魔法教師はやト!   作:沖彦也

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吸血鬼編です。
よろしくお願いします。
7/28追記。時系列を修正するために、文章を少しだけ変えました。すいません……。


第五話「風邪を引いた吸血鬼」

隼人は明日菜たちの寮から出て、なんとなしにボーっと空を散歩していた。

 

 すでに日が昇り、朝になっている。

 

 今日は日曜日なので学校が無い。

 

 空は晴れて清々しい。しかし、隼人の顔は曇っていた。

 

 心中に去来するのはかつての過ちと後悔の記憶。

 

 ふと下を見ると森があった。

 

 麻帆良島の東に位置する麻帆良の森だ。

 

 懐かしい気分になって降りてみた。

 

「懐かしいな。こういう感じの森で修行したっけ」

 

 風が吹いて木が音を奏でる。気分が少し軽くなった。

 

 と、急にガサガサッと草の音。

 

「ん?」

 

 振り向くと楓がいた。

 

「あれ? 隼人殿ではござらんか。こんなところでどうしたでござるか」

 

 不思議そうに聞いてくる。

 

「いやそっちこそ、こんなとこでなしてんだ」

 

 クナイを見せる。

 

「修行でござる」

 

 のんびりとした顔でそう答えた。

 

★

 

 その後、隼人は楓に連れられて修行場所に来た。

 

「ほぉ~。なかなか良い所じゃねぇか」

 

 見わたすと、小屋があり、滝があり、川がある。

 

「休みの日になると、ここで修行してるでござるよ」

 

 よく見るとあちこちの岩に傷が付いている。

 

「その歳でたいしたもんだ。感心感心」

 

 隼人はなぜか嬉しくなった。

 

 照れる楓。

 

「それよりも、隼人殿はなぜここへ?」

 

 隼人は少し暗い顔をして答えた。

 

「まぁちょっと悩み事があってな。なんとなしに散歩してたんだ」

 

「ほぉ。そうでごでござるか。拙者でよければ相談相手になるでござるよ」

 

 少し躊躇したが話し始めた。

 

「少し聞きたいんだが、知り合いの悪事を止めるために、戦うことはできるか?」

 

 楓は考える。

 

「ん~。それはどうしても戦わなければならないでござるか?」

 

「ああ。そうだ。話し合いで解決は無理だ。けど、力づくなら止めることができる」

 

 楓はさらに考える。

 

 そして隼人に聞いた。

 

「質問を質問で返すのは失礼かも知れぬが、その止めたい相手は先生にとって大切でござるか?」

 

「もちろんだ」

 

 即答する。

 

 隼人の答えに楓は微笑んだ。

 

「だったら、拙者は戦うでござるよ」

 

「信念を曲げてもか?」

 

 楓は細目を開く。

 

 澄んだ瞳が見えた。

 

「友を止めるのにどうしても必要なことなら、信念を曲げてでも止めるでござるよ」

 

 ゆるぎない答え。

 

 隼人は黙り込む。

 

「答えが出ぬのであれば、しばらくここにいるといいでござる。良い考えが浮かぶやもしれぬよ」

 

 そういうと、跳躍して森へ消えていった。

 

「信念を曲げてでもか……」

 

 つぶやいて、近くの岩に腰掛ける。

 

 隼人は滝を眺めながら物思いにふけった。

 

★

 

 その夜。

 

 隼人は昼飯も食わず、一日中、考えていた。

 

「隼人殿。こっちに来て食べぬでござるか?」

 

 楓が誘ってきた。魚の焼けたいいにおいが立ち込めている。

 

 隼人はため息を一つつくと、立ち上がり楓の元へ行った。

 

「答えは出たでござるか?」

 

 ニッと笑って首を立てに振る。

 

「ああ。それなりに結論はでたよ」

 

 焼けた魚を取って口へ運ぶ。

 

「まぁ。直接会って色々と確かめてみるよ。戦う云々はそれから考えることにした。うだうだ悩んでもしゃーないしな」

 

 楓はふっと微笑む。

 

「そうでござるか。まぁ先生なら大丈夫でござるよ。戦うにしろ、戦わないにしろ。相当強いみたしだし、きっと答えが出るでござるよ」

 

 不敵な顔をする隼人。

 

「お、分かるか? それが分かりゃお前も強いよ」

 

 そして、食事が終わると、立ち上がった。

 

「今日はありがとな。そろそろ帰るよ」

 

