魔法教師はやト!   作:沖彦也

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しばらく更新停止していました。
生活や仕事がエライことになってまして、更新頻度が下がりますが、続けて行く所存です。
どうかよろしくお願いします。

さて、話は小説に戻りまして。
麻帆良文化祭編です。今回はのどかがメインです。
更新再開記念&継続祈願として普段より文字数が多いです。
よろしくお願いします。


第四十六話「のどかの決意。幸せにしたいという願い」

 祭でにぎわう麻帆良学園。その一角、噴水広場前。そこに宮崎のどかはいた。

 

 待ちに待った隼人とのデート。修学旅行のときとは違い、完全なデートである。それはもう気合いを入れてオシャレしていた。白色の可愛らしいワンピースを着て、小さなポシェットを肩からかけている。薄く化粧もしている。

 

 そんな清楚なイメージで決めた、のどかは待ち合わせ場所の噴水前で待っていた。

 

 ふと携帯が鳴る。ハルナからだった。

 

「もしもし、どうしたの?」

 

『やほー。いやぁ激励の電話でもしようかと思ってね』

 

 嬉々とした声が聞こえてくる。

 

「ありがとう。もう心臓が爆発しそうになってる」

 

『ちょっと、今から爆発そうってダメじゃない。せっかく進展のチャンスなのよ。キスくらい決める覚悟で行きなさい!』

 

「ちょ、き、き、キスなんて無理だよ。一緒に回るだけでもテンパってるのに」

 

 修学旅行の失敗がフラッシュバックして気持ちが沈む。

 

『大丈夫です。のどか。落ち着いて行けば失敗はしないですよ』

 

 受話器から夕映の声が聞こえた。どうやら一緒にいるようだ。

 

「夕映、落ち着いてって言われても……」

 

『イメージトレーニングすると良いです』

 

「イメージトレーニングか。う~ん」

 

 アーティファクト「いどの絵日記」を召還して想像する。

 

 

★

 

 

 まず、隼人先生が来たら、女の子らしく挨拶して。

 

 すると先生が。

 

「綺麗だ、のどか」

 

 って迫ってきて、私の顔を優しく抱えて。

 

「キスしよう」

 

 そう言って、唇を重ねて、盛り上がった二人はそのまま、舌なんか入れちゃって、大人のキスをして、それでそれで。興奮した先生が……。

 

 

★

 

 

『ちょっと、もしもーし。のどか?』

 

 呼ばれて我に返る。

 

 召喚した絵日記を見ると、とんでもない内容と挿絵が映し出されていた。

 

「うわわわ、こんなこと考えてない、考えてない。消去、消去」

 

 慌ててページを削除した。

 

『何を想像してたのか、訊きたいところだけど、まぁ良いわ。とにかく頑張んなさい』

 

「うん、ありがとう。ハルナ」

 

『あ、そうそう。世界樹の告白ってキスでも有効らしいよ。それもディープキスなら効果二倍!』

 

「ディ、ディープキスって」

 

 先ほどの絵日記が頭をよぎる。

 

 ふと絵日記に目を移すと、消したはずの絵が復活していた。

 

「きゃああああ。無し、無し」

 

 慌てて消そうとすると、さらに文字が浮かび上がってくる。

 

【本日の目標・隼人先生と大人のキス(ディープキス)】

 

「ひぃいいい。私そんな、はしたない事考えてないってばっ!」

 

 絵日記を噴水に投げ捨てた。

 

 アーティファクトなので濡れても大丈夫だが、水に浸かった衝撃で仮契約カードに戻った。

 

「はぁはぁはぁ」

 

『大丈夫? のどか?』

 

 心配そうなハルナの声が聞こえる。

 

「大丈夫。全部消したから」

 

『え? 消す?』

 

「とにかく、もう時間だから切るね」

 

 通話を一方的に終了させた。

 

 デートが始まる前から既に疲れてしまった。

 

「平常心。平常心」

 

 言い聞かせて心を落ち着かせる。

 

 そうこうしていると隼人がやってきた。

 

「おう、待たせたな。のどか」

 

