今回はちょっと長いです。すいません。
ヨロシクお願いします。
エヴァの看病から次の日。
隼人は
「うい~す。おはようございました」
などとネタ全開の挨拶で教室に入ってくる。
「全力でおはようございます。隼人先生」
律儀に返してくれたのは、あやかだった。
「ナイス。返事」
隼人はあやかにサムズアップ。
あやかは恍惚の表情。よっぽど嬉しかったらしい。
そんなしょうもないやりとりをしつつ教卓に行き、出席を取る。
昨日空いていた席が埋まっている。
茶々丸が一礼する。
「お、風邪はもういいのか?」
にっこり笑って、茶々丸の後ろの席に座っているエヴァに声をかけた。
当の彼女はつまらなさそうに鼻で笑い
「本来ならサボりたかったんだが、看病してくれた礼だ」
と言ってそっぽを向いてしまった。
「看病ってどう言う事ですの!?」
あやかが驚いたように立ち上がる。
真剣な表情で隼人に聞いてくる。
やや、ビックリしながらも隼人は答えた。
「いや、昨日色々あって、ちょっとだけ看病したんだけど?」
衝撃を受けたかのようにフラッと倒れこむ。
「おい、大丈夫か」
慌てて抱きとめた。
「嗚呼、先生。私、急に気分が悪くなりました」
病弱そうな顔をして隼人を見つめる。
「先生の手厚い看護があれば元気になりそうな気がします」
妙な要求。
「はいはい。そこまで。ちゃっちゃとHR始めて」
明日菜が割って入った。
「おっと、それもそうだな。あやか、気分が悪いなら保健室行って来い」
明日菜はやれやれといった雰囲気でため息をつく。
「大丈夫よ。どうせ仮病だし」
あやかは明日菜を睨んだ。
「おだまり。このお猿さん」
「な、だれがサルよ!」
食って掛かる。
「猿に猿っていって何がいけないんですの?」
「うるっさいわね。朝から隼人に発情してるあんたに言われたくないわね」
「はつじょ……っ。言わせておけば!」
「なに? やる気?」
つかみ合いのケンカになった。
「あう~。止めないと~」
のどかが慌てる。
しかし、クラスメイトはそれどころではなかった。
「いいぞやれ、やれ~」
「明日菜が勝つに食券五枚!」
「いいんちょが勝つに食券三枚!」
ケンカを止めず、トトカルチョが始まってしまった。
「俺は、明日菜に食券十枚だ!!」
一緒に加わる隼人。
「あわわわわ。先生止めてください」
さらに慌てるのどか。
「やれやれ。アホばっかです」
「あ~早く卒業してぇ」
いつものように席の後ろでため息が聞こえる。
結局いつまでたっても朝のHRは始まらなかった。
★
今日も今日とて放課後。パソコン室。
エヴァと茶々丸は一台のパソコンの前に座って、ある情報を引き出していた。
「マスター。間違いありません。学園の結界と学園の発電システムがリンクしてます」
「ふん。どうりで今まで気が付かないわけだ。まさか魔法と科学が融合しているとはな」
エヴァは感心するように頷く。
「一応、私も科学と魔法の融合です」
「あ、そうだったな」
茶々丸の指摘で思い出した。
「まあいい。それよりこれはチャンスだ。三日後、行動を開始しよう」
邪悪な笑みを浮かべてパソコンに映る情報を見つめた。
そこには
【重要なお知らせ】「四月三十日午後二十一時より、発電システムの点検があります。三時間ほど学園内及び、学園寮は停電となります。ご了承ください」
と書かれてあった。
★
四月二十八日の放課後。3-A教室。
「ねぇ。隼人の様子はどうなのよ」
明日菜がカモに聞いた。
「いたって普通だな。何か作戦は考えてるっぽいけど」
「そうなん?」
木乃香が首をかしげる。
「アニキの奴なんか、どこかに電話かけてアイテムを取り寄せてたんだ」
「先生はエヴァンジェリンさんをどうするつもりなんでしょう?」
のどかが質問した。
「さあな。止めるつもりではあるみたいだけど」
三人と一匹は隼人を見る。
超と聡美の二人と会話していた。
何かを頼んでるようだ。
「あの、【仮契約】の話はどうなったんですか?」
のどかが聞いてくる。
カモが首を横に振った。
「ダメだ。嬢ちゃんたちに協力してもらうつもりはないらしい。一人で解決するつもりだぜ」
「そうですか」
シュンとなる。
「でもまぁ、私としては出来なくて良かったような気がするけどね」
【仮契約】の方法を思い出して、三人は顔が赤くなる。
「なんにせよ。俺っちの独断で嬢ちゃんたちに頼むかもしれないから、そんときゃ頼むぜ」
三人は頷いた。
★
そして、運命の日。四月三十日の夜。
午後二十時三十分。
リリカルマンション。隼人の部屋。
隼人は押入れにしまってあったダンボールからコートを引っ張り出した。
「っと。あったあった。捨てなくてよかった」
「アニキ。それなんすか?」
カモが不思議そうに聞いてきた。
