ENDLESS SUMMER NUDE   作:エコー

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今回は八幡視点と小町視点が入り乱れます。


24 厳しいのである

 

 

 ──理不尽だ。

 

 確かに今朝、平塚先生へ俺が頼んだことだ。

 それは事実だが、あいつらが来ると聞かされていた夕方までは、まだたっぷりと時間はあった筈。

 それまでに頭を、気持ちを整理しようとしていたのに。

 

 それなのに、冷房の効いたオーナー宅でひとり悠々自適に昼食のカップラーメンとシャケのおにぎりを味わっていたところに突然押し掛けてきて。

 

 そこからは怒涛の展開。

 由比ヶ浜に抱きつかれるわ平塚先生に抱きつかれるわ、みんな泣くわ。

 そこへいきなりドカドカと上がりこんできやがって。俺ん家じゃないけど。

 それにしても、何故川崎や一色がいるのん?

 

 さっき平塚先生に抱き締められた時、耳元で行われた会話が脳内を反射しまくる。

 

『覚悟は出来たか』

『……まあ、なんとか』

『それでか。いい顔になったな。男の顔だ』

 

 くそっ、平塚先生にしてやられた。

 つーか会ったらまず開口一番で謝ろうと決めていた俺のなけなしの覚悟を返せ。

 

 兎にも角にも、カップラーメンを片手に持ったまま俺はキッチンへ追いやられた。

 それは揺ぎ無い事実だ。

 ならば。

 よし。俺は今俺に出来ることをしよう。

 そう決意して、俺はカップラーメンの汁を残さず飲み干した。

 

「ごちそうさまでした」

 

 スープに沈んでいたコショウの辛さに耐えながら俺が手を合わせたのと、キッチンへ川崎沙希が入ってきたのはほぼ同時だった。

 

「……なんだよ」

 

 俺を見てクスクスと笑う川崎。

 

「い、いや。行儀いいな、と思ってさ」

 

 笑うなよ。最低でも笑う度に胸元の巨大スライムを揺らすな。あと黒の下着の肩紐をTシャツの襟首からチラ見せするな。

 

「た、食べ物への感謝は当たり前のことだろうが」

 

 笑い顔は、柔らかい笑みへと変わる。そしてその笑顔は、今は俯いてしまった。

 

「そ、そうだね、うん……そうだよ、ね」

 

 なんだ。しおらしいな川崎。調子狂うわ。

 

「そ、その。比企谷。ごめん」

 

 えーと。どういうことだ。

 

「ちょっと待て。まず落ち着け。座れ。俺はお前には全く怒ってないぞ?」

「あ、うん、失礼……するね」

 

 ん、あれれ?

 座れとは言ったけど、何故俺の隣にくんの?

 

「でも、あたしも奉仕部の二人に嫉妬してた。だから、おんなじ」

 

 嫉妬? なんで? もしかしておまえもあいつらとゆるゆりしたかったの?

 

「ずっと……比企谷と一緒に居られるあいつらを、羨ましいと思ってたんだよ」

 

 ははぁ。こいつ、俺に勘違いの余地を与えないつもりか。ならば受けて立とうじゃないの。

 絶対に話を逸らしてやる。

 

「は? おまえとは予備校で会うじゃねえか。あ、お茶でも」

 

 俺は川崎との距離をとる為に席を立ち、急須に茶葉を淹れて、少しだけ水を注ぐ。知ってたか? 伊豆って水道水が美味いんだぜ。

 

「そう、なんだけどさ。あ、と、とにかく」

 

 何がとにかくなんだか。

 お、そろそろだな。

 急須に湯を追加する。

 

「ひ、比企谷、あたしの同級生でいてくれて……ありがと」

 

 なんだよ突然。

 しかもそのお礼っておかしくないか。クラスを決めたのは学校だし、三年生でも同じクラスになったのも偶然だぞ、多分。

 

「それはどういう……」

 

 急須を傾けて湯飲みに注ぎ、ずずいと川崎の前に出す。

 ありがとう、と云いつつ川崎は湯飲みに口をつける。

 

「……美味しいっ」

 

 そうだろそうだろ。俺の主夫スキルをなめんじゃんえよ。まあ、ほとんど水と茶葉の手柄だけどな。

 で、なんの話だっけ。

 

「だから、出会ってくれてありがとう、って言ってんだよっ!」

 

 それ、怒りながら言うことか? 

