魔法教師はやト!   作:沖彦也

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長かった過去編もこれにて完結です。
全十二話。丁度1クール分計算です。

過去編クライマックス増ページと言うことで普段より文字数が多いです。

次回から第二十四話と過去編で登場したヘルマンとの決着です。

宜しくお願いします。


第三十七話「人魔大戦終結。隼人の終わらない戦争」

 戦艦と悪魔の軍勢が攻防を繰り広げる。

 

 オスティアの周辺は爆撃と轟音の戦場となっていた。

 

 ヴェルガとの会談の後、戦端の火ぶたは切って落とされた。

 

 完全な後手に回った悪魔軍は統制も取れず、人類軍の戦艦に攻撃されて数を減らしていく。

 

 クロノメモリの魔法で下級悪魔・中級悪魔を軒並み消滅させられ、上級悪魔も弱っている。

 

 数の多さという優位を失った悪魔は敗北へと向かっていく。

 

 隼人は人類軍旗艦『マルス』に乗艦していた。

 

 戦艦に設えられた作戦室では賢老達と隼人がモニターを見つめる。

 

 十ある島が次々と奪還されていく。ヴェルガがいる場所は空中諸島最奥の王宮島。そこまでの進路を確保するのが作戦の要だった。

 

「ヴェルガの奴は慌てて通信を切りおった」

 

「この戦いを勝たねば人類に未来はない。ワシらも往くぞ」

 

「ここまで強行で来たのだ。最前線に立たねば申し訳がない」

 

 賢老達は円卓を立ち上がってそれぞれの戦場へと向かう。

 

 魔法界の人間の寿命を減らす。この作戦は反対する勢力を力づくで抑え込み、強行採決で決まり実行された。

 

 この決戦に負けることは許されない。

 

 賢老達はぞろぞろと作戦室を出て行った。

 

 隼人は一人、席に座ってその時を待つ。

 

 モニターの通信音が鳴る。

 

「伝令。王宮島ルート確保。トライブレード隊出撃してください」

 

「了解」

 

 一言短く返事すると、立ち上がって集合場所へ向かう。

 

 集合場所にはトライブレード部隊全員が整列していた。

 

 隼人はトライブレードの隊員を見回した。

 

 全員の顔が緊張に満ちている。

 

「俺達は最前線の最前線。王宮へ突入してヴェルガと幹部の悪魔共を殺す。途中で命を落とす者もいるだろう。だが、振り向くな。倒れた者を踏み倒してでも進め。俺達の目的は悪魔軍を滅ぼすことだ」

 

 トライブレード部隊員は返事の代わりに全員が敬礼する。

 

「ハッチを開け!」

 

 隼人の合図で、整列している前方の壁が開いて、猛烈な戦場の風が吹き荒ぶ。

 

「トライブレード出動だ!」

 

「「「「「「「「「応!!」」」」」」」」」

 

 隼人率いるトライブレードは戦艦マルスを飛び出した。

 

 飛び出した先は空中。邪竜と翼魔が溢れる戦場だった。

 

「雑魚にはかまうな。王宮門まで突っ切るぞ」

 

 隼人達は空を駆けて突き進む。わらわらと悪魔が群がってくるが、トライブレードの敵ではない。

 

「どけええええええええええええ」

 

 重蔵が大剣を振り回して、相手を蹴散らす。打ちもらした敵をさらに、小隊員がハンマーや剣で磨り潰し、切り落とす。

 

 上から襲い掛かる邪竜にはアンリの小隊が対応。怒涛の魔法が発射されて、次々と消滅させていく。

 

「右後方より魔法弾が来るぞコラ!」

 

 遊撃のゴウ小隊が叫ぶ。

 

 それをすかさず、ギンガ小隊が障壁を展開して防ぐ。

 

「少し数が多いな」

 

 隼人は刀を引き抜く。

 

「皆さん! 総隊長の技が発動しますよ!」

 

 アニエスが叫ぶ。

 

 モーゼの十戒のように道が開く。

 

「流派・花鳥風月 風の章【轟嵐旋風陣】!!」

 

