その第一弾は──?
女子たちに謝罪された俺は、何故か一人でペンションに戻された。四人の女子たちと愛妹小町は、平塚先生の買い物に付き合わされるようだ。
ペンションに戻った瞬間、幸運が訪れた。
俺の顔を見た戸塚からの突然の
ついでに材木座も飛びついてきたが、昨晩食われたカツカレーの仇とばかりにデコピンを食らわせてやった。
さて、オーナー宅からペンションに戻って数時間。割り当てられた自室のベッドでの読書に勤しんでいる内に、夕食の時刻が迫っていた。
昨日は寝不足やら何やらでサボってしまったが、今日もそろそろ猫の額ほどの畑の手入れやら収穫やらに行くのだろうと思い、平塚先生の部屋へ向かおうとすると、本日のルームメイトである川崎の弟、大志に行く手を遮られる。
「おい大志、そこどけ。それか帰れ」
残念なもうひとりの同室、材木座がベッドの上でムフンとしたり顔でこちらを見やがったので、畑に持っていくつもりだったタオルを丸めて顔面にぶつけてやると醜く鳴いた。
「ダメっす。ていうか、昨日帰りそうになったのはお兄さんのほうじゃないっすか」
ほう、言うようになったじゃないか大志。俺はそんなおまえの成長が嬉しいよ。
だが許さん。適当に理由をつけてでも部屋から出てやる。
「俺はコーラが飲みたいんだよ。それとも何か、おまえが持ってきてく──」
「わっかりましたっ」
言い終わらないうちに大志はダッシュで食堂の冷蔵庫に向かっていった。
あいつ、なんかパシリ慣れしてるな。ちなみに孤高の存在であった俺はパシリの経験は無い。まずパシリにされるほど存在感が無かったからな。
まあ、いいか。
「はいっ、お兄さんコーラっす」
まさにダッシュ。時間にしておよそ二十秒。
「お、サンキュ。早いな大志、あとお兄さんと呼ぶな」
ペットボトルのコーラを受け取ってベッドに座り直し、枕元の読み掛けの文庫本を開く。
やっぱり夏は涼しい部屋で読書に限るな。
ページを捲り、コーラを一口煽る。幸せだ。
この珍妙な監視が無ければ、の話だが。
「……大志、おまえ何してんの」
部屋の出口を塞ぐように立つ大志。この毒虫の存在が目に付かなければもっと幸せなのに。
「見張りっす。お兄さんが食堂に近寄らないように、っす」
何それ。食堂でなんかやってるの?
みんなで甘いお菓子を食ってるの?
まさか女子だけ集めて謎の保健体育の授業とか?
「なんだそれ」
じゃあ、男子も保健の授業でもしますか。勿論葉山や戸部は抜きで。
「大志……ちょっと来い」
大志を手招きすると、怪訝そうな顔でこちらに近づいてくる。きっと俺が外に出ないように警戒してるのだろうが、もう俺の目的はそこにはない。
「……なんすか、お兄さん」
この際”お兄さん”と呼ぶのはスルーして置く。それよりもこいつにアレを見せるほうが今は楽しみなのだ。
「これ見てみろ」
スマホをいじって、メモリカードに保存しておいた動画を再生する。音声は控えめだ。
「お……おお~っ、お、お兄さんこれって」
「ああ。すげぇだろ、ギリモだぜ」
説明しよう。
”ギリモ”とは、ギリギリモザイクの略なのであーる。
勿論高校生が見てはいけない部類の動画だ。
え、俺?
俺はアレだ。親父のクレカでちょいちょいと、な。
ええいっ、皆まで云わすなっ。
「おお、可愛いっすね~この女優さんたち」
ほむん? と再び材木座の意識がこちらに向くが勿論スルーする。
「だろ? 今回の合宿のために入れてきた、俺の秘蔵動画だ」
大志と俺は顔を見合わせてにやりと笑う。やっぱりエロは男にとって万国共通のコミュニケーションアイテムなんだな。
つーか、一度やってみたかったんだよね。男子どうしでエッチな本とか動画とか見るの。
ぼっちのささやかな憧れである。
「けぷこん、け……お、おおっ!? お主それは、もしや世に聞く男女のまぐわいを映した活動写真ではないのか!?」
いつの間にか暑苦しい巨大な顔面が俺のスマホを覗き込んでいる。つーか活動写真って、フィルムの時代の話だろ。
今や時代はディジタルなのだよ材木座くん。
「どうせおまえも夜な夜な見てるだろうが」
「わ、我はエロゲ……二次元しか拝観したことがないのでな」
おまえ今エロゲーって言ったよね?
言ったよね?
マウスいじりながら他のとこもクリックしてんじゃねーよハゲ。
あ? まだハゲてない?
