魔法教師はやト!   作:沖彦也

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VSヘルマン編です。

この二次創作では、ヘルマンのキャラ付けにSound Horizonネタを組み込んでます。

というわけで、よろしくお願いします。


第三十九話「物語の幕は開く。麻帆良に降り立つ悪魔」

 日が落ちて夜が来る。それと共に、仮面の男と二人の少女と一匹の犬が麻帆良学園に降り立った。

 

「ふむ。詠春とあの少年にはしてやられたね。まさか詠春が【黄昏の天使】を奪って、少年に持たせて空間転移による移動で逃がすとは」

 

 仮面を触って唸る。

 

「だが誰も、この仮面の男『ヘルマン』からは逃げられない」

 

「ご主人様、どうしますか?」

 

 右隣にいた少女が語りかける。

 

 少女達の頭をなでるとヘルマンは告げた。

 

「もちろん彼を探すよ。さぁ行っておいで」

 

「「ウィ、ムシュー」」

 

 スミレ色をした髪の少女と紫色をした髪の少女は飛んでいく。

 

「ねぇオルタンシア。あの子はどこにいるかしら?」

 

「ねぇヴィオレッタ。あの子はあそこにいるんじゃないかしら?」

 

 二人が見つけたのは麻帆良学園女子寮。あやせ達の部屋。

 

「ねぇオルタンシア。どこから探りましょう?」

 

「ねぇヴィオレッタ。窓からこっそり覗きましょう?」

 

 そっと覗きこむと、ちょうど夕飯を食べていた。

 

「いただきまーす」

 

 四人は手を合わせて食べ始める。

 

「う~ん。やっぱ、ちづ姉のごはんは最高だよ」

 

 夏美は幸せそうな顔で言う。

 

「ふふ。ありがとう」

 

「美味しすぎて、食べすぎるのが難点ですわね」

 

 あやかは上品におかずを口に運ぶ。

 

「うまうま」

 

 小太郎は豪快におかずを口に運ぶ。

 

「こら、もう少し行儀よくたべなさい」

 

「うるさいな。あやせ姉ちゃん。美味いモンは豪快に食べる。これが常道や」

 

「そんなことありません! 子供だからといってもちゃんと丁寧に食べなさい!」

 

「子供は関係ないやん! それに俺、もう十二歳やで」

 

「十二歳って。小学生じゃん」

 

 夏美が割って入る。

 

「む、小学生ちゃうわ。俺、学校行ってへんし」

 

「学校に行ってない? どういうことですの?」

 

 あやかが訝しむように質問する。

 

「え? だって俺、親に捨てられてからずっと一人で暮らしてきたし、狗族と人間の半妖やのに学校行けるわけないやん」

 

「ちょっとまって。貴方、一体何者ですの?」

 

「何者って。俺は犬神小太郎やで」

 

「いや、そうではなくて、夕飯前にも言っていた狗族って?」

 

「あ。そういやこれ言うたらアカンことやっけ?」

 

 小太郎は少し考えてから答えた。

 

「ま、ええか。俺は世間一般で言う妖怪と、人間の間に生まれた半妖や。その証拠にほらちゃんと耳と尻尾があるやろ」

 

 頭の上と尻を指す。

 

「ちょっと、それ飾りじゃなかったの?」

 

 夏美が驚く。

 

「飾りなわけあるかいな。現にほら、人間みたいに頭の横に耳がついてないやろ?」

 

 長い髪の毛をかき分けて見せる。

 

「ほ、ほんとだ」

 

「ま、そんで半妖の俺は狗族社会にも人間社会にも属されへんから、ずっと一人暮らししててん」

 

「そう。苦労していたのね」

 

 千鶴がしみじみと言う。

 

「ちょっと、それどころじゃないでしょう。妖怪ってなんですの」

 

 あやかは小太郎の身の上を聞いて驚きを隠せなかった。

 

「え~、でも3―Aには幽霊のさよちゃんがいるよ」

 

「そ、それはそうですけど」

 

あやかは自分の常識が崩れていく感じがした。

 

夏美が話を戻す。

 

「じゃあ、その狗族ってのが関係して、麻帆良学園で倒れていたんじゃないの?」

 

「いや、そういうのやない。誰かに頼まれて俺はここに来た。それで大切なことを誰かに知らせなアカンねん。でもそれが何か思い出されへん」

 

「う~ん。短期記憶喪失ってやつね」

 

 千鶴は困ったように顔をしかめる。

 

「やっぱり病院で検査してもらった方がいいんじゃない」

 