「ん~。拙者は場所を提供しただけでござるが、どういたしまして」

 

 互いに笑う。

 

「じゃあ。また明日、学校でな」

 

 楓は返事の代わりに手を振った。

 

 隼人も手を振り返してから、夜空へと舞い上がり、飛んでいった。

 

 飛んでいった先を眺める楓。

 

「ん~。やっぱり強き武士(もののふ)はいるでござるな~。拙者もまだまだ!」

 

 気合を入れると、食後の修行へと出かけた。

 

★

 

「ういーす。おはよう」

 

 翌日。隼人は3―Aの教室の扉を勢いよくあけた。

 

「あ、センセおはよー」

 

「隼人先生おはようございます」

 

 口々に挨拶する。

 

 教卓まで来ると、生徒たちを見る。

 

「あれ? 今日は茶々丸とエヴァは休みか?」

 

「なんか、エヴァちゃんが風邪を引いたとかで休みで、茶々丸さんはその看病やって」

 

 亜子が答えた。

 

「ふむ。風邪か。みんなも気をつけろよ」

 

「は~い!!」

 

 二人ほど除いて元気よく返事する。

 

「だから、小学生かって」

 

「やっぱりアフォばっかです」

 

 後ろの席で千雨と夕映はため息をついた。

 

 昼時。

 

 隼人は受け持っているクラスの授業が、昼までで終わり自分の机でエヴァの事件をどうするか考えていた。

 

 昨日出した結論は今朝、タカミチ連絡している。

 

 タカミチは「上手くやってくれ」と少しホッとしたように言って了承した。

 

「アニキ、ちょっといいか?」

 

 机の上に山積みになっている教科書やプリントの間からカモが顔を出した。

 

「ん? どうした?」

 

「実はエヴァ対策で名案が浮かんだんす」

 

「名案?」

 

 片方の眉を吊り上げる。

 

 カモは指を立てると提案した。

 

「そう。明日菜嬢ちゃんたちと【仮契約】(パクティオー)するってのはどうだ?」

 

 隼人はものすごくつまらなさそうな顔をした。

 

「アホか。わざわざあいつらを巻き込んでどうする。やるからには一人で解決してみせるさ」

 

「でも、アニキ。アニキが戦いたくないなら、嬢ちゃんたちに代わりに戦ってもらうってのもアリだと思うけど?」

 

 隼人は席を立つ。

 

「あのなぁ。相手はかつて世を震撼させた真祖の吸血鬼だ。そんなヤツ相手に素人が挑んでも餌になるだけだ。却下だ、却下」

 

 そういうと、職員室を後にした。

 

 残されたカモは

 

「アニキのわからずやー!」

 

 となるべく小さな声で叫んで、どこかへ行ってしまった。

 

★

 

 隼人は、エヴァの家まで行ってみた。

 

「ここか。なかなかいい家に住んでるじゃないか」

 

 ログハウスの家。

 

 インターホンを鳴らしてみる。

 

 出てきたのは茶々丸だった。

 

「先生。どうしましたか?」

 

 隼人は手を上げて挨拶する。

 

「よ、茶々丸。見舞いに来たぞ」

 

「そうですか。それはどうも」

 

 ぺこりと一礼すると、隼人を招きいれた。

 

 玄関の隣に階段がある。

 

 その手すりにエヴァが座っていた。

 

「ふん。なにしにきた。わざわざ餌にでもなりにきたか」

 

 鋭い爪を見せて、薬ビンを構える。

 

「んなわけねーだろ。見舞いだよ。見舞い」

 

 苦笑した。

 

「マスター。寝ててください」

 

 茶々丸が注意する。

 

「敵が目の前にいるのに寝ていられるか」

 

 一言で切り伏せる。

 

「ですが、まだ熱があるのに暴れたら」

 

 困った顔をする茶々丸。

 

「そうだぞ。風邪引いたときは暖かくして安静に寝てるのが一番だ」

 

 隼人も注意する。

 

「やかましい! 私は『不死の魔法使い』『闇の福音』と恐れられた吸血鬼! こんな風邪ごときで遅れをとるるるるるるるるるる~。きゅう」

 

 セリフの途中で、倒れて手すりから落ちた。

 

 とっさに受け止める隼人。

 

「おいおい大丈夫か?」

 

「うるさい。放せ馬鹿者」

 

 エヴァはじたばたと暴れる。

 

 クシュンとくしゃみをした。

 

「あ、鼻水でてる」

 