 隼人が刀を振るうと強烈な嵐が発生。

 

 前方に展開する悪魔が全て吹き飛んだ。

 

 既に隼人は、菫と悠馬が使っていた風の章と鳥の章も扱えるようになっていた。

 

 一気に距離を詰めて王宮門へと突撃。

 

 だが、門を潜り抜けた先で絶望が待ち構えていた。

 

「ホホホホホホホホホホホホホ」

 

 甲高い笑い声がして、黒い雲霞がトライブレードへ襲い掛かる。

 

「なんだ!?」

 

 雲霞は虫だった。小さな虫達が牙を剥いて隊員の肉を食い破る。

 

「ぎゃああああああ」

 

「うわああああああああああ」

 

 悲鳴があちこちから聞こえる。

 

「ホホホホホホ。良い声で鳴きなさい」

 

 悲鳴に紛れて一体の悪魔が、耳障りな羽音と共に降り立つ。

 

「私は【刺し穿つ指】ポルメリラ。さぁさぁ死になさい」

 

 体は蜂、頭は人間、腕は六本の魔王級が現れた。

 

 六本の腕を器用に動かして手近な隊員を串刺しにしていく。

 

「ぐあああああああ」

 

「ホホホホホホホ。イイイイイイイ音だワワワワワワワ」

 

 狂った声を上げて、暴れ始める。

 

「おおおおおおううう」

 

 獣の雄叫びを上げて、重蔵が大剣でポルメリラの攻撃を受け止めた。

 

「あらあら。ずいぶんと逞しい人間。さぞかし貫きがいがあるでしょうね」

 

 嬉しそうに攻撃していく。

 

「先に往け。この悪魔を足止めする」

 

「分かった」

 

 虫の雲霞とポルメリラを抜けて走り出す。

 

「ホホホホホホホ。そちらに言ったわよ」

 

 誰かに伝えるようにポルメリラは言うと、重蔵に向き直った。

 

「さぁさぁ。始めましょう。不死身ではなくなっても串刺しは止められないワワワワワ」

 

「刺せるものならば刺してみるがいい!」

 

 重蔵と串刺しの悪魔の戦いが始まる。

 

 その戦闘を後目にして隼人達は突き進む。

 

 王宮までは残り五十メートル。

 

「おっとここからは通さんぞ」

 

「その通りだ。ここからは通さんぞ」

 

 突き進む前方に現れたのは、右腕が異常に発達した悪魔と、左腕が異常に発達した悪魔。

 

「【辣腕の右腕】ララライト」

 

「【敏腕の左腕】レレレフト」

 

「「我らが通さぬ。通さぬ」」

 

 巨大な腕が交差して進む先を阻んだ。

 

「上等だコラ!」

 

「邪魔はさせない」

 

 ゴウとアンリの小隊が前に出て二体の悪魔を抑え込む。

 

「おう、お前ら先に往けコラ」

 

「ここはゴウの馬鹿と私の隊で食い止めるわ」

 

「頼んだぞ」

 

 隼人達はそのまま堂々と正面入り口から王宮内部へ突入。

 

 王宮内でも悪魔達が応戦するが、一騎当千のトライブレードの敵ではない。

 

 王宮内部は二方向に分かれていた。

 

「ギンガとアニエスの小隊はゲート破壊へ。俺は玉座に行く」

 

「了解!」

 

 仲間が散開する。隼人は事前に調べてあった玉座へ続く道を進んでいく。

 

 

★

 

 

 迷路のような王宮内部を進み、目的の玉座がある扉へとたどり着いた。

 

 扉の向こうから強烈な邪気を感じた。

 

 意を決して突入。玉座の広間へ足を踏み入れる。

 

 入ってきたと同時に悪魔が襲い掛かるが、全員、一太刀で切り伏せる。

 

 オスティア王とオスティア王妃が玉座に座っていた。

 

「ここまでたどり着いたか」

 

 王は目を細めて隼人を見下ろす。

 

「ふん。くだらない腹話術はよせ。ヴェルガ」

 

