早いもので、気が付けば40話目です。
宜しくお願いします。
「ヘルマアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!」
彼方より飛んでくる隼人の怒号が響き渡る。
「隼人の声!」
磔にされた明日菜達は声のする方を向く。
隼人はヘルマンを目視すると、刀を鞘から引き抜く。
風の章【風神閃】を放って攻撃。風の刃がヘルマンめがけて飛んでいく。
「ふっ。無駄だよ」
ヘルマンは飛んでくる刃を気にも留めず鼻で笑う。着弾する直前で、刃が消失した。
しかし、その程度では驚かず、隼人は続けざまに【魔法の射手】炎の矢・三百六十本を放つ。
爆炎の矢がヘルマンめがけて飛来する。
が、それも直前で消失。
隼人は急ブレーキをかけて制止。広場から少し離れたところで地面に降りた。
仇敵ヘルマンを見据える。
その目は地獄の業火で燃えていた。
「やぁ、久しぶ……」
ヘルマンが挨拶しようとするが、それを許さず隼人は強襲。
「があああああああああああああああああああああああああああ」
刀を振り上げて、【縮地】でヘルマンに切りかかる。
「と、ずいぶんと激しいね」
紙一重で避けると、後退。
隼人は獣のごとく素早さでさらに追撃。
地面を踏みしめて思い切り刀を振る。
剣圧と風の章【斬斬波】による一刀。
振り下ろされた射線の地面が裂けた。
ヘルマンはとっさにガードして防ぐ。
「ぐ、さすがに剣圧には反応しないか」
肩口を切られて少し顔をしかめた。
遠距離からの攻撃が消失。剣圧と技による攻撃で技のみが消失。
隼人はその二つの情報で魔法と気力が使えないと判断。剣戟のみで戦うことを選択。
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」
殺気を漲らせて叫ぶ。それは呪いの言葉のごとく、刃に宿りヘルマンを襲う。
「さすが、少年。だが、少し落ち着きたまえ!」
ヘルマンが拳を突き出すと、拳圧が発生。隼人は何とか避けるが余波で思い切り吹き飛んで、近くの壁に激突した。
だが無効化圏外へ吹き飛ばされたため、壁に当たる前に障壁を展開して、何とか防御できた。
すぐさま立ち上がると、相手に向かって走り出す。
「おおおおおおおおおるうううううあああああああああああああ」
「ふむ、冷静さを失っているのかな?」
連続で拳を突き出して、拳圧の嵐を生み出す。
それを刀で弾き、体術で避けて、相手に接近。
走る勢いのまま、すれ違いざまに切り裂いた。
「ぐっ」
横っ腹を切り裂かれて、くぐもった悲鳴を出す。
さらに、隼人は片足を軸にして反転。
反転の勢いで相手の背後に回ると、追加の一太刀を浴びせた。
「ぬおっ」
斬られて一瞬、動きが鈍る。
最後に隼人は相手の背中を蹴り飛ばして後退した。
「ぐうううう」
力を出せない状態でも、刀で切られた傷口を蹴られればダメージはあった。
「忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌忌」
死神か復讐の鬼か。隼人の声は最早、人の言葉ではなかった。
「ふ、ふふ。さすがだ。あれからまた強くなったようだね」
隼人は刀を構えて再び切りかかる。
その姿に明日菜は違和感を覚えた。
「おかしい。何か隼人の様子が変よ」
「先生、いつもの戦い方と違う」
のどかが指摘したように、いつもの隼人と戦い方が違っていた。
完全に我を忘れて刀を振るう殺戮マシーンと化していた。
「もしかして、キレてる?」
ハルナが言った。
「たしかに、いつもと違ってものすごく怖いです」