「あ、先生。私もいまきばらかりで」

 

 返事をしようとして早速、噛んだ。

 

「おお、服可愛いな。バッチリ似合ってる」

 

 嬉しそうに隼人は、のどかの服を褒めた。

 

「ありがとうございます。先生も普段と違った雰囲気で似合ってますね」

 

 のどかの指摘した通り、いつものスーツではなかった。

 

 超との会見のあと、刹那に引っ張られて木乃香と合流。そのまま、あーでもない、こーでもないと服を選んでもらったのだった。

 

 落ち着いた感じの大人びた服装。いつも腰に差している刀は、今日は持っていない。

 

「はは。サンキュ。服にはあまり頓着しない方だが、まぁせっかくだしな」

 

 隼人は照れたように笑う。

 

「それじゃ行こうか。まずは古本市だったな」

 

「はい。掘り出し物があったら良いなぁ」

 

 二人は連れ立って歩き出した。

 

 

★

 

 

 そんな二人をこっそり追いかける集団がいた。

 

「むふふ。初々しいわねぇ」

 

 ハルナが物陰からこっそりと顔を出す。

 

「ああ見ると、お似合いよね」

 

 明日菜もひょっこりと顔を出した。

 

「う~ん。やっぱもう少し外見年齢に沿った服の方が良かったやろか?」

 

「いや、私はあれで良いと思いますよ。お嬢様」

 

「俺っちもそう思うぜ」

 

 木乃香と刹那、カモも顔を出した。

 

 ハルナは明日菜達に向き直る。

 

「明日菜と木乃香はともかくとして、刹那さんも来たの?」

 

 恋敵のデートを見にきた刹那に驚く。

 

「いえご心配なく。私は私で頑張ることにしたんで。それより隼人先生が何かやらかさないか、心配で見に来たんです」

 

「もう、保護者の視点ね」

 

 明日菜が呆れた。

 

「まぁ、それなら良いけど」

 

「なぁ、ハルナ。夕映はどないしたん?」

 

 木乃香が尋ねる。

 

「人のデートを覗くのは趣味が悪いってどっか行っちゃった」

 

「まぁ、確かにあまり趣味はよろしくないですね」

 

 刹那が苦笑いした。

 

「でもさぁ、ぶっちゃけた話、隼人先生って本命は誰なんだろう?」

 

「さぁ。さっぱりやな」

 

「たぶん、先生は色恋沙汰には疎いし、それどころじゃないでしょうし。本命とかそういうのは無いと思います」

 

 刹那が言う。

 

「確かにねぇ。のどかとか、刹那さんとか、茶々丸さんとか、好意を持つ女の子は多くても、本人が見向きもしないというか、そういうのをあえて遠ざけているような気はするわね」

 

 隼人の過去を知っているだけに、納得が出来るハルナ達だった。

 

 

★

 

 

「ハーックショイ」

 

 隼人はくしゃみをした。

 

「先生、大丈夫ですか」

 

「ああ、誰か噂でもしているのか」

 

 辺りをキョロキョロと見回す。

 

 古本市は、学祭初日ということもあって人でにぎわっていた。

 

「お、この絵本懐かしいな。子供の頃読んだことあるぞ」

 

 一冊の絵本を手に取る。

 

「それ私も小さいころに読みましたよ」

 

「おお、そうか。絵本は世代を超えて読まれているからな」

 

 さらに物色していく。

 

「これ、探していた本だ」

 

 のどかが本をめくる。

 

「これ先生みたいな格好いい魔法使いが出てくるんですよ」

 

「へぇ。さぞかし血みどろの話なんだろうな」

 

「いや、違いますよ。女の子を助けるために悪魔と戦うんですよ」

 

「なるほど。それは面白そうだな」

 

 隼人はその本を手に取った。

 

「へぇ。挿絵もなかなかいい感じだな」

 

 少し立ち読みする。

 

 そんな姿をのどかは見つめた。丁度、唇に視線が行く。

 

『柔らかそうな唇だなぁ』

 

 などと心の中で呟く。

 

