魔法教師はやト!   作:沖彦也

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文化祭編です。いよいよ祭が始まりました。
かなりの長編になると思いますが、よろしくお願いします。


第四十四話「始まる麻帆良学園祭とカシオペアの秘密」

 雲一つない晴天。楽しげな音楽が流れ、人々の笑顔が輝いている。

 

 レトロな飛行機が編隊を組んで空を飛び、飛行機雲で絵を描く。

 

 そこかしこで歓声が上がり、正しくお祭りといった賑やかな風景だった。

 

 そんな場所に隼人と明日菜、夕映、ハルナ、のどかはいた。

 

 時計を見てハルナは言う。

 

「さぁ、カウントダウン! 5、4、3、2、1」

 

 時計の針が十時を指す。

 

『只今より、麻帆良学園祭を開催いたします!』

 

 アナウンスが流れてさらに盛り上がる。

 

「麻帆良祭の始まりだあああああああああ」

 

 ハルナは拳を上げて叫んだ。

 

 周りの人々も歓声を上げる。

 

 紙吹雪が舞い、高らかにファンファーレが鳴った。

 

「すげーな。この盛り上がりは」

 

 隼人はごった返す人波に乗りながら、感嘆の声をもらした。

 

「そりゃそうよ。なんて言ったって麻帆良学園島最大のお祭りだもの」

 

 明日菜が嬉々として言う。

 

 さらに夕映が補足説明をする。

 

「開催期間は三日間。入場者数は延べ四十万人を超えると言われているです。これは世界でも有数のイベントです。この日のために、各学校やクラブ、サークル、同好会など学園島全体が準備をして、めいっぱい楽しむです。一説によればこの学園祭だけで二億円以上のお金が動くと言われているです」

 

「二億円って。もう学校行事じゃないな」

 

「たしかに、そうですね。昔は小さなお祭りとして始まったとされているです。ただ、この学園島に住む人たちはバイタリティ高く、年々その規模を拡大して今や、関東圏在住の人々も訪れる一大テーマパークに変わったです」

 

「なるほどな。そりゃ凄い」

 

 隼人はますます感心した。

 

「文化祭と名を冠するように、各学園では研究発表や新技術のお披露目もあり、世界中の企業も注目を集めるイベントになってるそうです」

 

「なんかもう、言葉が出ないな」

 

「まぁまぁ、そんな話は置いといて、楽しもうよ先生! これパンフレット」

 

 ハルナがパンフレットを渡した。

 

 隼人はそれを眺める。

 

「うは、本当に学園が全部祭り仕様に変わるんだな。こりゃ楽しめそうだ」

 

「先生、クラスの方に行ってみましょう」

 

 のどかが提案する。

 

「おう、そうだな。結局徹夜で仕上げて、ちゃんとやってるんだろうな」

 

 隼人はかなり心配になった。

 

「大丈夫。大丈夫。あの超包子が提供しているから、前評判も高くてそりゃ商売繁盛してると思うよ」

 

 ハルナがあっけらかんと言った。

 

 果たして、ハルナの予想は当たった。

 

 それはもの凄い行列だった。校舎の昇降口から長蛇の列。風香と史伽が列整理していた。

 

「凄い行列が出来てるね」

 

 明日菜が嬉しそうに言う。

 

「あの双子に列整理任せるなんて大丈夫か?」

 

「あ、私手伝ってきます」

 

 のどかが、列整理に向かう。

 

「待ってよ。のどか。私も」

 

「私も行くです」

 

 ハルナと夕映が駆け出す。

 

 だが、ハルナがふと立ち止まって隼人に言った。

 

「先生! 今日ののどかとの約束忘れないでね!」

 

「ああ、分かってる」

 

 その答えを聞いて満足そうに笑うと、ハルナも列整理に加わった。

 

「なに? 約束なんてしてたんだ」

 

 明日菜がニヤニヤと訊いてくる。

 

「まぁな。教師の見回りがあるから、夕方からだけど、一緒に学祭を回る約束をしたんだ」

 

「ふーん。成程。それで刹那さんが少し暗かったのね」

 

 明日菜が納得したように頷く。

 

「なんだって、それ本当か?」

 

 隼人が驚く。

 

「そりゃねぇ。気になってる男の子が、他の女の子と一緒に回る約束なんてしてたら、良い気分になんかならないでしょ」

 

