宜しくお願いします。
第四話「呪いのかかった吸血鬼」
夜。
まき絵は誰かに追われていた。
必死に走る。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
普段運動で鍛えているが、流石にキツイ。
足がもつれた。
「あ」
こける。
後ろを振り向くと、黒い影が目の前にいた。
「いやぁ!」
悲鳴を上げる。
黒い影はまき絵に覆いかぶさった。
★
翌日の朝のHR
「うぃー。出席取るぞ~」
名前を読み上げていく。
「ハルナ~」
「はーい」
「刹那ぁ」
「はい」
「まき絵ー」
返事がない。
もう一度呼ぶ。
「まき絵ー」
出席簿から顔を上げて確認する。
「あれ? まき絵今日休みか?」
「まき絵は昨日倒れて、今日は保健室登校だってさ」
裕奈が答えた。
「なに、倒れた? 大丈夫なのか?」
「まぁ貧血だろうってことらしいよ」
「ふむ。そうか」
そのまま続きの出席を取り、連絡事項に移る。
「え~昨日も言ったように、今日は身体測定がある。たぶん英語の時間にくると思う。そんだけ。それじゃ今日も頑張ろう」
「はーい!」
元気よく返事。
「幼稚園か」
「アフォばっかです」
千雨と夕映は呆れた。
★
英語の授業中に予想通り、身体測定に呼ばれた。
「おし。さっさと脱いで、ちゃっちゃと済ませてこい」
「先生それセクハラや」
亜子が突っ込んだ。
そんなわけで、身体測定会場の空き教室に移動。
みんな下着姿で、体重や身長の数字に一喜一憂する。
「ねぇ、知ってる? 吸血鬼の話」
美砂が言った。
「あ、知ってる知ってる」
和美は相槌をうつ。
「吸血鬼ってなんだぁ」
風香が食いついてきた。
「それが、最近学園に夜一人で歩いていると、吸血鬼に襲われるって噂」
「二匹いて、片方は角が生えてるってさ」
「隣のクラスの子が襲われたらしいよ」
「まき絵もその吸血鬼に襲われたんじゃないかって噂になってるよ」
みんな口々にしゃべりあう。
明日菜は苦笑した。
「そんな、吸血鬼なんているはずが」
「甘い! 甘いよ明日菜!」
明日菜が言い終わる前にハルナが叫んだ。
「だって、この世には説明のつかない現象が多々あるんだから、吸血鬼の一匹や二匹いてもおかしくない!」
「いまいち、信用できないわね」
「でも、アスナ。魔法使いはおるえ」
木乃香が小声でしゃべりかけてくる。
明日菜は実際にいないと思っていた存在を最近知ってしまったので、もしかしたら、いるかもしれないという気になった。
「吸血鬼は実在するぜ、姐さん」
耳元で声がした。
カモだった。
「そうなん?」
木乃香が聞く。
「ああ、何百万ドルの賞金がついた吸血鬼もいるっていうし、マジで実在するぜ」
「へ~」
感心する。
「で、なんでアンタはここにいるわけ?」
明日菜が絶対零度の声で聞いた。
「そりゃ姐さんたちの下着姿を見るために、『漢』カモ、どこでも参上するっす!」
きっぱりと断言。
その後、彼は星になった。
★
隼人はまき絵のことが気になり、保健室に来た。
「まき絵。具合はどうだ?」
代わりに保険医が答えた。
「いま寝たところです」
「はぁ、そうですか」
「それで、やっぱり貧血ですか?」
保険医は頷く。
「ええ。たぶんそうだと思います。ただ……」
「ただ?」
少し躊躇して言う。
「首筋のとこに何かに咬まれた後があるんです。まるで吸血鬼のような」
「吸血鬼?」
無言で首を縦に振る。
隼人はまき絵のベッドに行った。
かわいらしい寝息をたてて寝ている。
首に包帯が巻かれていた。
そっと包帯に触れる。
魔力の気配。
険しい表情になる。
「どうかしましたか?」
保険医が聞いてくる。
はっとわれに返る。
「いえ、なんでもないです」
慌ててそういうと保健室を出た。
廊下をしばらく歩く。
「いったいどこの吸血鬼が俺の生徒を襲った」
静かな怒りを秘めて、隼人は教室に戻った。
★
その日の夜。
明日菜と木乃香そして図書館組みは寮へと急いでいた。
「あ、忘れものしたから先帰って」
のどかは皆にそう告げると、来た道を引き返した。
夜道を歩く。
「こわくない~。こわくないです~。こわくないかも~♪」
そう言い聞かせながら、歩いていく。
辺りはすっかり暗くなって、風が強い。
街灯が煌々と照っている。
ザアッとひときわ強い風が吹いた。
「ひっ」
短い悲鳴を上げる。
ふと街灯をみるとその上に人が二人立っていた。
「へ?」