夕映が同意した。
「それならば、危険でござる」
楓が冷や汗を流す。
「いつもの戦い方が出来なければ、あの悪魔には勝てないでござるよ」
「隼人……」
木乃香は心配そうにつぶやく。
一見大丈夫そうに見えても、ペース配分や、その他もろもろの動きが雑で徐々に押されてきていた。
「先生! 落ち着いてください!!」
刹那が声を張り上げて呼びかける。
「隼人! 冷静に!!」
「隼人先生!」
明日菜達も呼びかける。
しかし、隼人にはまるで届いてなかった。
彼の頭の中にあるのは、師を殺したヘルマンに対する恨み。仲間を人質に取られた怒り。その感情を押し殺して、冷静になろうとする感情。さまざまな思いが駆け巡って混乱していた。
「ほら、教え子もああ言っている。少し刃を納めないかい?」
ヘルマンが説得するが、隼人は刀を水平に振るった。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
が、単純すぎて避けられる。
一瞬で背後に回られた。
「やれやれ」
ヘルマンは呆れるようにため息をついて、拳を突き出し、隼人を殴ろうとした。
だが、その拳が届く前に隼人は別の攻撃で吹き飛んだ。
「む!?」
拳が空を切る。
隼人は明日菜達の方向へ飛ばされて、世界樹の幹にぶち当たる直前に、ある人物に抱きとめられた。
その抱きとめた人物。そして隼人を吹き飛ばした人物。その姿が月明りに照らされる。
「ほう。これはこれは」
ヘルマンは興味深そうに笑う。
受け止めた人物は近衛近右衛門。そして吹き飛ばした人物は犬神小太郎だった。
「どうやら、間に合ったようじゃな」
近右衛門はホッと胸をなでおろした。
「おじいちゃん!」
木乃香が驚く。
「おお、木乃香。遅くなってすまんかった」
近右衛門は謝った。
「ふん。さっさと助け出すぞ」
エヴァンジェリンがトコトコと歩いてきた。
「エヴァちゃんも来てくれたんだ」
明日菜が嬉しそうに言う。
「ヘルマン! 夏美姉ちゃん達を返してもらうで」
小太郎がヘルマンに叫ぶ。
「小太郎君!」
夏美が呼ぶ。
「あれ、あの子って修学旅行のときに会った少年だ」
ハルナが思い出したように言う。
「成程。犬の少年ってのはあの子のことだったんだね」
和美は納得した。
「今はあの者は敵ではない。それより隼人、無事かの?」
「放せジジイイイイイイイイイイイイイイイ」
近右衛門の腕を振り払って暴れる。立ち上がると駆け出そうとした。
「まて、アホ」
エヴァが頭を叩いて制止する。
「今のお前では無理だ」
「喧しい。どけ!」
「いい加減にしろ、このバカタレ。ちょっと冷静になれ」
「冷静などどうでもいい。奴を殺す。それだけだ」
「少し息を整えろ。バカモノ」
思い切り腹部を殴って大人しくさせた。
隼人は膝をついて倒れる。
エヴァはヘルマンに呼びかけた。
「おい、少し休憩だ。人質も返してもらうぞ」
「構わないよ。助っ人が来た時点で残念ながら人質は諦めるよ」
ヘルマンは乱れた服を直しながら言った。
だが、隼人はそれでも動こうとするので、エヴァは指を鳴らす。
魔法陣が展開して鎖で縛り上げた。
近右衛門は明日菜達の金具を外して助け出す。
全員、隼人の元へ駆け寄る。
「隼人、大丈夫?」
明日菜が心配そうに尋ねた。
「明日菜、この鎖を破壊しろ!」
隼人は引きちぎろうと暴れる。
「何言ってんの。少し落ち着いて」
「落ち着いていられるか。目の前に仇がいる。奴を殺す。それだけだ!」
歯を剥きだしにして吼える。それは地獄の鬼が暴れているようだった。
エヴァはため息をつくと、胸倉をつかみ、思い切りぶん殴った。
