ようやく、隼人の最強必殺技を出せました。
ということで、次回から麻帆良文化祭編です。
しばらくは、バトルは無し。キャラクターにスポットを当てたクラスメイト編になります。
宜しくお願いします。
ヘルマンが召喚した巨人が広場を睥睨する。
「あれは、まさか、構築召喚魔法か!?」
エヴァンジェリンが驚いて声を上げる。
「それって何?」
明日菜が質問した。
「大昔に編み出された召喚魔法だ。違う次元にあるモノをこちらの魔力や気力で体を作って召喚する魔法だ。魔法の性質上、形のない闇や死と言った概念的存在も無理やり召喚できる」
「それってヤバイってこと?」
「召喚されたモノによるが、最悪この世界が消し飛ぶ」
「ええええええええええええええ?」
全員が驚愕した。
「ちょ、それヤバイじゃん」
「あやー、それは流石に想定外やな」
口々に慌てる。
「こら、落ち着くんじゃ」
近右衛門が言った。
「あの程度の召喚生物は、隼人の敵ではない」
「でもお祖父ちゃん。どーやって倒すん?」
木乃香は巨人を見上げて冷や汗を垂らす。
「よく見ておけ。敵味方から紅蓮鬼と恐れられた、煉城隼人という男の姿を。その強さを」
全員が隼人を見つめる。
隼人は巨人を見上げると、刀を握りなおした。
「吠え猛れ! 【煉獄】!!」
隼人の叫びで刀が目を覚ます。
刃に呪文が浮かび上がり、刀が唸りを上げる。
呪文に反応して、刀身にヒビが入りメッキが剥げるように砕け散った。
剥げた中から現れたのは、紅い色をした刃。
真の力に目覚めた【煉獄】から途方もない力が放出される。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
隼人は腹の底から叫んで大気を震わす。
【爆熱真紅】の出力がさらに上がる。
ありとあらゆる力を吸収して、エネルギーに変換、術者の攻撃力を上げる【爆熱真紅】。その効果により、煉獄から放たれる膨大な力が燃焼して全て隼人の力に変わる。
隼人が放つ気力は高熱を発して、周りにある広場の芝生を燃え上がらせた。
「凄まじい、力だね」
ヘルマンは隼人の力を評価する。
「だが、この『冥界』という概念を形にした、冥王には勝てないよ」
冥王が巨体を揺らして腕を振り上げる。
「素敵な一撃をお見舞いしよう」
ヘルマンが宣告した瞬間、音速を超えて冥王の腕が振り下ろされた。
衝撃波が辺りに広がり、猛烈な爆発が起こる。
世界樹広場の一部が一瞬で荒野へと変わり果てた。
「むぅ? この程度の威力で済んだ?」
ヘルマンは訝しむ。この一撃で広場全体を消し飛ばす予定だった。だが、結果は一部が破壊されただけ。巨大な世界樹も折れることなく無事だった。
辺りの粉塵が晴れる。
「な、なんて、威力よ……」
腰を抜かした明日菜が呟く。他の者も言葉を失っていた。
「ほっほっほ。いやぁ中々の一撃じゃ」
近右衛門はカラカラと笑い、周囲に超強力な結界を張り巡らしていた。
ヘルマンはそれを見て納得する。
「なるほど。これは残念。あの男がいる限り、丸ごと破壊は出来なさそうだ」
近右衛門が張った結界で衝撃波を抑え込んで、被害を最小限に食い止めていた。
「だが、それでも少年は消し飛んだだろう」
爆心地はすり鉢状に抉れて、冥王の手が隼人の立っていた位置に打ち付けられていた。
「どこ見て言っている」
隼人の声が辺りに響く。
「なに? どこだ」
ヘルマンは辺りを見回す。
すると、打ち付けられた冥王の手が、勢いよく跳ね上がった。
「うるるるるあああああああああああああああああ」
裂帛の気合いで刀を切り上げて、隼人が爆心地に立っていた。
強力な一撃が直撃したにもかかわらず、全くの無傷。むしろ先ほどよりも威圧は増していた。
ヘルマンは引き攣った顔で言う。
「どんな手品を使ったかは知らないが、これならどうだ!」
空気中の魔力が巨人の口に集まり、超強力なエネルギー弾を生成。