「ん? これは大戦の時に俺が着ていた防護服だ。ありとあらゆる攻撃を五十%まで防いでくれる優れもんだ」
広げてみせる。
黒い生地に火炎模様。背中には、三角形の図形に刀が三本交差したマークが入っている。
「派手っすね」
素直な感想。
「……まぁ、戦場ではコレぐらい派手じゃないとダメだったからな」
苦笑いしながら着る。
「よし。ピッタリだ」
背丈が約十五年前から変わっていないため当然である。
手に魔力発動体の指輪を嵌める。
呪符の枚数を確認して懐に入れる。
「アニキ。もしかして今日襲ってくるんすか?」
隼人の戦闘準備を見て不安そうに言う。
「ああ。今夜、学園の結界が一時的に消滅する。エヴァはその隙を狙って行動開始するだろうな」
時計を見る。
午後二十時四十五分。
「カモ。お前はここに残れ。俺一人で何とかする。言っとくが明日菜たちに連絡するなよ」
「刀は持って行かないんっすか?」
「使わない装備持って行っても邪魔なだけだ」
隼人はそう言うと戦闘用の靴を履き出て行った。
カモは暫く、隼人の出て行った玄関を眺める。
そして
「すまねぇ、アニキ。やっぱり心配だから約束破るぜ」
玄関に向かってつぶやくと、急いで明日菜たちに電話した。
★
リリカルマンションから空を飛んで十五分。
学園の敷地内に入った。
既にメンテナンスが行われているため、学園の結界は消滅していた。
邪気の気配がする。
「エヴァの奴。誘ってんな」
気配がするのは麻帆良学園中等部。
隼人はそこに向かい、時計塔がある第四校舎屋上に降り立った。
「やぁ。よく来たな坊や」
声がするほうを向く。
時計塔の上。半月を背にして美しい女性が立っていた。
背が高い。二十代ぐらいだろうか。胸を強調するような露出度の高い黒服を着ている。
「おい。そんな隠すトコが少ない、水着みたいな服着てたらまた風邪引くぞ」
隼人が忠告した。
「余計なお世話だ」
女性は歯をむいて凶暴な笑みを見せる。
そう、その女性は幻術で身体を変化させた、エヴァンジェリンだった。
「幻術が使えて、魔力を感じられるということは、元に戻ったのか」
優雅に頷く。
「ああそうさ。おかげさまでな。登校地獄の呪いは解けていないが、魔力は元に戻った。最高にいい気分だよ」
「どうしても、戦わなきゃだめか? 登校地獄の呪いは俺が解いてやれるんだが?」
睨む隼人。
「ふん。話し合いで止められると思うなよ。私に何か言いたいのなら、力づくで来い」
エヴァの目が黒く暗い光を宿す。
「そうか。じゃあ一つ賭けをしないか?」
「賭け? なんだいったい」
「俺が勝ったら言うことを聞く。お前が勝ったら、血でもなんでも持って行け」
「ははっ、良いだろう。もとより私が負ける要素などない。刀を持たず、専門外の魔法で戦おうとする気道使いなど恐れるに足りん」
互いに魔力を放射。
エヴァは腕を振り上げる。
黒い影が四つあらわれた。
「げ!!」
隼人は驚いた。
その黒い影は、メイド服に身を包んだ、アキラ、亜子、まき絵、裕奈だった。
隼人は鬼のような形相で叫ぶ。
「お前! またクラスメイトを襲ったな!!」
そう。四人は、エヴァに血を吸われて半鬼化していた。
光の宿らない濁った目で妖艶に微笑んでくるアキラたち。
エヴァは彼女たちに語りかけるように言う。
「さぁ。可愛い下僕たち。坊やと遊んでおやり」
「Yes.My master.」
彼女たちは地面を蹴って、隼人に襲い掛かった。
隼人は飛びのき、空中に避難。
しかし、まき絵の新体操のリボンを足に絡められて叩き落される。
「がっ」
地面に激突。
すぐさま、立ち上がり屋上から飛び降りる。
彼女たちも追ってきた。
隼人は地面に着地すると、手加減した無詠唱【魔法の射手】光の矢・十五本を放つ。
彼女たちの手前で着弾。
軽い爆発を起こして煙が起こる。
足止めの牽制だったが、お構いなしに突っ込んできた。
アキラが拳を振り下ろす。
「ちぃ!」
ギリギリのところでかわし、腕を取ってそのまま投げ飛ばす。
「どぅうりゃぁあ」
アキラは空中で一回転して着地する。
時間差で、裕奈の蹴りが来る。
腕でガードして、体を掴んで放り投げた。
亜子が後ろから来る。
「セイっ!」
後ろ回し蹴りで足払いして倒した。
まき絵の真上からの攻撃には対処できず、飛びのいた。
彼女たちはエヴァの魔力で吸血鬼化していて化け物になっていた。
「くそ。半鬼化してて、身体能力が上がってやがる」
悪態をつく。
「あははははははははははは。可愛い生徒には本気にはなれないかな?」
エヴァは心底楽しそうに、上空から高みの見物をしている。
隣りにはいつの間にか茶々丸もいる。
アキラたちは突撃するために構えた。
「だが、半鬼化してるのであれば、コレで一発だ!」