じゃあハゲるまで待ってろデブ。
「おお、こ、こんなことして良いのでござるか?」
ハゲ確定の材木座の食い付きが半端ない。思春期真っ只中の大志も若干引いている。
「まあ、これくらい普通なんじゃねーの。オモチャとか」
うん、結構よく登場するんじゃないの、エロゲーとかにも。
あ、エロゲーって触手とかだっけ。
「はちまん、おもちゃって、なに?」
「そのピンクのカプセル……って、と、戸塚ぁ!?」
大志の肩越しに天使の微笑み。それが赤く頬を染めているから、もう俺的に堪らない。
「え、えへへ。ドアが開いてたから。その……ぼくも、見たい、な」
天使のような戸塚もやっぱり男の娘、もとい男の子なんだね。
ほっとしたような残念なような、複雑な心中を悟られまいと戸塚に画面を向ける。
結果、5インチそこそこの画面の前には、天使と毒虫、それにハゲ予備軍の顔面肥大がひしめき合う。
「……戸塚殿、お主もワルよのう~」
もうそれ、お代官様じゃん。越後屋と悪だくみする時の。
将軍設定もエロの前では無力か。
つーか、とっととハゲろ。俺が許す。
「は、はちまん。今度……貸して、ほしい、な」
なんだと。それはもう喜んで貸すぜ。何なら夜通し一緒に見て、黄色い朝日を浴びながら夜明けのMAXコーヒーを二人で飲むまである。
「お、おう、いいぞとちゅか」
噛んだ。緊張と動揺の余り、盛大に噛んでしまった。だがしかし当の戸塚は画面に釘付け。
俺は戸塚に釘付けだけどね。
えっちぃ動画に耳まで朱に染める戸塚を見つめる、紅潮した俺。うーん、キモい。
「すごいね~女の子が3人も出てるんだね~」
そうなのだ。この動画には三人の女優さんが出演しているのだ。しかも三人ともタイプは違えど、全員俺の好み。
まさに俺の為に作られたオーダーメイドのような作品なのだ。
「おう、1本で3倍楽しめるぞ、これは」
そこで戸塚の洞察力が火を噴いた。
「あれ、この胸がおっきい子って……由比ヶ浜さんに似てない?」
え?
「そういわれればこの黒髪の女子はどことなく雪ノ下殿に似ておるような……」
は?
「あ、このポニーテールの女優さん、どこかで見た感じだと思ったら姉ちゃんに似てるっす!」
……。
バレた。瞬く間に全員にバレた。
ひとつバレたら全部バレた。芋づる式ってこわいな。
「八幡、お主……エロい、いいやゲスいな」
「あ、由比ヶ浜さんに似てる女優さんが……はちまん、どうしよう……」
「落ち着け戸塚、多分あれは熱くないローソクだ」
さすがに「熱くないローソクを使用しています」とかテロップは出ないが。もし出たら興醒めだ。捗るものも捗らない。
「でも、でも、由比ヶ浜さんが……」
「あ、姉ちゃんがあんな格好に~!」
「大志も落ち着け、これは川崎じゃないぞ」
「おお、今度は雪ノ下殿が……くぱぁって、くぱぁって……」
──この時俺は重大なミスを犯していた。
部屋のドアが開けっ放しだったのだ。
それは男どものエロ談義が外まで丸聞こえという事象を生み出す。
そしてこういう時に現れるのは、決まって災厄なのである。
案の定、ドアの方から凍えるような冷気が放たれる。
「……私がどうしかたのかしら」
戸塚の後ろに立つのは氷の女王、雪ノ下雪乃。
強烈な冷気にまず俺の顔が固まり、戸塚、大志、材木座と、声に反応して振り向いた順番で表情がフリーズしていく。
雪ノ下の背後には由比ヶ浜、それに大志の姉である川崎沙希の姿もある。
「お、おまえたち、いつから……?」
問題の本質はそんな事ではないのだが、聞かずにはおれない。
「熱くない
「ヒッキー、まじキモいっ」
「比企谷、あたしをオカズにしてたのかっ……」
雪ノ下、由比ヶ浜、川崎、それぞれの弁。
三者三様。いや違うな。三名様とも激おこである。
ちらっと材木座を見ると、恐怖と動揺でぷるぷる小動物のように贅肉を震わせている。
ふっ、弱いな材木座。少しは戸塚を見習って──
あ、戸塚もダメだ。笑顔だけど汗をだらだら流してる。
突如、雪ノ下がパチンっと指を鳴らす。
「由比ヶ浜さん。証拠品を押収するわよ」
「ラジャーっ!」
「あたしも手伝うよ、それっ」
まるで打ち合わせでもしたかのように由比ヶ浜と川崎が同時に飛び掛ってくる。何とか回避するが、ここで何故か材木座に背後から羽交い絞めにされる。
こいつ……友を売りやがった!
