別サイトで掲載していた時は一本だったんですが、長すぎたんで前編、後編に分けました。
宜しくお願いします。
「京都だあああああ」
京都駅のバスターミナルではしゃぐ3-A。
「こらこら、人の邪魔にならんようにしろ」
隼人は浮かれている彼女たちを注意する。
そして彼は空を見上げた。
「久しぶりに帰ってきたな。五年ぶりか」
フッとため息を吐くと
「うぉし。バスに乗り込め」
引率の仕事に戻った。
観光バスに揺られて、清水寺へ。
集合写真を撮ったあと、見学。
「おお、ここが清水の舞台か~」
「噂の飛び降り!」
「誰か飛び降りろぉ」
「では拙者が」
「おやめなさい!!」
「テンション高けーなオイ」
きゃっきゃとはしゃぐ。
神社仏閣が趣味の夕映は頼まれもしないのに説明しだした。
「本来は本殿の観音様が云々。飛び降りても助かる確率が案外高いといわれて云々」
「ほほぉ。よく勉強してるな」
隼人は説明を聞いて感心した。
しかし悲しいことに隼人以外だれも聞いちゃいなかった。
しかたなく、夕映は彼女たちが聞きたがる話題に変更した。
「この先に行くと、恋占いで女性に人気の『地主神社』があるです」
全員の足が止まる。
特に、のどか、まき絵、あやかの三人は思い切り反応を示した。
「恋占いですって!?」
「おお、隼人センセー。行こう!」
「こ、恋占いー」
皆が聞いてくれることに気をよくした夕映は更に付け加える。
「ちなみに、そこの石段を下ると有名な『音羽の滝』に出るです」
三つに分れて水が落ちてきているところを指す。
「あの三筋の水は、それぞれ飲むと健康・学業・縁結びが成就するとか……」
「縁結び!!」
「それだ!!!」
皆わらわらと駆けていく。
「センセー早く、早く」
「急いで、急いで」
あっという間に走っていく彼女たち。
「こらこら、あんまりはしゃぐんじゃないぞ」
そう呼びかけて後を追う。
肩に乗っかっていたカモが話しかけてくる。
「それにしてもアニキ。京都ってなかなか良いところだな」
「まぁ、古き良き都だからな。つってもここはもう関西呪術協会の膝元。何が起こるかわからん」
「気を抜かないようにしなきゃダメってことだな」
そんな話をしながら地主神社へ。
「お、アレが恋占いの石」
二つの石が離れて置いてあった。
「目を瞑ってここからあっちまでたどり着けたら恋が成就するんですかぁ」
感心するように史伽が言う。
「遠ぉっ! 二十メートルぐらいない?」
裕奈が感想をもらす。
「ではクラス委員の私から」
率先してあやかが向かう。
「あ、私も」
まき絵が続く。
「私もしてみようかな」
のどかも加わった。
「おーし。行けぇええ」
「ガンバレ、本屋ちゃん」
「いいんちょも頑張れぇ」
見物に回る残りの面々。
このとき、あやかは内心ほくそ笑んでいた。
『ふふふ。武芸百般あらゆる段位をとった私に不可能はない。これは勝った!』
「必殺、雪広あやか流 恋の心・眼・術!」
鋭く叫ぶと、駆け出した。
「あ、ずるい! いいんちょ」
まき絵も薄目を開けて走り出した。
「まき絵さん薄目は反則ですわよ」
「いんちょこそ、見えてるじゃん」
「おだまりっ。スピードアーップ」
「むむ。こっちだってー」
二人は更に加速する。
と、急に地面がなくなった。
「え?」
「わ!」
目標の岩の前に落とし穴が出現。
思いっきり嵌ってしまった。
しかも、蛙がわんさかいる落とし穴だった。
「いや~ん。また蛙だぁ~」
「何なんですの!?」
「おい大丈夫か」
慌てて隼人たちは助ける。
そんな騒ぎの中、のどかがキッチリとゴールした。
「ゴールです」
ふぅっと一息ついた。
「やったね。のどか」
「おめでとうです」
ハルナと夕映は賞賛した。
「う~ん。宮崎さんに取られてしまいましたわ」
「あーん。残念」
落とし穴に嵌った二人は悔しがる。
「ズルするから、バチが当たったのよ」
呆れるように明日菜は言った。
「おだまり。お猿さん」
「なんですって!?」
やいのやいのとケンカが始まる。
しかし、隼人はそのケンカには気を止めず、落とし穴を見つめていた。