隼人は懐から呪札を取り出して、アキラたちに投げる。
呪符が飛んでいき、それぞれの体に張り付いた。
彼女たちの魔力に呪札が反応。
凄まじい音と共に紫電を上げる。
糸が切れたようにがっくりと倒れた。
彼女たちは悲鳴も上げず気絶した。
それを確認すると隼人は跳躍。
空中にいるエヴァと対峙する。
「まさか、吸血鬼専用の呪符を出してくるとはな。用意がいい」
感心するようにエヴァが言う。
「電話で取り寄せた。今は通販が便利だからな」
不敵な笑みをしながら、隼人は殺気を向ける。
茶々丸がエヴァを庇うように一歩前に出た。
互いに睨み合う。
同時に動いた。
二人がぶつかり合う間合いに来る。
茶々丸が拳を突き出して先制。
だが、隼人はそれを避けると、茶々丸を素通りする。
「来るか」
構えるエヴァ。
しかしエヴァも素通りする。
「へ?」
一瞬唖然となった。
慌てて振り向く。
「鬼さんこちら手の鳴る方へ♪だ」
隼人は挑発するように手をたたいて、逃げていく。
「あ、こら待て」
慌てて追いかけていった。
★
中等部第四校舎近く。
カモは明日菜と木乃香とのどかに連絡を入れて、隼人たちを追いかけていた。
「アニキは一体どこ行った!?」
明日菜の肩に乗ったカモが叫ぶ。
「見て。あそこで人が倒れてる」
走りなら明日菜が指差した。
「あれは、運動部組みや」
後ろを走る木乃香が言った。
「ま、まってくださ~い」
隼人の置いていった刀を携えてこのかは先行する二人を追っていく。
アキラたちが倒れているところまで来る。
明日菜が無事を確認した。
「気絶してるだけ見たいね」
カモが四人に貼り付けられた札を見つけた。
「こりゃ、アニキが取り寄せていた呪符じゃねぇか」
「ということは、まだこの近くにいるんやな」
木乃香が辺りを見回す。
「いや、アニキとエヴァのことだ。高速戦闘でどこかに移動している可能性がある」
ようやく追いついてきたのどかが遠くのほうを指さした。
「さっきあっちの空が光ってました」
息切れしながら言う。
指を差した方角から、爆音が聞こえてくる。
三人と一匹は互いに顔を見合わせて、音が聞こえた方角へ走り出した。
★
隼人は高速で空を飛んで逃げていく。
ゼロ・マックス・ゼロを繰り返して、ジグザグに曲がってかく乱する。
「ゲッターロボかお前は!?」
鋭角に動く隼人に悪態をつく。
動きがランダムすぎて次の位置が予測できない。
「マスター。危険ですっ」
飛来した【魔法の射手】を茶々丸が防ぐ。
「くそ。あの動きで魔法を当ててくるか」
科学の力で空を飛んでいる茶々丸では高速戦闘には向かない。
加えて、攻撃するために前に出ても、先ほどのように魔法の射手で攻撃してこられるとエヴァを狙われる。
防戦一方の状況だった。
しかし、当の高速で動く隼人の方はエヴァ以上の危機的状況だった。
止まったら確実に、茶々丸の攻撃で足止めされてエヴァの巨大魔法が来る。
動き続けなければ負ける。
体力の限界が来る前に次の手を打たないと負ける。
高速戦闘の負荷が体にかかり悲鳴を上げている。
隼人はがむしゃらにジグザグと動きながら、なんとか目的の場所まで誘い出した。
海にかかる巨大な橋。
それは麻帆良学園と隣りの島の麻帆良大学を結ぶ橋、『グラン・マホラ・ブリッジ』だ。
橋は停電の影響で暗い雰囲気をかもし出している。
その橋は呪いの影響でエヴァが活動できるギリギリの場所だった。
「ここで決着をつけるぞ!」
隼人は急降下して、橋に降り立つ。
「観念したか! 坊や」
エヴァと茶々丸も急降下して降りてくる。
二人は地面に降り立った。
その瞬間、地面に仕込まれた魔法陣が発動。
「な!?」
無数の鎖が魔方陣から出現して、エヴァと茶々丸を雁字搦め(がんじがらめ)にした。
「かかったな。エヴァ」
隼人はガッツポーズ。
「えーい。この。追いかけるのに夢中で釣られてしまった」
エヴァと茶々丸はぐるぐる巻きにされて身動きが取れないでいる。
「中位・鉄の精霊による捕縛結界だ。電気が復活するまで、解いてやるつもりはない。勝負あったな」
勝ち誇ったように告げた。
「マスター。この結界ならいけます」
茶々丸は結界を分析して、エヴァに報告する。
「やれ」
「了解」
茶々丸の両耳についているアンテナが展開。特殊な電磁波を放出する。
「え?」
隼人は目が点になった。
鎖が音をたてて崩れていく。
魔方陣が消滅した。
「うそぉ……」
冷や汗をたらして後ずさった。
エヴァは腕を回して、体をほぐす。
「残念だったねぇ。科学の勝利だ」
「原理は、魔法の組織崩壊を促す、特殊電磁波を放射して魔法そのものを破壊します」
茶々丸が説明した。
「魔法もハイテクになったなぁ」
隼人は妙に感心した。
「感心してる場合ではないぞ。もう一つ驚かせてやる」
