この二次創作では、ヘルマンのキャラ付けにSound Horizonネタを組み込んでます。
というわけで、よろしくお願いします。
日が落ちて夜が来る。それと共に、仮面の男と二人の少女と一匹の犬が麻帆良学園に降り立った。
「ふむ。詠春とあの少年にはしてやられたね。まさか詠春が【黄昏の天使】を奪って、少年に持たせて空間転移による移動で逃がすとは」
仮面を触って唸る。
「だが誰も、この仮面の男『ヘルマン』からは逃げられない」
「ご主人様、どうしますか?」
右隣にいた少女が語りかける。
少女達の頭をなでるとヘルマンは告げた。
「もちろん彼を探すよ。さぁ行っておいで」
「「ウィ、ムシュー」」
スミレ色をした髪の少女と紫色をした髪の少女は飛んでいく。
「ねぇオルタンシア。あの子はどこにいるかしら?」
「ねぇヴィオレッタ。あの子はあそこにいるんじゃないかしら?」
二人が見つけたのは麻帆良学園女子寮。あやせ達の部屋。
「ねぇオルタンシア。どこから探りましょう?」
「ねぇヴィオレッタ。窓からこっそり覗きましょう?」
そっと覗きこむと、ちょうど夕飯を食べていた。
「いただきまーす」
四人は手を合わせて食べ始める。
「う~ん。やっぱ、ちづ姉のごはんは最高だよ」
夏美は幸せそうな顔で言う。
「ふふ。ありがとう」
「美味しすぎて、食べすぎるのが難点ですわね」
あやかは上品におかずを口に運ぶ。
「うまうま」
小太郎は豪快におかずを口に運ぶ。
「こら、もう少し行儀よくたべなさい」
「うるさいな。あやせ姉ちゃん。美味いモンは豪快に食べる。これが常道や」
「そんなことありません! 子供だからといってもちゃんと丁寧に食べなさい!」
「子供は関係ないやん! それに俺、もう十二歳やで」
「十二歳って。小学生じゃん」
夏美が割って入る。
「む、小学生ちゃうわ。俺、学校行ってへんし」
「学校に行ってない? どういうことですの?」
あやかが訝しむように質問する。
「え? だって俺、親に捨てられてからずっと一人で暮らしてきたし、狗族と人間の半妖やのに学校行けるわけないやん」
「ちょっとまって。貴方、一体何者ですの?」
「何者って。俺は犬神小太郎やで」
「いや、そうではなくて、夕飯前にも言っていた狗族って?」
「あ。そういやこれ言うたらアカンことやっけ?」
小太郎は少し考えてから答えた。
「ま、ええか。俺は世間一般で言う妖怪と、人間の間に生まれた半妖や。その証拠にほらちゃんと耳と尻尾があるやろ」
頭の上と尻を指す。
「ちょっと、それ飾りじゃなかったの?」
夏美が驚く。
「飾りなわけあるかいな。現にほら、人間みたいに頭の横に耳がついてないやろ?」
長い髪の毛をかき分けて見せる。
「ほ、ほんとだ」
「ま、そんで半妖の俺は狗族社会にも人間社会にも属されへんから、ずっと一人暮らししててん」
「そう。苦労していたのね」
千鶴がしみじみと言う。
「ちょっと、それどころじゃないでしょう。妖怪ってなんですの」
あやかは小太郎の身の上を聞いて驚きを隠せなかった。
「え~、でも3―Aには幽霊のさよちゃんがいるよ」
「そ、それはそうですけど」
あやかは自分の常識が崩れていく感じがした。
夏美が話を戻す。
「じゃあ、その狗族ってのが関係して、麻帆良学園で倒れていたんじゃないの?」
「いや、そういうのやない。誰かに頼まれて俺はここに来た。それで大切なことを誰かに知らせなアカンねん。でもそれが何か思い出されへん」
「う~ん。短期記憶喪失ってやつね」
千鶴は困ったように顔をしかめる。
「やっぱり病院で検査してもらった方がいいんじゃない」
「やっぱそーかな。でも俺、半妖やし、病院なんてかかったことないし。大丈夫やろか」
