この話に出てくる隼人と刹那の約束ですが、それを含めた出会いの過去編を番外として更新する予定です。
次回からバトル、バトルの連続になります。
よろしくお願いします。
3―Aのどんちゃん騒ぎはまだまだ続いている。
飲めや歌えやの大騒ぎ。酒が入ってないにもかかわらず異様な盛り上がりだった。
「さて、それじゃ私たちもそろそろ帰るね」
明日菜以下、武道祭参加組と図書館四人組は宴会を抜ける。
「おう、明日頑張れよー」
「うっははは。賭けは誰にいれゆー」
「そーれ、明日の景気づけにかんぱーい」
最早、呂律すら回らない人間ばかりの無法地帯を抜けて、教室を出た。
「さて、ごめんだけど私、寮に寄ってから行くから先に行ってて」
明日菜はみんなと別れて、寮に荷物を取りに戻ることにした。
「オッケー、それじゃエヴァちゃんの別荘で待ってるよ」
去っていく明日菜に、ハルナが手を振った。
明日菜は一人で夜道を歩いていく。といっても、文化祭は夜通し行われている。学園島という島のおかげで近所迷惑にならないからだ。明かりは十分にあり、夜店がでていた。
「やっぱ夜も盛り上がってるなぁ」
賑やかな通りを抜けて寮の道を歩く。ここまで来るとさすがに人通りがなかった。
ふと、先を見ると道の真ん中に誰かが立っていた。
「ん?」
その人間はフードを目深にかぶっていて性別すら分からない。だが、誘うような気配が明日菜に向けられていた。
「何だろう?」
ポケットに忍ばせたカードを取り出して立ち止まる。
「えっと、何か御用ですか?」
警戒しながら尋ねた。
「警戒しなくてもいいですよ」
フードの人がしゃべる。声から男だと分かった。
「私はタカミチ君や隼人君の知り合いです」
そういうとフードの男は顔を見せた。
「え、貴方は!」
明日菜は驚く。男の顔には見覚えがあった。整った顔立ち。一見すると女性のような繊細さを感じる。
「たしか隼人の記憶で見た。アルビレオさんでしたっけ?」
明日菜の言うとおりだった。その男はアルビレオ。かつて紅き翼に所属した魔法使いだった。
「おや、彼の過去を知ったのですか。なるほど」
男は納得した顔で言う。
「ならば、話は早い。貴方に会いに来たんです。少しよろしいですか?」
優しげな、本当に優しげな声で明日菜を誘った。
明日菜は少し考えたが頷いた。
「分かりました」
「では、こちらへ」
促されて近くのベンチに座る。
「さて一応、自己紹介しましょう。私の名前はアルビレオ・イマ。またはクウネル・サンダースと言います。タカミチ君や隼人君の知り合いです。よろしく」
「あ、えっと。私は神楽坂明日菜って言います。よろしくです」
お互いに自己紹介する。
「明日菜さん。大きくなりましたね。可愛いレディになった」
アルビレオは嬉しそうに笑う。
「えっと、私のことを知っているんですか?」
「はい。私は小さいころの貴方に会っています」
「そうですか。すいません。小さいころの記憶が曖昧で。覚えてないんです」
明日菜は申し訳なさそうに謝った。
「気にしないでください。小さいころに会っただけですから。覚えてないのも無理はありません」
「あの。それで私に話って?」
本題を切り出す。
「そうですね。単刀直入に言うと貴方に力を教えに来ました」
「力ですか?」
明日菜は怪訝そうに言う。
「はい。貴方が武道祭の本戦に出ることを知りました。でも今のままでは勝ち目はありません」
アルビレオはハッキリと告げた。
明日菜は苦笑した。
「それは分かってます。でもせっかくだし、自分の力試しで出るつもりなんです」
「いいえ、本来の貴方は他の人と同じくらいに強い。私はそれを知っています」
