今回は龍宮真名にスポットを当てました。
第九話で張った伏線をようやく回収できました。
よろしくお願いします。
学祭初日の朝に隼人達は戻ってきた。
「うわ、凄い。明るい」
ハルナは驚いて声を上げる。
「ちょうど、今の時間は朝の十一時だな。時間通りに戻ってこられたようだ」
隼人はカシオペアを仕舞った。
「さて、それじゃ世界樹まで行こう」
全員で見回りの本部まで行く。
本部にはしずな先生がいた。
「煉城先生、おはようございます」
「しずな先生。お疲れ様です」
挨拶もそこそこに早速、担当が割り振られた。
「それでは、煉城先生は南側。桜咲さんと神楽坂さんは北側。近衛さんと早乙女さんと宮崎さんは西側をお願いします」
しずな先生は小さな端末と通信機を取り出した。
「この端末で告白しそうな生徒を探知できます。阻止方法はそれぞれにお任せしていますが、なるべく穏便にお願いしますね。出来れば告白も成就させてあげてください」
幾つかの注意事項を説明する。
「ちょっと待ってください。告白阻止と告白成就って矛盾してないですか?」
刹那が尋ねた。
「はい、ですので出来ればで結構です。でも、煉城先生は出来ますよね?」
しずな先生は試すような視線を送る。
「無理言ってくれますね。まぁ今日、明日くらいなら何とかしましょう。わかりました」
隼人は苦笑して了承する。
「では、煉城先生は事前にお伝えした通り十四時までお願いします。お昼は適当に取ってくれて構いません。生徒の皆さんは一時間経ったら、見回りを終えて大丈夫です。それと、一時間ごとに本部まで連絡をください。見回りを終えたら、本部まで来て端末を返してくださいね」
「はい」
隼人達はそれぞれ端末を受け取った。
「それでは、よろしくお願いします」
「よし、それじゃカモ行くぞ」
「ガッテンだ」
隼人とカモは南側エリアに向かう。
「私達も行きましょう」
刹那達もそれぞれの場所へと向かった。
★
世界樹広場。大勢の人で賑わっている。
隼人は世界樹を眺める。
「やっぱ、改めてみるとデカイ樹だ」
「アニキ、どうする? これだけ人が多いと告白の阻止が難しくね?」
カモは困ったように言う。
確かに人が多くて、派手なことは出来ない。
「さて、どうしたもんか」
隼人は思案する。
そのとき、遠くのほうで一瞬、反射する光が見えた。
「あ」
気がついたときには、頬を掠める弾丸の感触。
弾丸は後ろの茂みに飛んで行く。
「うんぎゃ」
つぶれた蛙のような声を上げて男性が倒れていた。
「きゃああ、先輩! しっかりしてください」
女性が倒れた男性をゆする。
「大丈夫ですか?」
どこからともなく黒服の男達が集まってくる。
「急に倒れて」
「おおこれはいけない。さぁ救護エリアに移動しましょう」
黒服の男達が男性を担ぎ、女性を誘導して行く。
別の黒服が通信機に向かってしゃべる。
「こちら回収班、ターゲットを回収」
『了解。次を狙う』
通信機から淡々とした声が聞こえた。
黒服は隼人達に気がつく。
「煉城先生、お疲れ様です」
軽く挨拶をして立ち去った。
カモは黒服を見送りながら言った。
「なんだ、今の?」
「たぶん、長距離射撃だな。この精密さはあいつかな。もしそうなら丁度良い」
隼人は見当をつけると、その場所へ向かう。
高いビルの屋上。褐色の肌と鷹の目を持つ少女、龍宮真名がいた。
「よぉ、精が出るな」
隼人は声をかけた。
「先生とオコジョさん。当番ですか?」
スナイパーライフルを担いで言う。視線は世界樹広場から離れない。
「おう、そうだ。どうやって告白を阻止しようか考えていたころだよ」
「そうですか。お互いがんばりましょう」
さして興味なさそうに機械的に答えて、ライフルを構える。
一呼吸の内に引き金を引く。
「ヒット」
レバーを引いて薬莢を排出した。
さらに続けざまに撃ち、次々と告白生徒を狙撃していく。
「なんか、すげーな。アニキ」
「まぁな。容赦がない」
隼人とカモはじーっと見学している。
「なんですか?」
真名は怪訝そうにたずねる。
「いや、たいしたもんだと思ってな。その歳で見事な射撃だ」
隼人は感心したように言う。
「おう、まさに女版ゴルゴってところだな」
カモも驚いたように褒める。
「ありがとうございます」
淡々と答える。仕事モードの真名はクールだった。
「しかし、風情がないな。それじゃ面白くない」
