魔法教師はやト!   作:沖彦也

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更新頻度が落ちてますが、せめて月一くらいは更新したいと思っています。

というわけで、文化祭偏です。今回は原作どおりに夕映にスポットを当てています。

よろしくお願いします。


第四十八話「気づいた自分の気持ち。夕映の決心」

 それから。時計が十四時を指した。

 

「アニキ、見回り終了だぜ」

 

「おう、お疲れさん」

 

 屋台で買ったジュースを飲みながら労う。

 

「それにしても、結構大変だったな」

 

「まったくだぜ。リア充共の光景を眺めながら仕事って精神衛生上よくない」

 

 カモは数々の幸せな光景を思い浮かべてため息をついた。

 

「僻みはみっともないと思うがな」

 

 結局、一緒に回った真名は軽蔑する眼差しを向ける。

 

「ま、世界に幸せが一つ増えれば、それだけ平和になる。それで良しとしよう」

 

 隼人がカモを慰めた。

 

 二人と一匹は本部まで戻ると端末と通信機を返却した。

 

「お、真名も見回りは終わりか?」

 

「仕事一辺倒ではダメだと少しは分かったからな。クラスの方にでも顔を出してみる」

 

 真名は少し照れたように言う。

 

 隼人はそれを聞いて満足そうに頷いた。

 

「それでいい。きっとそれがお前の将来につながるよ」

 

 ポンと真名の頭を軽く撫でて、隼人は立ち去る。

 

「じゃあな。文化祭を楽しめよ」

 

「ああ、先生。ありがとう」

 

 真名は立ち去る隼人の背中にそう言って、クラスの喫茶店へと足を向けた。

 

 隼人も祭りでごった返す人並みにまぎれていく。

 

「さて、これからどうするか」

 

 隼人はこれからのことを思案する。

 

「そういやアニキ。麻帆良武道祭には出るのか?」

 

 カモが近くの壁に貼られていたチラシを見て言う。

 

「それもどうするかな。う~んとりあえず、他の生徒の出し物でも見に行くか」

 

「おう、分かったぜ」

 

 隼人とカモは地図を頼りに文化祭の出し物を見に行くことにした。

 

 最初は中国武術研究会の演武を見に行った。

 

「お、菲のヤツ、なかなか様になってるな」

 

 隼人は、無駄のない動きで技を繰り出す様に感心した。

 

 一撃一撃に気が宿っている。エヴァンジェリンの別荘で「気」を意識することを学び、より力強く、美しい拳法になっていた。

 

 こちらに気が付いたのか、菲が手を振る。

 

 軽く、振返しておいた。

 

「アニキ、次行こうぜ」

 

「ああ、そうだな」

 

 次は、漫画研究会の似顔絵描きを見に来た。

 

 ブースにはハルナがいた。

 

「先生、似顔絵一つどう?」

 

「じゃあ頼めるか。格好良く頼む」

 

 ハルナはスケッチブックに書きながら言う。

 

「先生、四時からの、のどかとのデート忘れないでよ」

 

「え、ああ。分かってるよ。もう少ししたら向かうよ」

 

「のどか、楽しみにしてるんだからね。っと、はい出来た」

 

 出来上がった似顔絵を見せた。

 

「おお良くできてるな。さすが【落書帝国】の持ち主だ」

 

 隼人は感嘆した。

 

「おひねりはお気持ちだけで結構だよ」

 

 ハルナは指で丸を作って笑う。

 

「なるほど。気持ちね」

 

 ポケットから三百円出して渡した。

 

「まいどあり~」

 

 ハルナの声に聞きながら漫研ブースを出た。

 

 カモが後ろを振り返りつつ言う。

 

「アニキ、何か不思議な感覚だな。あれって前の時間のハルナ嬢ちゃんだろ」

 

「ああ、俺達と合流する前のだな。タイムマシンが起こした少し不思議な現象ってやつだな」

 

 隼人とカモは互いに笑った。

 

 そして次々出し物を見ていく。アキラが所属する水泳部のたこ焼き屋。桜子、円、美砂のチア部が出しているクレープ屋。千鶴の所属する天文部のプラネタリウム。色々と見て回った。

 

「次はどこに行こうかな」

 

 隼人達は人でごった返す道を歩いていく。

 

 ふと、肩がぶつかった。

 

「あ、すいませんです」

 

