ようやく麻帆良武道祭が始まります。
よろしくお願いします。
第五十二話「燃え上がる武舞台! 犬神、吼える!! 」
文化祭二日目の早朝。隼人達はエヴァの別荘を出て、それぞれの準備を済ませ、戦いの地である龍宮神社に集まっていた。
受付で手続きをして選手控室に足を踏み入れる。
「やぁ、おはよう」
タカミチが隼人達を見つけて、手を挙げて挨拶した。
「おう。おはよう」
「おはようございます。高畑先生」
代表して隼人と明日菜が返事をする。
「気合いは十分って感じだね」
隼人達の様子を見て笑う。
「ああ、バリバリに漲ってるよ。手加減しないからな」
隼人はニヤリと笑い返した。
「うん。久しぶりに本気で戦える相手だしね。楽しみにしているよ」
タカミチは不敵に言う。
隼人は他の選手の様子を見た。
真名は壁にもたれかかって瞑目している。
田中と呼ばれるロボットは聡美が調整を行っていた。
豪徳寺、山田、倉木は知り合い同士らしく、互いに拳を合わせて気合を入れていた。
高音と愛衣は緊張した面持ちでじっと待っている。
「諸君。おはようネ」
鈴音と和美が入ってきた。目を凝らしてみると、和美の傍には幽霊の相坂さよがいる。
「昨日も隣にいたが、あいつら仲良いのか」
引っ込み思案な生徒が、こんな大きなイベントに姿を見せた。しかも仲良くしているようで嬉しくなった。
「あの騒動以来、仲が良いようですね。私もよく話します」
刹那がこっそりと隼人に言った。
「なるほど」
そんなやり取りをしていると、鈴音達は選手たちの前に出た。
全員が一斉に注目する。
和美がマイクを持って口を開く。
『選手の皆さんおはようございます。三十分後にAブロック第一試合を始めます。ですがその前に本選のルールを説明します』
天井からボードが降りてきた。そこには四角い闘技場の絵が描かれてあった。
『これが今回の闘技場です。広さは十五メートル×十五メートル。四方を手すりで囲ってあります。その武舞台の周りは水で満たされた池になっています。観客席はこの池を挟んだ周囲にあります』
説明の通り、四角い闘技場は手すりで囲まれている。そしてその周りを池が囲み、さらにその周りを観客席が設置されていた。
『試合はAブロック、Bブロック交互に行います。私がアナウンスで呼びますので、自分の試合になったら闘技場へ上がってください。それ以外の選手はこの控室で待機するか、選手席で試合をご覧いただけます』
選手席は観客席とは別に設けられていた。
『試合開始のゴングは私が合図します。試合の制限時間は十五分間、一本勝負。「ダウン十秒」「リングアウト十秒」「気絶」「ギブアップ」で負けとなります。また、時間内に勝負がつかない場合は、観客によるメール投票に判断をゆだねます』
本選ルールを説明していく。
「質問!」
手を挙げて山田が尋ねた。
「リングアウトって、手すり乗り越えて水に落とすことですか?」
『はい。その通りです』
それを聞いて倉木が言う。
「ということは、実際にはリングアウトの決着は考えない方がいいな。手すりがある以上中々落とせない」
『それは、各選手の実力次第です。軽々と相手を吹き飛ばす実力者も選手の中にはおられます。さて、刃物などのルールは昨日の予選と同じです。呪文詠唱も同じです』
「呪文詠唱って言うのは分からないが、必殺技を叫んでもいいのか?」
豪徳寺が質問する。
『超さん。必殺技はどうでしょう?』
和美は隣にいる鈴音に訊く。
『大丈夫ヨ。必殺技は認める。また、呪文詠唱禁止は試合中のみネ。試合前の遅延呪文によるストックは認める。ただし発動キーはその使用する魔法名で設定することが条件ヨ』
鈴音は補足説明をした。
「結構ぶっちゃけるな。アイツ」
隼人は少し苦笑いした。