「うーん。全然気が付かなかった」

 

「あとで、フォローしたほうが良いわよ。ロリコン」

 

「誰がロリコンだ! それより、お前はタカミチと回らないのか?」

 

 隼人が切り返す。

 

「も、もちろん回るわよ。ええ、そりゃもう。ケータイ握りしめて三時間ほど悩んだけど、電話したらあっさりオッケー貰えたわ」

 

 えっへんと胸を張る。

 

「ほう。そうか。それは良かったな」

 

「うん。この最大級のチャンスを活かすわよ」

 

 グッとガッツポーズをとる。

 

「あ、告白なら世界樹では止めとけよ」

 

「なんで?」

 

「実はかくかく云々だ」

 

 隼人は世界樹の秘密と告白阻止の話をした。

 

「なによそれ。そんな面倒くさいことになってたの」

 

「ああ。色々と大変だよ。おかげでシフト組まれて、他人の恋路を邪魔する仕事だ」

 

「ご愁傷様。でも、気を付けるね」

 

 そんな話をしながら3-Aの教室に着く。

 

 明日菜はそのまま着替えるために更衣室へ向かう。

 

 隼人は一人、裏口になっている場所から入る。

 

 生徒たちがあくせくと働いていた。

 

「よぉ。繁盛してるみたいだな」

 

 隼人が楽しそうに言う。

 

「もう、てんてこ舞いよ! 開始と同時にお客さんがなだれ込んできて、大変!」

 

 裕奈が忙しそうに叫ぶ。

 

「ははは。暇よりは良い事だ」

 

「そりゃそうだけど」

 

「五番テーブルの料理上がったよー」

 

「はーい」

 

 会話の途中で呼ばれて仕事に戻っていく。

 

 隼人はコスプレ喫茶を眺めた。

 

 アニメのキャラクターやらナース服などの制服、かわいいメイド服。目の保養にうってつけだった。

 

 もちろん、客も心得たものでそれらを楽しみつつ、超包子提供の食材で作られた最高の料理を食べている。これが受けないわけがなかった。

 

 調理場では五月が忙しく腕を振るっている。

 

 店内は教室を改造して普段とは違った様子だった。

 

「うむ。徹夜した甲斐があった」

 

 満足そうに頷いて、教室を出ようとした。

 

 その時、目の前が霞み、バランスを崩す。

 

「っつ!」

 

 たたらを踏んで倒れることは無かったが、壁に手をつく。

 

「先生! 大丈夫ですか」

 

 ふらついた所を目撃した、刹那と木乃香が慌てて駆け寄る。

 

「ああ、大丈夫だ。ヘルマンとの戦いの後遺症はないはずだが、連日の徹夜で無理をしたかな」

 

 笑いながら目頭を押さえる。

 

「アニキ。無理すんじゃねぇぞ。保健室で休んできたらどうだ」

 

 カモも近寄ってきて心配する。

 

「見回りは昼からだし、のどかとの約束は夕方。そうだな。すまないが休ませてもらうよ。さすがに修学旅行の時みたいに盛大にぶっ倒れたらダメだしな」

 

 思い出して苦笑する。

 

「せっちゃん。ここはええから、隼人に付き添いしたげ」

 

 木乃香が言った。

 

「はい。それじゃ行きましょう」

 

「俺っちも行くぜ」

 

 隼人は刹那とカモを連れて保健室に向かった。

 

 

★

 

 

 保健室。外の喧騒とはうって変わって静かだった。

 

「煉城先生、大丈夫ですか。これどうぞ」

 

 保健室の先生が二人にお茶を持ってきてくれた。

 

「すいません。三十分だけ仮眠取ります」

 

 ベッドに横になる。

 

「刹那、すまないな。付き添ってもらって」

 

「いえ、喫茶店の手伝いはもう少し後なんで。それに告白阻止は先生と同じで昼からです」

 

「そうか。そういやお前、この学祭中はいつ開いている?」

 

「え? 一応、明日は一日開けていますけど」

 

 隼人はそれを聞いて笑う。

 

「それじゃ、明日は一緒に学祭回るか」

 

「えええ、いやそんな。私は」

 

 刹那は突然の申し出に慌てる。

 

「駄目か?」

 