 でもまあ、何にしても悪口ではないな、うん。

 

「おう、俺なんかには勿体無い言葉だな。あとで海老名さんにも言ってやれ」

「馬鹿、あんただから、あんただけだから。そう思うのは」

 

 顔を赤らめてそっぽを向く川崎は可愛くて、その仕草は少しだけ俺の嗜虐心を刺激する。

 

「ん? おまえってそんなに可愛かったっけ?」

「え? か、か、か……」

 

 おお、予想以上の好い反応。上々だ。

 

「川崎、おまえ変わったよな。以前はツンツンしてたけど、今はその、角が取れて丸くなったというか、可愛くなったというか……とにかく変わったよ」

 

 普段の俺なら絶対云わないであろう言葉を投げかけると、川崎は下を向いて唸り始めた。

 

「うぅ……ばか。どうしてあんたはそういう勘違いさせることを平気な顔で言うんだよぉ」

 

 やばいすげぇ可愛い。俺がビッチだったら即押し倒して通報されるレベルだ。勿論ぼっちの俺にそんな度胸も甲斐性も無いが。あ、通報だけはあり得るか。

 つーか、ビッチのぼっちって何だよ。俺女子じゃないし。我ながらアホだな。

 

「俺は嘘は言ってない。おまえは可愛い。異論反論は認めん」

 

 再び事実を突きつけることでとどめを刺すと、ぱたんと川崎はテーブルに突っ伏してしまった。

 何かしら唸るのと連動して、柔らかなポニーテールが揺れる。

 あれだな、音に反応する花の玩具みたいだな。

 ぱんっ、と手を叩くと、ひくんと川崎の肩が震え、ポニーテールも揺れた。

 そのポニーテールが突然宙を舞う。顔を上げた川崎は、射殺さんばかりの視線を俺に向けて睨む。

 が、それも一瞬。僅かに表情が緩んだ。

 

「……と、とにかくっ」.

 

 こほん、と、わざとらしい咳をひとつ。川崎は言葉を紡ぐ。

 

「あいつらの話……ちゃんと聞いてやんなよ」

 

 最後の最後に長女らしい大人びた笑みを浮かべた川崎は、ポニーテールを揺らしてキッチンを退出した。

 

 

  ☆   ☆   ☆  

 

 

 さぁて、ここからは世界の妹、比企谷小町がリビングからお送りしまーす。

 おお、トップバッターの川崎沙希さんがキッチンから帰って参りました。

 おや? 川崎選手。だいぶ腑抜けになってますね。

 

「川崎選手、何やらぶつぶつ呟いておりますが、これはどうしたのでしょう。解説の平塚先生」

「うむ。ずーっと”可愛いっていわれた”と呟いているな。あいつめ。まーた不用意にフラグを立てやがったな」

 

 はい、ありがとうございましたっ。

 これはどーやらおにいちゃんの特殊スキル「人との距離感がわからないせいで不用意に調子に乗ってSっ気出しちゃって相手をキュンとさせちゃった、てへっ」が発動した模様です。

 

 おおっと、川崎選手がついに身体をクネクネさせ始めてしまいました。俗に言う、身悶えるってヤツですねこれは。うーん、なんかエロいです川崎選手。

 さて次の挑戦者は……一色いろは生徒会長~!

 いろは会長、今の意気込みは?

 

「とにかく、せんぱいには迷惑ばかりかけちゃってるので、まずはそれを謝りたいです」

 

 おお~、何という真摯な姿勢。

 

 さあ、いってみよっ!