ハンカチでぬぐってやる。

 

「マスターは風邪のほかにも花粉症を患っています」

 

 茶々丸が付け加えた。

 

「ほんとに吸血鬼かよ」

 

 隼人は苦笑い。

 

「あ、こら茶々丸。余計なこというな」

 

 さらにジタバタする。

 

「こら暴れるな」

 

 茶々丸は隼人に向き直った。

 

「先生。私は知り合いに、よく聞く薬をもらってくるのでそれまで、マスターの看病をお願いできますか」

 

「おう。任せろ」

 

 了承する。

 

「では、お願いします」

 

 一礼すると、出て行った。

 

 まだ文句を言って暴れるエヴァをお姫様抱っこのままで二階のベッドに運ぶ。

 

 ベッドに降ろした。

 

「くそ、このロリコンめ。屈辱だ」

 

 エヴァは忌々しいといわんばかりに嫌な顔をする。

 

「誰がロリコンだ!」

 

「ふん。貴様と私は敵同士。看病などいらん」

 

 エヴァの文句に隼人はエヴァの顔をじっと見て言った。

 

「あのな、自分の生徒が困ってる時に助けんで何が担任か。こういうときぐらいは頼ってもいいんだぞ」

 

 そしてニカッと笑う。

 

 エヴァはこの言葉を聞いて何を思いついたのか、笑みを浮かべた。

 

「そうか、だったら、のどが渇いた」

 

「お、ようやく素直になったか。待ってろ、今、水を」

 

「いやいや。水じゃなくて、指を出せ」

 

「は?」

 

 不思議そうに首をかしげる隼人。

 

 エヴァは口の端をゆがめて、告げる。

 

「私は吸血鬼だ。お前の血を貰って、寝ていれば風邪なんか治る。だから血をよこせ」

 

 隼人は固まった。

 

 エヴァの顔には悪魔の笑みが張り付いている。

 

 悩む隼人。

 

「どうした? はやく寄こせ。私は病人だぞ」

 

 クククと笑いが聞こえる。

 

 隼人の脳内で天使と悪魔が激しく言い争い、脳内会議の結果がでた。

 

「たっく。少しだけだぞ」

 

 疲れたように言って、エヴァの口に人差し指を突っ込んだ。

 

「よろふぃ。でふぁいただくふぉ(よろしい。ではいただくぞ)」

 

 と言って、チュウチュウと指を舐めながら、血を吸う。

 

「はいお終い」

 

 隼人は引き抜く。

 

「む、もう少しいいだろ」

 

 不満そうに口をとがらせる。

 

「ダメだ」

 

 きっぱり言う。

 

「ふむ、指フェ●は好みじゃないのか」

 

「バカなこと言ってないで、さっさと寝ろ!」

 

 流石にキレた。

 

「まぁ、そう怒るな。こっちは病人だぞ」

 

「病人だったら病人らしくしろ」

 

「ああ。そうするさ。けど、その前に汗かいたから着替えを持ってきて着せろ」

 

 また無茶な要求。

 

「どうした、煉城隼人 三十四歳。ロリコンじゃないなら着替えさせられるだろ?」

 

 これ以上に愉快なことはないといわんばかりの笑み。

 

 しかも、なぜか隼人の実年齢を知っていた。

 

「ぐ、調子に乗りおってからに」

 

 ぶん殴りたい気持ちを押さえつけて、着替えを持ってきた。

 

「ほら、バンザイ」

 

 隼人が指示する。

 

 エヴァは言われたとおりにバンザイする。

 

 とあっという間に服を脱がした。

 

 そして、持ってきた服を着せる。

 

 その手際のよさに感心した。

 

「お前、服を脱がしたり着せたりするの上手いな。やっぱりロリコンなんじゃないか?」

 

 ズボンをエヴァの方へブン投げた。

 

「ぶち殺すぞ! もう知らん。ズボンは自分で穿け!!」

 

 そういってそっぽを向いてしまった。

 

 エヴァは下を穿くと、横になる。

 

「では、少し寝るとしよう」

 

 くかーっとあっという間に寝てしまった。

 

「寝付き早っ!」

 

 隼人は思わず突っ込む。

 

「やれやれ、寝顔は可愛いんだがなぁ」

 

 ため息をつきながら毛布をかけると、脱いだ服を持って下に降りた。

 

★

 

 そして暫くして。

 

 隼人は寝ているエヴァの隣りに椅子を持ってきてそこに座り、本を読んでいた。

 

