魔法教師はやト!   作:沖彦也

43 / 55
クラスメイトの章と銘打ってますが、今回は文化祭編の前振りです。
次回から文化祭が始まります。

宜しくお願いします。


第四十三話「世界樹の真実! 恋の成就を阻止せよ」

 文化祭が三日後に迫ったある日。3-A組の教室は地獄の修羅場と化していた。

 

「ぎゃぁ! 間に合わないいいいいいいい」

 

「ああ、裕奈さんはそちらの垂れ幕を。桜子さんは機材搬入を手伝ってください、えーっとそれから、超さんと葉加瀬さんは何所へ行ったんですか!」

 

 てんやわんやで、あやかが指示を出していく。

 

 そんな混乱を聞きながら、隼人はコスプレ喫茶の看板に釘を打ちつけていた。

 

「この騒ぎ、まるで戦場だな」

 

「あわわわわ。先生、申し訳ありません。時間に余裕を持って取り組むはずががががが」

 

 隼人にまで手伝わせてしまったからか、あやかは完全に混乱していた。

 

「まぁまぁ、いいんちょ。落ち着いて。修羅場は落ち着くことが肝心なんだよ」

 

「ハルナのその落ち着きっぷりは何?」

 

 他のクラスメイトが不思議そうに尋ねた。

 

「まぁ、ハルナは毎度毎度、原稿に追われて修羅場を潜り抜けてますから。この程度では混乱しないです」

 

 夕映が自分の作業をしながら説明する。

 

 隼人はあやかの肩を叩く。

 

「いいか、あやか。修羅場であれ、なんであれ、リーダーを任されたのなら混乱せずに的確に指示を出せ。出ないと、周りまで混乱して動けなくなる。こういう時こそリーダーの真価が問われる。資質は十分なんだ。さぁ、頑張ろう」

 

 かつて大部隊を率いていた隼人の言葉は説得力があった。

 

「は、はい。先生。皆さん。こうなったら徹夜も辞さない覚悟で行きますわ。がんばりましょう!」

 

 決意を新たに、あやかの号令の下、クラスメイトが一致団結。文化祭に向けてさらに加速していく。

 

 そんな作業をしているときに、教室にタカミチがやって来た。

 

「やぁ、これは楽しそうだね」

 

「おうタカミチ。現状でその言葉言うと、生徒にブチ切れられるぞ」

 

 隼人が手を止めてタカミチをたしなめた。

 

「いやいや、祭りの準備はこうじゃないと楽しくないだろう」

 

「まぁな。傍から見りゃそうだろうが、当事者たちは洒落になってないからなぁ」

 

 必至に、でも楽しそうに作業を進めていく生徒達。それを見て、二人は微笑む。

 

「で、手伝いに来たのか? 副担任」

 

「手伝いたけれど、そうじゃない。仕事だよ。君と木乃香君と刹那君を呼びに来たんだ」

 

「何? どういうことだ?」

 

 隼人は首を傾げた。自分だけでなく、木乃香と刹那もというところが引っかかった。

 

「学祭の厄介事。その対応に学園長が全魔法教師と一部の魔法生徒に招集をかけた。三十分後に世界樹広場に集合だ」

 

「分かった。二人にも伝えておく」

 

「ああ、頼んだよ」

 

 タカミチは教室を去って行った。

 

「先生! 手を止めてないで手伝って! ひいいいいい」

 

 クラスメイトの悲鳴が教室に響く。

 

「ああ、分かってるよ」

 

 隼人は作業に戻った。

 

 

★

 

 

 隼人、木乃香、刹那はそれぞれの作業を他に任せて、世界樹広場までやって来た。

 

「おお、ここまで出そろうと壮観だな」

 

 隼人の言うとおり、世界樹の広場には魔法教師、魔法生徒が集合していた。

 

「待っておったぞい」

 

 学園長がどこからともなく現れた。

 

「おう、こんだけの人数が集めて、しかも人避けの結界張ってるってのはどういうことだ。学祭の厄介事ってなんだ?」

 

「事件。といえば事件かのう。じつは、神木蟠桃の伝説の件で呼んだんじゃ」

 

 学園長が話始めようとしたとき、サングラスをかけた魔法教師が止めた。

 

「待ってください。学園長。どうやら、招かれざる者が紛れ込んでいるようです」

 