エヴァが指を鳴らすと黒い魔方陣が十三個出現。
「影の転移魔法?」
構える隼人。
黒い地面から現われたのは、エヴァンジェリンに似たロボットが十三体。
「麻帆良大学が作り上げた最新のロボットだそうだ」
自慢するように笑う。
「エ、エヴァ量産型ってか。等身大自分フィギュアってのは趣味悪ぃーな」
「これは、制作者がシャレでデザインしただけだ。私の意図じゃないよ」
エヴァは口の端を吊り上げて笑いながら、隼人に言った。
「さて坊や。この十三体のエヴァ量産機と茶々丸、そして魔力が復活した私を相手にして、勝てるかな?」
「無理、だろうな」
即答。
その回答に満足したのか、優しく微笑む。
「正解」
エヴァたちは一斉に攻撃を開始した。
★
明日菜たちは木乃香の箒に乗って、隼人たちが戦っている場所に急いだ。
「急いでくれ木乃香嬢ちゃん。魔力の流れからして、たぶんグラン・マホラ・ブリッジだ」
カモが指示する。
「そんなこと言うたかて、三人も乗せてるからスピードでぇへん」
後ろに明日菜を乗せて、のどかを前に乗せて飛んでいく。
「木乃香、頑張って」
明日菜が励ます。
「明日菜さん、見えてきました」
のどかが橋の上を指差した。
「ありゃなんだ!?」
カモが見たのは、十三体のエヴァに似たロボットと交戦している隼人だった。
「エヴァちゃんもいる」
エヴァは空中で魔法を放っている。
「茶々丸さんもあの中にいます」
状況から見て大ピンチに陥っているようだった。
「急がなあかんな。【加速】」
木乃香はスピードを上げる呪文でムリヤリ加速して、橋に突撃した。
★
隼人は、襲い掛かってくる量産機と茶々丸を相手にしながら、エヴァの魔法を避ける。
「っぐぅ」
しかし氷雪系魔法を使うエヴァの魔法は、避けても余波でダメージを食らう。
さらに量産機と茶々丸からレーザービームやら小型ミサイルやらロケットパンチやらが、一斉に来るためボロボロになっていた。
隼人は額から流れている血をぬぐう。
「おいおい。血は大切にしろ」
エヴァは悪鬼の笑みを浮かべながら、低温の嵐【闇の吹雪】を放つ。
「げ、ヤベ」
急いで、障壁を張るが、相手の魔法のほうが強い。
ブチ破られて、直撃。
「があああああああああああああああああ」
特殊防護コートを着ていたため、致命傷ではないが、大ダメージ。
辺りに霜が降りる。
片膝を折って荒い呼吸。
「はぁはぁはぁ。ちきしょっ」
その姿を見て、愉悦に顔を歪ませる。
「無様だなぁ。それが大戦の英雄と謳われた男の姿か」
「やかましい。少しは手加減しろ」
吐き捨てるように言う。
「ふん。ま、これで最後だ。派手に逝け」
両手に強大な魔力を溜める。
「リク・ラク ラ・ラック ライラック〔契約に従い我に従え 氷の女王……〕」
朗々と呪文を紡いでいく。
「あれは、拠点破壊魔法【凍る世界】か!?」
隼人は慌てた。
その魔法は45メートル四方を凍結させる、古代戦略魔法だった。
強大な魔力が周囲に渦巻き、最後の呪文を告げる。
「〔永遠の……〕」
「ちょっとまったぁああああああああああああああああ」
突然何かが突っ込んできてエヴァの顔を蹴り飛ばした。
「へぽぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
素っ頓狂な悲鳴を上げて吹っ飛ぶ。
現われたのは明日菜たちだった。
「へ?」
驚く隼人。
「大丈夫っすか? アニキ」
空から降りてくる。
「お、お前ら。どうしてここに」
「説明は後っす。とにかく一度退散するっす」
理科室から拝借したマグネシウムとライターを取り出すカモ。
「太陽拳もとい、オコジョフラーッシュ!!」
「【光よ】」
カモと木乃香が発光魔法を使用する。
強烈な光が辺りを包む。
光が収まるとそこに隼人たちはいなかった。
「マスター。大丈夫ですか」
吹っ飛ばされて地面にへばりついていたエヴァの下へ駆け寄る。
「ぐぐぐ。なんで障壁が無効化されたんだ?」
蹴られた顔をさすりながら立ち上がる。
「どうしますか」
「探せ。まだこの近くにいるはずだ」
命令する。
「了解」
量産機と茶々丸は散らばっていった。
★
隼人たちは、橋の裏。橋を支える柱の上に逃げ込んでいた。
柱を波が打ち付けて音がしている。
カモは不可視の効果をもたらす呪符を貼って、一息つく。
「とりあえず、コレで暫く大丈夫だぜ」
のどかと明日菜は心配そうにボロボロの隼人を見た。
「隼人、しっかりして」
木乃香は自分が使える最大の治癒魔法で、隼人の傷を治していく。
「ぐぅっ」
擦り傷や凍傷が治っていく。
「これ以上は、ウチにはむりや」
残念そうに言った。
「いや、大丈夫だ。ある程度回復した。ありがとう」
隼人は礼を言う。