「先生。やはり過激派の仕業でしょうか?」
刹那が寄ってきて言う。
「わからん。だが、俺に悟られず出来るのということは相当な術者だ」
「舐められているのかも知れませんね」
「だったら、後悔させてやるさ」
とりあえず、落とし穴をふさいだ。
『隼人、せっちゃん大変や。早ぉこっち来て』
木乃香が念話魔法で連絡をしてきた。
それを聞くと別の方向へそそくさと去っていく刹那。
少し悲しい顔をしたものの、隼人は気にせず、木乃香の方へ向かった。
木乃香は音羽の滝にいた。
「どうした? ってうぇえええええ?」
思わずそう叫ばずにはいられなかった。
地主神社には行かず、音羽の滝に向かったクラスメイトたちが倒れていた。
「どうした! 何があった!」
隼人は敵が何か仕掛けてきたのかと慌てた。
「いや、それが皆、酔うとんねん」
「え?」
よく観察すると確かに酒臭い。
「う~い」
「なんかねむい~」
「この水すごく美味しいよ~」
完全に酔っ払っていた。
「どうなってんだ?」
木乃香に聞く。
「それが、この音羽の滝の水を飲んだら、あっという間にこんな感じに」
「水を飲んだら?」
カモが肩から降りて水を飲んでみる。
「うわ! アニキこりゃ酒だ」
「なんだと?」
流れてくる滝の上を見ると、酒樽があった。銘柄には『鬼神殺し』と書かれてあった。
「あれは、魔法酒だ。魔物を酔わせるための対魔用の酒だ」
上へ登って酒樽を破壊する。
「こんなもん子供が飲んだら一発で泥酔するぞ」
見ると、何人か顔色が悪かった。
「隼人。どうする?」
木乃香が聞いてくる。
「とりあえず、ばれないように運んで酔い覚ましさせるしかない。明日菜たちも呼んでバスへ運ぼう」
ため息をつきながら言った。
その後。
なんとか周りの先生をごまかして、酔っ払った彼女たちを運び、一息ついた。
「やれやれ、もう少しで集合時間だ」
すでにいつもの何倍も疲れた顔をしている隼人。
「アニキも大変だな」
カモがつぶやいた。
時間になって皆が集まってくる。
「あやか、点呼頼む」
あやかが点呼していると、裕奈が隼人に言った。
「先生。くーふぇと龍宮さんが帰ってきてません」
「なに、あの二人が?」
「そういやさっき、トイレのところで別の学校の人ともめてたよ」
釘宮が言った。
「なんでそれを早く言わん!!」
隼人は慌てて向かった。
向かった先では死屍累々だった。
「嗚呼、遅かった」
倒れている連中の中心に、くーふぇと真名が堂々と立っていた。
「あ、先生。今から向かうとこだたヨ」
「うっとおしい連中にナンパされて、遅れた。すまない」
しれっと答えた。
中国拳法の達人であるくーふぇと、射撃の名手である真名。この二人に勝てる一般人は居ない。
ナンパしていた他校の生徒たちは残らず気絶させられていた。
止めに入ろうとした他校の先生も撃ち抜かれて気絶していた。
「あとあと面倒だから、教師も眠らせた」
淡々と語る真名。
「いや、まぁ無事であるならそれで良いよ。もう」
隼人は疲れた表情でがっくりと肩を落とす。
「君も大変だな」
真名が肩をたたく。
「もう突っ込む気力も起こらん」
朝の蛙騒ぎ、落とし穴、酒騒ぎ、他校とのケンカ。加えて過激派呪術師がいつ襲撃してくるか分らない状況下で精神力を倍以上に消費してしまった。
結局、倒れている生徒や教師を周りの野次馬に任せて、さっさと駐車場まで向かった。
そして、旅館に着いた。
★
旅館について、ひと段落。
教師が風呂に入る時間になった。
隼人はカモと浴場に向かった。
ドアを開けると、広い風呂だった。
「お、露天風呂もあるみたいだな」
「アニキ行ってみようぜ」
露天風呂のほうに向かう。
湯船に使って、一息。
「あ~疲れた」
湯船の真ん中にある岩に背を預けて、今日一日の疲れを流すようにふぅっとため息を吐いた。
「ほんとに、お疲れ様っす」
カモがねぎらう。
隼人は今日のことを思い出して苦笑い。
「しかし、あのクラスで行くと何かしら起こるな」
「確かに、過激派が原因だったことがほとんどだったけど、最後のケンカは全く関係ないもんな」