「いや、その、ダメじゃないです!」

 

 そして刹那はお茶を飲んで落ち着いてから言う。

 

「一緒に回りたいです。お願いします」

 

「決まりだな。詳しいことは、起きてからでも話すか」

 

「はい」

 

 刹那は嬉しそうに頷いた。

 

「むほほ。青春だなぁ」

 

 カモは、隼人が飲んで残っていたお茶を飲みながら笑う。

 

「さて、それじゃ少し寝る。三十分くらいしたら起こしてくれ」

 

「はい。おやすみなさい」

 

 隼人は目を閉じる。そのまますぐに眠りに落ちて行った。

 

「寝つき早っ」

 

「よっぽど疲れていたんですね」

 

 刹那は欠伸をする。

 

「なんだか、私も眠くなってきたな。少し仮眠をとろうかな」

 

「ふわわわわ。俺っちも」

 

 刹那とカモも眠りに落ちる。

 

 それから、しばらく。

 

 隼人は目を覚ました。

 

「むむむむ。ふあわーわ」

 

 大きな欠伸をして首を回す。

 

「あー良く寝た」

 

 ぼーっとした頭で周りを見る。

 

「あれ? なんでこんなに真っ暗なんだ?」

 

 まるで夜だった。否、本当に夜だった。

 

 慌てて時計を確認する。

 

「げええええええええええええええええ。は、八時!?」

 

 思わず叫んだ。

 

 その叫びに驚いて刹那とカモも目を覚ます。

 

「どうしたんですか?」

 

「な、なんだ!?」

 

 刹那とカモは辺りときょろきょろと見渡す。

 

「おいこれ見ろ!」

 

 隼人は時計を見せた。

 

 その時刻に刹那はさーっと血の気が引いていく。

 

「八時! 夜の!?」

 

「兄貴、これって」

 

「「「寝過ごしたあああああああああああああああああああああああ」」」

 

 二人と一匹は声をそろえて叫んだ。

 

「うお、マジか! ありえないだろ!」

 

「すいません! 先生! 私が寝ちゃったばかりに」

 

「いやいや、俺だって寝過ごすなんて初めてだよ。どーなってんだ」

 

「兄貴、それよりのどか嬢ちゃんとの約束は!?」

 

 カモが指摘する。

 

「四時だ」

 

「四時!? まずいじゃねぇか」

 

「と、とにかく待ち合わせ場所に!」

 

 隼人は上着を取って駆け出そうとする。

 

「待ってください。さすがにもういないのでは? まずは携帯に連絡を」

 

「いや、嬢ちゃんの事だ。四時間ずっと待ってくれている可能性がががが」

 

 待ち合わせ場所に一人たたずむ、のどかを想像してさらに血の気が引いた。

 

「うおおおおお。やべえええええええ」

 

「すいません。すいません。すいません。」

 

 普段ならあり得ない状況のため隼人も、刹那も大慌てだった。

 

 混乱して上着を振り回す。その拍子に何かが落ちた。

 

「やべ、鈴音に貰ったアーティファクトが……」

 

 隼人がそのアーティファクトに触った瞬間、それは起動した。

 

「何だ!?」

 

「え?」

 

「へ?」

 

 全員が声を出した。まるで世界が逆転したかのような感覚に襲われる。

 

 そして、辺りが明るくなった。

 

「なんだ、一体。どうして急に明るく?」

 

 状況が飲み込めず混乱する。

 

「せ、先生! 時計見てください!」

 

 刹那に言われて保健室にある時計を見た。

 

「十時だと!」

 

「そんなバカな」

 

 カモが驚いたように声を出した。

 

『只今より、麻帆良学園祭を開催いたします!』

 

 アナウンスが流れた。外では歓声が上がっている。

 

「なんだと?」

 

 狐につままれたような顔で外を見る。

 

 明らかに朝だった。

 

 その様子を見て、隼人は思考を切り替えた。

 

「刹那、カモ。外に出るぞ」

 

「はい」

 

「がってんだ」

 

 校舎を出て、大通りに出る。

 

 親子連れや学生が仮装して練り歩いていた。

 

「これはさっき見た朝の光景ですよ」

 

「ああ、時間は十時。外は学祭が始まった時の光景。これはもしかすると」

 

 隼人は思考を巡らす。

 