「さよなら、少年」
別れの言葉を呟いたとき、巨人が弾を発射した。
隼人に向かってくるエネルギー弾。
「残念なのはお前の頭だ」
隼人は手をかざすと、魔法陣が展開。
その魔方陣でエネルギー弾を受け止めた。
「なに!?」
ヘルマンは驚いた。
受け止められた弾は見る見るうちに隼人に吸収されていく。
「がああああああああああああああああああああああああああっ」
咆哮して吸収した力を燃やして、自らを強化した。
ヘルマンは酷く狼狽する。
「ばかな! 冥王の一撃を! ありえない!」
隼人はニヤリと笑う。
「爆熱真紅はひどく燃費が悪くてな。自分の気や魂を燃やし尽くして発動させるため、効果に制限時間がある」
隼人は刀を肩に置いて言う。
「だが、俺はそれを発展させて考えた。自分以外の力も吸収すれば効果時間と効果能力を維持できるってな」
そう言って魔法陣を見せる。
それを見て明日菜達は思い出した。
「あれって、隼人の過去で見た魔法陣よ」
「そうや、たしかあれって、アンリさんとギンガさんが使った魔法。古代魔法【貪食の王】や」
木乃香の指摘通り、隼人の展開した魔法は【貪食の王】だった。かつてググラガの攻撃を受け止めたその魔法が今、現代に蘇った。
「バカな。貪食の王を一人で展開できるわけがない」
ヘルマンは首を横に振って否定する。
隼人は説明を続ける。
「この魔法陣はアンリとギンガの【貪食の王】と、アニエスの【転換の法・身体強化】の大元の魔法だ。名前を超古代魔法【
隼人の説明を受けて、近右衛門が補足する。
「元々は一つだった魔法を分割して使用する。これは魔法開発の歴史において度々行われておる。現代の魔法使いが【吸世の軍神】を使いやすくするため、魔法吸収の力を【貪食の王】へ。身体強化を【転換の法・身体強化】へ。それぞれ分けたのじゃ」
隼人はさらに説明する。
「この魔法の欠点は、吸収した魔法を受け止めきれずに使用者の体が爆発することだ」
そこでいったん区切って、獰猛な笑みを浮かべる。
「だが、吸収したそばから燃焼していく【爆熱真紅】と併用すればそのリスクを回避できる。そして、この魔法は【爆熱真紅】の出力を維持するにはもってこいの効果だ」
ヘルマンは隼人の威圧にたじろぐ。
「ま、まさか、あの腕の一撃もその魔法で受け止めたのか?」
「そうだ。【吸世の軍神】は衝撃波などのエネルギーも吸収できる。それに展開のしやすさは二つに分割した魔法より、【吸世の軍神】の方が簡単なんだよ。本来【吸世の軍神】は、展開した後の安全対策や、降りかかる危険を全て無視した捨て身の魔法だからな」
ヘルマンに冷たい汗が流れる。隼人のやっていることは、ハイリスク・ハイリターンの凶暴な魔法や技を併用して、無理やり安定させる行為だった。一歩間違えれば簡単に死ぬ危険な行為を平然とやってのける精神に戦慄した。
「もっとも、これでも【爆熱真紅】は未完成だ。他人のエネルギーを利用しないと安定しないのは考え物だな」
隼人が目指す【爆熱真紅】の完成形は、完全に自前のエネルギーで効果時間と効果能力を維持することだった。
「さて、お喋りも飽きた。そろそろ第二ラウンド往くぜ」
冥王を睨みつける。
「グ、ガ」
【爆熱真紅】の効果である【戦意焼却】を受けて、巨人は恐怖で体を震わせる。
「せっかく、出てきたとこ悪いが、貴様は俺の餌だ」
隼人は手をかざす。【吸世の軍神】が発動する。
「はああああああああああああああああああああああああ」
魔法陣が冥王の力を吸い取っていく。
「マズい! これは!」
ヘルマンは慌てて、冥王を次元の彼方に送り返そうとした。
しかし、気が付いたときにはもう遅かった。
「があああああああああああああああ」
獣の雄叫びを上げて【吸世の軍神】の出力が上がる。
