ENDLESS SUMMER NUDE   作:エコー

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さてさて、男同士のAV鑑賞を女性陣に見つかってしまった憐れな八幡の命運や如何に──


27 きっと忘れない

 

 

 右脇を材木座、左脇を川崎大志に抱えられ、その真ん中にはいかがわしい動画を持ち込んだ主犯の──タオルで目隠しされた、俺。

 

 そのむさ苦しい三名の周りを雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、川崎沙希、一色いろはが取り囲む。

 

「ほらっ、しっかり歩きなっ」

 

 この声は川崎沙希か。

 歩けるもんか。

 両脇を抱えられて立つ廊下。

 そこは平坦であるものの、俺にとっては断頭台への十三階段に他ならないのだ。目隠しの向こう、正面にある食堂の両開きの扉をくぐったら、あとは名ばかりの裁判の後の処刑が待っている。

 

 いわば、地獄行きは確定。あとはどの地獄へ送られるか──それだけである。

 

「比企谷くん、大人しく刑に処されなさい」

「ヒッキー、覚悟しといてよね」

 

 四人の女子達の侮蔑に周囲を固められながら俺は食堂に連行される。

 食堂の扉をくぐったら、俺も遂に立派な変質者の仲間入りなんだな。

 すまん小町、先にゆく兄を許せ──などと諦めに似た愚考をめぐらせていると、いよいよ処刑場、食堂のドアが開かれた。

 

「──被告人比企谷八幡。目隠しを取るけれど、覚悟は良いわね?」

 

 返事を待たずに目隠しを外され、堰を切ったように飛び込んでくる自然光に視界が白に染まる。

 

 ぱんっ。

 

 白い視界の中、破裂音に身を竦めると火薬の匂いに鼻孔が満たされた。なんだなんだ、銃殺刑か?

 だが俺は無傷だ。覚悟して閉じた目を恐る恐る開けると。

 

 合宿に参加する全員の顔が目の前を埋め尽くしていた。

 その人垣の向こう、食堂のテーブルには、見た目も鮮やかな色とりどりの料理の数々が所狭しと並べてある。

 過去二回の合宿の夕食と比べると明らかに豪華であり、異質である。いや、二回目の夕食はオーナー宅で食べたラーメンだったな。

 

「な、何だこのご馳走は。平塚先生が結婚でもしたのか?」

 

 俺の願望が含まれた言葉を、由比ヶ浜はしれっと否定する。

 

「そんなわけないじゃん、さ、座って」

 

 俺も失礼だが、おまえも大概だぞ由比ヶ浜。ほら、あちらで涙目の平塚先生が拳を引き絞ってらっしゃ──え?

 

「ぐはぁ!」

 

 な、なぜその拳が俺の腹に……?

 

「……ふん。まったく、こんなヤツが今宵の主賓だとはな」

 

 ──え? 主賓ってなに?

 まさか、俺が奉仕部を辞めるとか口走ったから送別会、とか言わないよね。ちらっと見えたお赤飯も、俺が居なくなることに対してのお祝いとかじゃないよね。

 それとも刑の執行の前の最期の晩餐じゃ……ないよね?

 

 もしそうだとしたら、こちらにも考えがある。

 こちとらいつでも泣く用意は出来ているんだぞ。土下座だってお手の物だ。ついさっきまでしてたし。なんなら土下寝、五体投地も披露してやる。

 心中で床にダイブする覚悟を決めていると、由比ヶ浜の笑顔が近づいてくる。

 

「ヒッキー。ちょっと遅くなっちゃったけど、お誕生日おめでとー」

 

 放つ言葉と共に由比ヶ浜がクラッカーの紐を引くと、小さな破裂音と共に紙テープが舞い落ちる。

 

「由比ヶ浜さん、それは声を揃えて言おうと打ち合わせしたはずでは……」

 

 雪ノ下が何やら呟くも、一度流れ始めた水はもう戻らない。

 

「ヒキタニくん、おめでとウェーイ!」

 

 戸部は盛り上げようとしているのか、はたまた調子に乗っているだけか、指と指の間に挟んだ三個のクラッカーを同時に鳴らす。かなり煩いし、かなりウザい。飛んできた紙テープが割と本気で鬱陶しい。

 

「戸部先輩まで……もう、どーします?」

「仕方ないわね。始めてしまいましょう」

 

 え、えーと。

 どういうことなの、これ。

 ハトが超電磁砲(レールガン)を喰らったような顔をする俺を、ドッキリ大成功! 的な表情で得意げに覗き込むのは由比ヶ浜。

 

「驚いた? 実はね──」

 

 一分間に及ぶ由比ヶ浜の要領を得ない説明を要約すると──

 誕生日が夏休みにあるせいで家族以外に祝われたことがない俺に、小町、雪ノ下、由比ヶ浜、川崎、一色が合宿の前に相談してサプライズを仕掛けた──らしい。

 これで川崎姉弟が合宿に参加した謎は解けたな、じゃなくってっ!