「絡んだ相手が悪かったな。龍宮は容赦ないからな」
「あれ? アニキ、彼女のこと知ってるのか?」
髪の毛を掻き揚げながら隼人は言った。
「裏の世界じゃ結構有名なスナイパーだ。現実世界、魔法界の二つの世界に名が通ってるぞ」
「へぇ。田舎育ちの俺っちは知らなかったなぁ」
「裏の仕事でも、特にアンダーグラウンドだからな。魔法界の闇組織『黒き空の会』要人暗殺とか、暗黒街フェネルティ対談の警護とか、結構無茶やってるみたいだ」
「それ中学生のやることじゃないな」
思わずつっこまずには居られなかった。
「俺も止めるように言いたいが、『依頼料さえもらえばなんでもするさ』とか言われて聞く耳もたんかんらな」
「ああ、あの嬢ちゃんならそういう態度とりそうだ」
「まったく。いっぺんお仕置きする必要があるかねぇ」
「アニキは教師だからな。生徒が間違った道に進んでいるなら正すのも仕事だと思うぜ」
「だよなぁ。やっぱり」
どうしたもんかと思案していると、カラカラとドアの開く音がした。
なにげなしに目をやると、刹那が入ってきた。
「あれ? ここ男湯じゃ?」
カモが疑問を口にする。
「いや、露天風呂は混浴だ。それより時間のほうが問題だ」
隼人は少し困った顔をした。
刹那が湯船に入ってくる。
ちょうど、岩を挟んで隼人と背中合わせのところに来る。
刹那が一息ついたところへ、話しかけた。
「この時間は教師が入る時間だぞ」
「ひゃ、って先生」
刹那はビックリして後ろを振り向いた。
「よっ。良い湯だな」
隼人は手を上げてにこやかに挨拶。
「入っていたんですか」
「おう、まぁね」
そして再び互いに岩を挟んで背中合わせになる。
沈黙。
その沈黙を隼人が破った。
「そういや。木乃香のことだけどな」
姿が見えなくても、明らかに沈んでいるのが気配で分った。
かまわず続ける。
「なんで避けてるんだ? 昔はあんなに仲良かっただろ」
「それは、その……」
刹那は言いよどむ。
「ケンカでもしたか?」
「そんな! ケンカなんて。ただ私は木乃香お嬢様を影からお守りするのが役目ですし」
「お役目だからとか関係なく、友達として木乃香を守れって詠春に言われてないか?」
「いわれましたけど、私はその、人間ではないですから、友達と言っても……」
「それは間違った考え方だ。絶対に木乃香はそんなことで見下したりはしない。それはお前にもわかっているはずだ」
再び沈黙。
刹那が口を開く。
「確かに、そうですね。正直に話すと、貴方が去ってから私は別の家に預けられた。そのことで、三年ほどお嬢様と音信不通になってしまいましたし。今さらどんな顔して話せばいいか分らないんです」
正直に話した。
隼人は刹那の気持ちを知ってうつむく。
「そうか。やっぱり俺が原因だったか。すまない。お前を放って出て行った俺には何も言う資格がないかもしれないな」
「いえ! そんなことありません!!」
刹那は立ち上がって隼人を見た。
しっかりと隼人の目を。
「先生は悪くありません。私を拾って、育ててくれた恩は感謝しても感謝しきれないです。この問題は私が悪いんです」
一気にまくし立てた。
フッと隼人は笑う。
「ありがとう。そこまで言ってくれるなんてな。だったら俺からアドバイスだ」
「アドバイス?」
「そうだ。木乃香に話しかけるのは簡単だ。昔のようにで良い。木乃香もそれを望んでる。自分は全然変わってないって言えば良い。今でも友達だってな」
そのアドバイスを聞いて考え込む。
隼人は前を隠すと、立ち上がって刹那の頭を撫でる。
「この後の打ち合わせの時でもいいし、明日の奈良の観光でもいい。とにかく話しかけてみろ。ガンバレ」
昔、頭をよく撫でられたことを刹那は思い出した。
そしてそれがいつも勇気をくれたことを。
刹那は力強くうなずく。
「はい! 分りました。頑張ってみます」
返事に満足して隼人はにっこりと笑う。
「良い返事だ」
と、なんとなしに刹那の顔から下のほうへと視線を移す。
タオルなど巻いていない。
白い美しい裸。
控えめだが膨らんだ胸。
隼人はしみじみと言った。