 そういうと、指を鳴らして風の刃を発生させて、広場にある大きな建物の屋根を攻撃した。

 

 着弾すると、紫電が上がりフードをかぶった二人組が現れた。

 

 バレたのが分かったからか、二人組は急いで駆け出す。

 

「追います」

 

 色黒の魔法教師が駆け出した。さらにミッション系の制服に身を包んだ魔法生徒と、セーラー服の魔法生徒も追いかけて行った。

 

「まぁ、あれはあの三人に任せて話を始めよう」

 

 学園長は話を切り出した。

 

「この世界樹と呼ばれ取る神木蟠桃は、太古の時代よりこの地に生えておる。そして世界の魔力の要となっており、世界の各地にある魔力放出点の一つじゃ。毎年この時期になると、魔力放出点は魔力の大放出現象が起こる。今年は十年に一度の特大放出期なんじゃよ。ここまではええか?」

 

 拝聴していた教師、生徒は頷く。

 

「この放出期に蟠桃は光り輝き、麻帆良学園文化祭の名物となっておる。魔力が放出しても周りには特に影響は出ない。ところが、今年は十年に一度の特大放出期。この時だけ厄介な事象が起こるんじゃよ。それが、『世界樹の恋の噂』じゃ。曰く、文化祭の日に世界樹の下で異性に告白すると成就する。他愛のない話じゃが、これ実はマジで叶ってしまうんじゃよ」

 

 その話を聞き、隼人は驚いた。

 

「おいおい。どんな魔法転換装置だ」

 

「途方もない魔力が集まり放出するので、言葉に乗せるだけで魔法が発動してしまうんじゃよ。しかも、その威力は最早、呪い級じゃ。人の心を操る禁断の魔法が、言葉を発するだけで使えてしまうのは大問題じゃ。ことは生徒の人生が掛かっておる」

 

 一旦、言葉を切る。

 

「そこで、特大放出期だけ、生徒の告白を阻止することになっておる。呼び出したのはそれを伝えるためじゃ」

 

 学園長の話は終わった。

 

「そんな話、ウチ初めて聞いたわ」

 

「私も初耳です」

 

 木乃香と刹那は驚きを隠せなかった。

 

「言霊が発動するのは厄介だな。他人の恋路を邪魔するのは気が引けるが仕方ないか」

 

 隼人は苦笑いする。

 

 他の者も良心が痛んだが、やむを得ないと納得した。

 

 学園長の隣にいた、しずな先生が説明を引き継ぐ。

 

「すでに、世界樹研究会が今年は十年に一度の特別な日であると感づいています。それをネタにして告白を煽るような記事も出ています。皆さんには学祭期間中、告白しそうな学生、一般人の阻止をお願いします。持ち回りなどは、今日、明日中に予定を私まで連絡してください。それを元に持ち回りなどを決めます。ただし、希望に添えないかもしれないのでそこはご了承ください」

 

「では、面倒じゃが頼むぞ。解散」

 

 号令の一言で結界が消失して、人々がわらわらと広場にやってくる。集まっていた魔法使いたちはいつの間にか消えていた。残されたのは隼人達だけだった。

 

「ふー、やれやれ。ま、嫉妬を力に変えてリア充共を爆発させるのは案外面白いかもな」

 

「先生、それだと真っ先に先生が爆破されますよ」

 

「そうやなぁ、気をつけなアカンで」

 

 色々と問題がある隼人に二人は注意した。

 

「わーってるよ。それより、学祭の準備に戻ろう」

 

 連れ立って教室棟まで戻ることした。

 

 しかし、その途中で事件は起こる。

 

 

★

 

 

「どいて、どいてぇええ」

 

 慌てた声と共に、空からフードを目深にかぶった女の子が落ちてきた。

 

「ぬお、親方! 空から女の子が!!」

 

 隼人は叫ぶ。

 

「いや先生、冗談言ってる場合じゃないですよ」

 

 刹那がたしなめる。

 

「あや、超さんやん。どないしたん?」

 

 木乃香が、落っこちてきた人物を助け起こす。それはクラスメイトの超鈴音だった。フードを上げて顔を出す。

 

「あたた。いやはや、悪い魔法使いに追われてるネ」

 

「悪い魔法使い?」

 

 三人は怪訝そうな顔をする。

 

 そのとき、彼方から黒い影の集団が現れた。

 