「いえ、こちらこそ」

 

 ぶつかった相手と目があった。

 

 夕映だった。

 

「え、先生?」

 

「お、夕映」

 

 夕映は驚いたように言う。

 

「なんで、先生がここに? のどかとのデートはどうしたですか!」

 

 隼人は時計を見た。時刻は一七時を指していた。

 

「あ、この時間帯はのどかとのデートだったな」

 

「まさか、偽物をのどかに送って、自身は別のことをしているですか!」

 

 夕映は詰め寄る。

 

「いや、落ち着け。俺はデートした後にタイムマシンで戻ってきたんだよ」

 

「何を訳の分からないことを。どういうことか、説明してくださいです」

 

「立ち話もなんだから、ちょっとこっち来い」

 

 夕映を引っ張って人ごみから抜ける。

 

「実は、かくかくしかじかで」

 

 タイムマシンの説明をした。

 

「な、なるほど。これがそのタイムマシンですか」

 

 にわかに信じられないが、隼人とカモに言われては信じるしかなかった。

 

「それじゃ、のどかとのデートは上手くいったですか?」

 

 夕映は尋ねた。

 

 隼人は少し考えてから言う。

 

「確かに楽しかったんだが。う~ん」

 

「なにか、問題でも?」

 

「なぁ、夕映これから時間あるか?」

 

 隼人は真剣な面持ちで訊いた。

 

「はい。暇なんでこれから適当に学祭を見て回ろうかと」

 

「なら、少し相談があるんだ。ちょっと場所を移動しよう」

 

 二人と一匹は場所を変えた。ちょうど麻帆良川を眺めることが出来る場所に来た。

 

 大きな川を遊覧船が行き交っている。

 

 隼人はぼーっとそれを眺めていた。

 

 連れてこられた夕映は少し戸惑った。

 

『先生と二人きりなんてそういえば、初めてです』

 

 心の中で呟く。

 

 隼人の憂いを帯びた顔が夕日に光って綺麗だった。

 

 少しドキドキした。

 

 夕映は間が耐えられず口を開く。

 

「先生。私、咒式が結構上手になりましたよ」

 

 練習用の魔杖短剣を取り出して言う。

 

「ほう。それは凄いな」

 

「見ていてください」

 

 近くに転がっていた空き缶を拾うと、呪印組成式を組み上げる。

 

「【噴矢(ロレイ)】!」

 

 鋭く叫ぶと、空き缶が火を噴いてロケットのように飛んでいき、遠くのゴミ箱に入った。

 

「おお! 凄い!」

 

 隼人は拍手した。

 

「化学錬成系咒式 第一階位の基本咒式ですけど、できるようになったです」

 

「ああ、短期間で使えるようになるなんてな。才能もあるけど努力の賜物だな。本当に凄い」

 

 隼人は自分の事のように喜んだ。

 

 咒式は特殊な訓練をしないと扱えない技法だった。それを一介の中学生が扱えるとなると、それはとても凄い事だった。

 

「ありがとうございます。まだ第三階位までの咒式を少し使えるだけなんで、これからも精進するです」

 

 夕映は褒められて嬉しくなった。

 

「あの、それで相談というのは?」

 

「ああ、そのな。夕映は誰か好きな人はいるか?」

 

 隼人はとんでもない質問した。

 

「え、す、好きな人ですか」

 

 夕映は少し考える。気になっている人物が頭をよぎるが振りはらう。

 

「いえ、私にはいないです」

 

「そうか。こんな相談して非常に申し訳ないんだが、実はな」

 

 隼人はのどかとのデートで起こったことを話した。

 

「また告白されたですか!」

 

「ふおおおおおおおおお。アニキ、すっげー」

 

 夕映とカモは驚いて声を上げる。

 

「いや、告白ってわけじゃないと思う。ただ、『大好き』だとか『幸せにしたい』とか言われてな。内容を良く考えたらこれってやっぱ告白だよな」

 

 隼人は困ったように言う。

 

 その様子を見て夕映は尋ねた。

 

「先生は、のどかのことが嫌いですか?」

 

「いや、それが良く分からないんだ。そもそも人を好きになったことが無い。小学生の頃はたぶんあったんだろうけど、覚えてないし。それ以降はもう戦いに身を投じて恋愛なんて気にする余裕はなかった」

 

「あ、そうですよね」

 

