今回は龍宮真名VS長瀬楓。スナイパーとニンジャの戦いです。
よろしくお願いします。
Aブロック第一試合が終わった。
『さぁ、麻帆良武道祭の開幕にふさわしい試合でした。それでは、続いていきましょう』
和美が手を挙げて次の試合を読み上げる。
『Bブロック第一試合、選手の入場です!』
真名はゆったりとしたコートを着て、静かに武舞台に上がる。だが、楓は入場してこなかった。
『あれ? 長瀬選手は?』
和美が困ったように言う。
「ここに居るでござるよ」
何所からともなく声が聞こえてきた。
きょろきょろと辺りを見回す。
ボンッと武舞台が爆発して、煙が晴れると楓が現れた。
「お待たせでござる」
そのパフォーマンスに会場はヤンヤ、ヤンヤの喝采が上がる。
『さすが、忍者ですね』
和美は感心した。
「ふん。ずいぶんと派手な登場だな」
真名は呆れたように言う。
「なぁに。お祭りでござろう。これくらいはサービスでござる」
楓は着ている服を剥いで忍び装束へ変わる。
解説席では茶々丸が選手を紹介する。
『龍宮選手は、会場であるここ、龍宮神社の娘さんでもあります。特技は射撃とのこと。重火器が禁止の今大会で、はたしてどのような戦いを見せてくれるのか注目です』
さらに楓の紹介もする。
『長瀬選手は、忍術を得意とする選手だそうです。どのような忍術が飛び出るか楽しみです。ちなみに、両選手とも麻帆良学園女子中等部三年A組所属です』
茶々丸の説明に近右衛門も頷く。
『うむ。二人とも実力は申し分ない。楽しみな戦いじゃ』
解説を聞いて観客席が盛り上がる中、武舞台では両者が構えていた。
両者間に緊張が走る。
『ファイット!』
和美がゴングを鳴らした。
合図とともに真名は右腕の袖口からコインの束を取り出して、指で弾いて打ち出した。
それはマシンガンのごとく楓に襲い掛かる。
「ぬっ!」
楓はそれを避けようと大きく動くが、散弾のように面撃ちされて回避しそこなった。
コインの弾丸が体に当たって吹き飛ぶ。
「まだまだ、追い打ちだ」
真名は体勢が崩れた楓に、追加のコインを打ち込んだ。
「忍っ!」
印を結んで障壁を張る。
「ムダだ」
真名は鋭く言い放つと、障壁を撃ち抜いて楓を攻撃した。
コインが襲い掛かってくるが、それを何とか避ける。
そのまま、忍術を発動させた。
「忍法! 【風車】」
楓は風を手裏剣状に変化させて投げ放った。
風の手裏剣が真名を襲う。
「ムダだ」
手裏剣が直撃するがまるで効果がなかった。
「もっと、本気出してこい! でなければお前に勝ち目はないぞ!」
真名が獰猛な笑みを浮かべて、両腕の袖口からコインの束が出てくる。
「蜂の巣になるがいい!」
コインの数が倍になって、楓を目がけて飛んでくる。
「なんのこれしき!」
楓は分身の術で自身を増やしてコインの弾幕を捌いていく。
二人の攻撃が嵐のように荒れ狂った。
★
『な、なんという攻撃だああああ。龍宮選手。コインを指で弾いて攻撃しています』
茶々丸が驚いたような声で言う。
『うむ。指弾じゃな。気を込めたコインを指で弾いて打ち出しておる。張った障壁も貫くとは威力も申し分ないの』
近右衛門が解説を入れた。
『重火器禁止のルールをこのような形でクリアしてきました。対する楓選手は分身の術で対応している!』
『弾幕に対して数で対処する。忍者ならではの対処法じゃ』
「いやいや、おかしいだろ。指で弾いてなんであんな威力出るんだよ。分身の術ってなんだよ」
観客席の千雨がツッコミを入れる。