「やっぱそーかな。でも俺、半妖やし、病院なんてかかったことないし。大丈夫やろか」

 

 心配そうに俯く。頭の上の耳もしょんぼりしていた。

 

 その様子を見て、あやかは自分の常識などかなぐり捨てでも、この少年を助けたい気持ちになった。

 

「雪広財閥が経営する病院なら、ある程度融通がきくし大丈夫ですわ」

 

「そうなん? ほならそうしよかな。このままずっとモヤモヤが続くのは嫌やし」

 

「じゃあ、明日早速行ってみましょう」

 

「なんか、次の行動が見えてきたら、がぜん腹減ってきたわ。千鶴ねーちゃん、おかわり」

 

「はいはい」

 

 楽しい食事を再開した。

 

 そして、その楽しい食卓を眺める二人の少女。

 

「ねぇオルタンシア。楽しそうね?」

 

「ねぇヴィオレッタ。楽しそうだね?」

 

 クスクスと笑う。

 

「ご主人様。どうしますか?」

 

『彼は私が対処しよう。お前たちは予定通り、件の少女とその友人たちを迎えに行ってあげてくれ』

 

 念話でヘルマンと少女達は会話する。

 

「「ウィ。ムシュー」」

 

 返事をすると、少女達は寮と食堂を繋ぐ渡り廊下に飛んでいく。

 

 そこには、明日菜、木乃香、刹那、図書館三人組、楓、くーふぇ、和美がいた。

 

「えっと、だれ?」

 

 明日菜達は困惑する。

 

 突如として空から二人のゴスロリ少女が降りてきたのだ。無理もなかった。

 

「ねぇオルタンシア。九人全員いるよね?」

 

「ねぇヴィオレッタ。一網打尽だね?」

 

 二人の怪しい雰囲気に危険を感知して、刹那と楓が動こうとする。

 

 が、遅かった。

 

 二人の少女のスカート下から黒い霧があふれ出て、あっという間に全員を飲み込む。

 

 叫び声も上げられず、霧に取り込まれて明日菜以外、姿を消した。

 

「何をしたの!」

 

 急いで明日菜はアーティファクトを出現させる。

 

「ねぇオルタンシア。彼女はやっぱり効かないね?」

 

「ねぇヴィオレッタ。彼女はやっぱり効かないよ?」

 

 ゆらゆらと揺れて妖しく笑う。

 

「でも、これならどう?」

 

「きっと、上手くいくよ?」

 

 二人の体から魔法陣が滲み出す。

 

「やあああああっ」

 

 明日菜は果敢に突撃した。

 

 しかし肉薄する直前、突如として地面に穴が空く。

 

「え?」

 

「グルルオオオオオオル」

 

 穴から黒犬が飛び出してきて、明日菜に噛みつくと穴に引きずり込んだ。

 

 とっさの出来事で対応が出来なかった。

 

「ねぇオルタンシア。魔法が効かなくても穴には落ちるね?」

 

「ねぇヴィオレッタ。プルーは凄いね?」

 

 嬉しそうにクスクス笑う。

 

 全員が敵の手に落ちた。

 

「ねぇオルタンシア。これで良いんだよね?」

 

「ねぇヴィオレッタ。これで楽しめるね?」

 

 互いに顔を見合わせると影に消える。

 

 その、一連の出来事を目撃した者がいた。

 

「な、なんだ今の」

 

 千雨だった。

 

「文化祭の衣装制作で疲れてるんだな。そうに違いない」

 

 今見た出来事が信じられず、考えないことにして寮に戻った。

 

 

★

 

 

 彼女が寮のロビーに戻ると、隼人がやって来た。

 

「お、千雨。ちょうど良かった」

 

「なんですか。先生」

 

「明日菜達知らないか?」

 

 今、一番聞きたくない名前だった。

 

「知らない知らない。私は何も見てない」

 

 全否定して、そのまま立ち去ろうとする。

 

「まて。何かあったんだな」

 

 肩を掴まれて止められた。

 

「いや、その幻覚を見ただけだから」

 

「その幻覚ってどんなだ?」

 

 真剣な顔をして訊いてくる。

 

「え、いやゴスロリ着た小さな女の子二人が、黒い霧を出して、それに神楽坂達が飲み込まれたっていう……」

 

 その答えを聞いて隼人はさらに真剣な顔になる。

 

「まさか、奴の手か?」

 

 最悪のパターンを想像して青ざめる。

 

 その時、寮の上の階からガラスの割れる音が聞こえた。

 