 凄まじい殺気をぶち当てた。

 

 オスティア王と王妃は糸が切れた人形のように転がって玉座から落ちた。

 

「ふーむ。ちょっとベタだったかな?」

 

 ヴェルガが玉座の後ろから現れた。

 

 王と王妃は既に事切れてヴェルガの玩具にされていたのだ。

 

 ヴェルガは二つの死体を眺めて笑う。

 

「ヒヒヒ。まぁちょっとした暇つぶしにはなったな」

 

 隼人は鬼の目で睨みつけた。

 

「ここで、貴様を殺す」

 

 隼人は【爆熱真紅】を展開。

 

「奇襲されて驚いたが、とりあえず始めよう」

 

 ヴェルガが構えた瞬間。隼人は縮地で背後に回っていた。

 

「な?」

 

 そのまま背後に袈裟斬り。

 

 が、切り裂いたのはヴェルガのマント。

 

 本体は空中に逃げていた。

 

「危ないな。急に切りかかるなん……て?」

 

 背中から血が噴出す。

 

「馬鹿な。切られた!?」

 

 隼人を見ようとした瞬間、目の前に無数の鳥の羽根が飛んできた。

 

「鳥の章【鳥羽針】」

 

「ぎおおおお」

 

 悲鳴を上げて地面に落下。

 

 落下地点には刀を構えた隼人。

 

「げっ」

 

「でぃやっ」

 

 裂帛の気合で切り上げ。

 

 とっさに靴裏に障壁を展開して防御。ヴェルガは隼人と距離をおく。

 

「くくく。強い。良いぞ。面白い。今度はこっちからだ!」

 

 蛇のように這いながら隼人に近づく。

 

 そのまま、腕を伸ばして刺突、刺突、刺突、刺突、刺突、刺突、刺突、刺突、刺突。

 

 猛撃を加え、さらに足で鋭い蹴りを見舞う。

 

 対する隼人はその攻撃を受け流しながら、斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬と斬撃を繰り出す。

 

 互いが出す攻撃は全てが致命傷。広間に二人の修羅の攻撃がこだました。

 

 だが、そのラッシュもヴェルガが変則で繰り出した刺突で破られる。

 

「らああああああっ」

 

 隼人の腹に深々と腕が突き刺さった。

 

「ぐふぅ」

 

 くぐもった悲鳴が上がる。

 

「むふ♪」

 

 ヴェルガは気持ち悪い笑いで勝ち誇った。

 

 が、しかし。隼人の顔はそれ以上に笑っていた。

 

 突き刺さった腕を隼人の左手が掴む。

 

「花の章奥義! 【千紫万紅】」

 

 そのまま奥義を叩き込んだ。

 

 ヴェルガはとっさに体を捻って避けようとしたが、突き刺した腕の肩口から先が爆ぜた。

 

「ぐおおおおおおおおお!?」

 

 慌ててヴェルガは後退。

 

 二人の動きが止まった。

 

「肉を切らせて骨を断つ。そんな戦法でくるとは」

 

 ヴェルガは苦しそうに顔を歪ませる。

 

 隼人は刺さった相手の腕を引き抜いて放る。そのまま膝を付いた。

 

「げっほ。それだけで済むと思ったか」

 

「は?」

 

 疑問を口にしたとき、ヴェルガの体に激痛が走った。

 

「何だ、これは!」

 

「千紫万紅は毒の技。一度切れば相手は毒で腐り果てる」

 

 ヴェルガは苦しさのあまり声も上げずにのた打ち回る。

 

「そして、燃えろ」

 

 隼人の宣告。

 

 ヴェルガの身体に刻まれた無数の切り傷から炎が噴出した。

 

「ぐぎゃああああああああああああああああ」

 

「俺の刀。【煉獄】は切り裂いた傷口から炎を上げる。そのまま肉を炙られろ」

 

 肉体を炙られる壮絶な痛み。

 

「ぎざばあああああああああああああああああああ」

 

 最早なりふり構わず叫びを上げて隼人に襲い掛かる。

 