「ほら、あれネ」

 

「先生、あいつらは!?」

 

「あー成程。とにかく移動するぞ」

 

 言うが早いか、超を抱えると隼人は跳躍。建物と建物を伝って走っていく。

 

「あれ、まさかこの間の悪魔の残党ですか!」

 

 刹那は並走しながら言う。

 

「いや、あれは影使いの魔法だ。悪魔じゃない」

 

「でも、魔法ってたしか学園結界があるから、使用するには許可がいるんとちゃう?」

 

「それは外部からの魔法使いだけだ。あれは学園関係者の魔法だ」

 

「学園関係者? それって学園内に敵がいると?」

 

 刹那が険しい表情になる。

 

「いや、そんな物騒な話じゃない。あそこに、降りるぞ」

 

 人気のない、広場に降り立つ。

 

 追っ手の影達も隼人達を取り囲むように降り立った。

 

 刹那と木乃香は油断なく構える。

 

「そろそろ、出てきてください。侵入者の鈴音はこちらで確保しました」

 

 隼人は何処かへ呼びかける。

 

 すると、どこからともなく、三人組が現れた。

 

「あなた達は先ほどの、魔法教師と生徒さん」

 

 刹那は現れた三人組を見て言った。

 

「煉城先生。ご苦労様です」

 

 色黒の教師が口を開く。

 

「ご苦労様です。ガンドルフィーニ先生」

 

 隼人も挨拶する。

 

「そこの問題児、超鈴音をこちらへ引き渡してもらえますか」

 

 ガンドルフィーニは隼人に抱えられている、超を睨んだ。

 

 隼人は超を下ろすと、背中に隠す。

 

「何のつもりですか?」

 

「鈴音を引き渡すつもりはありません」

 

「なっ!」

 

 追手の三人は絶句した。

 

「煉城先生、どういうおつもりですか。そこにいる超は危険な生徒です!」

 

 ガンドルフィーニの隣にいたシスター風の少女が叫んだ。

 

「落ち着いてくれ。高音さん」

 

 隼人は宥める。

 

「彼女は危険な生徒じゃない。理由はどうあれ、貴方達に引き渡す必要はないと思います」

 

「煉城先生。事情はどうやら知っているようですね。しかし、彼女の行動は規則に違反している。再三の警告に従わず、一般生徒なのに秘匿されている魔法の情報を引き出そうとした。今回は人避けの結界を破ってまで知ろうとした。我々はこれを許すわけにはいかない」

 

 ガンドルフィーニが毅然とした態度で言う。

 

「魔法の情報はバラしてはならない。たしかにそういう規則はあります。ですがそれはテロなどの危険がある者のみでしょう。たかが一般人に知られた程度では問題ないはずです」

 

 さらに隼人は続ける。

 

「それなのに、覗き見しただけで、【漆黒の影人】を使って追い詰めるとはどういうことですか。ここまでやる連中に彼女を引き渡すことはできません」

 

 ガンドルフィーニの目を見て、きっぱり言った。

 

「煉城先生。彼女は、あの重罪人エヴァンジェリンとの繋がりもある。危険の芽は早めに摘むのが一番です。我々に引き渡してください。魔法に関する記憶を消去するだけです」

 

「安易に人の心に影響する魔法の使用は避けるべきだ。それこそ魔法規則に違反する。だいたい先ほどから、俺の生徒を危険だの、重罪人だのと随分な言い方ですね。なおさら貴方達には引き渡せない」

 

「そういえば、エヴァンジェリンもあなたの生徒でしたね。重罪人の件は謝罪します。申し訳ありません。ですが、彼女の処分の件は我々に任されています。先生がどう言おうと覆りませんよ」

 

 隼人はその言葉を鼻で笑う。

 

「じゃあ、今ここで覆しましょう」

 

 電話を取り出して、近右衛門に電話をかける。

 

「おう、爺さん。隼人だ。今、超鈴音の処分でも揉めてんだけど、俺に彼女の処分を任せてもらえないか。ああ、そうだ。クラスの問題は俺が引き受ける。筋は通ってるはずだ」

 

 何事か指示を聞き、電話をガンドルフィーニに渡す。

 

「近衛学園長からの連絡だ」

 

 ガンドルフィーニは電話を受け取る

 