 

「という訳で、じゃじゃーん!」

 

 小町の発する安っぽいアタック音と共に出てきたのは、直径30センチ以上はありそうなホール丸ごとの特大ケーキだ。

 生クリームで綺麗にデコレーションされたケーキには、イチゴやカットしたメロン、それにスイカの欠片なんかもトッピングされている。真ん中に鎮座したプチトマトは見なかったことにしよう。

 

「これ、まさか」

「そうなのです。雪乃さんといろは先輩、それに小町の愛がたーっぷり詰まったラブラブ手作りバースデーケーキなのです~」

 

 えっへん、と未だ発展途上の胸を張った小町が高らかに宣言してくれやがった。

 頭痛が痛くなって額を指で指圧していると、同じように同様の仕草をする雪ノ下と目と目の視線がかち合って、雪ノ下は顔を背けてしまう。

 俺? 俺は全然平気だ。いつもの平常心だ。

 もしも万が一、言葉が変だったり言い回しが重複していたとしても、それは動揺のせいではない。 

 つーか小町。おまえ一昨日の事を全然反省してないな。まあ可愛い妹だから許しちゃうけど。

 

「さすがにスポンジは焼けなかったので買っちゃいましたけどね~」

 

 一色があざと可愛い笑顔を浮かべる。気恥ずかしくなってケーキに目を向けると、丁寧にクリームを絞った形跡やら、そのクリームを崩さないように飾り付けられたフルーツの配置の手作り感に気づく。

 

「す、すげぇな……」

 

 なんだこれ。素直に沁みた。

 小町、お兄ちゃんもう感情がぐちゃぐちゃだよ。

 悲喜交々だよ。カオスだよ。

 俺の記憶が確かならば、自分の為にケーキなんて作ってもらった経験は無い。記憶が確かじゃなくてもある訳ない。まず祝ってもらえない。祝ってもらえても実はドッキリでしたという経験なら一度ほどあるな。

 そういう経験からして、ここである疑惑が浮かんでしまうのが俺だ。

 

「つーかさ、みんなで分けたら俺のケーキが無くなった、とかいうオチじゃないだろうな?」

 

 目の前のケーキは充分過ぎるくらいに大きいのだが、16人で分けるには小さ過ぎる。

 きっと、俺以外で分けたらちょうど良いのかも知れないが。

 そういうイジメなんだろ?

 

「心配ご無用だよっ。ということで、もひとつじゃじゃーん!」

 

 そんな哀しい考えを余所に登場したのは、もうひとつの同じ大きさのケーキ。こちらも同様にイチゴやらカットメロンが生クリームの上に綺麗に配置されている。

 すげえなこの用意周到さ。女子の組織力怖い。

 

「さあさあ、ローソクを立てましょうね~」

 

 めぐめぐ☆めぐりん先輩までノリノリでケーキにローソクを立てている。その様子をバレない程度にガン見していると、雪ノ下が素晴らしい笑顔を向けてくる。

 こらはアレだ。何かしらの暴言がくる予兆だ。

 

「気をつけてね比企谷くん。これは先程とは違って、熱い蝋燭(ローソク)だから」

 

 ほらおいでなすった。

 雪ノ下め、まださっきの動画の件を引きずってやがる。一番真剣に見入ってたくせに。このむっつりさんめ。

 

「さあ、準備できましたよ~」

 

 あれ。

 てっきり二つのケーキに9本ずつ、合計18本の年齢の数だけ立てられるかと思っていたローソクは、それより遥かに多くそれぞれに立てられていた。ざっと数えても十数本は多い。

 

「おかしくないか? 俺はこんなに歳をとった覚えは無いんだが」

 