しかし、隼人はすぐに険しい表情になった。
「カモ。俺は助けは要らないと言ったはずだが?」
「す、すまねぇ。どうしてもアニキのことが心配で」
申し訳なさそうに身体を縮める。
「なによ、あんた一人じゃボコボコだったじゃない」
明日菜が怒ったように言った。
「そうです、先生。カモさんを責めないであげてください」
のどかが庇う。
「そんなこと分ってる。だが、お前たちが来ても足手まといだ」
「そんなことないと思うで。ウチらが来たから隼人は助かったんやし」
木乃香が正論を言った。
「とにかく、お前たちはもう帰れ」
その正論を無視して隼人は立ち上がる。
「待ってくれアニキ。せめて刀だけでも持っていてくれ」
カモが引き止める。
のどかが刀を差し出した。
刀を一瞥すると、首を横に振る。
「必要ない。魔法で充分だ」
そう言うと戦いに行こうとした。
「待って。あんた本気で戦うのが恐いんでしょ」
明日菜が隼人に投げかける。
隼人は立ち止まり、明日菜のほうを睨んだ。
「どういう意味だ?」
まっすぐ隼人を見て言った。
「聞いたのよ。高畑先生から。あんた昔、この刀で友達を殺しちゃたんでしょ」
「……っ」
隼人の顔が歪む。
「刀を抜いて、本気で戦ったら、また殺しちゃいそうで嫌なんでしょ?」
明日菜の問いかけに、静かに目をつむった。
そして、答える。
「ああ、そうだ。俺は恐い。刀を抜いて戦えば、また大切なものを失う。俺はもうそんなのはゴメンだ」
隼人はかつての過ちを思い出して、苦い顔をする。
「だから、俺は魔法使いになった。二度と刀を使わないためにな」
木乃香が質問する。
「それやったらなんで、いつも刀を腰に差してんの? 使いたくないんやったら、もう持たんかったらええやん」
素直な質問。
少し答えにつまる。
「そ、それは、大切なものだからだ。使わないと決めても手放すことは出来ない」
「だったら、先生は刀と生徒のどちらが大切なんですか?」
のどかが間髪いれずに聞いた。
「生徒に決まってる」
即答する。
明日菜が畳み掛ける。
「じゃあ、大切なもののために刀を抜いて戦ってよ。私たちのクラスメイトを止めるために」
その言葉に思わず、彼女たちの目を見た。
どこまでも真直ぐで、力強い目。
以前、森で楓に質問したとき、『友を止めるのにどうしても必要なことなら、信念を曲げてでも止めるでござるよ』と言っていたことを思い出す。
「大切なものなら信念を曲げてでも止めるか……」
隼人はつぶやく。
のどかは迷っている隼人の手を握った。
「優しい先生なら大丈夫です。前に読んだ本で言ってました、優しさを知る人は優しい力を使えるって」
木乃香もそれに頷き、ふんわりした笑顔を向ける。
「そやな。小さいころから隼人のことよう知っとたから分るえ。隼人やったら大丈夫や」
明日菜がサムズアップしてニッと笑う。
「そうそう。絶対大丈夫だって。私たちもサポートするし」
「お前ら」
隼人の肩にカモが乗る。
「へへへ。アニキの負けだって。嬢ちゃんたちの言ってることが正しいぜ」
隼人は観念したように大きくため息をついた。
「はぁ~。ったく。お前らのその根拠の無い自信はどこからくるんだよ」
「自身って言うのは根拠がないくらいが丁度いいのよ」
明日菜が胸を張って答えた。
「そうだな。それぐらいが丁度いいな」
互いに笑いあう。
そしてのどかに向き直った。
「刀、渡してくれるか?」
手を伸ばす。
「どうぞ」
のどかが刀を渡した。
隼人は刀を抜いて刃を確かめる。
確かめると、一振りしてから鞘に収めた。
「お前らの力も借りる。いいな?」
真剣な顔で聞く。
三人は頷いた。
彼女たちの意思を確認すると、カモに呼びかける。
「カモ。【仮契約】の準備だ」
「あいよ! 任せとけ」
あっという間に契約の魔方陣を描いた。
そしてカモが指示する。
「嬢ちゃんたち。この魔方陣の上に乗ってくれ」
三人は戸惑いながらも魔方陣の上に乗った。
魔方陣が起動して輝きだす。
隼人も乗る。
三人を見わたして、笑う。
「今からすることは知ってるな?」
顔を真っ赤にしておずおず頷いた。
少しだけ悪い笑みを浮かべて
「悪いが、貰うぞ」
と言うと、まず明日菜の顔に手を添えて、唇を奪った。
「【
カモが叫ぶ。
続けて木乃香の唇を奪う。
「よっしゃあ! 【仮契約】!!」
またカモが叫ぶ。
最後に、のどかの唇を奪った。
「うはははは。【仮契約】!!!」
高笑いしてカモが叫んだ。
魔方陣の光が消える。
「これで契約完了だ」
隼人が告げた。
「あはは。なんかやっぱり照れるわねぇ」
「う~ん。ファーストキスにしてはちょっと雰囲気があかんな」
「あうあうあう。恥ずかしいです~」
三者三様の感想を言う。
「三人ともなかなか、柔らかかったぞ」
隼人は思い出して笑った。