「愚愚愚愚愚愚愚愚愚愚愚愚愚亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜」
悲痛な悲鳴を上げて冥王は崩れていく。
冥王の体は魔法や気力で構成されている。即ち、【吸世の軍神】で吸い取れる。
強大な冥王はその身を軍神に吸収されてしまった。
そして、隼人は爆熱真紅の出力を上げた。
「ぐるうううううああああああがあああああああああああああああああああああ」
獰猛な鬼の咆哮。天を振るわし、地に響く。怒髪は天を突き、燃え盛る劫火が空気を焼く。発する爆熱は周囲を圧倒し、炎熱地獄へ変える。それは紅蓮を纏う鬼。麻帆良の地に、かつての大戦で暴れ狂った暴威が顕現した。
それを見て、ヘルマンはあの日、紅蓮の鬼を幻視したことを思い出す。そして心底嬉しそうに叫んだ。
「ハラショー。ハラショー! あの時の直感は正しかった。少年! ハラショー!!」
「喧しい!」
【縮地】で隼人はヘルマンとの間合いを詰めると、刀を振る。
「あの時の約束。今、果たそう!」
ヘルマンの体が変化。身に着けていた衣服を脱ぎ捨てて、暗黒色の屈強な悪魔へと変貌する。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「はあああああああああああああああああああっ」
互いの雄叫びが夜空に木霊する。
ヘルマンの蹴りが地面を砕く。
隼人の斬撃が空気を切り裂く。
斬撃と拳による戦い。空気が振動し、地面が砕け、空が燃えた。
「いけっ、魔法の射手!」
幾重にも重なる魔法の矢がヘルマンを襲う。
「オラオラオラオラ!」
ヘルマンは気合いを発してそれを全て叩き落とす。
「だらあああああああああっ」
豪快に刀を振ってヘルマンを切り裂く。
「せえええええええええええいっ」
強烈な回し蹴りが隼人を蹴り飛ばす。
悪魔と鬼の戦い。それはまさに命を燃やす戦いだった。
「なんて、なんて凄い戦いなんや」
端で見ている小太郎は、強者同士の戦いを見て心が震えた。
「あれが、先生の本気」
刹那は隼人の戦う姿に目指すべき頂点を見ていた。
「ふん。普段のダメさ加減から考えられんな」
エヴァは普段とのギャップに呆れた。
豪快に華麗に戦う隼人。
「拙者達も負けてられないでござるな」
楓は拳を握った。
凄まじい戦い。それは何時までも続くかと思われた。
だが、それにも終わりが来る。
ヘルマンが押され始める。
「ぐうううう」
唸って体勢が崩れた。
「これで、終わりだ! ヘルマン!!!」
隼人は最大まで力を解放。
「花の章奥義【
刃に纏った色とりどりの花びらが、ヘルマンの体を削り裂く。
血飛沫が飛び散り、花びらの毒が相手の体を襲う。
「まだまだぁああああああああああ!」
激烈な痛みをこらえて、ヘルマンは隼人に攻撃。
しかし、隼人の体が花びらに変わる。
「こ、これは!?」
花の章【桜花幻影】による回避だった。
すかさず、隼人は背後に回り、もう一撃奥義を放つ。
「鳥の章奥義【
一回の攻撃で上下同時に斬撃を繰り出す。
上段の斬撃で相手の障壁を破壊。下段の斬撃で相手の腹を切り裂く。
「ぐおおおおのれええええええええええええ」
ヘルマンは口を開けて砲撃を放つ。
それを僅かな体捌きで避けて間髪入れずもう一つ奥義を叩きこむ。
「風の章奥義【
乱舞による攻撃。瞬時に相手の四肢を切断。バラバラに解体する。
そして風の章【爆風昇天】によって生み出した大風でヘルマンの体を上空へ高々と打ち上げた。
「うおおおおおおおおおお!?」
悲鳴と共にヘルマンは空に舞う。
「らぁっ!」
隼人は跳躍。ヘルマンと同じ高さに上がる。
そこから空中を蹴ってもう一度跳躍。二度のジャンプでヘルマンよりも上空を陣取る。
「これで! 終いだ!!!」
隼人は最後の奥義を放つ体制に入る。
その姿はまさに月を背に刃を振りかざす紅蓮の鬼。
「月の章奥義【
背中で気を爆発させてその反動で一気に相手めがけて急降下。