心配そうに俯く。頭の上の耳もしょんぼりしていた。
その様子を見て、あやかは自分の常識などかなぐり捨てでも、この少年を助けたい気持ちになった。
「雪広財閥が経営する病院なら、ある程度融通がきくし大丈夫ですわ」
「そうなん? ほならそうしよかな。このままずっとモヤモヤが続くのは嫌やし」
「じゃあ、明日早速行ってみましょう」
「なんか、次の行動が見えてきたら、がぜん腹減ってきたわ。千鶴ねーちゃん、おかわり」
「はいはい」
楽しい食事を再開した。
そして、その楽しい食卓を眺める二人の少女。
「ねぇオルタンシア。楽しそうね?」
「ねぇヴィオレッタ。楽しそうだね?」
クスクスと笑う。
「ご主人様。どうしますか?」
『彼は私が対処しよう。お前たちは予定通り、件の少女とその友人たちを迎えに行ってあげてくれ』
念話でヘルマンと少女達は会話する。
「「ウィ。ムシュー」」
返事をすると、少女達は寮と食堂を繋ぐ渡り廊下に飛んでいく。
そこには、明日菜、木乃香、刹那、図書館三人組、楓、くーふぇ、和美がいた。
「えっと、だれ?」
明日菜達は困惑する。
突如として空から二人のゴスロリ少女が降りてきたのだ。無理もなかった。
「ねぇオルタンシア。九人全員いるよね?」
「ねぇヴィオレッタ。一網打尽だね?」
二人の怪しい雰囲気に危険を感知して、刹那と楓が動こうとする。
が、遅かった。
二人の少女のスカート下から黒い霧があふれ出て、あっという間に全員を飲み込む。
叫び声も上げられず、霧に取り込まれて明日菜以外、姿を消した。
「何をしたの!」
急いで明日菜はアーティファクトを出現させる。
「ねぇオルタンシア。彼女はやっぱり効かないね?」
「ねぇヴィオレッタ。彼女はやっぱり効かないよ?」
ゆらゆらと揺れて妖しく笑う。
「でも、これならどう?」
「きっと、上手くいくよ?」
二人の体から魔法陣が滲み出す。
「やあああああっ」
明日菜は果敢に突撃した。
しかし肉薄する直前、突如として地面に穴が空く。
「え?」
「グルルオオオオオオル」
穴から黒犬が飛び出してきて、明日菜に噛みつくと穴に引きずり込んだ。
とっさの出来事で対応が出来なかった。
「ねぇオルタンシア。魔法が効かなくても穴には落ちるね?」
「ねぇヴィオレッタ。プルーは凄いね?」
嬉しそうにクスクス笑う。
全員が敵の手に落ちた。
「ねぇオルタンシア。これで良いんだよね?」
「ねぇヴィオレッタ。これで楽しめるね?」
互いに顔を見合わせると影に消える。
その、一連の出来事を目撃した者がいた。
「な、なんだ今の」
千雨だった。
「文化祭の衣装制作で疲れてるんだな。そうに違いない」
今見た出来事が信じられず、考えないことにして寮に戻った。
★
彼女が寮のロビーに戻ると、隼人がやって来た。
「お、千雨。ちょうど良かった」
「なんですか。先生」
「明日菜達知らないか?」
今、一番聞きたくない名前だった。
「知らない知らない。私は何も見てない」
全否定して、そのまま立ち去ろうとする。
「まて。何かあったんだな」
肩を掴まれて止められた。
「いや、その幻覚を見ただけだから」
「その幻覚ってどんなだ?」
真剣な顔をして訊いてくる。
「え、いやゴスロリ着た小さな女の子二人が、黒い霧を出して、それに神楽坂達が飲み込まれたっていう……」
その答えを聞いて隼人はさらに真剣な顔になる。
「まさか、奴の手か?」
最悪のパターンを想像して青ざめる。
その時、寮の上の階からガラスの割れる音が聞こえた。
「なんだ!?」
隼人は言うが早いか駆けだす。
音のした階に当たりを付けて、階段を風のように駆け上る。
「大丈夫か!?」