一人は黒い布きれをまとっている。
もう一人は角が生えている。
「ふん。宮崎のどかか。悪いが血を分けてもらおう」
黒衣をまとったほうがつぶやく。
布が広がり、影があふれ出る。
「キャアアアアアアアアアアアアアアアア」
襲い掛かってきた。
「まちやがれ! 俺の生徒に手を出すな!!」
火炎の矢が三本強襲。
爆発した。
「ちっ」
影が飛びのく。
「のどか。無事か!?」
のどかを助けたのは隼人だった。
「は、隼人先生」
驚くのどか。
庇うようにのどかの前に立つ。
「お前だな。最近噂の吸血鬼は」
影を睨む。
先ほどの炎の矢がまだ燃えている。
その灯りで姿が現われた。
「な、お前は!?」
「え、うそ」
驚く二人。
彼らの目に映ったのは同じクラスメイトのエヴァンジェリンと茶々丸だった。
「ふん。随分とカッコイイ登場の仕方だな。先生」
「どうも。こんばんは」
彼女たちは挨拶する。
「お前たちだったのか」
「ああ、そうだよ。私たちが犯人だ」
あっさりと認めた。
「なぜ、こんなことをする」
「それは、この忌々しい呪を解くために、お前の血が必要だからさ」
「な? 俺?」
「くくく。そうだ。巨大な呪力をもった貴様の血で、呪いを解くためさ。だが今は力をつける必要がある。だから若い女の血を吸ってるのさ」
隼人はエヴァを睨む。
「断る。貴様にくれてやる血などない」
「断ろうがなんだろうが、必ずいただく。だからそこのエサをよこせ」
軽く笑いながら、のどかを指差す。
「ひっ」
怯えるのどか。
「悪いが、のどかをくれてやるつもりもない。大人しく去れ!」
「ふん。じゃあ、力で奪うまでだ」
エヴァと茶々丸が動く。
隼人は腰を抜かしているのどかを抱えると跳躍して、上空へ避難する。
「逃がさないよ」
同じく空中に上がる。そして薬ビンを二つ投げた。
中身零れ出て混ざり合い反応を起こす。
「【影の吐息】!」
黒い風が隼人に襲い掛かる。
「ちぃ!」
障壁を展開して防ぐ。と同時に無詠唱魔法【魔法の射手】・連弾・火炎の三十六矢を放つ。
放った瞬間に、空中を蹴り加速。
火炎の矢が縦横無尽に曲がりくねってエヴァを襲う。
当たる瞬間に薬ビンを投げて障壁を展開。
ところが、魔法の矢は障壁の手前で折れ曲がって、地面に着弾。大爆発を起こした。
煙が晴れると、隼人とのどかはどこにもいなかった。
「逃げられたか」
「マスター。先ほどの爆発で人が集まってきます」
魔法が着弾した場所を見て、鼻で笑う。
「生徒だと分かって、手加減でもしたのか。なんにせよ上手く逃げたものだ。帰るぞ」
と言って黒衣を翻して、その場を離れた。
★
隼人は空を飛びながら安全地帯まで逃げる。
寮まで来ると、明日菜と木乃香の部屋のベランダに降り立った。
のどかを降ろすと、窓をたたく。
「だれか開けてくれ」
窓が開いた。明日菜とカモが出てきた。
「って、隼人と本屋ちゃんじゃない。どうしたの?」
「アニキ、なんかあったんすか?」
驚く明日菜とカモ。
「とにかく中に入れてくれ」
中に入る。
二人はテーブルに着いた。
隼人はこれまでのいきさつを話した。
「……ということだ」
唖然とする三人。
「まさか、エヴァちゃんが犯人やとは思わへんかったな」
「そんなことになってたんだ。災難だったわね」
「先生が、魔法使いだなんて……」
三者三様の感想を述べる。
イチバン驚いているのはのどかだった。
その様子を見て、明日菜は苦笑い。
「やっぱりそういう態度になるわよねぇ。まぁ、最初は私も信じられなかったけどね~」
「すごいです! 本の世界のようなことは本当にあったんですね!!」
身を乗り出して、珍しく叫んだ。
「あれ? そっちに驚くんや?」
「やっぱ本読んでるやつはちがうな」
「わりとナチュラルに受け入れてるっすね」
少し驚いた。
明日菜は隼人に向き直る。
「それで、エヴァちゃんのことはどうすんの?」
隼人は腕組みをして考え込む。
「ヤツは呪いがどうとか言ってたが、一体何の呪いなのかサッパリ分らん」
カモが意見を言った。
「話だけ聞くと、魔法触媒を使った魔法しか使ってこなかったってことは、魔力が封じられてるとかっすかね?」
「でも、空飛んでたんやろ?」
「空飛べるんじゃ魔法使えるんじゃない?」
「若い女の血を吸ってるって言ってました。なにか関係があるんでしょうか?」
う~んと全員唸る。
「その疑問なら僕が答えるよ」
ベランダから声がした。
全員が見る。
タカミチだった。