「はっ。なんてこと考えてるの」

 

 首を振って邪念を追い払う。

 

 その様子を見て、隼人は首を傾げた。

 

「何してるんだ?」

 

「え、いや、なんでもないですよ」

 

 気まずくなって視線をそらして、近くにあった本を手に取る。

 

 だが、その本のタイトルを見て凍りつく。

 

【キスから始まる恋物語。キスシーン写真集】

 

「うわわわわ。これじゃない!」

 

 急いで本を戻す。

 

「何の本だ?」

 

「なんでもないです。はい」

 

「そうか」

 

 隼人は本の物色を再開する。

 

 のどかは、何とか誤魔化せてほっとした。

 

「おい、のどか。面白い本見つけたぞ」

 

「どんな本ですか?」

 

 隼人が見せた本のタイトルに、再び凍りついた。

 

【今から使えるキスの仕方大全】

 

「ひゃあああああ。そんな本読まないでくださいいいい」

 

 のどかは顔を真っ赤にして慌てた。

 

「き、き、キスなんてそんな、先生にはまだ早いです!」

 

「ちょ、何基準だよそれ」

 

「とにかくダメなんです!」

 

 恐ろしい剣幕で言った。

 

「お、おう。分かった」

 

 その勢いに圧倒されて了承するしかなかった。

 

 

★

 

 

 そんな二人のやり取りを、ハルナ達は物陰から見ていた。

 

「うひゃひゃひゃひゃ。大成功」

 

「デートが盛り上がらないからエロそうな本を置いて反応を見るたぁ、ハルナ嬢ちゃんもやるなぁ」

 

 ハルナとカモは手を叩いて笑う。

 

「さすがにそれはやり過ぎでしょう」

 

「相変わらず酷いわね」

 

 刹那と明日菜は肩を落とした。

 

「あ、二人が移動するみたいや」

 

 木乃香は歩き出す。

 

「今度はどこ行くのかな?」

 

 ハルナ達も後を追った。

 

 

★

 

 

 隼人とのどかは古本市を出て雑踏を歩く。

 

「一時間くらい見てたな」

 

 隼人は時計を確認した。

 

「でも面白い本とかあって良かったです」

 

「ああ、そうだな」

 

 二人ならんで歩く。

 

「晩飯にはまだ早いし、どっか露店でも見に行くか」

 

「はい。行きましょう」

 

 目的地に足を向ける。その時だった。

 

「煉城先生。何をやっているんですか」

 

 声のする方を向くと、そこには二人の少女がいた。

 

「ああ、どうも。高音さん。それに佐倉さん」

 

 隼人は軽く会釈した。

 

「えっと、どなたですか?」

 

 のどかが隼人に尋ねる。

 

「紹介するよ。こっちのウルスラ学園の制服を着ている方が高音・D・グッドマンさん。そして麻帆良学園の制服着ている方が佐倉愛衣さん」

 

 隼人が紹介する。

 

 のどかが頭を下げた。

 

「んで、こっちが宮崎のどか。俺の生徒だ」

 

 高音達に紹介する。

 

 高音はため息ひとつして嫌見たらしく言った。

 

「良いご身分ですね。他の先生方が見回りをしているというのに。煉城先生はご自身の教え子とデートですか」

 

 その物言いに隼人はムッとした。

 

「別に見回りの仕事はきっちりやってる。自由時間に何をしていても文句はないはずだが」

 

「ふん。学祭初日とはいえ、世界樹の効力は60パーセントあるんですよ。少し行動が軽率ではありませんか?」

 

 そういうと、小型の機械を取り出してのどかに向けた。

 

「やっぱり、告白係数が80を超えています」

 

「何? ちょっと待て、なんだその機械」

 

「問答無用です。今すぐ隔離します。メイ」

 

 高音は佐倉に命じてのどかを隼人から引き離そうとする。

 

「せ、先生」

 

 不安そうな顔で隼人を見る。

 

 隼人は連れて行こうとするのを遮った。

 

「鈴音の時もそうだったが、仕事熱心でも強引すぎるな」

 