「ありがとうございます。それは隼人とかにも言われているんですが、まだまだ」
自分の力の未熟さを笑う。
「だからこそ私が来たんです。本来ならばタカミチ君から伝えるはずだった技を教えに来たんです」
「高畑先生から?」
明日菜は不思議そうに訊いた。
「はい。まぁ私との再会記念ってことで。プレゼントしますよ」
懐からメモを取りだす。
「これをよく読んで練習しなさい。エヴァの別荘を使うのなら、明日には出来るようになっています。きっと体が覚えているはずです」
メモを受け取る。
「これって!」
明日菜は目を見開く。メモにはこう書かれてあった。
【究極技法の使い方】
アルビレオの顔を見た。
男は意味深に笑うと立ち上がる。
「さて、それでは私は失礼します」
「ま、待ってください。これは!」
明日菜は訊きたいことが山ほどあった。だが、アルビレオはその制止を無視して言う。
「私のことをタカミチ君と隼人君に伝えるのは、少なくとも明日、貴方がそれを使うまで待ってください」
「え? なんで?」
「その方が彼らの驚く顔が見られるでしょう?」
悪戯っぽく笑うとウインクして姿が掻き消えた。
明日菜は呆然と立ち尽くすばかりだった。
★
エヴァの別荘。夜空に煌々と月が光っている。広大な城の敷地の中庭で、隼人は明日の準備をしていた。
「…………」
胡坐をかいて精神統一。
おもむろに立ち上がって腰に差した木刀を引き抜く。
正眼に構えて、縦切り。続けて上斜めに切り上げ。そのまま横薙ぎの一閃。一撃一撃が空を裂き、唸りを上げる。
隼人は木刀の柄を何度か握りなおして、具合を確かめる。
「ふう。まずは一本だな」
木刀を地面に置いた。
「アニキ。何やってんだ?」
カモが興味津々で訊いてくる。
「武道祭は刃物禁止だろ。【煉獄】が使えないなら、木刀を使うしかない。それで具合やら重さやらを確かめてるんだよ」
「ああ、それでそんなに木刀があるのか」
カモの視線の先には木刀の山。折れた物や砕けた物もある。
「気合いを込めて破裂しない、頑丈な木刀となるとなかなか見つからない。あと最低二本は欲しいんだがなぁ」
「でも、こんなに木刀どこにあったんだ?」
「エヴァの倉庫にあったのを拝借した。もちろん許可は取ってるぞ」
「へぇ。なんで大量にあるんだろうな」
「知らん」
話を打ち切って、木刀の選定作業を再開する。
「お、これはイケそうだな」
山から引き抜いて軽く振る。
そして、究極技法【爆熱真紅】を発動させた。
強烈な気力が木刀に流れ込む。
しかし、木刀は爆ぜることは無く、力強く炎を纏って燃え盛った。
「爆熱真紅の圧力に耐えられるか。完璧だ」
嬉しそうに言う。
「アニキ、爆熱真紅の反動に慣れてきたんだな」
「ああ。実は爆熱真紅を改良しようとしているんだ。反動の軽減はその産物だ」
「なんと。それは凄いな」
「元々、爆熱真紅は他の究極技法に比べて完成度が低い。使用すれば使用者が燃え尽きて死ぬ。だが研究と研鑽の結果、燃焼させる力や火力を調節すれば継続使用できるようになった」
カモは隼人に質問する。
「そもそも、究極技法って一体何なんだ?」
木刀を漁りつつ、隼人は答える。
「究極技法は分かりやすく言えば自分の限界を超える技だ。限界を超え、その先へ。遥か高みを踏破するための技術」
「なるほど。じゃあ嬢ちゃん達も使うことって出来るのか?」
隼人は少し考えて言う。
「理論上は出来るな。本来は強さの限界に到達した人間が、それを超えるために使用する技術だ。でも考え方によっては今の限界を超えるために使用出来る。ゲームで例えればレベル1のキャラクターが、レベル10のパラメーターになるようなもんだからな」
カモは深く頷く。
「へぇ。それじゃもしかしたら誰か使えるようになるかもな」