「おおおおるうううううおおおおおおお」

 

 獣の雄叫びを上げて我武者羅に攻撃した。

 

「だあああああああらああああああっ」

 

 その突撃にタイミングを合わせて、隼人は刀を振るう。

 

「鳥の章奥義【比翼連理】!」

 

 一度に上下二連撃を叩き込む。

 

 破裂音とともに相手が空中に弾かれる。

 

「コレで終わりだ! 風の章奥義【疾風怒濤】!!」

 

 超高速で刀を振り回す。

 

 一撃、二撃で残っていた腕と、両足を切り落とす。最後に頭を切り裂いてバラバラにした。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 肩で息をして、穴の開いた腹に治癒の札を貼り付けて応急処置した。

 

 隼人は物言わぬバラバラの死体となったヴェルガを見つめて言った。

 

「これで終わったのか」

 

『そんなわけないじゃん』

 

 どこからか声がした。

 

 辺りを見渡すと、玉座の上に巨大なスクリーンが現れた。

 

 ノイズが走って、映像が映る。

 

『ヤッホー。元気?』

 

 無傷のヴェルガがにこやかに挨拶した。

 

「ヴェルガ! 偽物だったか」

 

 隼人はバラバラの死体を一瞥して言う。

 

『それは違うよ。そこに転がっているのは俺だ。そしていまここに居るのも俺だ』

 

 意味深な発言。隼人は問いただした。

 

「どういうことだ?」

 

『俺は他人に化けるのも得意だが、それ以外にも俺は複数いる。俺は一人であり、二人であり、大勢だ』

 

 混乱する物言いだったが、隼人は理解した。

 

「貴様、命を分けたな!」

 

 隼人の答えに満足そうに笑う。

 

『その通り。俺の二つ名は【命を弄ぶ貌】だったっけ? 良い名前だ。その名の通り、俺は俺の命を弄ぶ。魂を複数に分けて色々なヴェルガを作った』

 

 スクリーンに色々なヴェルガの姿が映る。

 

『だが、ぜーんぶ死んでしまったけどな。全く、魔界ごと消されたらどうしようもない』

 

 色々なヴェルガの姿が全てクシャクシャにつぶされて消えた。

 

『それに、そこに転がっているヴェルガはクロノメモリのおかげで不死を奪われた。これは死ぬしかない。とほほ。せっかく作ったのにもったいない』

 

 ため息をついて残念がる。

 

 隼人は険しい表情で言った。

 

「と言うことは、オリジナルはお前だな」

 

 全部死んだと言ったが、目の前のヴェルガは生きている。つまりそれはオリジナルに違いなかった。

 

 果たして隼人の想像は当たった。

 

『大正解。俺がオリジナルのヴェルガだ。ちなみに、会談に臨んだのはオリジナルだ。そして俺は、魔界にも魔法界にもいないから生き残った。オリジナルの俺が残ればまた作ることが出来る。いやぁ命拾いした』

 

 呑気に笑うヴェルガ。隼人は悔しそうに刀を握りしめた。

 

「どこだ! 貴様はどこにいる!!」

 

『さぁどこだろうね。まぁどこだろうと、この戦いの決着はついた。この第二次人魔大戦はお前達人類の勝ちだ。おめでとう』

 

 敗北を宣言するが全く悔しがる様子はなかった。

 

「終わりなものか! 貴様を殺すまで戦いが終わるはずないだろう。今すぐここに来い! 俺との決着が貴様の望みだろう!!」

 

『はぁ? 何言ってんの? 貴様との戦いは暇つぶしだって最初に言っただろう。俺はやることが出来た。だから暇つぶしは終わりだ。今まで楽しかったよ』

 

 隼人はその時気が付いた。ヴェルガは最初から遊んでいただけなのだ。こっちが必死になろうとも相手が本気ではないから一生平行線をたどるのだ。

 

『さぁてそろそろ貴様とのお喋りも飽きた。また暇になったら付き合ってくれ。と、言いたいところだが……』

 

 ヴェルガの顔から笑みが消えた。

 

