だが、悪魔に愛という感情はない。だから人と恋に落ち、愛を育んでいけばきっと楽しいだろうと思った。そのターゲットにしたのがお前の師匠『桜咲都子』だ」
師の名前を出されて、隼人は反応した。
「どういうことだ……」
ヴェルガはニヤリと笑った。
「あれは良い女だった。とても可愛く。凛々しく。強い女だった。俺は彼女を愛し、また彼女も俺を愛した」
思い出すよう恍惚の表情で語る。
だが突然、無表情になった。
「けれど途中でつまらなくなって辞めた。愛は確かに楽しいが長続きしない。途中で飽きてくる。所詮、人と悪魔。根本的な生物の違いはどうにもならん。どうやら愛とは人だけが長続きするものらしい」
悲しみの表情で天を仰ぐ。
「では、愛より長く続くものは何だろう。俺がたどり着いた結果は『敵』だったのさ。そう。敵だ。敵。俺を殺そうとする復讐の鬼。俺はそれを求めた。だが、どうせ敵を作るなら、最高に俺を憎悪する敵を作ろうと思い立った」
昂奮するように隼人を見つめる。
白魚のような美しい指で隼人を指した。
「それでお前が選ばれた。俺の敵として仕立て上げるために」
隼人は気圧されて後ずさった。
「俺が敵? 仕立てあげる?」
隼人は何のことを言っているのかサッパリ理解できなかった。
ヴェルガは優しく語りかける。
「まずは悪魔を憎悪させる。悪魔の手でお前の両親を殺させた。そして、桜咲都子を通じて鍛えさせた。彼女の性格からお前と出会えば確実に育てるだろうと思ったが正解だったよ」
満足そうに頷く。
そして指を振って都子を殺したヘルマンの顔を空中に映し出した。
「次に鍛え上げられたお前をさらに強くするために、友人の悪魔を通じて桜咲都子を殺した。案の定、お前は復讐の力を糧にしてさらに強くなった」
嬉しそうに手を叩く。
「俺は次に戦争を起こした。大昔に起こった戦争に倣って人と悪魔が争う戦争『第二次人魔大戦』を起こした。その戦争にお前を参加させるための算段を整えた。桜咲都子の葬式の時に軍の関係者がストロンガー隊のチラシを渡しただろ? あれも俺だ」
顔が崩れて、その時の男の顔になった。
隼人の目が見開かれて、体が震えだす。
「お前はキッチリ参加してくれた。そしてオーボス・ブルシャーズとして、お前を鍛え上げた。お前はそこでまた強くなった。命の掛かった戦場で得られる経験はどんな練習よりも効果があるな」
オーボスの顔になり、ニタニタと笑う。
「そして俺はお前にストロンガー隊を託した。お前はトライブレードを結成して今や、人類軍の切り札だ。立派になったな」
感動するように涙を流す。
ひとしきり泣くと、再びヴェルガの顔に戻った。
「さぁ、お前は充分強くなった。後はお前の憎悪を俺に向けるだけだ。だから、こうして現れたんだよ。最後の仕上げをするために」
★
長々と語り終える。恐ろしく自分勝手な話だった。
「全部、お前が仕組んだのか」
隼人は聞かされた事実に混乱していた。
「ああ。そのとおり。ぜーんぶ俺が仕組んだ。お前という敵を作るために」
楽しくて仕方が無いといわんばかりに手を広げる。
「さぁ、最後の仕上げだ。お前に残酷な事実を告げよう」
倒れている二体の悪魔を指差す。
「そこに転がっているのは、本物の悠馬君と菫ちゃんだよ」
「は?」
隼人は聞き返した。
「いやだな。分らないのかい? お前は先日、彼らと組み手をしただろう。そのとき何か不審な点はあったかい?」
隼人は答えられない。
「なかっただろう? それが答えだよ。長年培ってきた技術はウソをつかない。それは彼らが本物であるという証拠だよ」
邪悪な笑みを浮かべてさらに続ける。
「彼らは自分が悪魔である事を知らなかった。なぜなら、そういう風に俺が作ったからだ。適当に妊婦を殺して腹から赤子を取り出して悪魔と融合させた。これで俺の命令に従う出来のいい玩具が完成した。あとはある程度、成長させた後、孤児として桜咲都子に育てさせたのさ。そして時が来ればお前に殺されるように仕向けた」