だが、他の観客は「凄い」「ヤベェ」とあまり気にしていない様子だった。
「さっきの試合もおかしかったけど、どーなってやがんだ」
千雨は目の前の光景を見てため息をついた。クラスメイトの幽霊を受け入れても、やはり簡単には信じられなかった。
一方、選手席では隼人が二人の戦いを解説していた。
「容赦ないな。指で弾くと同時に気力と魔力で加速している。さながら、どこぞのレールガンだな」
隼人は真名の技を分析する。
明日菜はコインの弾幕を見て冷や汗を流した。
「どこにあれだけのコインを隠してるのよ」
「おそらく、体中に装備しているんだろう。コインが防具の役割も果たしている。楓の攻撃がほとんど通っていないのが証拠だ」
刹那は腕を組んで考える。
「同じ遠距離では勝ち目がない。楓が真名に勝つには、近距離に張り付いて指弾の距離を潰すしかないでしょうね」
「いや、それで勝てるならまだ楽なんだけどな。距離潰してもあのコインの威力は変わらないぞ」
隼人が否定する。
果たして予想が当たった。
楓が分身体を盾にして接近。近距離に持ち込み、気力を込めた拳で殴りかかる。
「ムダだ。私の戦いに苦手な距離は無い」
接近した楓の顎を撃ち抜いて距離を離す。しかし、撃ち抜かれた楓は煙のように消えてしまった。
「分身体だったか」
「近距離もダメなら数で勝負するでござる!」
真名と距離を離していた楓が告げると、分身体を二十体出現させる。
「さぁ、本体を撃ち抜かない限り分身は減らないでござるよ」
分身体が一斉に真名に襲い掛かった。
「はあああっ」
真名は両腕を自在に動かして、四方八方からくる楓を迎撃する。
「バカめ。私の鷹の目から逃げられると思うな!」
魔力が目に集中。真名の目が本体を捕える。
「そこだ!」
特大の力を込めて、分身体に紛れていた本体を撃ち抜いた。
その威力は凄まじく、腹部にコインを受けて楓は、くの字に折れ曲がった。
『決まったぁああああ』
和美が叫ぶ。
真名も勝ち誇ったように笑う。
「な!?」
瞬間、彼女の背中に衝撃。
真名が吹き飛んだ。
そして、そのまま武舞台の手すりに激突した。
会場に居た誰もが、何が起こったのか分からなかった。
「な、何が」
一番信じられなかったのが真名だった。体勢を立て直すが膝をつく。
「ふっふっふ。油断大敵でござる」
本体を撃ち抜いたはずなのに、分身体が消えていなかった。
「バカな。確かに本体を撃ったはず」
真名は驚愕の声を上げる。
打ち抜いた楓を見ると、煙のように掻き消えた。
真名が打ち抜いたのは分身体だったのだ。
「そんな! ありえない!!」
狙撃手である自分の目が騙された。あまりのことに目を見開いて叫ぶ。
「先ほど撃たれたのは分身。本体は拙者でござるよ」
分身体が空間を開ける。だが、誰もいない。
「え?」
疑問を口にした時、誰もいない空間がじんわりと歪んでいき、楓が現れた。
『なんだってえええええええええええ』
和美が驚いて叫ぶ。
観客たちも驚いた。
「忍法【霞隠し】でござる」
楓はにやっと笑った。
★
選手席では明日菜達がボー然と見ていた。
「うそ。いつの間に、隠れてたの?」
「信じられません」
明日菜と刹那は愕然とする。二人とも目には自信があった。ずっと見ていたはずなのに、楓が分身体と入れ替わった瞬間が分からなかった。
隼人は冷静に分析する。
「おそらく、武舞台に上がる時だ。煙を上げて登場した時、既に分身体に入れ替わっていたんだ。本体はずっと武舞台の手すりにでも立っていたんだろう」
刹那が感心したように言う。