殴られた勢いで刀を取り落して、地面に転がる。
「ちょ、エヴァちゃん」
「ふん、過去を語って、昔のことを思い出したか?」
転がった隼人を踏みつける。
「良いか、よく聞け隼人。お前は一人では何もできないクズだ」
「なんだと?」
踏みつけた足をのけようと動くが、しっかり踏みつけられていて動かない。
「思い出せ。親を殺された時は師匠に支えてもらい、師匠を殺された時は友に支えてもらい、友が死んだときは部下が支えた。貴様は一人では何もできない。一人でいればいつか死ぬ。お前はそういう馬鹿だ」
踏みつけていた足に力を込める。
「いい加減に気が付け。一人だけでは何も成し遂げられない。誰かと共に戦うことで、お前は真価を発揮する。全ては過去が証明しているだろう」
エヴァの言葉を考える。彼女の指摘通り今まで、一人の力で勝利できたことは一度もなかった。誰かがいたから、誰かが力を貸してくれたから、自分は勝つことが出来た。
隼人は首を上げて、明日菜達を見た。
皆、心配そうに隼人のことを見つめている。
「隼人、私達は話し合って決めたよ。アンタは一人にすると心配だから付いていくって。一人で行こうとするなら、私達が足を引っ張ってブレーキをかけてあげる」
明日菜が代表して答えた。
「お前達……」
刹那が隼人の頬に手を添えた。
「先生。先生が残したノートにも書いていました。強くなるための第十七条『自分だけでなく誰かと共に強くなれ』って。先生の足元にも及ばないかもしれないけれど、私達だって強くなります。だから昔のような怒り狂う鬼にならないでください」
刹那の言葉が隼人の心に響いていく。鬼の目が人の目に戻る。発していた殺気が消えていく。
「……そうか。そうだよな」
隼人は何かを理解したように微笑む。
「俺のそばには何時だって誰かがいた。昔は師匠が、友が、隊員が、時の女神がいた。そして今はお前たちが俺を支えてくれるのか」
明日菜達は笑って頷く。
「分かったよ。我を忘れてすまなかった。もう大丈夫だ」
隼人は穏やかな声で言う。
エヴァは指を鳴らして鎖をほどいた。
「俺はもう絶対に一人で突っ走らない。俺に力を貸してくれ」
隼人は立ち上がって、頭を深々と下げた。
「もちろんや。怪我はウチに任して」
早速、木乃香が治癒呪文で、負っていた傷を治す。
「これで、オーケーや」
「先生、これ」
落とした刀をのどかが持ってくる。
「ありがとう」
刀を手に取ると鞘に納めた。
「先生、頑張って!」
ぐっと親指を立ててハルナが励ます。
「おう」
同じく親指を立てて返事をした。
そして、前に出て行く。
「待たせたな。ヘルマン」
「いや、そうでもないよ。君があれからどんなロマンを描いたのか見させてもらったよ。ずいぶんといい仲間を持ったようだね」
「ああ、手のかかる教え子達だよ」
嬉しそうに笑う。
「では、改めて始めようか。煉城隼人」
ヘルマンの気配が膨れて、魔力を放射する。
それに反応するように、二人の少女と一匹の犬が現れた。
「ねぇオルタンシア。魔法無力化がなくなったから、私達もパーティーに参加できるかな?」
「ねぇヴィオレッタ。魔法無力化がなくなったから、私達も遊べるのかな?」
「うぐるるるるるるるる」
「こちらは合計三人と一匹で行こう。そちらも人数をそろえてかまないよ」
ヘルマンが手を広げて促す。
「その必要はない。全員、まとめて俺が相手してやる」
隼人は強気な態度で言う。
「おや、一人で突っ走らないのじゃなかったかね?」
「別に突っ走るつもりはない。俺は一人では戦わない。皆が応援してくれている」