 

 

  ☆   ☆   ☆  

 

 

「せんぱい……失礼します」

 

 今度は一色か。なんなんだよこれ。向こうの部屋から司会進行みたいな小町の声も聞こえるし。

 一体何の罰ゲームだよ。

 

「まずは、せんぱいごめんなさいですっ」

「いや、いきなり謝られてもわからんからね?」

 

 一色の分のお茶を用意しながら苦笑する。

 

「わたし、せんぱいの優しさに甘えてました。せんぱいと居るのが楽し過ぎて甘えてました」

 

 俺と一緒にいて楽しいなんていうのは勘違い、もしくは錯覚として。優しい訳ではないし、一色を生徒会長に据えた俺の責任もあるし。

 

「いや、一色を生徒会長にしたのは俺なわけだし、生徒会を手伝ったりするのは嫌だけど別に苦ではないから」

「やっぱり、嫌、だったんですか……?」

 

 だからあざと可愛いんだって……あれ? そんなにあざとくないぞ。じゃあ、ただ可愛いだけか。

 いやいや違う。確かに可愛いのだが、とにかく違うんだ。

 

「……本当に嫌だったら、とっくに断ってるっつーの」

 

 目を逸らしつつ呟くと、一色は一瞬唖然としたかと思ったら、すぐにニヤニヤと笑い出した。

 

「せんぱい、もしかして気づいてないんですか?」

 

 え。なになに?

 まさかTシャツ裏返しで着ちゃってるとか!?

 

「せんぱいって、頼まれたら嫌と言えない性格、ってこと」

 

 おい。人を親切心のバケモノみたいにいうんじゃねえよ。出来ることなら俺は自分の事だってしたくないんだから。

 俺の世界には俺しかいないから、全部一人でやるしかなかっただけだから。

 あれ、論点ズレた。

 

「おまえこそ忘れてないか。俺は奉仕部の部員だぞ」

 

 そう。こいつとの関係は依頼から続いている。逆説的にいえば関係が続いている以上、依頼も継続中ともいえる。

 

「あたしを手伝ってくれた理由はそれだけですか……それだけなんですか?」

 

 だからあざと……くないな。おっかしいな。

 もしかして、これも一色の「素」なのか?

 素でこんな表情をするのか?

 やばい。これは危険だ。

 

「一色、その顔……他のヤツの前でするなよ」

 

 きっと、こんな潤んだ目を向けられたら大概の男どもは好意を抱かれていると勘違いしてしまうだろう。それに。

 

「そのあざとくない可愛さを見たら、男子が群れをなして襲って来かねないからな」

 

 と、あくまで注意のつもりで云ったのだが。

 

「な、な、なんですかそれはあ、わたしを、独占し、たいって……ことですか、まだ……ほんのす、少しだけ早いと思ったりするの、で……ご、ごめんなさい」

 

 一色の捲くし立てと振り方にいつものキレが無い。語気も弱い。しかしいつもの遣り取りだ。

 だからこう応えるしかない。

 

「また振られるのかよ。つーか振るならもっとしっかり振れよ。バッサリと。完膚無きまでに」

 

 まったく、切れ味の悪い後輩だ。

 

 

  ☆   ☆   ☆  

 

 

 引き続きリビングの小町ですよ~☆

 制限時間を五分少々残して、いろは先輩がリビングに戻ってまいりました。

 

「お~、一色会長が戻ってきましたよ先生っ」

 

 おやおやぁ、いろは先輩も骨抜きにされたご様子。ホントごみいちゃんったら、決めるべき時に決めないくせに、こういう時だけ決めちゃうんだから。

 

「ふむ。一色も顔が赤いな……比企谷は一体何をやってるんだ。まさか」

 

 ま、あのお兄ちゃんにそんな勇気は無いですけどね。

 なんせ、チキンでヘタレでハチマンですからっ。

 

「さてさて、お次は雪乃さんですねっ。さあ意気込みをどーぞっ!」

 

 ん? かなり神妙な面持ちですね。

 

「今回の件では小町さんにも迷惑をかけてしまってごめんなさい」

 

 年下の小町に深々と頭を下げるなんて……小町感激ですっ。是非嫁に。

 

「いえいえ、そんな素直な雪乃さんも可愛いですよっ。さあ、その可愛さでおにいちゃんを」

「いいえ、まずは許しを請うのが先決よ。では行って来ます」

 

 うわぁ、雪乃さん真面目だ。さすがおにいちゃんの嫁候補っ。

 

 

  ☆   ☆   ☆  

 




次回、やっと合宿中のゴタゴタが終わります。
──長かったなぁ。
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