「つまり、初めから分身体で真名を欺いて、本体はずっと隙をうかがっていたってことですか」
「ああ、その通りだ。最初から分身体だったなんて誰も思いつかん。そして戦いで最も隙が出来るのは相手を仕留めたと思った瞬間だ。その一瞬を見逃さず一撃を当てたんだ。さすが忍者だ」
隼人は楓の強さに冷たい汗が流れた。
「にしても、あの【霞隠し】の原理がわからん。気配どころか姿まで隠す技術とはな。こりゃ強敵だ」
一方、解説席でも近右衛門が隼人と同じ解説をしていた。
『ほっほっほ。凄い才能じゃ。あの歳であそこまで完成しているのは珍しいのう』
『なるほど。これは龍宮選手が一本取られた形ですね。ですが、試合はまだ続いています。決着は最後まで分かりません』
茶々丸の指摘通り、まだ試合は続いている。
★
真名は歯噛みしながら、立ち上がると構える。
「今の一撃で仕留められなかったのがお前の敗因だ」
姿を現した本体に向かってコインを放つ。
「忍っ」
楓は印を結んで分身体をさらに増やして、壁を作った。
「どれだけ増やしてもムダだああああ」
両手からありったけのコインを撃ちだす。
コインの弾幕は分身体ごと本体も撃ち抜く威力。
しかし、分身体がそれを受け止めた瞬間、分身体が爆発。連鎖的に残りの分身体が爆発。会場が轟音と煙に包まれた。
突然の出来事に会場がどよめく。
煙が晴れると、武舞台が吹き飛んでいた。破片が水に浮かび、その破片に和美を抱えた楓が立っている。
真名は仰向けで水に浮かんでいる。どうやら気絶しているようだった。
「忍法【分身爆破】。拙者の勝ちでござる」
さらりと告げる。
『し、試合終了! 勝者、長瀬選手!』
和美が終了を宣言する。
わっと会場が湧いた。
『なんという幕切れ。とんでもない試合だあああ』
茶々丸が叫ぶ。
『容赦ないのう。分身体を爆弾に変じて武舞台ごと相手を吹き飛ばすとは。さりげなく審判の和美ちゃんを守っているのがまた凄いのう』
『分身体を爆弾に変えられるのなら、最初からやれば良いのでは?』
『うむ。おそらくあの忍術は発動に時間がかかるんじゃろう。決め手の爆破をするために今まで時間を稼いでおったんじゃ。あの霞隠しを決め手と思わせて、奥の手を用意しているのが流石じゃな』
『なるほど。忍者は侮れませんね』
近右衛門の解説に頷く茶々丸。
すぐ隣の観客席にいた千雨は、もう突っ込む気にもなれなかった。
『えーでは、武舞台の修理を行いますので、しばらくお待ちください』
アナウンスが告げられ、しばらく休憩となった。
★
楓が選手席に帰ってくる。
「おつかれさん。とんでもない強さだな」
隼人が声をかける。
「まだまだ。これでも勝つのに必死だったでござる」
楓は疲れたようにため息をついた。
「いや、でも凄いよ。武舞台を吹き飛ばしちゃうんだもん」
明日菜が称える。
その言葉に楓は照れた。
「いやいや、威力の調整がまだ不十分。発動までの時間もかかり過ぎているでござる。要精進でござるよ」
そういうと、救護室に向かう。
その背中を見送りながら、隼人は不敵に笑った。
「あんな試合見せられたら、こっちも気合い入れないとな」
「そっか、次の試合は隼人だっけ」
明日菜はトーナメント表を見る。
「先生。頑張ってください」
刹那が応援する。
「ああ。お前達に見せてやる。大戦を生き残った戦士たちの戦いってやつを。な、タカミチ」
後ろを振り向くとタカミチが選手席に来ていた。
「その通りだ。手加減はなしだ。全力で行くよ」
タカミチが不敵に笑う。
二人の間に火花が散った。