 もしかして犬とかと間違えてないか。一年で四年分歳をとるシステムじゃないんだけどな。

 まさか、ヒト科と思われてないのかな。何サピエンスなのかな。なら、何ストラロピテクスなんだろうな。

 泣いてもいいのかな。

 ケーキがスタンバイされる間、隅っこに避けていた由比ヶ浜が「説明しよう」の顔で前面に出る。

 

「あのね、こっちは今年のケーキで、こっちのは今まで祝って貰えなかった分の埋め合わせのつもり……なんだけど」

 

 ローソクを数えると、片方には現在の歳の数の18本、もう片方には1本足りない17本が立てられていた。

 脳内に量産されたハテナマークを数個浮かべながらケーキを眺める俺に、小町が囁いてくる。

 

「結衣さんと雪乃さんがね、どーしても去年の分も祝いたかったんだって」

「ちょ、小町ちゃん!?」

 

 やめてやれ小町。見ろ、由比ヶ浜は手足バタバタ病の発作が始まっちまったし、雪ノ下は怒りで顔を赤らめてそっぽを向いてるぞ。これ以上機嫌を損ねるような発言は慎んでいただきたい。

 え? 別に雪ノ下は機嫌を損ねてる訳ではないって?  

 そんな事わかってるさ。だが俺にも長年築き上げてきたスタンスというものがある。

 今更それを急には変えられんのだよ。

 

 などと脳内で自分に言い訳をしていると、少々照れた雪ノ下が口を開く。

 やべっ、雪ノ下が照れたのを認めてしまった。いやはや失敗。

 

「あ、あら、小町さんだって賛成していたじゃない。それに一色さんや川崎さんも共犯よね」

「ふぇっ!?」

「あ、あた、あたた……」

 

 顔を赤らめたりモジモジしたり北斗神拳っぽい声を上げる女子たちの姿を見ると、俺まで恥ずかしさを持て余す。そんな俺を目ざとく見つけた憎っくきリア充の王、葉山が俺の肩をぽんっと叩く。

 

「比企谷、すごいな……おめでとう」

 

 うるせーよ、今回出番が少なくて影が薄い葉山。

 おまえが何を言わんとするか何となく解るが、そこは断固解らない振りを貫かせていただく。

 ついでに予告しておく。この後もおまえの出番は少ない。

 

「ま、あーしはケーキ食べれればなんでもいーけど、一応おめでと」

 

 一応ありがとよ、同じく今回影が薄い三浦。

 

「素敵なお誕生会だね。おめでとう、はちまんっ」

 

 戸塚、おまえの気持ちは墓場……いや冥界まで持っていくぞ。冥府魔道を歩み逝き、第六天魔王に戸塚の愛を見せ付けてくれようぞ。

 ぐふふと厨二病全開の愚考を巡らせていると、その気配を察知したのか現役バリバリの厨二病患者がやってきた。

 

「ゲ、ゲフン、寿ぎだのう、八幡」

 

 ことほぎって……そこまでキャラ作んなくてもいいから材木座。女子が引いてるから。

 あ、男子も引いてる。葉山の引き顏は貴重だな。

 そこに躍り出てきたのは材木座と双璧をなすもうひとりの重症患者、腐界の住人、鼻を押さえた海老名さん。

 

「ヒキタニくんおめでとう。今年こそは濃厚なハヤハチ、期待してるよっ、ぐふふふ……」

 

 いやー、今年も海老名さんの期待には応えられそうも無いわー、未来永劫絶対にないわー。そういうのは後ろで苦笑いしてる戸部とかいうヤツに期待しろよ。二人で色々と捗ってくれ。

 不意に背後から殺気、いやアラサー独身女教師の気配がした。

 

「おめでとう比企谷。キミは望まないのかも知れないが、これが今キミを取り巻く環境だ。よく見ておきなさい」

 

 平塚先生。先生とはこの合宿で随分と打ち解けたような気がするし、また随分と迷惑をかけて世話になってしまった。いつか何等かの形で恩返しせねば、と少し思う。

 背脂たっぷりのラーメンとかで。

 きっと、性格は違うが性質は似通っているのだろうな、俺とこの女性は。アニメ好きだし。

 

「比企谷くん、おめでとうね。また好きな作家さんのお話しようね~」

 

 めぐりん先輩にも骨を折って貰っちゃったな。あと意外と策士だ。

 

 独り離れて見ている陽乃さんは──今はいいか。

 




今回は八幡のサプライズバースデーパーティーでした♪
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