「タ、タ、タ、タ、タ」
壊れたテープのように明日菜が連呼する。
「はいはい。明日菜、落ち着いて」
木乃香がなだめる。
「お邪魔するよ」
タカミチは入ってきた。
「出張から帰ってきたのか」
席をつめながら隼人は聞く。
「ああ。今日の夕方にね。そしたらこの騒動だから参ったよ」
苦笑する。
「汚いところですけど、どうぞすわっちゃったりなんかしちゃったりしてください!!」
明日菜は壊れているため何を言ってるのかさっぱりだった。
木乃香が明日菜を端へ押しやる。
「それで、エヴァちゃんの呪いってなんですか?」
タカミチは説明し始めた。
「結論から言うと、彼女は【登校地獄の呪い】がかかっている」
「登校地獄の呪い?」
彼女たちは首を傾げた。
「登校地獄の呪いって、またマイナーな呪いだな」
隼人は驚き半分、苦笑半分で言った。
「隼人、知ってるん?」
木乃香が尋ねた。
「登校地獄の呪いってのは、学校の敷地から出られなくして、一生学校に通い続けなければならなくなる呪いだ」
「なんすか、それ? ムチャクチャ嫌がらせの呪いだな」
カモは呆れたように言う。
タカミチが同意するように頷いた。
「ああそうだろ。でもかなり強力な呪いでね、解くには相当な魔力が必要だ」
「なるほど。それで強力な戦士の血で自身を強化するつもりか。俺の血を欲しがったわけだ」
「でも魔力なら、彼女にもあるんじゃないんですか?」
「そう、その通りだ、のどか君。けれど彼女は魔法が使えない状態になっている」
「魔法が使えない状態?」
のどかの質問に無言で頷く。
「彼女は真祖の吸血鬼だ。昔、その強大な力を振るって大暴れしてね。色々あってここに連れて来れられた。そして、この学園には巨大な魔力抑制結界が敷いてあってね。学園長に許可されてない魔法使いの魔力は通常より弱くなっている」
「登校地獄の呪いに学園結界。エヴァにとってはここは監獄だな」
隼人は納得した。
「そういうことだよ。隼人。彼女は不死身の怪物だ。だから二度と世に放たれないようこの麻帆良島に投獄されたのさ」
その説明に木乃香が首を傾げた。
「投獄するなら牢屋とかに閉じ込めないんですか?」
「それは、君の祖父である近衛学園長の好意でね。学校に通わせて更生させるために、学園敷地内の島を自由に行動できるようになっている」
「なるほど。吸血鬼の力もほぼ失っている状態だから大丈夫ってわけやね」
一通り話し終わった。
のどかは言う。
「じゃあ、エヴァさんが暴れているのを止めるんですか?」
タカミチは隼人を見た。
「君がエヴァと戦って止めるんだ」
「な、本気で言ってるのか!?」
隼人は思わず声を荒げた。
「彼女は言葉では止まらない。真祖の吸血鬼である彼女は人間の言うことは聞かない。力づくで止めるしかない」
「冗談じゃない。彼女が何であれ、俺の大切な生徒だ。彼女を傷つけるつもりはない」
「だが、君は攻撃したじゃないか」
「あれは、牽制だ。当てるつもりはなかった」
「君が動かなければ他の人間が動く。人を襲っている以上、更生プログラムも強制終了して本当の監獄行きになる。大切な生徒ならそうなる前に止めるんだ」
そしてタカミチは諭すように言った。
「君が戦いたくないのはわかる。仲間や知り合いと戦うことは君にとってはトラウマだ。だが、そこを乗り越えないとあの外道の悪魔は倒せないよ」
タカミチの言葉を聞いて、隼人は絞り出すような声で言った。
「タカミチ。もう俺は、あのクソ野郎以外に刀を抜くつもりはない。それが、あいつらの墓前で誓った約束だ」
「変わったね、隼人。抜身の刀のようにギラギラしていたあの頃が嘘のようだ。だけど、穏やかになったわけじゃない。今の君は臆病になっただけだ」
「仲間を殺さないで済むなら、臆病でもなんでもなってやる」
二人から発せられる威圧で、空気が悪くなる。
「あの、話がさっぱり見えてこないんですけど……?」
明日菜が恐る恐る割り込む。
「とにかく、俺はエヴァと戦うつもりはない。お前が戦え。お前なら上手くやるだろう」
そう言うと立ち上がり、隼人はベランダから飛んで去っていった。
「急にどうしたんだろう?」
首をかしげる三人と一匹。
タカミチはため息をついて言った。
「少しでも前に向いてくれたらと思ったが、やはりまだ駄目か」
「なぜですか?」
明日菜が聞く。
彼は少し躊躇したが、決断して言った。
「彼は昔、親友を二人殺しているんだよ」
【つづく】