「なんだ!?」

 

 隼人は言うが早いか駆けだす。

 

 音のした階に当たりを付けて、階段を風のように駆け上る。

 

「大丈夫か!?」

 

 その部屋とはあやか達の部屋だった。

 

 勢いよくドアを叩くが返事がない。

 

「あの、先生どうしたんですか?」

 

 千雨が追いかけてきた。

 

 他の生徒たちも騒ぎを聞きつけて集まってくる。

 

「ぶち破る」

 

 一言そういうと、隼人はドアを蹴とばして破壊した。

 

 部屋に入ると驚愕。

 

 誰かが暴れまわったように部屋が散らかっていた。

 

 急いで、部屋の主を探すがいない。

 

 代わりに修学旅行で出会った小太郎を見つけた。

 

「おい! しっかりしろ」

 

 クローゼットを背にして気絶している。

 

「う、う」

 

 小太郎が目を覚ました。

 

「は、やと?」

 

「俺が分かるか?」

 

「そや、隼人! 俺は隼人に会いに来たんや!」

 

 霧が晴れたかのようなさわやかな顔。

 

「ここで何があった?」

 

「ああ、そうや! ヘルマンとかいう悪魔がいきなり襲いかかってきて、千鶴姉ちゃん達を連れ去りよったんや」

 

「っ!!!!!」

 

 ギリリと歯を鳴らして、隼人は立ち上がる。

 

「奴はあそこから出て行ったのか」

 

 恐ろしく低い声で言う。

 

「ああ、そうや」

 

「そうか」

 

 短く返事すると、隼人は割れたガラス窓をさらに蹴破って飛び出した。

 

 その顔は怒りに狂った鬼だった。

 

「な、なんやいったい」

 

「そんなことは、どうでもよろしい」

 

 後ろから声が聞こえた。

 

 野次馬をかき分けて現れたのは近右衛門と、しずなだった。

 

「誰や? アンタら」

 

「ワシらのこともどうでもよろしい。それより小太郎君、今すぐに隼人を追うのじゃ。ワシも後から行く」

 

「えっと、おう!」

 

 困惑する要素満載だが、それを全て切り捨てて、小太郎は千鶴達を救出するために駆け出した。

 

「ふむ、頭の切り替えは早い方じゃな」

 

 近右衛門は立ち去った小太郎に満足そうだった。

 

 しずなは、パンパンと手を叩いて野次馬に呼びかける。

 

「さぁ、生徒のみなさんは各自部屋で待機していてください。良いですね」

 

 有無を言わさない言動で追い返す。

 

「しずな先生。ここは頼みましたぞ」

 

「はい。学園長」

 

 近右衛門は窓から飛び出して、隼人を追った。

 

 

★

 

 

 世界樹。その広場の下で仮面の男「ヘルマン」は待つ。

 

「この! 放しなさいよ」

 

 敵に捕まった明日菜達はもがく。

 

 十字架に磔にされて身動きが取れなかった。

 

「無理だよ。御嬢さん。その金具は頑丈だからね」

 

「ヘルマン。お前は何が目的で私達を捕えた」

 

 刹那がヘルマンを睨む。

 

「おや、こんな極東で私の名前が知られているとは」

 

 仮面の奥の目が光る。

 

「なぁに、物語の演出に人質はつきものだろう」

 

 ふっと笑う。

 

「ふぬうううううううううう」

 

 くーふぇが気合いを込めて引きちぎろうとするがダメだった。

 

「どうしてアル? 気が出せないアル」

 

 信じられないといった風な顔をする。

 

 他も同じなのか、脱出を試みようと仮契約の力や、自身の気を使って破ろうとするが全く力が出せなかった。

 

「これは、まさか明日菜さんの?」

 

 夕映が原因に気が付いた。

 

「その通り。賢い御嬢さん。この周辺は一切魔法、気力を使えなくしてある」

 

 そういうと、明日菜の首にかかっているネックレスを触る。

 

「この黄昏の天使と黄昏の姫巫女がそろっている限り、この一帯ではどんな力も通用しないよ」

 

 力が封じられては為す術がなかった。

 

「大人しく、少年が助けに来るのを待つことだ」

 

「くっ」

 

 全員が悔しがる。

 

「あの~、これどういうこと?」

 

 場違いな声がした。

 

 明日菜達と同じように夏美、千鶴、あやかが磔で捕まっていた。

 

「おや、状況が理解できないのは無理もない。御嬢さん方、申し訳ないが我慢してくれ」

 