 のどかの腕を取って引き寄せた。

 

 そして高音と佐倉を睨む。

 

「世界樹の圏内には気を付けている。問題ない。もし邪魔をするなら容赦はしない」

 

 炙るような殺気を向けた。

 

「「っつ」」

 

 殺気を向けられた二人は息をのむ。

 

 だが、高音はひるまず反論した。

 

「それでも、規則は規則です。呪いの危険性は承知しているでしょう」

 

「分かった。ならば、この辺から立ち去ろう」

 

 話しても埒が明かないと悟った隼人は、のどかを連れてその場から立ち去ろうとする。

 

「あ、待ちなさい」

 

 高音と佐倉は追いかけようとした。

 

「ついてくるなっ」

 

 有無を言わさぬ紅蓮の圧力で二人を制止させて、悠々と隼人とはのどかを連れて立ち去った。

 

 そのまましばらく無言で歩いて、人気のない場所まで来る。

 

「先生?」

 

 のどかは心配そうな顔をする。

 

 隼人は深々とお辞儀して謝った。

 

「本当にすまない。いやな気分にさせてしまったな」

 

「いえ。気にしてません。でも告白ってどういうことですか?」

 

「ああ、それはだな……」

 

 隼人は事の経緯を説明した。

 

「なるほど。つまりあの噂は本当だったんですね」

 

 説明を聞いて得心がいった。

 

「そうなんだよ。全く面倒な話もあったもんだ。ああそれと、高音達のことを悪く思わないでやってくれ。彼女達も仕事でやってることで悪意はないんだ」

 

 隼人は申し訳なさそうに言う。

 

「はい。分かりました。でも嫌な気分は本当にしてないんですよ」

 

「え? そうか」

 

「はい。だって連れて行かれそうになったとき、先生が守ってくれたから。引き寄せれた時、ちょっとドキドキしました」

 

 のどかは頬を染める。

 

「はは。それならまぁいいや。ありがとう。」

 

 隼人は仕切り直すように言う。

 

「さて、問題は解決したけど、どうにも気が収まらないな。詫びになんかしてほしいことあるか?」

 

「してほしい事ですか?」

 

「ああ。何か奢れって言うなら奢るぜ」

 

 のどかは「これは最大のチャンスなのではないか」と思った。

 

 お詫びにかこつける形になるが、それでもチャンスだ。

 

 のどかは意を決して隼人に告げた。

 

「えっと、それじゃ、私、先生にキスをしたいです……」

 

「へ、キス?」

 

 突然の申し出に隼人は素っ頓狂な声を出した。

 

 のどかは、もじもじしながら言う。

 

「はい。ダメですか?」

 

 上目使いで尋ねてきた。

 

 その可愛さに一瞬、心が揺れかけたが隼人は言った。

 

「その、こんな俺なんかと……」

 

「そんな悲しい事、言わないでください」

 

 のどかは隼人の言葉を遮った。

 

「先生。『俺なんかと』なんて言っちゃダメです。先生はもっと幸せになるべきです」

 

 隼人の目を真っ直ぐ見た。

 

 それは読心術者のなせる技なのか、隼人の心を見透かしたように言う。

 

「先生はこう思ってませんか? 俺なんかが幸せになってはいけない。友人を殺して、全てを犠牲にしても仇を討てなかった。そんな自分には幸せは訪れないって」

 

「それは、そうだろう。俺は、理由はどうあれ友を殺し、悪魔に踊らされた男だ。そんな人間に幸せなんてあるはずないだろう」

 

 隼人は心の底から絞り出すように言った。

 

 前を向いて行こうと思い始めてはいるが、結局のところ、一歩も前に進んではいない。誰かに好意を寄せられても、多くの命を失いすぎた過去が邪魔をして距離を取ってしまう。

 

 それが今の隼人だった。

 

 のどかは首を横に振る。

 

「それは違います。前に本で読んだんです。『人は幸せを追い求める生き物だ』って。だから先生も幸せになって良いんです」

 

 そこでいったん区切って、隼人に訊いた。

 

