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第七話「修学旅行は波乱の予感」
エヴァと激闘の翌日。
隼人たちは、学内にある喫茶店『スターボックス』にきていた。
「いや~昨日はマジで危なかったなぁ」
カモはテーブルの上でしみじみと言う。
「アレくらいのピンチなら俺一人で解決できたよ。ガセス山の戦いに比べたら軽い軽い」
隼人はかつて体験した地獄の戦場を思い出しながらコーヒーを啜った。
明日菜が反論する。
「でも、素直に私たちに協力を頼めばもっと楽に解決できたんじゃない?」
木乃香とのどかも隼人の顔を見る。
「むぅ。まぁ、たしかにそれはそうだが」
そういうと隼人は、三人からの視線に耐えかねて顔をそらした。
その態度が妙に子供っぽく可愛かったので三人は笑った。
ばつが悪そうに隼人も笑った。
と、急に声がした。
「おいおい、随分と楽しそうじゃないか?」
声のするほうを向くと、エヴァと茶々丸がいた。
不機嫌そうな顔しているエヴァ。
一礼する茶々丸。
「おう、エヴァ。調子はどうだ?」
朗らかに手を上げて挨拶する隼人。
エヴァは機嫌が悪そうに鼻で笑うと、空いていた席に座る。
「貴様が最後に繰り出した技のおかげで頭にタンコブが出来た」
頭をさする。
「あ、ほんとだ」
「あや~。大きなたんこぶやな」
「痛そーです」
口々に感想を漏らす。
「いやぁスマン。大分、手加減したんだけどな。よしよし」
隼人はエヴァの頭を撫でながら謝る。
「止めろ、ウザい」
撫でている手を恥ずかしそうにはねのけた。
「それにしても、アニキ。あの【玉兎銀蟾】をマトモに喰らってたらどうなったんだ?」
カモが聞いてくる。
「ん。鞘でぶん殴らずに刃で斬ってたら、真っ二つに割れて死んでたよ」
しれっと答えた。
「たしかにそうなっただろうな」
受けた本人も同意した。
「ちょっと、恐いこと言わないでよ」
明日菜が引きつった顔で言う。
隼人は解説しだした。
「もともと、どんなに不死でも頭をやられると動きが鈍くなって再生が遅れる。その遅れるということが、あのときだったら致命的になる」
説明をエヴァが引き継ぐ。
「あのとき結界が働いて、私はただの女子中学生にもどっていたらからな。つまり、両断された時点で死んでることになる」
コーヒーを一口飲む。
「盛大に血を吹いて、さぞ見物だっただろうな」
エヴァは自分で言って笑みをこぼした。
二人の物騒な会話を聞いて三人は青ざめる。
その様子を見て、隼人は付け加えた。
「結果は勝ったが、お前らの言葉が無かったら負けていた。こうしてお互いに無事だったわけだし、気にするな」
その言葉で明日菜達はほっとした。
隼人は話題を変える。
「さて、それよりお前の呪いについてだけどな」
「ん? 私の呪いがどうかしたか?」
エヴァは怪訝そうな顔をする。
「たぶん、俺の血を吸わなくてもどうにかできるぞ」
「へぇ~。どうにか出来るのか」
コーヒーを口に運びながら、なんとなしに答えた。
そして、隼人が言ったことを頭で分解して考える。
「なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?」
理解した瞬間、口に含んでいたコーヒーを噴いた。
明日菜たちも驚いている。
隼人は飛んできたコーヒーのしぶきを拭きながら説明した。
「完全に解くことはできないが、学園外にでることは出来るようになるぞ」
「な、おま、本当か?」
うわずった声で聞き返す。
隼人は頷くと不敵に笑う。
「俺はもともと呪術と気道が専門だ。呪術なら洋の東西問わず対応できる」
エヴァは嬉しそうに頷く。
「そうか、呪術剣士なら当然か」
木乃香が首をかしげた。
「でも、そんなんあんのやったら、初めから教えたら戦わんでも済んだんちゃう?」
今まで黙っていた茶々丸が口を挟んだ。
「いえ。それはできなかったと思います。マスターは人の話を聞かないです」
エヴァを除く全員がなるほどといった感じで納得した。