「まぁ聞いても理解できるかは、知っていないとダメだからね。これくらいは問題ないだろう」
タカミチが判断を下す。
『それでは、ルール説明を終わります。何かほかに質問はあるでしょうか?』
「しつもーん」
隼人が手を挙げた。
『どうぞ。煉城選手』
「闘技場の強度はどれくらいだ? それと、観客席に対する安全はどうなっている?」
『闘技場の強度はかなり強固に作ってあります。例えるなら対戦車ミサイルでも破壊できません。また、観客席には魔法、気力を無効化する強力な結界を張ってあります。攻撃のはずみで観客に被害が及ぶことはありません』
「魔法と気力のみなんだね?」
タカミチが念を押す。
『はい。魔法と気力のみです』
「分かった。ありがとう」
隼人は納得して礼を言った。
『ほかにありますか?』
選手達から手は上がらない。
『では、間もなくAブロック第一試合「佐倉愛衣」選手 対「村上小太郎」選手
の試合を行いたいと思います。呼ばれましたら闘技場までお願いします』
説明を終えて控室を出て行った。
「うっし。それじゃ行ってくるわ」
小太郎は気合十分。拳を鳴らして言う。
「気をつけろよ。お前の相手、天才魔法少女だぞ。開始と同時に焼かれんようにな」
隼人は愛衣を見ながら忠告した。
「へっ。相手が誰であろうと負けへん。それに夏美ねーちゃん達も来てるからな。格好悪い所は見せられへん」
「ああ、そういや見に来るって言ってたな」
隼人は思い出すように言った。
★
観客席。大勢の人が詰めかけて既に大いに盛り上がっていた。
そんな中に一人、冷めた目で観客席にいる者がいた。それは長谷川千雨だった。
「ふん。『驚愕! 気は存在していた!』ねぇ」
千雨は自前のパソコンでネットをしていた。
開いたページには昨日の予選で起こった驚きの事実が書かれてあった。
曰く、本選出場者は気を扱える。
曰く、空も飛べる人間もいる。
曰く、気は修行すれば誰にでも使える。
など色々と言葉巧みに伝えられていた。
「まぁ幽霊がいるくらいだからなぁ。そういうのもあるかもな」
未だに信じられない話だったが、事実としてある以上認めるしかなかった。
「だけど、それにしたって出場者のほとんどが、ウチのクラスからってのはイカサマっぽいな」
入り口で渡された対戦表を見て言う。
「ほっほっほ。イカサマかどうかは試合を見ればわかるぞい」
右隣から声をかけられた。
「が、学園長!」
千雨は驚いた。
「煉城先生のクラスの千雨ちゃんじゃな。おはよう」
「えっと、おはようございます」
千雨は学園長にあいさつした。
すると近右衛門の右隣から、ひょっこりと茶々丸が顔をだした。
「どうもです。千雨さん」
「な、茶々丸さんまで。どうして」
「そこが観客席。そしてここからは解説席です」
千雨がいる場所はちょうど観客席の最前列、解説席のすぐ近くだった。
観客の入りが多いため、解説席のすぐ隣まで詰める形で席が設けられていた。
「ちょうどエエ。両手に花で嬉しいのう」
近右衛門はホクホクと笑顔になる。
「はぁ……」
千雨は曖昧な返事をする。
「さて、では始めます」
茶々丸がマイクのスイッチを入れた。
『皆さん! おはようございます。麻帆良武道祭が間もなく始まります。実況は私『絡繰茶々丸』が。解説は『近衛近右衛門』学園長でお送りいたします!』
近右衛門もマイクを入れて言う。
『ほっほっほ。よろしく頼むぞい』
『よろしくおねがいします。さて、学園長。今日の武道祭はどういう風になると予想しますか?』
茶々丸が近右衛門に尋ねた。
『うむ。まぁ出とる選手は優秀な者ばかりじゃが、三人ほどレベルが違うものがおるのう』
『というと、どなたですか?』
『まず、一人は「高畑・T・タカミチ」選手じゃな。学園では「デスメガネ」などと恐れられておるようじゃが、その名にふさわしい強さをもっておる』