「先生は以前、復讐は自分で決めたことだ。死んだ人間は関係ないって言ってましたよね?」

 

「ああ、そうだ。死んだ人間がどう思ってようが関係ない。だがそれがどうした」

 

「だったら、死んだ人間のために幸せを拒否するのは間違ってます。過去は関係ない。今を生きている先生は幸せを求めてもいいはずです」

 

 隼人はその言葉にハッとした。

 

「のどか……」

 

 のどかは畳みかけるように告げる。

 

「私は刹那さんのように強くない。木乃香のように魔法も使えない。でも私は先生のように精一杯自分の出来ることをします。戦いでは役に立たないかもしれないけど、私は大好きな先生に幸せをあげたい。先生が笑って過ごせるようにしてあげたいんです」

 

 それはのどかの切実な願いであり決意だった。

 

 よく見ると、ぽろぽろと泣いている。だが、その目は燃え盛る炎のごとく力強かった。

 

 隼人はその決意をかみしめて、のどかを抱き寄せた。

 

「せ、先生」

 

 突然のことで驚く。

 

 隼人は頭を優しく撫でた。

 

「ありがとう。確かにそうだ。過去に囚われて今を拒否するのは間違っているな。幸せを求めればまた失うかもしれないと、怯えるのは俺らしくないか」

 

 失うことの恐怖は誰よりも知っている。だからこそ、失わないために隼人は鍛えてきた。

 

「前に進むことを決意したなら、過去を振り切って進むしかない。確かにその通りだ。ありがとう。目が覚めたよ」

 

「はい。先生」

 

 のどかはにっこりと笑う。

 

「だから、これは気づかせてくれた礼だ」

 

 隼人はのどかに優しくキスをした。

 

 たっぷり五秒。口を離して、互いに距離を取る。

 

 のどかはこれ以上ないくらい顔を真っ赤にした。

 

 隼人は頭を掻きつつ言う。

 

「あーそのなんだ。仮契約のキスを勘定に入れなかったらファーストキスだな。うん」

 

「そ、そうですか。それはご馳走様です」

 

 妙な沈黙。それを壊すように隼人は手を叩く。

 

「さて、それじゃ、露店でも見て回るか」

 

 隼人はニッと笑う。

 

 のどかも笑って頷いた。

 

「はい。先生」

 

 二人は連れ立って歩き出す。

 

 学祭初日は夜に向けて益々、盛り上がっていった。

 

 

★

 

 

 麻帆良学園初日の夜。麻帆良川のとある場所に隼人とのどかは居た。

 

『それでは麻帆良祭名物、光と火と水のショー【マホラ・イリュージョン】を開始します』

 

 高らかにアナウンスが告げて、目の前に広がる河川が光り輝いた。花火が上がり、水が光に反射してキラキラと輝く。

 

「わー綺麗」

 

 のどかはその幻想的なショーに見入っていた。

 

「まるで魔法だな」

 

 隼人もそのイリュージョンに感動した。

 

 キスの一件から何事もなかったように、二人は振る舞っていた。といっても漂う空気は少し甘い。

 

 暫く二人はマホラ・イリュージョンを堪能した。

 

 三十分のショーが終わり、見ていた観客は三々五々に散らばっていく。

 

「いやー、今日は楽しかったな」

 

 グーッと伸びをして隼人は言う。

 

「はい。とっても楽しかったです」

 

 のどかも楽しそうに言った。

 

「先生はこれからどうするんですか?」

 

 隼人はのどかの質問にニヤッと笑った。

 

「俺はこれから戻って仕事だが、それより、凄い物見せてやる」

 

「はぁ。凄い物ですか」

 

「ああ、見たらきっと驚く。俺が驚いたくらいだからな」

 

 意味深に笑う隼人。

 

「でもその前に、そこに隠れてる集団出てこい」

 

 二人の後ろにあった大きな銅像の土台。その陰からぞろぞろと明日菜達が出てきた。

 

「いやぁ、さすが先生。バレちゃったか」

 

 ハルナが残念そうに言った。

 

「当たり前だ。人の後ろをこそこそと付いて来て」

 