 それどころか、口から血がこぼれた。

 

『全く、やってくれた。まさか貴様の技がオリジナルに届くとはな』

 

 睨みつける表情が苦しそうに歪む。

 

 隼人は何が起こっているのか分からなかった。

 

『魂のリンクで意識と情報を共有していたのが間違いだった』

 

 その一言で隼人は理解した。

 

「そうか、呪いが届いたのか」

 

 流派・花鳥風月は呪法剣術。相手に呪いをかける剣術である。隼人の執念が、怨念が、ヴェルガのコピーに叩きつけた技を通してオリジナルに降りかかったのだ。

 

『おかげで予定していたことが全て台無しだ。こんな屈辱は初めてだ』

 

 ヴェルガは初めて、自分の思い通りのシナリオを描けなかった。掌で踊らせていたはずの人間に手痛い反撃を食らったのも初めてだった。

 

『ここからは本気だ。貴様との決着は必ずつける。この体が腐り果てるまでに必ず決着をつけてやる。覚悟しろ、煉城隼人!』

 

 ヴェルガは牙を剥いて宣言した。

 

 隼人も鬼の目でヴェルガを見据える。

 

「良いだろう。貴様は必ず殺す。それまで、俺のかけた呪いで苦しむがいい!!」

 

 不死であるからこそ、その苦しみは延々と続く。それは命を弄んだ報いだった。

 

 互いの睨み合いは王宮の振動音で終わった。

 

 天井にヒビが入り、落石がスクリーンに直撃。掻き消えるように映像が消滅した。

 

 消滅してもなお、隼人はその場所を睨みつける。その視線は遥か彼方、どこかに居るヴェルガに向けられていた。

 

『隼人総隊長! ゲートの破壊は完了です。ヴェルガは!?』

 

 念話からアニエスの慌てた声が響く。

 

「話は後だ。王宮が崩れる。急いで脱出だ」

 

『了解です』

 

 念話を切ると、隼人は踵を返して玉座の間を後にした。

 

 

★

 

 

 それから一ヶ月後。

 

 世界は祝勝ムードで包まれ、連日のお祭り騒ぎだった。

 

 メガロメセンブリアではパレードが行われ、賑わっている。皆、笑顔で幸せそうな顔をしている。

 

 それを議会堂の屋上で、隼人は暗い表情のまま見つめていた。

 

 あれから、崩壊する王宮を出た隼人は、残った悪魔軍と戦い、全滅させた。

 

 人類軍は勝利を手にしたが、抵抗した悪魔達は一筋縄ではいかず、少なくない犠牲が出た。

 

 トライブレードにも犠牲が出た。隊の半分は戦死。残りの半分は重症で今なお入院中だった。

 

 魔王級と戦った重蔵、ゴウ、アンリは意識不明の重体で再起不能。

 

 壊滅だった。

 

 トライブレードはオスティア決戦をもって解散が決定。

 

 無事だったアニエスは医者として、入院中の隊員達のために活動している。ギンガもそれを支援している。

 

 ヴェルガとの顛末は人類軍上層部と賢老達にも伝えられた。だが、ヴェルガは死亡したとの判断が下された。

 

 理由は二つあった。一つは十二億人の寿命を利用してまで挑んだ決戦だったからだ。反対派の意見を押さえての強行軍だったので、失敗は許されなかった。ヴェルガの討伐に失敗したという事実はあってはならなかった。

 

 二つ目はクロノメモリの証言だった。曰く、隼人が会話したオリジナルの存在を感知できないらしかった。不死の存在であっても「永遠」という時間に生きているので、クロノメモリの支配から逃れることが出来ない。即ち、悪魔がどこに居ようとも存在を感じることが出来るのだ。

 

 その感知網にヴェルガのオリジナルが引っかからない。引っかからないということは存在しないという結論だった。

 

 いずれにせよ、直接対峙して会話したのは隼人だけだった。ヴェルガの生存を一個人の印象で決められることではないので、確証など持てない以上、死亡したと判断された。

 

 そして隼人は反論できず今に至る。

 