「まさか。そんなチートしなくても地道に鍛えれば強くなれるんだ。背伸びして強くなる必要なんてないだろう」
隼人は笑う。
「いや、どうかわかんねぇぞ。女の子ってのはいつだって背伸びするからな。特に好きな人のためならな」
「ははは。恋する女の子は無敵だって話だからな」
最後の一本を見つけて、山の中から引き抜いた。
「よし。これでいい。あとは馴染むまで素振りだな」
木刀の山を抱えて倉庫に戻しに行く。
戻ってくると、刹那が来ていた。
「よ、刹那」
隼人は手を挙げて挨拶した。
「こんばんは。先生」
刹那は軽く会釈した。
「他のみんなはまだ宴会か?」
「明日菜さん以外は、みんな来てますよ」
「そうか、明日菜どうしたんだ?」
「荷物取りに寮に戻ってます。あとから来るそうです」
「なるほど。じゃあここを出るときは明日菜の時間に合わせよう」
エヴァの別荘は一度入ると二四時間出られなくなる。だから全員でそろって出ようとすると一番遅く入った人に合わせる必要があった。
「まだたっぷり時間はあります。木刀の素振り、私も一緒にやって良いですか?」
「いいぞ。一緒にやろう」
隼人は了承すると、木刀を握る。
刹那も隣で木刀を握る。
「「せいっ、せいっ、せいっ、せいっ」」
二人は声をそろえて木刀を素振りする。
木刀が空を切る音と二人の声が夜のレーベンスシュルト城にこだまする。
暫く一心不乱に振っていると、刹那が手を止めた。
「どうした?」
隼人は素振りしながら尋ねる。
「はい。実はお願いがあるんです」
「お願い?」
刹那の言葉に隼人は手を止めた。
「はい。明日の武道祭。私と先生が戦うには決勝戦に出る必要があります。正直組み合わせを見ると、簡単には行かないと思います」
刹那は武道祭の組み合わせを思い出しながら言う。
「でもだからこそ、私が勝ち進んで決勝戦に出られたら、あの時の約束を果たしたいと思うんです」
刹那は隼人の目を見て言った。
「ダメですか?」
隼人は考える。
刹那との約束。それは五年前にした約束だった。五年前、隼人はヴェルガを探すために刹那と別れることになった。当然、刹那は嫌がって泣きじゃくった。隼人も刹那と離れることは辛かった。だが、大切な人をこれ以上失わないためにも、ヴェルガを探さねばならない。隼人は心を鬼にして修羅の道を選んだ。
「懐かしいな。ほんの五年前なのにな」
「はい。本当に」
隼人と刹那は過去に思いを馳せる。
★
五年前。桜が舞う四月。近衛家の門前。
「嫌や! ウチ隼人と別れたくない!」
当時9歳の刹那は泣きじゃくった。
同い年の木乃香も泣いていた。
「私も嫌や。なんでなん。隼人兄ぃ」
二人は隼人にしがみついて、わんわん泣いている。
旅姿の隼人は困ったような顔になった。
「本当にすまない。俺はどうしても行かねばならないんだ」
しゃがんで二人を抱きしめる。
「これはお前達のためでもある。いいか、この世界にはとんでもない悪い奴がいる。俺はそいつを倒すためにここを出て行かなきゃならないんだ」
優しく二人に語りかける。
「悪い奴?」
刹那が尋ねる。
「ああ、大勢の人を不幸にした悪魔だ。俺は英雄として、剣士として、奴を倒さないとダメなんだ」
「だったら、ウチも行く!」
刹那は叫ぶ。
「せっちゃん」
木乃香は刹那を見た。
「隼人に教えてもらった剣術で、ウチも悪い奴倒す!」
涙を拭いて、勇ましい目で隼人に言う。
隼人はその姿に頼もしさを覚えた。
「そうか。でもダメだ。お前はまだ弱い」
すっぱりと言い放った。
「弱くても行く!」
「ダメだ。付いてくるな」
少しだけきつく言う。
その言葉で刹那はまた泣きそうになる。
隼人は気配を優しくして言った。