「まぁ、とにかくさっさとしろ。コレで晴れて私も自由だ」
外に出られることが嬉しいのか、先ほどの不機嫌が嘘のようだ。
しかし、隼人が水を差した。
「しかし、条件が三つある」
「条件?」
怪しむようにエヴァが言う。
そして何を思ったのか、体を庇うようにして遠ざかった。
「まさか、私の体が目当てか? このロリコン」
明日菜たちも遠ざかるように身体を引く。
「うわぁ、最低だ」
「隼人、それアウトや」
「先生、さすがにそれはちょっと」
「先生。それは教師失格です」
そんな全員の態度に隼人は声を荒げた。
「誰がロリコンだ!!」
「だったらさっさと条件を言え」
エヴァがせかす。
隼人は疲れたようにため息をついた。
「はぁ。まず一つは、俺の命令には絶対服従だ」
「なんだ、やっぱり私を支配して、好き放題弄るつもりだろう」
エヴァの言葉を無視して、続ける。
「次に、お前の別荘を貸せ。相当でかい城を隠しているって聞いたぞ」
「む、別荘を貸すのか……」
少し悩むエヴァ。
「最後に、ナギ・スプリングフィールド捜索の手伝いをしろ」
「ナギって誰?」
「さぁ?」
明日菜たちは知らない名前が出てきて困惑した。
「ナギってのは、アニキと双璧をなすもう一人の英雄のことだぜ」
カモが教えた。
エヴァは腕を組んで考えている。
そして、この条件の意図を理解した。
「なるほど。そういうことか」
「そういうことって、どういうこと?」
明日菜が首をかしげた。
エヴァは説明する。
「最初の条件は『関東魔法協会』と『関西呪術協会』を納得させるためのものだ。一応、私は犯罪者だからな。仮釈放するにも条件がいるということだ」
のどかは聞きなれない単語が出てきて質問した。
「隼人先生。その関東魔法協会、関西呪術協会ってなんですか?」
「関東魔法協会は日本にいる西洋魔法使い達の元締めだよ。関西呪術協会は日本にいる東洋魔法使いの元締め。両方合わせて日本の魔法機関のことだ」
「なに? 西洋と東洋って。違うの?」
明日菜は尋ねる。
「使う呪文やら触媒は違うけど、どちらも似たようなもんだ。ただ日本は世界でも珍しい国なんだよ。中国経由で大昔から連綿と伝わる東洋魔法と、明治時代にイギリスから入ってきた西洋魔法の二つの魔法文化が混在している。大正時代には両方の魔法文化を統合する動きもあったけれど、伝統を重んじる東洋魔法と、新しい文化として入ってきた西洋魔法は水と油。覇権を巡って戦争があってな。結局、京都に関西呪術協会を、東京に関東魔法協会を置いて、一応の落ち着きをみたというわけだ」
長々と隼人が説明する。
コーヒーを一口飲んでさらに続ける。
「付け加えると、関東魔法協会の本部はここ麻帆良島にあって協会長は近衛学園長だ。そして関西呪術協会の本部は木乃香の実家で、協会長は木乃香の親父だよ」
「へぇ、じゃあ近衛家って日本の魔法使いの元締めなんだ」
明日菜は感心したように言う。
「そうやで。ただまぁ、一族が両方の会長やってるのは、政治的な意味合いやら大人の事情やらが絡んでややこしいみたいやけどなぁ」
木乃香が補足した。
「そろそろ、話を戻すぞ」
エヴァが本題に戻る。
「次の別荘を貸すって言う条件はお前が修行するために必要なことだな」
エヴァの回答に頷く。
「そうだ。魔法は一応使えるが、専門職の連中には負ける。だから、この際鍛えようかと思ってな」
「最後の条件は私のためだ」
「エヴァちゃんのため?」
木乃香は聞く。
「私の呪いはナギ・スプリングフィールドがかけたものだ。だから、奴を探し出せば呪いを完全に解くことができる」
「なるほど」
全員が理解した。
エヴァの説明に隼人が付け足す。
「俺もナギを探している。つまり、双方にとってメリットがあるということだ」
「なに、お前も探していたのか?」
エヴァは驚いた。
茶々丸が思い出したように言った。
「そういえば以前、言っていましたね」
隼人は手をパンとたたいて
「ま、とにかくこの条件を呑めば外に出ることが出来る。どうする?」
とエヴァに聞いた。
エヴァは不敵に笑う。