『納得してないようですね』

 

 クロノメモリが現れた。

 

「ああ、そうだな。でも確証がない以上、仕方ない」

 

 理解できるからこそ悔しかった。

 

 隼人はクロノメモリの顔を見る。

 

「なぁ、不老の契約、まだ延長できるか?」

 

『延長するのですか? 確かに生死が不明ですから、契約としてはまだ有効です。ですが、もう良いのではないですか? あなたは十分に戦いました。戦いが終わった今、前に進むチャンスです』

 

 クロノメモリは諭すように語りかける。

 

 しかし、隼人は首を振る。

 

「いや、奴を殺すまで俺の戦争は終わらない。契約がまだ出来るのなら頼む。そのかわり、時間魔法は返すよ」

 

 クロノメモリは驚いたように目を瞬かせる。

 

『時間の魔法を手放すのですか?』

 

「ああ。あの力は便利だが、使えなくても困らない。不老の契約さえ延長できればそれでいい。それさえあれば、俺はまた時間をかけて鍛えるさ」

 

『やれやれ、あなたは本当に変わった人間ですね。強大な力を持っていても、それをためらいなく手放せる。まぁだからこそ信頼できるのです』

 

 そんな独り言のような言葉を呟くと、頷いた。

 

『良いでしょう。契約は延長です。時間の魔法は一時的に預かることにしましょう。ヴェルガの生存が確認されたら、再び使えるように取り計らいます』

 

 隼人はニヤッと笑う。

 

「相変わらず、優しいな。ありがとう」

 

 深々と頭を下げた。

 

『それから隼人。時間の魔法だけでなく、もう一つ、紅蓮鬼の力も手放しなさい』

 

「なに? 爆熱真紅を?」

 

 クロノメモリは首を横に振って否定した。

 

『違います。あなたの怒りと怨念と強い願いが生み出した強大な力の方です。今まで戦ってこられたのはその力のおかげです。ですが、それはあなたの器を遥かに超える力です』

 

 隼人は胸に手を当てて確かめる。

 

「成程。薄々は気が付いていたが、やっぱり鬼の力ってのがあるんだな」

 

『はい。今まだ危険ですが、今より強くなれば使いこなせるようになるでしょう』

 

「そうか俺はまだ強くなれるんだな。分かった。手放す方法が分からないが何とかしよう」

 

 隼人は素直に返事した。

 

 クロノメモリは満足そうに頷くと告げる。

 

『では隼人、最後にアドバイスを一つしましょう』

 

「アドバイス?」

 

 隼人は怪訝そうに首を傾げた。

 

『これから先、あなたは赤ん坊を育てなさい。それが輝く未来へとつながる道です』

 

「なんだそれ? 結婚して子供を育てろというのか?」

 

『さぁそれは、あなたが判断しなさい。では、また会いましょう。あなたの未来に幸多からんことを』

 

 言うだけ言うとクロノメモリは消えた。

 

 隼人は暫く考えたが、自分が赤子を育てるイメージが湧かず、とりあえず保留にしておいた。

 

「あ、こんなところにおった」

 

 近右衛門がやって来た。

 

「どうした?」

 

「どうしたじゃないじゃろ。紅蓮鬼ともあろう者がパレードに出んでどうする。早う行ってこい」

 

 明るく促した。

 

「そんな暇ない。じーさん。飛空挺を一隻貸してくれ」

 

「なに? どこいくんじゃ?」

 

「ヴェルガを探す」

 

「な、何言っとんじゃ。生死不明じゃが、クロノメモリも証言しておったじゃろ。もうあ奴はこの世にはおらん」

 

 隼人は否定した。

 

「奴は人を欺くのが上手い。すぐ近くに隠れている可能性がある」

 

 近右衛門はため息をつく。

 

「隼人。もう戦争は終わったんじゃ。奴も瀕死の重傷を負った。ならば、もう何もすることは無い」

 

 諭すように言った。

 

 その言葉を隼人は否定した。

 

「いいや。奴を殺すまで俺の戦争は終わらない。終わらせてなるものか」

 