いや。こういう時だけ友達ヅラするのは卑怯だったな。
はっきり宣言しよう。材木座は友達ではない。ただのブタだ。
「ゆ、許せ八幡っ……我とて、我とて本意ではないのだ~」
そういう割りに、やけにノリノリじゃねーかよ。口の隅が笑ってるし。
「よくやった中二っ!」
「お褒めに預かり光栄です、姫」
俺を羽交い絞めにしたまま”ムフン”とかやめろ。息がかかるんだよ、キモい。
さて、これから百パーセント有罪の俺に対する審議が始まろうとしていた。被告である俺は勿論の事、共犯者である材木座と川崎大志もベッドの上に正座させられている。戸塚は何故か許された。理由は──
「さいちゃんも男子だったんだねー、ちょっと安心したよ」
──という、戸塚にとっても俺を含む三人の正座被告人にとっても微妙なものだったのが釈然としない。
「では証拠品の確認を始めます。由比ヶ浜さん川崎さん、いいわね」
「うん、じっくり見てみよう」
「あ、ああ、見てやろうじゃないの」
動画の再生ボタンがタッチされ、女子陪審員達の審議が始まる。まあ、どう転んでも”ギルティー”なんだけどね。
ギルティーって片仮名にすると、得体の知れない紅茶みたいだな。ふひっ。
斯くして、俺の吊るし上げの為の証拠品閲覧会、またの名を思春期女子高校生によるエロ動画鑑賞会が幕を開けた。
──確認開始10分後。
「え? あんなの入るの!?」
実は入るんですよ由比ヶ浜さん、あんなのが。
「わ、わ…無理だろ、あんな凶暴そうなの……」
ところが無理じゃないんです川崎さん。
「静かに。声が聞こえないわ」
……真剣すぎて他の女子が若干引いてますよ雪ノ下さん。
──確認開始20分後。
「あ、あたしに…あんな太いのが……」
おまえじゃないけどな由比ヶ浜。あっちはプロの女優さんだし。
「馬鹿いうなよ。あたしに入ってるオモチャのほうが大きい……こわれちゃうってばっ」
だから川崎じゃないってば。すっげぇよく似てるけど。
「……喉の奥までって、苦しくないのかしら、あの映像の中の私は。それにしても邪魔なモザイクだわ。肝心な箇所が──」
雪ノ下さんだけ反応が違いますよー。
男子全員の意見が含まれてますよー。
──確認作業、終了。
「……ううっ」
「……はうぅ」
「……凄かったわね」
動画を鑑賞し終わった三人は頬どころか耳まで赤らめ、頭からぽわぽわと湯気が立っている。
それにしても。
「一番凝視してたのが雪ノ下ってのは意外だったな」
「べ、別にいいでしょ、興味は、その……無いわけではないし」
そ、そうなのか?
「ていうか、こんなの持ってるヒッキーのほうがキモいし!」
はい、仰るとおりですキモいです。
「……なんか、凄いもん見ちゃったな。夢に出てきそう」
その夢が悪夢でないことを願うばかりです。
戸塚はすでにそそくさと姿を消し、材木座は俺の後ろに隠れてベッドの上、シーツのお白洲で土下座をして裁きを待っている。
だが、こんな状況にも関わらず俺には多少の嗜虐心が生じてしまった。
どうせ俺は有罪だ。この期に及んでは何をしても情状酌量など期待できるものではない。
ならば。
敢えて聞いてみよう。感想を。
「由比ヶ浜、どうだった?」
この台詞を吐いた俺の顔面はさぞかしキモいことだろう。
「え、えーと、はは、ヒ、ヒッキーも男の子……なんだね」
ふむ。俺を罵倒する余裕も無し、か。では次の方どうぞ。
「川崎は?」
「お兄さん、鬼畜過ぎるっす!」
さすがに大志に止められた。さすがブラコンシスコン姉弟。
「……比企谷、あとでペンションの裏ね」
睨む川崎の目で、うっかりちゃっかり個別の制裁まで決まってしまった。
「姉ちゃん、怖過ぎるよ……」
さて雪ノ下にも聞いて──
「でも驚いたわ。潮っていうのかしら、あんなに飛──」
おうふ。話を振るまでも無かった。
何こいつ、そんなにエロに興味津々なの? 溜まってるの? などと聞いたら即死するな、主に俺が。
「わ、わ、ゆきのんストーップ! えっちぃこと言ってるよ? 今すっごくえっちぃこと言ってるよ!?」
慌てふためく由比ヶ浜と、小首を傾げて神秘的な女体のシステムに思いを馳せる雪ノ下。なんだこれ。
「しっかし、よく見つけたもんだね、こんなあんたの為のオーダーメイドみたいなAV」
未だ真っ赤に頬を染める川崎は、最早呆れ顔だ。
「あ、ああ、偶然な」
本当は血眼になって探しまくった、なんて言えない。言えば仄暗い湖の底へまっしぐらだ。
しかし本当、よくあったなこんなAV。
「……みなさん、何やってんですか。冷めちゃいますよっ」
ドアの向こう、ミトンを片手に一色いろはが呆れ顔で立っていた。
18歳以下の良い子のみんな、
えっちぃ動画は見ちゃダメだぞっ(説得力皆無)