一刀両断の一撃をヘルマンに直撃させる。
相手を切り裂いてもなお勢いが落ちず、そのまま地面を踏み砕いて着地。
ヘルマンは毒と斬撃、上下二連撃、四肢を切断、最後に一刀両断と四つの奥義を受けて文字通りバラバラになった。
「やった!」
明日菜達は勝ちを確信した。
だが、ヘルマンは生きていた。
「残念だったねぇ!!」
バラバラにされた四肢が、身体が、集まって体を構築する。
「悪いが私は魔王! そう簡単に死なない!!」
魔王級の異常な生命力で体が完全に再生してしまう。
「さぁ、もう一度戦おう。少年!」
ヘルマンは隼人を挑発した。
明日菜達は絶望した。隼人が放った渾身の奥義がまるで効いていなかった。
しかし、隼人は絶望せず、むしろ勝ち誇ったように笑う。
「何が可笑しいのかね?」
「言ったはずだ。これで終わりだと」
「は?」
疑問を口にした途端、ヘルマンの体が足元から崩壊し始めた。
「な、なぜだ!?」
隼人以外のその場にいた誰もが驚く。
隼人は静かに言った。
「流派・花鳥風月は呪術剣術。古の時代、神殺しの呪いを四つに分割して生み出された剣術だ。四つに分かれた呪いは、各章の奥義として受け継がれた」
「まさか、この私に呪いをかけたのか!?」
「四つある奥義は一つ放つだけでも相手を葬れる威力を誇る。だが、一撃、二撃、三撃と放っても死なない相手には、四撃目の奥義を打ち込むことで古の神殺しの呪いが発動する」
ヘルマンの下半身が消滅。上半身が崩壊していく。
「その呪いとは、体と魂を無に還すこと。それが、流派・花鳥風月 終の章【
「そんな! 魂を無に還すだと!?」
魂が無に還るということは、生まれ変わることができないということ。即ち、魂さえ無事ならば蘇る魔王級を葬れる奥義だった。
もはや、異常な生命力など関係なかった。ただ、消えていく。全て無になっていく。
隼人は刀を一振りするとゆっくりと鞘に戻していく。
「【花】のように咲き誇り、【鳥】のように優雅に舞う者も、いつかは【風】化し、【月】の下で消えて逝く」
チンと涼しい音が鳴り、刀が鞘に戻る。
「お前の逝く先はあの世じゃない。殺した師匠へ詫びる必要もない。反省もいらない。どこへも逝かず完全に消滅しろ。それが俺の復讐だ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
長い長い叫び声と共にヘルマンは消えていく。
最後の髪の毛一本が消滅して、ヘルマンは跡形もなく消えた。
隼人は【爆熱真紅】を解いて、片膝をつく。
「勝った……!」
「やったああああああああああああああ!」
明日菜達はわっと歓声を上げて隼人の元に駆け寄る。
「凄い! 凄い! あの悪魔に勝った!!」
「めちゃくちゃカッコ良かったよ、先生!」
「先生、おめでとうございます!!」
「隼人。お前強すぎるで」
「やれやれ、魂を無に還す技か。吸血鬼としては冷や汗ものだな」
皆、口々に隼人を称える。
「痛てて。あんまりはしゃぐな。こっちは骨が折れるわ、体ボロボロだわ、正直重症なんだぞ!!」
確かに隼人は重症だった。あちこちの打撲。骨折。筋肉断裂。衰弱。満身創痍という言葉が一番似合っている状況だった。
「ようやく、一つ終わったの。隼人」
近右衛門が微笑む。
「ああ、ようやく一つ終わった」
感慨深げに言う。
「さぁ、とりあえず俺を病院につれて、オヴォエゲェェェェェ」
セリフの途中で盛大に吐血して、ぶっ倒れた。
「きゃああああ、隼人!」
「先生! 大丈夫ですか!?」
「衛生兵! 衛生兵!!」
皆、慌てて隼人を抱えて病院に運んでいく。
隼人は、薄れゆく意識の中で、「前にもこんなことあったな」とどーでも良いことを思いながら気絶した。
その気絶した顔は、やり遂げたように満足そうな笑顔だった。
【VSヘルマン編】終
【麻帆良文化祭編】に続く