 落ち着いたように見えるが、鬼の怒りはまだ収まらなかった。より一層燃え盛っている。

 

「飛空艇が使えないなら、とりあえず歩いて探す。何年掛かろうと必ず探して、殺す」

 

 屋上から去ろうとした。

 

「まて、隼人。探すのならばワシの学園で教師せんか?」

 

 近右衛門が引き止める。

 

「は? 教師?」

 

 隼人は怪訝そうな顔をした。

 

「そうじゃ。麻帆良学園にある迷宮図書館ならば、さらに強くなるヒントもあろう。どうじゃ?」

 

「却下だ」

 

 付き合いきれないといわんばかりに、立ち去ろうとする。

 

「では、私と京都に帰りませんか? 隼人」

 

 屋上のドアが開いて、紅き翼メンバー詠春が現れた。

 

「詠春。生きていたのか」

 

 詠春は穏やかに笑う。

 

「もちろん。紅き翼は誰一人死んでません。ただ、タカミチとラカンが重症で入院中ですがね。紅き翼も活動休止です」

 

「なるほど、それで京都に里帰りか」

 

 隼人は懐かしい地名を聞いて遠い目をする。

 

「ええ、そうです。貴方も悠馬と菫を故郷の地に埋葬してはどうですか?」

 

 柔らかい笑みで提案する。

 

「あいつ等を京都に」

 

「異国の地で眠るより、師と同じ墓所に納めてあげましょう」

 

 隼人は考える。

 

 詠春は畳み掛けた。

 

「それに、貴方の体を休めるのにも一度故郷に帰ったほうが良いでしょう。貴方さえよければ私の実家に来てください」

 

「お前はいいのか?」

 

「ええ。もちろん。なにせ家が関西呪術協会総本山ですからね」

 

「は? なんで青山家が近衛家の家に?」

 

「実は私、結婚しまして。名前も青山から近衛に変わりました」

 

 衝撃の一言だった。

 

「え? おま、結婚したのか。それも爺さんの家に婿養子か」

 

「はい。いやぁ、結婚したのは一年前ですが、それでもまだラブラブです」

 

 堂々と言ってのけた。

 

 さらに詠春は続ける。

 

「それに、もうすぐ娘が生まれるんですよ。それで私も京都に帰るんです」

 

 友人が結婚して子供も出来た。詠春との間に越えられない壁が出来た気がした。

 

 詠春はニヤッと笑った。

 

「ちなみに、お守を手伝ってくれれば家賃はいりませんよ」

 

 隼人はクロノメモリのアドバイスを思い出す。

 

『あなたは赤ん坊を育てなさい』

 

 このことなのかは分からないが結論を出した。

 

「分った。体を治すために。京都に帰ろう」

 

 観念したように隼人は言った。

 

「では、さっそくゲートポートのチケットを取らないと。行きましょう」

 

「孫の顔が楽しみじゃのー」

 

「やれやれ、なんだか毒気を抜かれるな」

 

 隼人は近衛家の二人と一緒に屋上から立ち去った。

 

 

★

 

 

 こうして隼人は宿敵を討ち果たせぬまま、一度刀を置くことになった。

 

 時は西暦19××年。魔法歴201年。隼人、19歳の時であった。

 

 

 

【過去編】終

 

【VSヘルマン編】に続く

 




前書きに書くとネタバレになるんでこちらに記載。

過去編を何とか書き上げました。トライブレードのメンバーの活躍をもっと書きたいところですが、それは本筋から外れるのでカットしました。
本当は、重蔵の価値観の変化、ゴウとアンリの恋物語、アニエスの医者としての再起、ギンガの仲間に対する思い、なんてものを考えていたんですが全く終わりそうにないんで全部カットしました。いつか回収できればしたいと思います。

さて、隼人とヴェルガの因縁はこの過去編で語りましたが、実は隼人が麻帆良学園に来るまでにあと1エピソードあります。
鬼の力を手放して今に至る話は、麻帆良学園祭編での回収を予定しています。
今後ともどうぞよろしくお願いします。


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