「ば、何言ってのよ!!」
明日菜が代表して頭を殴る。
「あたたた」
隼人は頭をさすりながら、後ろを向く。
木乃香は箒を取り出して跨る。
それの上に明日菜とのどかが乗る。
カモは明日菜の肩に乗る。
「んじゃ、いくぞ!」
四人と一匹は飛び出した。
★
エヴァは橋の上で仁王立ちしている。
「勝負だ。エヴァ!」
四人と一匹エヴァの前へと躍り出た。
箒を降りて、木乃香たちは立ちはだかる。
隼人が一歩前に出た。
「さっきの様にはいかんぞ」
エヴァは邪悪な笑みで言う。
「ふん。雑魚を引き連れて、随分言うじゃないか」
手を上げて合図をすると、茶々丸たちが集まってきた。
身構える隼人たち。
「お前たちは足止めだけでいいから、この量産型と茶々丸を相手してくれ」
隼人が指示を出す。
「OK」
「はいな」
「わかりました」
三人は了承する。
「行け! お前たち!!」
明日菜たちは駆け出した。
すぐさま隼人が呪文をつむぐ。
「契約執行! わが従者、神楽坂明日菜・近衛木乃香・宮崎のどか!!」
三人の体が魔力のオーラで包まれる。
「やああああああああああ」
明日菜が先陣を切って、跳躍。量産型に蹴りを入れた。
派手な音をたてて、量産型が吹っ飛んだ。
勢いを殺して着地。
「う、うそぉ」
自分の蹴りの威力に驚いた。
カモが叫ぶ。
「今の嬢ちゃんたちは、常人の十倍以上の力を持ってる。思い切りやっちまえ」
「オッケー。なんかよくわかんないけど、やれる」
明日菜は嬉々として、暴れまわる。
量産型が、のどかを攻撃。
「きゃあああ」
思わず、腕で防ぐ。
後方へ飛ばされるも、痛みが無い。
「あれ? 痛くない」
カモが再び叫ぶ。
「まとってるオーラは銃弾でも防ぐ鎧になる。恐がらずに思い切りいけ」
「は、はい」
のどかは近くに居た、量産機を押し倒した。
「ほな、ウチもいくえ」
木乃香は無詠唱【魔法の射手】を三本放って、相手をけん制。
地面を蹴って、茶々丸に体当たりをかます。
三人がそれぞれ、戦闘を開始した。
★
一方隼人は、明日菜たちと量産機の戦いが始まると、空中へ上がった。
次いでエヴァも空へ上がる。
二人は空で対峙した。
海上の決戦。
互いに睨みあう。
海からの風が吹きつけてコートがはためく。
先に口を開いたのはエヴァだった。
「まさか【仮契約】してくるとは思わなかったよ」
隼人は静かに言う。
「うっとおしい量産機を相手してもらうために、快く引き受けてくれてな」
そして、不敵に笑う。
「もう、お前を守る従者はいない。一対一の勝負だ。覚悟しやがれ」
刀を鞘から抜き放つ。
その刀の刃は特殊だった。
刀身が半分、両刃になっている。
「燃え上がれ。煉獄!」
隼人の呼びかけに応じて、刀が目を覚ます。
刀から炎が噴出して刃を覆い、赤熱する。
隼人は焼けるような気を発した。
「ほう。ようやく本気になったか」
エヴァは炎の気に炙られる。
しかし、すぐさま全身から凍えるような魔力を発して、対抗した。
互いに準備万端。
「いざ、【流派・花鳥風月】伝承者『煉城隼人』参る!」
急に隼人の姿が消える。
「な!?」
驚くエヴァ。
隼人はあっという間に必殺の間合いに詰め寄った。
「【縮地】か!」
気がついたときには遅かった。
隼人は刀を振り切る。
エヴァの上半身と下半身が真っ二つに斬られた。
「ぐああああああああ」
悲鳴を上げる。
斬られた傷口から炎が出火。
全身を炎が包み込んだ。
しかし、エヴァの体が無数のコウモリに変貌。
「なに?」
驚く隼人。
ある程度の間合いを空けると、コウモリは集合してエヴァの形に戻った。
「残念だったねぇ」
そこには上半身も下半身もくっ付いた、無傷のエヴァがいた。
「私は、不死身だよ」
冷たい目で隼人を見る。
凍える魔力がエヴァの手に収束していく。
隼人は身構える。
「お前達が隠れている間に随分と魔法を溜めさせてもらったよ」
遅延呪文によって魔法を予めストックさせてあった。
「【闇の吹雪】!」
エヴァの手から黒く冷たい奔流が、一直線に放射される。
夜空に轟音を響かせながら隼人に襲い掛かった。
隼人に当たる瞬間、彼は体を一回転させる。
飛んできた魔法を刀で絡め取る。
「風の章【
絡め取った魔法を相手に向けて投げつけた。
今度はエヴァに襲い掛かる吹雪。
「ちぃっ」
強力な障壁を展開して防いだ。
爆発して煙が上がる。
煙が晴れると、再び会話する。
「真祖の吸血鬼はやっぱ厄介だな」
『真祖の吸血鬼』とは不死身の怪物のことだ。
斬ろうが焼かれようが、絶対に死なない、伝説上の怪物。
エヴァは斬られた部分をさすりながら言った。
「まさか、どマイナー剣術【流派・花鳥風月】の使い手とはな」
『流派・花鳥風月』とは、呪法剣術のことだ。