「ふん。一応、利害は一致している。条件を呑めば自由になれるならいいだろう。呑んでやる」
エヴァの答えを聞いて、隼人はポケットから腕輪を取り出した。
全員の目がその腕輪に注目する。
それは風の流れを表すような美しい意匠に、赤い宝石が付けられた腕輪だった。
「綺麗です」
のどかが感想を言った。
「コイツは学校の校舎から削り取ったコンクリ、麻帆良島の土、学園長が書き記した承認書を溶かして混ぜて作った腕輪だ」
「なんか変な材料ね」
明日菜は困惑した。
「登校地獄の呪いは、対象者を学校に閉じ込める呪いだ。だから逆転の発想で、対象が学校に居る状態を保つことが出来れば学外に出られるというわけだ」
隼人は腕輪を指差す。
「そこでこの腕輪の登場だ。こいつは校舎の一部と学校の土を使っている。すなわち、これ自体が学校の校舎なんだよ」
「これが、学校の校舎……」
明日菜達は、にわかに信じられないという顔をする。
「学園長が『この腕輪は校舎である』と認めれば問題ないんだよ。とんちみたいな発想だけど、呪いの核になっている精霊はこれで納得する」
隼人は腕輪をエヴァに差し出した。
「というわけで、この腕輪をつければ外に出られる。大事に扱えよ」
しかし、エヴァは俯いてわなわなと震えていた。
「エヴァちゃん、どないしたん」
木乃香が心配そうに尋ねる。
「こんな、こんな簡単な方法で外に出られるなんて、今まで気が付かなかった。アホか私」
悔しそうにエヴァは言う。
隼人はその姿を見て爆笑した。
「ぶはははは。歳取るとボケるって言うしな。気にするなよ」
「うるさい! ロリコン!」
涙目になりながら思い切り隼人のすねを蹴った。
「いででで。まぁフォローすると腕輪を校舎にするには学園長の承認が必要だ。お前一人じゃ作れない。考え付いても実行は出来なかっただろうよ」
「ふん。まぁいい。これで私は自由だ」
差し出された腕輪を受け取った。
「あ、でも昼間は吸血鬼の力を失うぞ。オマケに発信機にもなってるから、何所に居ようとすぐに分かるようになってる」
「なんだと。面倒くさいな」
「協会の連中を納得させるための措置だから我慢してくれ。夜も吸血鬼化を抑えろなんて無理難題を吹っかけてきて、説得するのに苦労したんだぞ」
「まぁ昼間ならまだしも、夜間に吸血鬼の力を抑えるのは、学園結界級の巨大な装置でも難しいからな。夜だけでも復活できるなら良いか」
さっそく腕輪を着ける。
「そういうことだ。でも良いか、これを渡したのはお前を信用してるからだぞ。ちゃんと学校に通うこと。サボりは程々にしろ」
「分かってるよ。悪さして腕輪取り上げられたら嫌だからな」
しぶしぶエヴァは従った。
「さて、それじゃさっそく、ナギのことについて互いに知っている情報を交換しようか」
気を取り直してエヴァは言った。
「いいだろう。まず、俺からだ」
隼人は話し始めた。
「先に公式に発表されている情報を出しておこうか」
どこから取り出したのか書類が出てくる。
テーブルの上に広げて見せた。
「まず、公式には四年前にナギ・スプリングフィールドは死亡している」
「え、すでに亡くなっているんですか?」
のどかが驚く。
「ああそうだ。ヤツは死んだ。遺体は確認されていないが、公式にはそうなってる」
エヴァは残念そうに言った。
明日菜は眉をひそめた。
「あれ? じゃあなんで探すのよ」
「私の場合、ヤツは生きていると信じているからだ」
「俺は、死亡した時期より後にヤツに出会っているからだ」
隼人の衝撃発言。
エヴァはまたコーヒーを噴いた。
「本当か!?」
うなずく隼人。
「モチロンだ。あれは今から三年前。丁度、ナギが死んでから一年がたったくらいのころだ」
思い出すように語りだした。
「アイツが死んで一年くらいがたって、墓にでも参ってやろうと思い立ったんだ。そんで、俺はヤツが眠っている、ヤツの故郷であるイギリスはウェールズの山奥の村まで行った。そこでアイツの親族と息子に出会った。名前は『ネカネ・スプリングフィールド』と『ネギ・スプリングフィールド』。二人は義姉弟だ」