隼人は苦言を呈する。
「仕事に面白いとかそんな感情不要です。ターゲットがいて、それを撃つ。それだけで十分です」
真名は反論する。
隼人は首を横に振った。
「ダメだな。俺からしたら、そういう奴ほどプロとしては三流だな」
そこで初めて隼人に目を向けた。
「どういうことかな?」
口調が変わる。三流といわれてムッとしている。
「どうもこうも、お前のやり方は間違っている」
「私を挑発して何がしたい。仕事の邪魔をするのか」
隼人は真面目な顔で言う。
「その通り。丁度良い機会だ。十四歳で裏社会にかかわる不良娘に教育指導しようと思ってな」
真名は困惑した。突然やってきてこの教師は何を言っているのだろう。そう顔に書いていた。
「ちょっと来い」
隼人は真名の腕をつかむと連行していった。
★
再び世界樹広場。
「あの、先生。仕事に戻りたいんだが」
真名が文句を言う。
「アホか。あのまま放っておけるか。クラスの喫茶店にも参加してなかった。どうせ、この世界樹の仕事を三日間続けるつもりだろう」
隼人は呆れたように真名を見る。
キョトンとする真名。
「え、それが何か悪いのか?」
「大アリだ! お前はまだ中学生。華の十四歳! 銃火器と硝煙が漂う学生生活があるか」
隼人は怒る。
そう、隼人は真名を連れ出したのには理由があった。真名はとにかく周囲とあまり関わりたがらない。例えば、修学旅行の時もクラスメイトと行動していただけで、楽しそうにしていなかった。また、文化祭の準備も自分の仕事を淡々としているだけで、周りのようにはしゃぐ事もしなかった。
歳相応の生活を拒否する代わりに、彼女は裏社会に関わって仕事を引き受けていた。要人警護、賞金首狩り、テロリスト制圧。とても褒められたものではなかった。
「お節介かもしれない。でも、その歳で人付き合いが淡白なのはいけない。もう少し歳相応に楽しめ」
真名はさらに困惑する。
「しかし、先生も知っているだろう。私は……」
「お前がどのような存在であれ関係ない。お前が拒絶しない限り理解者はいる」
真名の言葉を遮って言う。
彼女の言いたかったこと。それは彼女の出自だった。彼女は悪魔と人間のハーフである。
第二次人魔大戦の折、悪魔が人間を襲い、無理やり関係を持って生まれた孤児達がいた。戦後、その子供達は各紛争地域で兵士として利用された。身体能力が大人顔負けで、何より子供という立場が大人達の油断を誘い、効果的な殺戮兵器としてテロリストなどに支持された。
そんな状況を止めるために、魔法使い達は戦闘に利用される子供達を保護して回った。真名はそんな子供達の一人。紛争地域で兵士として十歳で戦場にいた。その後、龍宮神社に引き取られて今に至る。
「昔、兵士として生きていたからといって、今も兵士として生きる必要はない。自分には戦うことしか出来ないなんて思うなよ。自分の行動しだいで世界は変わってくる」
真名は隼人の言葉を考える。
隼人はさらに言葉を重ねる。
「とにかく、表裏関係なく仕事一辺倒になるのはよせ。これはお前のご両親もそう思っている」
隼人は真名を引き取った両親からも相談されていた。そして彼自身も、同じく子供のころから戦場にいたからこそ、今の彼女を放っておけなかった。
真名は口を開く。
「しかし、どうやって楽しむのか分からない」
仕事のコミュニケーションは取れても、クラスメイトとのコミュニケーションは苦手だった。
「安心しな真名嬢ちゃん。アニキが手取り足取り教えてくれるぜ。ロリコンの鑑だよな」
「おい、カモ。ケンカ売ってるのか」
隼人は睨む。
カモは目をそらした。
「まぁカモの言い方はともかく、俺が教えてやる。告白を阻止しつつ、文化祭を楽しもう」
そう言うと、隼人は彼女の手を取って歩き出した。
★
世界樹広場には屋台や出店が多く出ている。それを物色して行く。
「おし真名、射的やるぞ射的」
お祭りでよく見かける射的の屋台を見つけた。
「いや、スナイパーの私が射的をやっても面白くないと思うが」
「まぁまぁ、やってみりゃ分かるよ。おっちゃん、一回やらせてくれ」
隼人が店主に声をかける。
「あいよ、一回二百円。弾は五発撃てるよ」
お金を払って銃を真名に渡した。
「ほれ、やってみろ、あのゲーム機なんてどうだ?」
「ふん、鷹の目を使うまでもない簡単な距離だ」