 玄関の扉が開く音がする。

 

 二階に茶々丸が上がってきた。

 

「只今戻りました。マスターの看病ありがとうございます」

 

「おう、おかえり。わがままな吸血鬼は今寝てるよ」

 

 ベッドに視線を移す。

 

 茶々丸は少し目を見開く。

 

「ん? どうした」

 

 隼人は怪訝そうに聞く。

 

「いえ。マスターが安心した顔で寝ているのが珍しくて、驚きました」

 

 そういうとエヴァの顔見る。

 

「ふ~ん」

 

 隼人もエヴァの寝顔を見る。

 

 よだれをたらして、幸せそうに寝ていた。

 

「アホ面なだけじゃね?」

 

「そうかもしれません」

 

 否定しなかった。

 

「先生。よかったら下でお茶飲みませんか?」

 

 茶々丸が誘ってきた。

 

「お、いいね。いただくよ」

 

 本をたたんで立ち上がり、一緒に一階へと降りた。

 

 応接間。

 

 茶々丸と向かい合って座り、紅茶を飲む。

 

「うむ。美味い」

 

 茶請けのクッキーも食べる。

 

「おお、やっぱり美味い」

 

 顔がほころぶ。

 

「それは良かったです」

 

 茶々丸も笑みをこぼす。

 

 隼人はじーっと茶々丸を見た。

 

「あの、なにか?」

 

 首をかしげた。

 

「いや、お前ってロボットなんだよな?」

 

「はい。正確に言うとガイノイド。女性型ロボットです」

 

「へ~。誰が作ったんだ? エヴァか?」

 

 首を横に振った。

 

「いえ。3-Aの超さんと葉加瀬さんです。彼女たちが大学の工学部と共同で開発しました。産まれて三年になります」

 

「ああ、あいつ等か。スゲーなおい」

 

 しきりに感心する。

 

 そして、ふと思い出したように聞いてみた。

 

「そういや、エヴァに呪いをかけたのは誰だ?」

 

「赤き翼所属のサウザンドマスター『ナギ・スプリングフィールド』と聞いています」

 

 意外な名前に隼人は驚いた。

 

「な、ナギ? アイツがか!?」

 

「はい。マスターは弱点のカナヅチであることとニンニク嫌いのことを彼に知られて、ニンニクが大量に浮かんでいる水の入った落とし穴に嵌められて、捉えられました」

 

「アイツらしい、卑怯な戦法だな」

 

 苦笑する。

 

「ですが、マスターはあまり彼を恨んではいません。どうやら彼のことが好きだったらしく、罠も分ってて嵌ったそうです。呪いのことは流石に予想外だったそうですが」

 

「なるほどな~。好きだった相手に呪いかけられたのか」

 

「マスターは呪いを解いた後は、彼を探しに出かける予定です」

 

 隼人はなんども首を縦に振った。

 

「そうか。ナギのことをアイツも探してるのか」

 

「アイツも?」

 

「ああ、俺もヤツを探している。ある姉弟に頼まれてな、本命を探すついでにな」

 

 茶々丸は納得したように頷く。

 

「そうでしたか。彼とはどういった関係で?」

 

 隼人は懐かしむように目を細めて言った。

 

「『戦友』と書いて『ライバル』と読む関係だな。いまだに決着をつけていない相手の一人だ」

 

 そういうと一気に紅茶を飲み干し、席を立つ。

 

「それじゃ、色々と分ったことで帰るわ」

 

「あ、そうですか。今日はありがとうございました」

 

 一礼する。

 

「いや、いいさ。困った時は助けるのはあたりまえだからな」

 

 ニッと笑う。

 

「あとそれと、エヴァに伝えといてくれ。『呪いのことに関してなら俺が何とかしてやる』ってさ」

 

「了解。伝えておきます」

 

 彼女は了承した。

 

「んじゃ。来られたらまた明日、学校でな」

 

「はい。また明日」

 

 こうして、隼人はエヴァの家を出た。帰る道中、今回の騒動をどう収めるか見当をつけた。

 

「話は通じるし、捻くれてるけど良い子みたいだな」

 

 エヴァとのやり取りを思い出して笑う。

 

「あの様子じゃ、説得するためには戦って言うこと聞かせるしかなさそうだな。刀を使わずにやってみるか」

 

 拳を握り確かめる。

 

 エヴァとの戦いは近い。

 

【つづく】

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