古代の剣術で、受け継ぐ者がおらず既に廃れたといわれている。
互いの実力。
それは、強大で厄介な力。
隼人は刀を構えた。
「さあて、探りあいはここまでにして、始めようか」
エヴァは魔力発動体を光らせる。
「臨むところだ。坊や」
空気が張り詰める。
先に動いたのは隼人だった。
虚空を蹴り、相手のいるところまで一気に詰め寄る技【縮地】で突っ込む。
「でぃいっつや!」
裂帛の気合で刀を振り下ろす。
紙一重でエヴァは避けた。
返す刀で切り上げる。
のけぞって避けるも、髪の毛が切られた。
体勢が整わない隙を狙って、隼人は蹴りを入れる。
「がっ」
強烈な蹴りを喰らって、胃液を吐き出す。
が、蹴られた瞬間。エヴァはゼロ距離から【魔法の射手】氷の矢・十本を放つ。
「ぐぅ!」
極寒の矢が隼人の体を貫く。
しかし、隼人の体が桜の花びらへと変わり、風に吹かれて散っていく。
エヴァの後ろから殺気。
「花の章【
気で作った花びらによる身代わりの術。
背後に回って、エヴァに強烈な一撃を叩き込んだ。
障壁ごと切り裂いて、一刀両断。
ところが不死身の彼女には無意味だった。
二つに分かれた体からそれぞれ魔法を放つ。
「【闇の吐息】」
黒い風が隼人にまとわりつき、縛り上げる。
「ぬぅ!」
身動きが取れなくなる。
再生したエヴァが現われた。
「これなら確実に当てられるな」
冷たい笑みを浮かべて、至近距離から【闇の吹雪】を放つ。
今度は命中。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおお」
隼人は障壁を張る。
張ると同時に、全身を炎が包み、【闇の吐息】に引火した。
【闇の吐息】を燃やして、脱出。
一度間合いをとる。
「あっぶねぇ」
コートに付いた霜を払った。
「せっかく、マトモに戦りあえるようになったんだ。失望させるなよ」
エヴァはそう言うと無詠唱魔法【冷血の処刑剣】を発動。
腕から氷の剣が出現する。
【虚空瞬動】による突撃で、隼人に剣戟を挑んだ。
「俺に剣戟で勝てると思うなよ! 花の章【
エヴァは縦横無尽に剣を振るう。
それを隼人は受け止め、受け流し、避け、完全に回避していく。
流派・花鳥風月 花の章【梅花】は相手の攻撃を回避するための体術だった。
「せいっつやっ」
気合を発して刀を打ちつけ、エヴァの剣を砕いた。
破片が散らばる。
「かかったな。坊や」
指を鳴らすと、散らばった破片が意思を持つように襲い掛かった。
あちこち切り裂かれる。
隼人はエヴァを蹴りつけて、その反動で後退する。
後退しながら
「鳥の章【
を放つ。
気で作り上げた無数の鳥の羽根が、鋭い針となってエヴァを強襲。
エヴァは障壁を展開して防御する。
「爆っ!」
隼人は鋭く叫んで、飛ばした羽を爆破させた。
障壁が粉々に砕かれる。
その隙を突いて、隼人は懐から対魔の呪符を取り出して投げつける。
呪符がエヴァに張り付いて反応を起こす。
「ぎゃあっつ」
悲鳴を上げて、動きが止まる。
隼人は空間を蹴り突撃。
「鳥の章【
突っ込んだ勢いで、エヴァの右肺に刀を突き立てた。
「ぐうぅ」
エヴァの口から鮮血が漏れる。
隼人は刀を引き抜いて間合いを空けた。
「どうやら今のは効果アリみてぇだな」
隼人は勝ち誇ったように言う。
口に溜まった血を吐き捨てるエヴァ。
「ふん。真祖の私に効くほどの呪符など、そんなに持ってるはずがないだろう?」
隼人は図星を突かれてやや焦った。
吸血鬼用の呪符はあれが最後だった。
「その様子だと当たりみたいだな。どうする? 不死身の私に、戦いを挑んでも無駄だとわかっただろう」
エヴァは諭すように言う。
たしかにその通りだった。
相手は不死身のため、いくら攻撃しても再生してしまう。
戦いを始めてから既に一時間が経過。
このままではいずれ力尽きて負けてしまう。
しかし、隼人は諦めていなかった。
「どうかな? 『勝利の狼煙』が上がれば俺の勝ちだぞ」
「勝利の狼煙?」
怪訝そうに首をかしげた。
隼人は刀を構え直す。
「ま、そのときになったら教えてやるよ。それまで付き合ってもらうぞ」
そういった瞬間、女子中等部第四校舎近くで花火が上がった。
「なんだ!?」
エヴァは驚く。
「どうやらそのときが来たようだ」
隼人は気合を入れて、突っ込んだ。
エヴァはすかさず防御しようと身構える。
だが隼人は突っ込む途中で、弾かれたように直角に曲がって側面に回る。
「なっ?」
懐から捕縛呪符を出してエヴァに貼り付けた。
呪符が反応してエヴァの体を縛る。
「しまった!」
慌てるエヴァ。
それを確認すると、隼人は空間を蹴って上昇した。
刀を鞘に納めると、鞘ごと刀を振り上げる。
隼人の背中に半月が輝く。
「喰らえ! 流派・花鳥風月 月の章奥義【