そこまで聞いてエヴァは驚く。
「ヤツに子供が居たのか!?」
「俺も驚いたよ。どうやらアイツ、どこかで子供作ってたらしい」
「母親は誰だ?」
「知らん。姉弟も知らないらしい。戦後から少し経ったときに、ふらっと現れて幼いネギ君をネカネさんに預けたそうだ。その時、母親のことを聞いたそうだが、別れたとだけ言ってそれ以上は言わなかったそうだ」
「むぅ。一体どこのだれが……」
エヴァは考え込む。
「話をつづけるぞ。それで、まぁ墓に参ったあとその姉弟の家でナギの話をしてたんだが、突如、村を悪魔の軍勢が襲撃した。あんまりにも突然だったが、とにかく村を守るために戦った。でも結構苦戦してな。そのとき現われたのがナギだった。あれにはマジで驚いた。死人が魔法を放ちながら現われたんだからな」
「幽霊じゃなかったのか?」
エヴァは疑問を口にする。
「いや、アイツは死人じゃなかった。本人が否定していたし、ナギの体から発せられる気はまさに生気だった。詳しい話を聞きたかったけど、村を守るのが先決だったから、協力して悪魔達を退けた。その後、話を聞こうとしたら『また会おうぜ』って言い残して早々に去っちまった」
「ヤツらしい行動だな」
エヴァは懐かしむように言った。
隼人は話を続ける。
「それを姉弟に話したら、ナギを探してくれって頼まれてな。それで俺の本命を探すついでにヤツの行方を探してるってわけさ」
隼人は話し終える。
皆、静かに聴いていた。
エヴァはうっすらと目に涙を浮かべていた。
「そうか……。やっぱりアイツは生きているか」
うつむくと肩を震わせる。
「エヴァちゃん?」
木乃香が心配そうに聞く。
「くくくくくくくくくくくくくくくくくくくく。はははははははは―――――――――――――――っ」
エヴァは高笑いしだした。
エヴァ以外、ポカーンとする。
ひとしきり笑うと宣言した。
「くくく。そうか。ヤツが生きているのならいい。私は不老不死だからな、どこまでもナギを追いかけてやる」
「うわあ。ストーカーだ」
若干、明日菜は引いた。
「まぁ決意を新たにしたところで、お前の情報はなんだ?」
隼人は聞く。
エヴァは心底愉快そうに言った。
「私の持っている情報は公式に発表されたものと変わらん。だが京都だ。京都にヤツが使っていた別荘がある。そこになら手がかりがあるかもしれん」
「京都か」
隼人はあごに手を当てて考え込む。
「むぅ。有給とるにも色々面倒だしなぁ」
「それなら大丈夫よ」
明日菜が言った。
「そうやな。京都なら大丈夫や」
木乃香も言う。
「そうですね。上手い具合にタイミングが合いましたね」
のどかも同意する。
「イエス。京都ならこれから行きます」
茶々丸もうなずく。
ただ隼人とエヴァだけは蚊帳の外。サッパリ分らないといった風だった。
理由を知る四人は顔を見合わせる。
「「「「なんていったって、京都といえば…………」」」」
★
「修学旅行だ」
翌日。LHRで隼人が告げた。
「教師の俺が知らなかったってのは色々とアレな気がするが、まぁとにかく我が3-Aは京都と奈良に行くそうだな」
「はい、そうですわ。隼人先生」
あやかが立ち上がって答えた。
「ハワイなどの海外旅行の意見も出ましたが、私たちのクラスは留学生が多いので、京都と奈良にしました」
「ほうほう。なるほど。んじゃ、修学旅行の部屋割りと自由行動の班決めをやってくれ」
隼人はあやかとバトンタッチ。
自らは教室の後ろに行き、話し合いの様子を眺めることにした。
「では、まず自由行動のときの班を決めたいと思います」
あやかが話し合いを進めていく。
隼人は生徒達の嬉しそうな様子に笑みを浮かべる。
よく見るとエヴァまでもがワクワクしているようだ。
久しぶりに外に出られるだけでなく、趣味である神社仏閣を見学できて、ナギの手がかりを探すことも出来るこの修学旅行は楽しみなのだろう。
ふと、後ろのドアがノックされた。
「ああいいよ。話し合いを続けてろ」
あやかに言うと、隼人はドアを開ける。
しずなが居た。