狙いを定めて銃を構えて撃つ。
命中。
だが、ゲーム機の箱は倒れない。
「はい残念」
「なるほど、威力が弱いな。倒すには当てる場所が重要か」
次弾を込めて構える。
当てる場所を修正して撃つ。
命中。
しかし倒れない。
真名は若干イラッときた。
「おい、これ本当に倒れるのか?」
店主に尋ねる。
「倒れるよー。上手く狙ってねー」
「だったら、やってやるスナイパーをなめるな!」
躍起になって撃つ。しかし、倒れない。弾の残りは一発になった。真名はキレた。
「食らえ!」
魔力を込めて発射。箱に穴が開いた。
「どうだ、これで」
「はい、残念。倒れないとダメだよー」
理不尽だった。
隣で見ていた隼人は大笑いする。カモもポケットに隠れて笑いを堪えていた。
「ぶはははは。どうしたスナイパー」
真名は隼人を睨んだ。
「うるさい。銃が悪いんだ」
「おいおいプロのスナイパーが銃のせいにするなよ。どれ貸してみろ」
隼人はもう一度お金を払う。
そして五発全てを様々な景品に当てる。景品はお菓子二箱、ぬいぐるみ一体、単純な玩具二個ゲット。
「はい、おめでとう。お兄ちゃん上手だね」
「いやぁ、どうもどうも」
景品を袋に入れてもらって店を離れる。
「ほれ、このぬいぐるみはプレゼントだ」
真名は受け取ると、悔しそうに握り締める。
「なぜだ。なぜ倒れなかった」
「そりゃそうだ。あれは見せているだけで、棚と接着してあって倒れない仕組みだ」
隼人はしれっと答えた。
「なに! 詐欺じゃないか」
「まぁ、こういう屋台のお約束だよ。真名嬢ちゃん。親に教えてもらわなかったかい?」
カモが質問した。
真名はぐっと言葉に詰まった。神社の祭りは手伝っていたが、遊んだことなど一回もなかった。小学生の時、クラスメイトが誘ってくれたこともあったが断っていた。そんな自分を見て親が悲しそうな、困ったような顔をしていたことを思い出した。
「次があるか知らないが、そのときは気をつけよう」
真名は負け惜しみのように答えた。
そんなこんなで、広場を回っていく。途中でクレープ買って食べたり、露天で買い物をしたりして遊ぶ。
「面白いだろ? 真名」
隼人は笑いかけた。
「知らん。というか、仕事をしろ。あそこで告白生徒を見かけた」
真名が仕事人の目になる。
人ごみ離れた物陰に中高生くらいのカップルがいる。
「慌てなくても大丈夫だよ。ほれ」
指を鳴らして魔法を飛ばす。
カップルに命中。しかし、魔法の着弾に気がつかない。
「よく見てろ」
隼人達は様子を伺うように身を潜めた。
カップルは二言、三言言葉を交わす。お互いに顔を真っ赤にして、手を握って人ごみにまぎれていった。
「告白成功だな。末永くお幸せに~」
隼人は手を振って見送る。
「リア充爆発しろ~」
カモは呪いの言葉で見送った。
「おい! まずいだろ。成功させてどうする」
真名は慌てた。世界樹の呪いが発動してしまう。
「大丈夫だ。反射魔方陣を張って防いだから」
隼人は説明する。
「世界樹は最大出力じゃないなら、こうして影響を反射する魔方陣を投げて、カップルをその魔法陣に隔離すれば良い。そうすれば告白を邪魔しなくてすむ」
「そんな便利な魔法があるのか」
真名は感心した。
「俺を誰だと思っている。呪術剣士だぞ。呪いのことなら任せてくれよ」
胸を張って言った。
「人の恋路を邪魔する奴はなんとやら。穏便にかつ被害が出ないようにしてこそプロだ。お前みたいにドンパチやって阻止するのはスマートじゃないな」
ドヤ顔をする隼人。
真名は考える。撃ったほうが早く片が着く。しかし、今回の仕事の説明でもあったが、クライアントとターゲットの両方の要求を適えることが望ましい。否、そうしなければプロの仕事とは言えない。
しかし「告白阻止と告白成就」この二つを両立させることは、今の真名には出来ない。
「なるほど。確かに先生のほうが格好良いな」
観念したように笑う。世界を救った英雄は伊達ではない。そう心から思った。
「分かれば良い。常在戦場でピリピリするより、心に余裕を持てよ。それがプロの第一歩だよ」
隼人は軽く真名の肩を叩いて再び歩き出す。
真名はその姿を見つめた。
「仕事一辺倒では到底狙えない背中か」
指を銃のようにして隼人の背中を狙う。
「でも、いつか必ず撃ち抜く」
真名はそう決心して微笑むと、その背中を追っていった。
つづく