「しばらく見んうちに大きくなったなぁ」
鉄拳が飛んできた。
「どこ見て、言ってんですかっ!!」
「あべしっっ」
モロに喰らって、湯船に倒れた。
殴られたおかげで鼻血が出ている。
鼻を押さえながら、隼人は必死に否定した。
「いやいやいやいや。そういうことじゃなくて、背が伸びたなってことだ。決して可愛らしい微乳を指して言ってるわけじゃないから。もちろんさらに下のしげ……」
最後まで言えなかった。
【神鳴流・金剛衝】が発動した。
鉄のように硬化させた拳を隼人の顔にめり込ませた。
鈍い、そして大きい音が鳴る。
殴られて湯船に沈む。
「先生。セクハラは犯罪です」
刹那はふんっと少し息を強く吐くと露天風呂を出て行った。
静寂。
岩に着地していたカモ。
「アニキ、漢だぜ」
うつ伏せで湯船にぷっかりと浮かぶ隼人に合掌した。
★
隼人をノックアウトしてから、刹那は女湯の方へ戻った。
脱衣所のほうから気配がする。
「お嬢様と神楽坂さんか」
そうつぶやくと、身体を洗おうとした。
「きゃあああああああああああああああああああああああああ」
急に悲鳴が上がった。
刹那はとっさの反応で、風呂場のドアを開けて、脱衣所に飛び込む。
「お嬢様!!」
脱衣所は小さな猿に占拠されていた。
「式神!? お嬢様は?」
木乃香と明日菜は猿たちにくすぐられて悶えている。
かなりエロい状況だった。
「せ、せっちゃっ。た、助けて……!」
「あははははは。ちょ、ま、助けっ、あはははははは」
必死に助けを乞う二人。
くすぐられて上気した顔が妙に色っぽかった。
刹那は赤面しつつ愛刀「夕凪」を召喚。
「二人に手を出すなっっ」
一気に引き抜くと、横薙ぎで一気に猿たちを蹴散らす。
しかしその攻撃を避けた猿たちは、木乃香を担ぐと風呂場のほうへ逃げ出そうとした。
「くっ、このおおおおおお」
床を蹴って一瞬で追いつく。
そして刀に気をまとわせる。
「神鳴流奥義【百烈桜花斬】!!!」
刀を思い切り振り回す。
気を込められた刃が竜巻を起こし、猿たちを切り裂く。
竜巻の影響で木乃香の体が吹き飛ぶが、刹那がキャッチ。
紙に還った式神がはらはらと落ちてくる。
「お嬢様。ご無事ですか?」
刹那は不安そうに尋ねた。
木乃香はにっこり笑って
「大丈夫。ありがとう、せっちゃん」
と言った。
それだけで刹那の顔は真っ赤になり、うつむく。
「あ、せっちゃん照れとる。可愛いなぁ」
「お、お嬢様。冗談は止めてください」
あわあわと慌てる刹那。
「二人とも、大丈夫?」
くすぐり地獄から立ち直った明日菜が来る。
刹那に下してもらった木乃香はうなずいた。
「大丈夫や。せっちゃんが守ってくれたから」
嬉しそうに言った。
「神楽坂さんも無事ですか?」
夕凪を鞘にしまいながら聞く。
「うん。くすぐられただけだから大丈夫」
互いに無事を確認して、安心する。
と、そのとき露天風呂のほうから駆けてくる者がいた。
隼人だった。
「刹那、大丈夫か!?」
湯船で倒れていたが、先ほどの戦闘を感知して駆けてきたのだ。
数瞬、時が止まる。
明日菜たち三人は誰も、タオルをしていなかった。
つまり、裸である。
そして、隼人はさっき殴られたときの鼻血が流れていた。
シチュエーション的に彼女たちの裸を見て、鼻血を流しているように見えた。
事実、彼女たち、特に明日菜はそうとらえた。
「このロリコンがああああアアアアアアアアア!!!!!」
防御魔法無視の貫通拳で殴った。
「あぽろぴれええええええええええ!?!?」
素っ頓狂な声を上げて露天風呂まで飛ばされる。
そのとき運悪く、湯船の真ん中にあった岩に頭をぶつけてしまった。
鈍い音が鳴って、隼人は気絶した。
「女子中学生の裸見て鼻血流すなんて最低ね! 馬鹿!」
明日菜は吐き捨てるようにそういうと風呂場のドアを閉めた。
その後隼人は、後から入ってきたのどかたち、図書館組みに見つけてもらうまで湯船に浮かんだままだったという。
一人無事だったカモは夜空を見上げて敬礼した。
「無茶しやがって。アニキ、本当の漢だぜ」
【つづく】