「あれ? しずな先生。どうしたんすか?」
「学園長が修学旅行の件について話があると。至急来てくれとのことです」
「爺さんが? なんだろ?」
怪訝そうに言いつつ、あやかたちに
「ちょっと用事で行くけど、続けてろ」
と告げると学園長室に向かった。
学園長室。
隼人はノックする。
「はいるぞ。爺さん」
ドアを開けてはいると、近右衛門は片手を挙げて挨拶した。
「お。来たか。まぁ座れ」
隼人は執務机の前にあるソファに腰を下す。
「んで、なんの用だ」
早速本題に入る。
「うむ。実は京都と奈良行きの修学旅行は中止になるかもしれんのじゃ」
「なに、本当か?」
驚く隼人。
「残念なことに、ほんとうじゃ。『関西呪術協会』の長である詠春が知らせてくれたんじゃが」
険しい表情で話し始めた。
「どうやら西洋魔術否定の過激派が活発に活動を始めたらしい」
隼人は呆れるように首を振った。
「おいおい。ま~だ、そんなアホが居るのかよ。詠春も大変だなぁ」
「全くじゃて。とにかく修学旅行の引率だとしても、魔法教師が関西に足を踏み入れた時点で攻撃を仕掛けてくるじゃろう」
隼人は腕組みをして険しい表情で言う。
「だが、生徒達が楽しみにしている修学旅行を愚か者のせいで中止にするのは許せんな」
近右衛門は胸まで伸びた顎髭を撫でながらうなずいた。
「とうぜんじゃ。そこでかねてから進めてきていた条約の締結を早急に行うことにした」
「条約?」
「そうじゃ。今現在、魔法使いも呪術使いも東と西のエリアを簡単に行き来することが出来なくなっとる。うちの協会にも東洋呪術否定派はおるからの。無用のトラブルを避けるために双方の協会が行き来を自粛している」
人差し指を立てる。
「そこで、今回。その規制緩和のために関西呪術協会のところへ親書を届けて欲しい。もちろん修学旅行中で構わん」
引き出しから、封書を取り出した。
「この親書にはワシのサインが書かれておる。あとは詠春の承諾とサインを書けば、条約は締結される」
隼人はソファから立ち上がって親書を受け取る。
「いいだろう。爺さんも詠春のヤツも簡単に動けないからな。この仕事確かに引き受けた」
親書を懐に入れた。
近右衛門は嬉しそうに頬を緩める。
「ありがとう。それとついでに、墓参りにでも行って来い。お前さんが日本を出る前に行ったきり参っとらんじゃろ」
隼人は逆に悲しそうに顔をゆがめる。
「ああ。そうだな。久しぶりに行ってみるか」
「そうしたほうがええ。あやつらも喜ぶ」
部屋が静まり返った。
近右衛門は空気を断ち切るように手をたたく。
「では、頼むぞ。修学旅行中はうちからも関西のほうからも護衛をつける。最大級の安全は確保する予定だ。お前さんも充分注意しろ」
「了解」
隼人は軽くうなずくと、学園長室を後にした。
そんなやりとりを遠くのほうで眺めているカラスが居た。
それは呪術師が使う偵察用の式神だった。
カラスは一声鳴くと、翼を広げて彼方へと飛び去っていった。
★
京都府某所。
大きな画面にカラスから送られてくる隼人たちのやりとりを見ている者たちがいた。
メガネをかけた背の高い女性が言う。
「どうやら、あちらさんは京都へ来るようどすな」
頭から犬耳を生やしている少年が、拳を打ち鳴らして笑う。
「へっ。相手にとって不足無しや。腕が鳴るで」
ハアハアと荒い呼吸をして、頬を上気させている少女が艶やかな声で言った。
「先輩と打ち合えるなら何でもええわぁ。嗚呼、想像するだけで濡れてくるぅ」
その三人の後ろで白髪の少年がため息をつく。
肩に小さな悪魔を乗せている。
悪魔が少年の耳元で鳴いた。
「キキッ」
少年は悪魔を撫でて、小声で言う。
「分っているさ。ルビカンテ。どれだけくだらなくてもお役目である以上全力でやるよ」
「キキキ」
「ああ。でも僕も楽しみにしているんだよ? まさか彼が京都に来るなんてね。あのお方が聞いたら喜ぶだろうね」
映し出される映像が切り替わり、木乃香が映し出される。
「本当に楽しくなりそうだよ」
白髪の少年は邪悪な笑みを浮かべた。
【つづく】