「アニキ、あれ見ろ」

 

 カモが指した先には隼人達がいた。

 

「え、先生が二人?」

 

 刹那が驚愕の顔で見比べる。

 

「マズいな。こっちだ」

 

 隼人は刹那の手を取ると、路地裏に隠れた。

 

「やっぱり。時間が戻ってる」

 

 隼人が結論付けた。

 

「時間が戻ってるって。どういうことですか」

 

 刹那が尋ねた。

 

「理由は分からん。だが、そうとしか考えられん。おそらくこれが原因だ」

 

 懐からアーティファクトを取り出す。

 

「それって、さっきの」

 

「ああ、名前をカシオペアと言うらしい。鈴音に貰った」

 

 カシオペアは微かな機械音を鳴らして動いている。

 

「これ、昨日までは動いてなかったんだよ。でも今は動いている。それに妙な魔力動作を感じる」

 

 持っているカシオペアを見た。

 

「アニキ、それってタイムマシンってことか」

 

「ああ、幻術でもなさそうだし、おそらくな」

 

「でも、時間を操るなんて出来るんですか?」

 

 刹那がありえないと言った風に首を振る。

 

「俺も昔は時間魔法が使えた。ありえないことじゃない。ただ俺も時間を逆転させて、跳躍する魔法は初めて見た。あ、待てよ」

 

 隼人は何かを思いついたのか、辺りを見回してから魔法陣を描いた。

 

「ラス・テル マ・スキル マギステル! 契約の下、我の呼びかけに応じよ! 【クロノメモリ】!」

 

 魔方陣に触れると、陣が起動する。

 

 光り輝く魔法陣から美しい女性が現れた。

 

 それはかつて、ヴェルガを討ち取るために契約した「時間の女神」だった。

 

『あら? あなたから私を呼び出すなんて珍しいですね』

 

 女神は鈴のような可愛らしい声で語りかけた。

 

「ああ久しぶりだな。緊急事態だ。実は」

 

 事情を説明した。

 

『なるほど。そのカシオペアを見せてください』

 

 カシオペアを見せる。

 

『ふむ。これは。なるほど』

 

 女神は目を瞑る。何かを調べるように考え込んだ。

 

『ああ、確かにこれは時間を自由に行き来できるアーティファクトですね。人がタイムマシンと呼ぶ代物です』

 

「やはりそうか。時間を司るお前ならわかると思ったが、さすがだな」

 

『いえ。これくらいは容易いですよ。これは未来の私が超鈴音に教えた技術で作られています』

 

「なに、未来のお前が?」

 

『詳しくは言えませんが、間違いありません。それと安全性については保証します。貴方なら悪用することもないでしょうから、自由に使っても良いですよ』

 

 カシオペアを隼人に返した。

 

「使い方とか分かるか?」

 

『それは作った本人に聞いた方が良いでしょう』

 

「それもそうか。ありがとう」

 

 隼人は頭を下げた。

 

 その様子を見て女神は微笑んだ。

 

『どうやら、変わったようですね。昔は抜身の刀のような人でしたが、今は違う。穏やかな、それでいて力強い意志を感じます』

 

「そうかな? 相変わらず周りに迷惑かけまくるダメ人間だぞ」

 

 自嘲気味に笑う。

 

『その事実に気が付いただけでも成長しています。今の貴方ならきっと本懐遂げることが出来るでしょう』

 

「ああ。ありがとう。必ず奴は殺す。そして俺は仲間と同じ時間を歩んで行きたいと思ってる」

 

『はい。それまでは、私は貴方の時間を預かります』

 

 魔法陣が変化する。

 

『それではそろそろ、帰ります。何か困ったらいつでも呼び出してください』

 

「分かった」

 

 隼人は頷くと、魔法陣を操作して時間の女神との交信を切った。

 

「と、いうわけらしい」

 

 今まで黙って時間の女神とのやり取りを見ていた刹那とカモは口を開いた。

 

「クロノメモリと普通に会話してるなんてすげーなアニキ」

 

「超さんって何者なんでしょうね」

 

 カシオペアを懐に戻すと隼人は言った。

 

「それを確かめるために鈴音を探そう。話はそれからだ」

 

 隼人達は互いに頷くと、人でごった返す中、超を探すことにした。

 

 つづく

 

 

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