 夕映は隼人の過去を思い出して口をつぐんだ。

 

「まぁ仕方ねぇな。アニキの場合は」

 

 カモがため息をついた。

 

「ああ、それと好意を抱かれることにも慣れてないんだ。今までの知り合いは、大概が修羅だの鬼だのと揶揄するか、殺しに来る敵か、あるいは共に戦場をかける友人か部下しかいなかった」

 

 隼人は普通の少年が体験する出来事をまるで経験してこなかったのだ。

 

 そんな状況で、急に好意を寄せてくる人物が現れたら戸惑うのも無理ない話だった。

 

「なるほど。それは確かに戸惑うかもしれないですね」

 

 夕映は隼人の人生に同情した。

 

 そして、なんと返答すればいいか困った。「今すぐのどかに返事をしてほしい」と言いたい気持ちがある。なぜなら友人として応援しているからだ。

 

 だが応援する自分に胸が痛んだ。最近は、その痛みがなんなのかを理解しているから特に痛む。

 

 それはほんの些細なことが切っ掛けだった。のどかを応援するために、自分も隼人のことを知る必要があると考えて、知る努力をした。

 

 そしていつしか、隼人のことを目で追うようになっていた。そのことに気が付いたとき、最初は勘違いだと思った。だが、それは違った。修学旅行の騒動と隼人の過去を知ったことが決定打だった。

 

『きっと私は先生のことが好きです』

 

 夕映は口に出してはいけない言葉を心の中で言う。

 

「だったら少しずつ分かっていったらどうですか?」

 

 言葉を選びつつ隼人に提案した。

 

「少しずつか」

 

「はい。先生は私達よりも人生を長く生きていますが、恋愛関係は私達と同じくらいしか経験がないんです。だから、これから少しずつ理解していけばいいんです。のどかの告白も、今すぐ付き合ってほしいとかそういうんじゃなくて、自分の気持ちを知ってほしいから伝えたんだと思います」

 

 夕映は自分にも言い聞かせるように言った。

 

「そうか、まあそうだよな。どのみち教師と生徒って立場じゃ、今すぐ恋人になるなんてこと無理だしな」

 

「はい。その通りです。卒業後に自分の気持ちを考えて結論を出したらいいと思うです」

 

「なるほど。その通りだ。夕映に相談して良かったよ」

 

 隼人はすっきりとした顔で言う。

 

「あ、悪い。なんか悩みが解決したらトイレ行きたくなった。ちょっと行ってくる」

 

 申し訳なさそうに謝ってから駆けて行った。

 

 一人取り残された夕映は考え込む。

 

「はぁ。これで良かったんですかね」

 

 のどかと隼人がこれ以上進展しないことに、安堵している自分がいた。

 

 魔杖短剣を見る。

 

「咒式を勉強したのもきっと先生と一緒に居たいからでしょうね」

 

 自分の行動を分析していく。

 

 刹那のようなアドバンテージはない。のどかのような可愛さもない。

 

 自分に出来ることは考えることと、アドバイスすること。

 

「頼りにされるだけでも私は満足です」

 

 誰に言うでもなく呟く。

 

「いんや~。それは大いなる間違いだと思うぜ~」

 

 隣から声がした。

 

 カモだった。

 

「か、カモさん。聞いていたですか」

 

「おうバッチリな。まさか夕映嬢ちゃんまでアニキのことが好きだとはなぁ」

 

「いや、そのこれは、その」

 

 あわわと慌てる。

 

「隠すなよ。オコジョ妖精の俺っちには人の好意を図る能力がある。アニキに対する好意をポイント制に変換してランキングにした結果がこれだ!」

 

 ばーんと何所からともなくランキング表が出てくる。

 

「え、これはその、マジです?」

 

 ランキングをまじまじと見つめて夕映は驚く。

 

 自分の名前がトップ5に入っている。

 

「まぁ人の好感度なんて変動しやすいからあくまで目安だけどな。一位と二位は入れ替わりが激しいから別として、つい最近だとトップ5に茶々丸嬢ちゃんと夕映嬢ちゃんがランクインしてきている」

 

「そ、そうですか」

 

 夕映は自分の気持ちをランキング化されて、どうしたら良いか分からなくなった。

 

 カモはそれを見透かすようにニヤリと笑う。そして、どこからともなくタバコを取り出して火を点ける。タバコの紫煙を吐き出しながら言った。

 