「何故、夏美ちゃん達を連れてきたの?」

 

 和美は脱出をあきらめて、情報収集をすることにした。

 

「ふむ。状況を判断して情報収集か。なかなか切り替えが早い御嬢さんだ」

 

 感嘆するように言う。

 

「お答えしよう。彼女達はたまたま居合わせた特別ゲストだよ。私を見ても物おじせず、あの犬の少年を守ろうとした。勇敢な姿に心を打たれてね、私の求めるエリスなのかもしれない」

 

「まるで意味が分からないね」

 

「おや、そうかい? まぁ情報がなさ過ぎて判断に迷うのも無理はないかな。いくつかの出来事が同時進行していたため、誰一人として状況を理解できないだろうからね」

 

 それはヘルマンの作戦だった。突然の強襲。そして強奪。事態を相手が把握する前に、迅速に目的を果たして、全てのおぜん立てをした。

 

「私の目的は二つ。黄昏の姫巫女である神楽坂明日菜が、どれほどの能力を秘めているのか確かめること。もう一つは煉城隼人に会いに来たのだよ」

 

「つまり、隼人先生と戦いにきたってわけね」

 

「ふむ、その顔から察するにどうやら、少年から全ての話を聞いているようだね」

 

「隼人先生は強いよ。はたしてアンタで勝てるかしら?」

 

 和美はヘルマンを睨みつけた。

 

「それは楽しみだ。彼があの後どんなロマンを描いたのか楽しみで仕方がない」

 

 心底楽しそうに笑う。

 

「そもそも、アンタは何で生きているの? 悪魔は絶滅したって聞いたけど」

 

「良い質問だ。だがその質問の答えは簡単だ。私はその時、魔法界にいなかっただけだ」

 

 回りくどく勿体ぶるように答える。

 

「今、生き残っている悪魔は全てあの時、魔法界にいなかった。運よく別世界にいた」

 

「じゃあヴェルガもそうなんだね」

 

 和美は少しでも情報を得ようと切り込む。

 

 ヘルマンはますます楽しそうに笑う。

 

「その通り。彼も生き残った。だが、残念なことに少年の呪いを受けてしまい動けない。だからこそ私が来た」

 

「ヴェルガは何所にいるの?」

 

「それは答えられない」

 

 即答だった。

 

 だが、和美は怯まず別の質問をする。

 

「今生き残っている悪魔は何体いるの?」

 

「聡く勇敢な少女だ。私が怖くないのかね?」

 

「質問に答えて」

 

 ヘルマンからの質問をバッサリ切って睨む。

 

「さあ私も分からない。しかし友の話によると、三年ほど前にイギリスの片田舎でナギ・スプリングフィールドを追っていた悪魔軍の残党が壊滅したそうだ。それが全てではないが生き残りは少なくなっているだろうね」

 

 さらにヘルマンは指を動かして写真を出した。

 

「あと私が生存を知っている悪魔は一体だけだ。私と同じ魔王級。『天仇なす角』のググラガだ」

 

 和美に見せた写真には逆巻く角の悪魔が写っていた。

 

「まって、アンタは魔王級なの?」

 

 ヘルマンは仰々しく一礼する。

 

「いかにも。自己紹介をしよう。私の名前はヘルマン・サンホラ・アビス・クリストフ・ジャンジャック・サン・ローラン。長いのでヘルマンと呼んでくれたまえ。人が付けた二つ名は『楽園探す両足』だ。名の通り楽園を探し、旅をしている」

 

 邪気など一切出ない空間で、息が詰まるほどの圧倒的気配を発して少女達に笑いかけた。

 

 その笑いは、彼女達の全身に怖気と寒気を走らせる。

 

 過去の映像で見ただけでは分からない、その強烈な存在に明日菜達は絶句した。

 

 和美は勇気を振り絞って口を開く。

 

「ら、楽園を探すってどういうこと?」

 

「その質問は素晴らしい。なぜなら私と友であるヴェルガの悲願でもある。だが、楽しいおしゃべりもここまでのようだ」

 

 ヘルマンは夜の帳が下りた遥か空の彼方を見つめる。

 

 そして芝居めいた口調で告げた。

 

「さぁ。物語の幕を開けよう。少年は剣を手に取り、そこにどんなロマンを描いたのか。それは、ここにどんなロマンを描くのか」

 

 磔にされた明日菜達を見る。

 

「始めようか。黄昏の姫巫女よ。それに連なる美しい少女達よ」

 

 気味悪い仮面を外してニヤリと笑った。

 

つづく

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