その部屋とはあやか達の部屋だった。
勢いよくドアを叩くが返事がない。
「あの、先生どうしたんですか?」
千雨が追いかけてきた。
他の生徒たちも騒ぎを聞きつけて集まってくる。
「ぶち破る」
一言そういうと、隼人はドアを蹴とばして破壊した。
部屋に入ると驚愕。
誰かが暴れまわったように部屋が散らかっていた。
急いで、部屋の主を探すがいない。
代わりに修学旅行で出会った小太郎を見つけた。
「おい! しっかりしろ」
クローゼットを背にして気絶している。
「う、う」
小太郎が目を覚ました。
「は、やと?」
「俺が分かるか?」
「そや、隼人! 俺は隼人に会いに来たんや!」
霧が晴れたかのようなさわやかな顔。
「ここで何があった?」
「ああ、そうや! ヘルマンとかいう悪魔がいきなり襲いかかってきて、千鶴姉ちゃん達を連れ去りよったんや」
「っ!!!!!」
ギリリと歯を鳴らして、隼人は立ち上がる。
「奴はあそこから出て行ったのか」
恐ろしく低い声で言う。
「ああ、そうや」
「そうか」
短く返事すると、隼人は割れたガラス窓をさらに蹴破って飛び出した。
その顔は怒りに狂った鬼だった。
「な、なんやいったい」
「そんなことは、どうでもよろしい」
後ろから声が聞こえた。
野次馬をかき分けて現れたのは近右衛門と、しずなだった。
「誰や? アンタら」
「ワシらのこともどうでもよろしい。それより小太郎君、今すぐに隼人を追うのじゃ。ワシも後から行く」
「えっと、おう!」
困惑する要素満載だが、それを全て切り捨てて、小太郎は千鶴達を救出するために駆け出した。
「ふむ、頭の切り替えは早い方じゃな」
近右衛門は立ち去った小太郎に満足そうだった。
しずなは、パンパンと手を叩いて野次馬に呼びかける。
「さぁ、生徒のみなさんは各自部屋で待機していてください。良いですね」
有無を言わさない言動で追い返す。
「しずな先生。ここは頼みましたぞ」
「はい。学園長」
近右衛門は窓から飛び出して、隼人を追った。
★
世界樹。その広場の下で仮面の男「ヘルマン」は待つ。
「この! 放しなさいよ」
敵に捕まった明日菜達はもがく。
十字架に磔にされて身動きが取れなかった。
「無理だよ。御嬢さん。その金具は頑丈だからね」
「ヘルマン。お前は何が目的で私達を捕えた」
刹那がヘルマンを睨む。
「おや、こんな極東で私の名前が知られているとは」
仮面の奥の目が光る。
「なぁに、物語の演出に人質はつきものだろう」
ふっと笑う。
「ふぬうううううううううう」
くーふぇが気合いを込めて引きちぎろうとするがダメだった。
「どうしてアル? 気が出せないアル」
信じられないといった風な顔をする。
他も同じなのか、脱出を試みようと仮契約の力や、自身の気を使って破ろうとするが全く力が出せなかった。
「これは、まさか明日菜さんの?」
夕映が原因に気が付いた。
「その通り。賢い御嬢さん。この周辺は一切魔法、気力を使えなくしてある」
そういうと、明日菜の首にかかっているネックレスを触る。
「この黄昏の天使と黄昏の姫巫女がそろっている限り、この一帯ではどんな力も通用しないよ」
力が封じられては為す術がなかった。
「大人しく、少年が助けに来るのを待つことだ」
「くっ」
全員が悔しがる。
「あの~、これどういうこと?」
場違いな声がした。
明日菜達と同じように夏美、千鶴、あやかが磔で捕まっていた。
「おや、状況が理解できないのは無理もない。御嬢さん方、申し訳ないが我慢してくれ」
「何故、夏美ちゃん達を連れてきたの?」
和美は脱出をあきらめて、情報収集をすることにした。
「ふむ。状況を判断して情報収集か。なかなか切り替えが早い御嬢さんだ」