 隼人は怒った。

 

「特に刹那、木乃香!」

 

「はい?」

 

「へ?」

 

 名指しされて戸惑う。

 

「お前ら剣士と魔法使いなんだから、尾行するならもう少しうまくやれ。気配がダダ漏れだったぞ」

 

「はい。精進します」

 

「はーい。気を付けるわ」

 

 刹那と木乃香は謝った。

 

「それより、隼人先生。実は途中で見失っちゃたんだけど、あの二人の女性から逃げたあとどこで何をしてたの?」

 

 ハルナが興味津々で尋ねてくる。

 

「なんでお前に言わにゃならん」

 

 隼人は質問を却下した。

 

「おやおや。その様子だと、なーにか良い事あったかなぁ」

 

 ハルナは嫌らしい笑顔で隼人とのどかを見比べた。

 

「はいはい。んなことより、ものすごい物があるんだよ」

 

 隼人は話題を変えて、懐からカシオペアを取り出した。

 

「あ、先生それ使うんですか」

 

「ああ、刹那。これで戻って世界樹の見回りだ」

 

「戻るってどういうこと?」

 

 明日菜は首を傾げた。

 

「よくぞ聞いてくれました! 実はこれタイムマシンなんだよ」

 

「「「「タイムマシン?」」」」

 

 刹那とカモ以外が怪訝そうな顔をした。

 

 隼人は事の経緯とカシオペアの説明をする。

 

「……てなわけで、これは世にも珍しい超魔法アーティファクトなのさ」

 

「ふーん。この時計がねぇ」

 

 明日菜がイマイチ信じられない感じで言った。

 

「もしこれがタイムマシンなら、超さんって何者なのよ」

 

 ハルナは当然の疑問を口にする。

 

「それが私達にもさっぱりでした。とりあえず害はなさそうなんですけど」

 

 刹那が思い出して言う。

 

「ま、なんにせよ、コイツで時間を遡れるのはありがたい」

 

 隼人はカシオペアを見つめる。

 

「説明書によると、学祭中しか使えず、使用者一人の魔力じゃせいぜい一日前後しか跳べないらしいぜ」

 

 カモが補足の説明をした。

 

「それって膨大な魔力や、ウチみたいに魔力量が多かったら、もっと前に跳べるんやろか?」

 

 隼人は少し考えて答える。

 

「さぁな。設計にない仕様はなるべくやめてくれって書いてあるからなぁ。そこまで無理して過去に跳ぶ必要はないだろう。それに過去は過去。あんまり囚われるのは駄目だよ。なっ、のどか」

 

 隼人はのどかに振った。

 

「はい。そうですね」

 

 のどかは同意した。

 

 隼人は全員を見回して言う。

 

「さて、これで今日の朝に戻ろうと思うけど、どうする? 何かやり残したことあるなら一緒に戻れるぞ」

 

「そりゃ当然。そんな面白そうなこと体験しないわけがないじゃない」

 

 ハルナは嬉々として言う。

 

「私も世界樹の見回りを手伝うことにしたから戻るわ」

 

 明日菜も賛同した。

 

「なんだ、世界樹のこと言ったのか」

 

 隼人は刹那と木乃香を見る。

 

「はい。高音さん達が先生と揉めてる時に、説明しました」

 

「そしたら明日菜とハルナが手伝ってくれるんやて。人数多い方がええやろ」

 

「まぁそれもそうだな。手伝いを申し出てくれてありがとう」

 

 隼人は二人に礼を言った。

 

「あの、私も手伝います」

 

 のどかが、おずおずと手を挙げた。

 

「そうか、ありがとう。それじゃ全員で戻るか。こっち来い」

 

 全員が人気のない場所へ移動する。

 

「よし、それぞれ手を繋げ」

 

 言われた通りに手をつなぐ。ちなみにハルナと木乃香が気を回して、隼人の両脇は刹那とのどかになった。

 

「それじゃ、学祭初日朝にジャンプ!」

 

 カシオペアが起動して、世界が一回転した。

 

 

つづく

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