「でも、お前が誰かを守れるくらいに強くなったら良いだろう」
刹那の頭を撫でた。
「ウチが強くなったら?」
「ああ、お前は強くなれる。だから、これを渡そう」
そういうと、隼人は懐から分厚いノートを取り出した。
「これは刹那が強くなるために俺が作ったノートだ。強くなる秘訣や訓練方法が書いてある。これをよく読んで鍛えろ」
ノートを刹那の手に握らせる。
刹那はそのノートを見て、そして隼人に向かって頷いた。
「ウチ、強くなる。これ読んで隼人みたいに!」
「私も! 強うなる!」
木乃香も宣言した。
「ああ。強くなれ。刹那。木乃香。お前達なら出来る」
隼人は力強く笑う。
「そして、お前達が誰かを守れるくらいに強くなったら、俺はお前達の元に帰ってこよう」
「ホント?」
刹那と木乃香の顔が明るくなる。
「ああ。その時は、どれだけ強くなったか確かめるために勝負しよう。約束だ」
隼人は小指を立てる。
刹那と木乃香も小指を立てて、隼人の指に絡めた。
「「「約束。ゆびきりげんまーん、ウソついたら針千本のーます。指切った!」」」
三人は硬い約束をする。
「さて、それじゃ行ってくる。詠春、刹那をよろしく頼む」
隼人達を見守っていた詠春に告げる。
「はい。手筈通りに、神鳴流宗家の青山家に預けます」
詠春は頷いて言った。
「刹那。木乃香。行ってきます」
隼人は二人に言う。
「い、いって、らっ、しゃい!」
「元気でね!」
二人は再び泣き出すが、その顔は明るかった。
「ああ、お前達も元気でな」
隼人は踵を返すと振り向かず、去っていく。
「ウチ、ちゃんと強くなるから! 約束だよー!」
刹那は千切れんばかりに手を振って見送る。
隼人もそれに答えて、後ろ手を振って駆け出して行った。
★
「それから、私は木乃香お嬢様と別れて、青山家に預けられた」
刹那は思い出しながら言った。
「俺はそれからヴェルガの行方を追って、世界中を探し回った」
隼人も記憶を辿って言う。
「久しぶりに会ったお前は見違えるような成長を見せていたな」
「今の私があるのは、先生が残してくれたノートと、詠春さんや青山家の人達のおかげです」
刹那は拳を握った。
隼人は少し思案するように目を瞑る。
そして目を開いて、刹那に告げた。
「良いだろう。お前が決勝戦に出られたら、あの時の約束を果たそう。勝負だ、刹那」
刹那は頷く。
「はい。必ず決勝までたどり着きます。だからその時は全力でお願いします」
隼人はその言葉を受けて不敵に笑った。
「ああ、そのつもりだ」
お互いの拳を合わせて再び約束した。
今まで、黙って聞いていたカモが口を開いた。
「水差すようで悪いけどよ、アニキも決勝まで行けるのか分からないぜ。相手が相手だからな」
カモの指摘通り、隼人の居るブロックもそうそうたるメンバーだった。
「まぁな。初戦がタカミチ。その次が天才魔法少女の佐倉愛衣か、修学旅行の時に戦った小太郎。そして最後に、エヴァンジェリン。楽な相手は一人もいないな」
隼人はトーナメント表を見て苦笑する。
「予選を見る限りじゃ、エヴァンジェリンと当たる連中は力不足だ。確実にエヴァが上がってくる」
隼人は明日の戦いを予想していく。
「アニキ。決勝戦に行くまでに【爆熱真紅】をどれだけ温存できるかが重要だな」
カモも明日の戦いを予想する。
「いや、出し惜しみしていたらタカミチに瞬殺される。明日は初戦から全力全開でないと勝てないよ」
そういうと、隼人は木刀を構えなおす。
「というわけで、決勝戦に勝ち上がるために、素振り再開だ」
「はい。頑張りましょう」
二人は再び素振りを始めた。
明日はいよいよ麻帆良武道祭本戦。隼人達の胸が高鳴った。
つづく