感嘆するように言う。
「お答えしよう。彼女達はたまたま居合わせた特別ゲストだよ。私を見ても物おじせず、あの犬の少年を守ろうとした。勇敢な姿に心を打たれてね、私の求めるエリスなのかもしれない」
「まるで意味が分からないね」
「おや、そうかい? まぁ情報がなさ過ぎて判断に迷うのも無理はないかな。いくつかの出来事が同時進行していたため、誰一人として状況を理解できないだろうからね」
それはヘルマンの作戦だった。突然の強襲。そして強奪。事態を相手が把握する前に、迅速に目的を果たして、全てのおぜん立てをした。
「私の目的は二つ。黄昏の姫巫女である神楽坂明日菜が、どれほどの能力を秘めているのか確かめること。もう一つは煉城隼人に会いに来たのだよ」
「つまり、隼人先生と戦いにきたってわけね」
「ふむ、その顔から察するにどうやら、少年から全ての話を聞いているようだね」
「隼人先生は強いよ。はたしてアンタで勝てるかしら?」
和美はヘルマンを睨みつけた。
「それは楽しみだ。彼があの後どんなロマンを描いたのか楽しみで仕方がない」
心底楽しそうに笑う。
「そもそも、アンタは何で生きているの? 悪魔は絶滅したって聞いたけど」
「良い質問だ。だがその質問の答えは簡単だ。私はその時、魔法界にいなかっただけだ」
回りくどく勿体ぶるように答える。
「今、生き残っている悪魔は全てあの時、魔法界にいなかった。運よく別世界にいた」
「じゃあヴェルガもそうなんだね」
和美は少しでも情報を得ようと切り込む。
ヘルマンはますます楽しそうに笑う。
「その通り。彼も生き残った。だが、残念なことに少年の呪いを受けてしまい動けない。だからこそ私が来た」
「ヴェルガは何所にいるの?」
「それは答えられない」
即答だった。
だが、和美は怯まず別の質問をする。
「今生き残っている悪魔は何体いるの?」
「聡く勇敢な少女だ。私が怖くないのかね?」
「質問に答えて」
ヘルマンからの質問をバッサリ切って睨む。
「さあ私も分からない。しかし友の話によると、三年ほど前にイギリスの片田舎でナギ・スプリングフィールドを追っていた悪魔軍の残党が壊滅したそうだ。それが全てではないが生き残りは少なくなっているだろうね」
さらにヘルマンは指を動かして写真を出した。
「あと私が生存を知っている悪魔は一体だけだ。私と同じ魔王級。『天仇なす角』のググラガだ」
和美に見せた写真には逆巻く角の悪魔が写っていた。
「まって、アンタは魔王級なの?」
ヘルマンは仰々しく一礼する。
「いかにも。自己紹介をしよう。私の名前はヘルマン・サンホラ・アビス・クリストフ・ジャンジャック・サン・ローラン。長いのでヘルマンと呼んでくれたまえ。人が付けた二つ名は『楽園探す両足』だ。名の通り楽園を探し、旅をしている」
邪気など一切出ない空間で、息が詰まるほどの圧倒的気配を発して少女達に笑いかけた。
その笑いは、彼女達の全身に怖気と寒気を走らせる。
過去の映像で見ただけでは分からない、その強烈な存在に明日菜達は絶句した。
和美は勇気を振り絞って口を開く。
「ら、楽園を探すってどういうこと?」
「その質問は素晴らしい。なぜなら私と友であるヴェルガの悲願でもある。だが、楽しいおしゃべりもここまでのようだ」
ヘルマンは夜の帳が下りた遥か空の彼方を見つめる。
そして芝居めいた口調で告げた。
「さぁ。物語の幕を開けよう。少年は剣を手に取り、そこにどんなロマンを描いたのか。それは、ここにどんなロマンを描くのか」
磔にされた明日菜達を見る。
「始めようか。黄昏の姫巫女よ。それに連なる美しい少女達よ」
気味悪い仮面を外してニヤリと笑った。
つづく