『昨日の予選でも相手に触れないで謎の力で、相手選手を次々と倒していましたね』
近右衛門は大きく頷く。
『そうじゃ。その次に注目なのが「エヴァンジェリン・AK・マクダウェル」選手じゃ。子供のような姿じゃが、恐ろしいほどの実力者じゃ』
茶々丸が納得したように言う。
『なるほど。確かに昨日、高畑選手と同じブロックで猛威を振るっていましたね』
『うむ。容姿に騙されるとあっという間に倒されるから、対戦する選手は気を付けることじゃな』
『では、最後の一人はどなたでしょう?』
茶々丸が興味津々に質問する。
『最後は、「煉城隼人」選手じゃな。正直この選手は全ての出場者の中でトップクラスの実力じゃ。先に紹介した二人と対戦経験があり、どちらにも勝利しておる』
『なるほど。優勝候補最有力ということですね。しかし、対戦表を見ると、挙げられた三選手は全て同じブロックにいます。つまり優勝候補が潰しあうという事態になっています』
近右衛門は長いあごひげを撫でながら言う。
『そのとおり。あの三人がぶつかれば、お互いに無事では済まない。三選手には厳しい戦いになるじゃろう。だから、言い換えれば他の選手にもまだ勝ち目はあるということじゃ。組み合わせの妙といった面白い対戦表になっておる』
『それはとても楽しみですね。では、もう間もなく試合が始まります。観客席の皆さん。最後まで応援よろしくお願いします』
二人の解説が終わると、ファンファーレが鳴り響き、武舞台に朝倉和美が駆け上がってきた。
『ご来場の皆様! 大変お待たせいたしました! これより麻帆良武道祭を開催いたします!!』
和美の宣言で会場は歓声に包まれる。
『試合進行、審判は私「朝倉和美」が務めさせていただきます。では、さっそくAブロック第一試合を始めたいと思います。選手入場です!』
和美の掛け声で入退場口が開く。
『Aブロック第一試合は麻帆良学園女子中等部二年二組所属「佐倉愛衣」選手と、日登小学校六年一組所属「村上小太郎」選手です』
颯爽と小太郎は武舞台に上がった。
愛衣は静かに武舞台に上がる。
観客からは「可愛い」「がんばれー」など若干子供扱いの声がしている。
『子どもと侮るなかれ。二人の実力は申し分ありません。熱い試合を期待しています。それでは構え!』
小太郎は半身で構える。
愛衣は自然体でたたずむ。
『ファイト!』
カーンと試合のゴングが鳴り響いた。
★
「いくで!」
小太郎は気を漲らせて愛衣に突進した。
愛衣はそれを難なくかわすと、指を鳴らした。
「【赤い牙】」
呪文名が告げられて、小太郎の足元が爆発した。
「な!?」
小太郎はバランスを崩して倒れ込む。
愛衣は続けざまに無詠唱呪文【炎の矢】三十六本を放つ。
炎の矢が小太郎に飛来。
「ぐああああああああああああ」
直撃して小太郎を燃やした。
だが、燃え盛る炎を転がってかき消して、小太郎は距離を取る。
「やるやなかいか。隼人のアドバイスなかったら、危うく丸焼きになるところやった」
顔を拭って睨む。
「そっちこそ、随分とタフですね」
愛衣は油断なく構えた。
「ほな、こっからが本番や!」
小太郎は再度、愛衣に向かっていった。
★
『なんということだ! 佐倉選手とんでもない攻撃をします!』
茶々丸が昂奮したように叫ぶ。
『容赦ないのう。足元を爆破して追撃で丸焼きにするとは』
『あれは噂で聞く、気という攻撃でしょうか?』
質問された近右衛門は肯定した。
『そうじゃな。気とは少し違うが、似たような力を炎に変換して放っておる。素晴らしい才能じゃ』
近右衛門の解説で盛り上がる観客たち。
「小太郎君。がんばって!」
「まだこれからよー」
小太郎の応援に来た、夏美と千鶴が声援を出している。