後ろに下がった明日菜達も頷く。
「成程。魂は共にあるか」
ヘルマンが納得したように言った。
近右衛門が大声で言う。
「隼人! 周辺は魔法教師で固めてある。木乃香達はワシとエヴァと小太郎で守る。何も気にせず、思い切りやれ」
学園長のお墨付きがでた。
隼人にはもう何の憂いもなかった。
「じゃあ、往くぞ!!」
気合い一閃。隼人は、究極技法【爆熱真紅】を発動。
轟轟と燃え盛る炎のオーラが相手を炙る。
「だっ!」
地面を蹴って突撃。
一気に距離を縮めて刀を横薙ぎに振る。
「おっと、危ない」
ヘルマンは踊るように避けた。
「プルー。頼むよ」
黒犬をけしかけて、隼人を牽制。
隼人は刀で鋭い牙を弾いて応酬する。
ヘルマンは魔力を放射して、歌うように呪文を紡ぐ。
「朝と夜の狭間に、焔は揺らめき、宝石を掴もうとして、全てを失う……」
「させるか!」
風の章【風神閃】による斬撃と、【魔法の射手】炎の矢による射撃で相手の詠唱をキャンセルしようとした。
しかし、飛んできた斬撃と矢は二人の少女によって受け止められた。
「効かないよ?」
「全部飲み込むよ?」
攻撃が少女の体に吸い込まれて消えていく。
「ちぃ!」
隼人は間合いを開ける。
その間にもヘルマンは謡い続ける。
「星屑が煌めく、楽園の夢は、美しき少女の幻想を形作る……」
ヘルマンの詠唱キャンセルをあきらめて、取り巻きの少女二人と黒犬を先に倒すことを選択。
「ラス・テル マ・スキル マギステル。来たれ火の精、熱の精。劫火を纏いて猛れ! 灼熱の風」
隼人は高速で詠唱と魔力を紡ぐ。
「【焦熱の嵐】!」
右手から高熱の風を照射。
「無駄だよ?」
「無理だよ?」
少女たちが熱風を飲み込むが、熱の余波で体が燃え上がった。
「ぎゃああああああああああああ!?」
「きゃああああああああああああ!?」
あまりの熱さに叫び声をあげる。
「威力は無効化できても、熱までは防げないだろ?」
隼人は獰猛な笑みを浮かべる。
「ぐるあおおおおおおおおお」
黒犬が吠えて隼人を強襲。
「喧しい。おらあああああああ」
隼人は左手でぶん殴る。
「ぎゃん!?」
「ラス・テル マ・スキル マギステル 爆炎と轟炎。地獄の爆音ここに鳴る。命あるものを等しく煉獄の御手で撫でよ!」
燃え盛る魔法陣が黒犬を包み込む。
「くたばれ。【灼炎の拍手】!」
凄まじい爆音が連続で鳴り響き、猛火が吹きあがって黒犬は消し炭となる。黒犬がいた場所は所々赤熱してすり鉢状に抉れていた。
「賢者と運命の女神が忌避する、伝言の真意を、緋の悪魔とタナトスは識る」
隼人はヘルマンめがけて突進。
が、燃え盛る少女達が隼人を掴んで止めた。
「いかせない?」
「いっちゃだめ?」
ボロボロで、あちこち爛れているにもかかわらず、瞳の輝きだけは失っていない。
「このぉっ!」
体を捻って振り払う。
「右手に生を、左手に死を、傾かざる地平線の天秤!」
ヘルマンの詠唱が終わりを迎えた。
言い終えた途端、少女達の体が光り輝く。空中に七色の輝きを放って少女達が魔法陣になる。
「さぁ、出てこい【昏き楽園の冥王】!!」
ヘルマンが叫ぶと、魔法陣が肥大化。
空が扉のようにバックリと両開きになって、どす黒い腕が伸びてくる。
「犠威威威威威威威威呀呀呀呀呀呀呀呀呀呀呀呀亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜」
天を割る咆哮。底なしの闇色をした目。黒い肌。王と呼ぶにふさわしいほどの圧倒的な気配。魔法陣から這い出してきたのは、全長五十メートルはある巨人だった。
つづく