急上昇した隼人は、ある程度高さまで行くと、背中で気を爆発させて急降下する。
そして、エヴァの脳天めがけて鞘に収まった刀を振り下ろした。
強烈な音を立てて、エヴァは海へと叩き落とされる。
水柱を上げて海中へと入水した。
すぐさま海上にエヴァの頭が出る。
「がぼがぼ。貴様こんなことしても無意味だぞ」
水を飲みながらもエヴァは、空中へ再び上がろうとした。
しかし、力が入らない。
「な、なぜだ」
不審に思うエヴァ。
その疑問はすぐに解決した。
橋の電飾が戻っている。
文明の灯りが辺りに戻っていた。
「ま、まさか!?」
予感は的中した。
メンテナンスが終わって停電が解除されていた。
つまり学園結界が復活して、エヴァの力が再び封印されていた。
「バカな。まだ停電してから一時間しかたってないぞ」
エヴァの言うとおりだ。
まだ、予定ではあと二時間はかかる。
「そいつは俺が教えてやる」
あっぷあっぷしているエヴァを見下ろしながら、隼人は説明しだした。
「二日前にうちのクラスの大天才『超 鈴音』と科学者の『葉加瀬 聡美』に頼んでメンテナンスを短縮できないか聞いたんだ」
隼人の説明はこうだ。
女子中学生でありながら、特別に麻帆良大学工学部に所属している鈴音と聡美に頼んで、メンテナンスの手伝いを頼んだ。
その頼みを二人は快く引き受けてくれた。
そして、彼女たちの技術にかかれば、三時間かかるメンテナンスも一時間で終わるというわけだ。
「ということで、メンテナンスが終わったら合図をくれるように頼んだ。あとは、結界が復活するタイミングを計って、泳げないお前を海に叩き落せば俺の勝ちってこった」
以前、見舞いに行ったときに知ったエヴァが泳げないという事実。そして海上へと誘導して、状況の設定。全て戦いが始まるまえから計画を練っていた。
隼人は得意げに話すがエヴァはそれどころではなかった。
泳げず溺れている。
というより沈みかけていた。
「あ、おい。大丈夫か」
隼人は手を差し伸べる。
「うるさい。お前も沈め」
エヴァは渾身の力で隼人を引きずり下ろした。
「げっ」
隼人も海中へ落ちる。
「ちょ、ま、おい俺も泳げなっ」
慌てる隼人。
実は彼も泳げなかった。
オマケに、エヴァがしがみついているため、身動きがとれず余計に溺れる。
「この、はなせ」
引き剥がそうと動くが必死にしがみついてくる。
「うははは。やだね。お前も泳げないなら一緒に沈め」
「うわ。おい。ぶくぶくぶく」
仲良く沈んでいった。
★
グラン・マホラ・ブリッジの上。
エヴァの魔力を動力源にしていた量産機は活動を停止している。
海中に沈んだ隼人とエヴァは、茶々丸たちに引き上げられていた。
「大丈夫ですか。マスター?」
「アニキ、しっかりしてくれ」
茶々丸とカモが声をかける。
「し、死ぬかと思った」
「た、助かった」
半泣き状態の二人。
「ありゃ~。まさか隼人も泳がれへんとは思わんかったな」
木乃香は軽く驚いた。
「うるせぇ! 俺は火炎剣士だから水は苦手なんだよ」
隼人は情けない声で訴える。
「ま、でもエヴァちゃんも大人しくなったしこれで一件落着ね」
感慨深げに明日菜が言う。
「そうですね」
のどかが頷く。
するとエヴァは叫んだ。
「まだ終わってないぞ!」
「なんでだ?」
カモが聞く。
「今回は卑怯な手で負けたんだ。本気だせば勝てる。だから貴様の血はいずれいただく」
負け惜しみにしか聞こえない。
その場に居た五人と一匹は可哀相な人を見る目で見た。
エヴァはその視線にいたたまれなくなって、顔をそらした。
「満月の夜は気をつけろよ」
やっぱり負け惜しみにしか聞こえない。
明日菜たちはその子供っぽい仕草に苦笑い。
隼人はこりないエヴァに呆れつつも
「ま、それなら何度でも相手してやる」
と言って、笑った。
★
第四校舎屋上。
橋の上の隼人たちのやりとりを双眼鏡で見つめている人物が二人いた。
鈴音と聡美だ。
「今回は隼人の作戦勝ちと言ったところかナ?」
双眼鏡をはずして鈴音が言った。
「でもよかったんですかね? エヴァさんに量産型試作機を貸し出しておいて、隼人先生にも力を貸しちゃって」
「別にかまわないヨ。私の望む未来を作るために、ここで先生に勝ってもらわないと困るヨ」
聡美のほうを向く。
「それで、量産型試作機Tnk-Ⅱの戦闘データは取れたカ?」
聡美は頷きながらパソコンを弄った。
「はい。ばっちりです。このデータを参考にしたら、より強力なものができます」
「結構。ではさっそく研究室に戻ってデータを検討しようカ」
鈴音はきびすを返して去っていく。
「あ、まってください」
聡美は慌てて後を追って行った。
後に残ったのは月明かりと、夜の風だけだった。
【吸血鬼編】完
【修学旅行編】につづく