「代わりました。ガンドルフィーニです。はい。はい。え! よろしいのですか? ええ、ええ、はい。分かりました。全てを煉城先生に任せます。それでは失礼します」

 

 電話を隼人に返す。

 

「サンキュー、爺さん。こっちでビシッと言っておくから。ああ、それじゃ」

 

 電話を切って、勝ち誇ったように笑う。

 

「ほらな、覆っただろう?」

 

 ガンドルフィーニは深くため息をついた。

 

「全く。貴方には敵いませんよ。分かりました。命令でもありますし、そこまで生徒を思うのであれば任せましょう。あとのことはよろしくお願いします。あ、ちなみにもう一人逃げた生徒もあなたのクラスの葉加聡美です。そちらもよろしくお願いします」

 

「了解です。引き受けました」

 

「超鈴音。煉城先生にちゃんとお礼を言っておきなさい。いいですね」

 

 ガンドルフィーニは超にそういうと、魔法生徒を連れて立ち去った。

 

 彼らが見えなくなると、空気が緩む。

 

「あー緊張したわー」

 

 木乃香がホッと息をつく。

 

「心臓に悪い会話でした」

 

 刹那は苦笑した。

 

 隼人は超に向き直る。

 

「大丈夫か、鈴音。って、なんで泣いてるんだ?」

 

 隼人の後ろにいた超は泣いていた。頬に涙が伝っている。

 

「おい、まさかあいつらに何かされたのか? どこか痛いところでもあるのか?」

 

 心配になって超の体を確かめる。

 

 すると、超はその手を払って言った。

 

「いや、なんでもないヨ。目にゴミが入っただけネ。ほんと、それだけ」

 

 涙をぬぐって、にっこり笑う。

 

「いやはや、助かったヨ。隼人先生、格好良かったネ」

 

「ああ、とにかく無茶な真似はよせ。どうしても魔法のことが知りたいなら俺に言え。一応あちこちに顔が効くから、俺を通してなら正式なルートとして魔法の情報を渡せるから」

 

「うん。ありがとう。そして、ごめんなさい。気を付けるネ」

 

 超は頭を下げた。

 

「反省してるならよろしい。あとは聡美にも説教だな」

 

「ふふ、葉加瀬には私からも言っておくヨ」

 

 隼人は了承して、手を叩く。

 

「さて、一件落着したところで、教室に戻ろう。修羅場がまってるぞー」

 

 隼人達は急いで教室に戻った。

 

 

★

 

 

 翌日、朝の登校の時。隼人は学校に行く道を歩いていく。昨日は葉加瀬を捕まえて説教した後、徹夜で文化祭の準備を手伝った。

 

 明け方、着替えを取りに戻り、再び学校に向かっている途中だった。総監督のあやかが言うには、今日も徹夜をすれば何とか間に合う計算らしい。

 

「先生、おはようネ!」

 

 前から超が駆け寄ってきた。

 

「おう、おはよう。超包子は今日も開くのか?」

 

「徹夜明けだけど問題ないネ。これから行くとこヨ。でもそのまえに、昨日のお礼を持ってきたね」

 

「お礼って。そんなもんいらんぞ。俺は担任として当たり前のことをしただけだ」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。学祭は色々と忙しいから、きっと役に立つネ」

 

 そういって、取り出したのは大きな懐中時計。ただし複雑な文字盤が重なっていて、時計としてはあまりにもゴチャゴチャしていた。

 

 受け取って確かめる。

 

「なんだこれ。アーティファクトか?」

 

「ふふふ。名前は【カシオペア】っていうネ。能力は発動してからのお楽しみってことにしておくヨ」

 

「おいおい、なんだそりゃ」

 

「約束してほしいネ。少なくとも、学祭一日目は肌身離さず持っておいてヨ。きっと面白いことが起こるから」

 

 超はいたずらっ子っぽい目で、楽しそうに笑う。

 

 隼人はそれが妙に可愛く、良い笑顔だったので頷いた。

 

「分かったよ。学祭中はこれを持っておけば良いんだろう。何が起こるのか楽しみにしてるよ」

 

 そして、元気よく手を振り上げた。

 

「それじゃ、今日も頑張っていこう」

 

「了解ネ!」

 

 超はビシッと敬礼すると、超包子に向けて走っていく。

 

 それを見送ると、隼人はカシオペアを懐に入れ、学校へ向けて歩いていった。

 

 

つづく

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。