嬉しくて仕方ない様子で、歪んだ笑み浮かべさらに続ける。
「自分達が悪魔であることを知った彼らは、事実を知っていると言う俺の誘いに乗って、ここまでやって来た。それを目撃したお前は、二人を心配する。そのとき彼らが『死んだ』と言えば、お前は襲い掛かるだろ?」
「じゃ、じゃあ俺は悠馬と菫を……?」
信じたくない事実だった。
「そうだよ。お前が殺した。怒りに任せて彼らを殺した」
隼人は持っていた刀を落とす。
「だが、お前は間違っていない。なぜならそこにいる二人は確かにお前の両親を殺した悪魔だからだ。あの日、桜咲都子が出払った時に、悪魔として一時的に覚醒させて、お前を襲撃させたのさ」
「ああ……そんな」
頭を抱える。
「いやぁ、あの時、二人が桜咲都子に殺されないかハラハラしたものだ。上手くいって良かったなぁ」
ヴェルガは笑い話のようにしみじみと言った。
隼人は頭を抱えて震える。自分の人生が全てこの悪魔によって仕組まれていた。その事実は衝撃的過ぎた。
だからこそ、隼人は叫んだ。
「何故だ! どうして俺を選んだ!!」
色々と言うべきことはあったが、ここまで手の込んだことをする理由が自分にあるのか。それを真っ先に確認したかった。
すると、ヴェルガは思い出すように思案する。
「あー。あの時は確か、空が綺麗だったからかな? いや、それともその日の朝食に目玉焼きが出たからだったかな?」
意味不明の理由を連ねていく。
「まぁ、要するに適当だ。何となく魔界から人間界を眺めていて、お前と目が合った。それだけだ」
特別な理由もない。そう告げられた隼人は言葉を失った。
「で、訊きたいんだが、今どんな気持ち? ねぇ、どんな気持ち? 怒った? 怒ったよね? そうだよね?」
何かを期待するようにヴェルガは尋ねる。
ぎりりっと歯軋りして、落とした刀を取った。
「うおおおおおおおおおおおおおお」
ヴェルガに襲い掛かった。
「やった! 完成だ。遂に完成だ!」
ヴェルガは喜ぶ。
「死ねえええええええええええええ」
隼人は刀を振るう。
しかし、それを避けて、手のひらを隼人に向けた。
「う~ん、もうちょっと強くなってくれないとつまらないな」
強烈なエネルギー弾を発射して隼人を吹き飛ばした。
直撃を受けた隼人は地面に転がる。
地面に這いつくばって見上げた相手の顔は、半笑いの人を小馬鹿にした顔だった。
「全ての怒りは俺にぶつけると良い。なぜなら全部、俺が悪いんだから」
ヴェルガの足元に魔方陣が展開する。
「さて、目的も達成した。俺は帰る。お前はまだ強くなれる。強くなって早く俺を殺しに来てくれ。楽しみに待ってるよ。愛しの煉城隼人君」
そういうと消えていく。
後に残された隼人は、ふらふらと覚束ない足取りで二人の死体の傍に行った。
自分の手を見ると、二人を切った時の返り血がべっとりと付いていた。
「く、っくくくくく」
首の無い物言わぬ死体を見つめて笑う。それは「泣きたい時ほど笑え」という師匠の言葉の実践。
やがて雨が降り始めた。
死体の血も返り血も雨が全て流していく。
耳に残るのはヴェルガの声。
『強くなって早く俺を殺しに来てくれ』
怒りの炎が沸々と湧き上がった。
隼人は天を仰ぐ。曇天に向かって吼えた。
「ゆるさんぞおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ヴェルガアアアアアアアアアアアアア」
遙か彼方を睨むその目は血の涙を流し、ギラついていた。
「必ず貴様を殺す。何年かかっても。地の果てまで追いかけて貴様を殺す。必ずっ! 必ずだっ!!」
煮えたぎる怒りを隠さず、周囲に撒き散らす。
怒りの波動が辺りの建物を破砕する。天に雷鳴が響いた。
吠え猛る隼人の傍には怒りの獄炎が形作った鬼が佇む。
鬼は牙を剥きだして笑うと隼人の体へと融けていく。
「があああああああああああああああああああああああああああああ」
そして紅蓮鬼は誕生した。
つづく