「ふ~。告っちまえよ」

 

「な、何でですか!」

 

 夕映はものすごく慌てた。

 

「いや、そうだろう。友人の恋を応援するために、自分の恋心を抑えるなんてよくねぇぜ」

 

「でも、のどかは親友です! そんな友達を裏切る真似できるわけが……」

 

「友達だからだろぅ~」

 

 夕映の言葉を遮ってカモは畳みかけた。

 

「卒業まで待てばいいか。ククク。上手い理屈を考えたもんだ」

 

 嫌らしいオヤジの顔を夕映に向ける。

 

「う、う、それは」

 

 夕映は言葉に詰まる。

 

「おじちゃん恐れ入ったぜ。友人に気を使いつつ、自分が勝てる見込みを残すなんてなぁ」

 

 ゲゲゲゲと下卑た笑いを浮かべる。

 

「そ、それなら今すぐ返事したほうが良いって言ってくるです」

 

 隼人の下に向かおうとする。

 

 しかし、カモの尻尾が足に伸びて夕映を止めた。

 

「まぁ待てよ。今言ったところでなんも良い事なんてないぜ。それより、素直になれよ」

 

「え? 素直に?」

 

「そうさ。行っちまおうぜ。愛憎渦巻くドロドロの恋愛関係によ。おじちゃんがランキングを教えてやるよ。だから、嬢ちゃんがアドバイザーとして上手くライバル達を誘導して、ランキングから蹴落とすんだよ。それで奪っちまえよ、アニキの心を。美味しい所を全部掻っ攫っちまえよ」

 

 悪魔の声で囁く。

 

「そんな、私は……!」

 

「アニキを好きな気持ちを隠したまま、のどか嬢ちゃんと友人として付き合えるのか? それが親友って呼べるか? ん~?」

 

「わ、わた、わたしは」

 

 オヤジモード全開のカモに追い詰められて涙目になる。

 

 そんな様子を見て、急にカモは真面目な顔に戻った。

 

「でも嬢ちゃん。冗談は置いといて。本当にスパッと覚悟決めて告った方が良いと思うぜ」

 

「で、でも」

 

「アニキが今後どうなるかは分からないけどよ、目標が復讐なら最後は死ぬかもしれないぜ」

 

 それは冗談抜きの事実だった。

 

「戦場に身を置く男ってのは、言い寄られる女の数だけ生き残る確率が上がるってもんさ。なぜだかわかるか?」

 

「分からないです。なぜですか?」

 

「それだけ帰る場所があるからさ。帰る場所があってこそ戦士は生き残れるのさ」

 

 カモは咥えていたタバコから煙を出す。

 

「嬢ちゃんたちは足を引っ張って隼人を引き留めるって言ったよな。だったら、夕映嬢ちゃんも勇気を出して自分の気持ちを伝えな。それでアニキを少しでも助けてくれ。俺っちにはできない大切なことだぜ」

 

「カモさん」

 

 夕映はカモの言葉を反芻して考えた。

 

 のどかが勇気を出して思いを伝えたのだ。ならば自分も勇気を出さねば、親友として顔向けできない。

 

「分かったです。今はまだ無理でも必ず伝えるです」

 

「ああ、応援するぜ。頑張んな」

 

 カモは満足そうに頷いてタバコの火を消した。

 

「夕映、カモ。おまたせ」

 

 隼人が戻ってきた。

 

 夕映の様子を見て隼人は首を傾げた。

 

「あれ? どうかしたか?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

「アニキ。女の子にゃ色々と事情があるんだよ」

 

「なんだそれ?」

 

 いまいち分からなかったが、隼人は気にせずに話題を変えた。

 

「そろそろ、晩飯時だし飯食いにいこうか。相談に乗ってくれた礼だ。奢るよ」

 

「え、そんな別に大したことじゃないです」

 

 夕映は断ろうとしたが、カモに軽く叩かれた。

 

「あ、やっぱ奢ってください。お願いします」

 

「おしっ。決まりだな。行こうぜアニキ」

 

「ああ、何食べに行こうかな。というか、俺これ何食目だったかな」

 

「なんだかんだで食いまくってるからな。もう五食目くらいじゃね?」

 

「良く食べますね」

 

「太らないように運動せんといかんな」

 

 などと言いながら、隼人達は熱気あふれる人ごみに加わっていった。

 

 

つづく

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