選手席では隼人達が小太郎の戦いを見守っていた。
「うわー、小太郎君随分と苦戦しているね」
明日菜が二人の攻防を見て言う。
「火炎魔法使いですか。凄いですね」
刹那が愛衣の実力に感心した。
すると、高音が胸を張って言う。
「とうぜんです。ウチの愛衣は魔法界アリアドネーの養成機関に留学経験もあるんです。無詠唱呪文はもちろん、遅延呪文も難なくこなす天才ですわ」
「たしかに、魔法の扱いは凄い。だが、最初にもっと強力な魔法で焼いておくべきだったな。一撃で決着をつけないと不利になっていく」
隼人は冷静に分析する。
「どういうことですか? 煉城先生」
高音は不満そうに尋ねた。
「小太郎をただの人間と思わないことだ。奴は狗族と人間の子。手負いの獣ほど厄介な相手はいない。このままじゃ佐倉は負けるぞ」
そう言って戦いを見守る。
★
小太郎は愛衣の火炎攻撃を受けながら、果敢に挑んでいく。
焼かれ、炙られ、爆破される。
しかし、攻撃を受けるたびに技のキレは上がり、スピードも増していく。
「な、なんなの一体」
段々と愛衣が追い詰められていく。
「燃えるなぁ! 実際燃えてるしなぁ! 楽しいなぁ!」
獰猛な犬歯を剥いて笑う。
「く、このぉ!」
愛衣は無詠唱呪文【炎の矢】五十本をありったけの力を込めて打ち込んだ。
それを見て、小太郎は大きく息を吸い込むと吠え猛った。
「ぐるうううううあああああああああああああああおおおおおおおおおおおおお」
地を震わせて天高らかに鳴り響く雄叫び。
その衝撃波は魔法を打ち消して、愛衣の動きを止めた。
「え?」
魔法を打ち消され、動きまで止められた愛衣は驚愕の顔になる。
その隙を逃す小太郎ではなかった。
「喰らえ。犬神流【
両掌に気を集中させて、愛衣の腹部に思い切りたたき込んだ。
「ぶっつ」
潰れた声を上げて愛衣は高々と吹き飛ぶ。
そしてそのまま柵を越えて池に落ちて行った。
『リングアウト。カウントを取ります。1、2、3……』
和美がカウントしていく。
愛衣は慌てたようにもがく。
「あぶぶ。負けです。私の負けでいいんで、助けてくださいー。私泳げないんですー」
水に浸かってあっぷあっぷしている。
『えっと、分かりました! 勝者、村上選手!』
和美が宣言して試合が終わる。
『救護班急いでください』
和美が呼びかけるが、それより早く小太郎が跳びこんだ。
「まったく、泳がれへんってなんやねん」
小太郎は愛衣を抱えると、岸まで運んだ。
「あうう。すいません」
愛衣はほっとして謝った。
★
『村上選手。迷わず跳びこんで助けました。なかなか男前です』
解説席で茶々丸が言う。
『ほっほっほ。強さと優しさが備わっておる。ええことじゃ』
近右衛門も満足そうに笑った。
観客席からは拍手が起こっていた。
選手席では隼人が高音に言った。
「な、言った通りになっただろ? ああいう手合いは一撃で決めないと厄介だ。佐倉は実力があっても実践経験はまだまだだな」
「ああ、愛衣。泳げないとは情けない」
高音は頭を抱えた。
「でも、たしか隼人も泳げなかったよね」
明日菜が隼人の顔を見る。
「まぁな。火炎使いは総じて水場が苦手だ。泳げない奴も多い」
「てことは、隼人の場合も水に落とせば勝てるかもしれない?」
「ふん。そうなる前に池の水を全部干上がらせてやる」
隼人は不敵な顔でそう言った。
刹那がこっそり明日菜に耳打ちする。
「あれ、絶対負け惜しみですよ。私が子供の頃、プールや海にだけは絶対に連れて行ってくれなかったんです。行くことになっても留守番してたんです。怖いんですよきっと」
「ふふーん。良い事聞いちゃった」
「そこ、聞こえてるぞ」
隼人は少し怒ったように言う。
麻帆良武道祭はAブロック第一試合から盛り上がりを見せて、次の試合にも期待が高まった。
つづく