「…ジュリ……?」
デーモンはそう言った。
恐らく彼女がデーモンの探し求めていた人なのだろう、呆然としていた。
徐々に思考が追いついたらしく堰を切ったように叫びだした。
「ジュリ…おお!!会いたかったぞジュリ!!私の愛おしいジュリ!!やっと…やっと会えた…!!ジュリ!!私は…」
「バカっ!!」
ジュリと呼ばれた少女は叫んだ。
目には涙を湛えていた。
「ジュリ…?」
「私はあなたのために死んだ振りをしていたのに、それなのに悪魔と契約するなんて!!私はそんなこと望んでなかった!!あなたの家族を殺して欲しいなんて…そんなのちっとも望んでいなかった!!」
少女は叫んだ。
「…なぜそれを知っている!?私はお前と共に死ぬことを選んだ!!その前に私たちの未来を妨げたあいつらを滅ぼした!!お前は死んでいたのだからそれを知るはずが…」
「…知ってたよ。私はロミオ、あなたがそうしたのを知った。まずはあなたの家。次に…私の家。」
「でも、でも君は止めなかった!なぜだいジュリ!君が止めてくれれば、私は君の望むことを…」
「止めたわよ!!止めたけど…でも!あなたは止まらなかった!!」
「どこで止めたと言うんだい!?君はあそこにはいなかったはずだ!」
「いたわよ!!あのバルコニーに、あなたが私を連れ出そうとしたバルコニーで!!あなたが私にキスしてくれたバルコニーで!!」
デーモンは目を見開く。その目に宿っていたのは…失望だった。
その目は空虚で、孤独だった。まるで母親に拒絶された子供のように弱々しい瞳だった。
「私は…私はあなたを止めるためにこの身になった。なんでなったのかは分からないけど…それでもあなたを止めるためにこの身になって、そして今あなたを止めに来た!!だから…」
ここで一緒に果てよう。
ジュリエットはそう言った。
「けれど…だけれども私たちは不死身だ。どうやって死のうというんだい、ジュリ?」
デーモン、否、ロミオはそう言った。自分たちには死ぬことさえできないのだと。
そこには弱々しい男がいた。これが元の性格なのだろう。前までの一人称は自分を強く見せるためのものだったのだろう。そのくらいの豹変ぶりだった。
だがそこに、声が入る。
「何のためにアタシが来たと思ってるんだい?」
メメさんが入ってきた。
「あなたは…失礼、あなたの名をまだ聞いていなかった。…教えては貰えないだろうか?」
ロミオはそう言う。その目はまだ、暗く澱んでいた。
「アタシはメメント・モリ。死を司り万物に死をもたらす闘神さ。」
「メメント・モリ殿か。確かラテン語で【いつか自分が死ぬことを忘れるな】という意味でしたね。」
「そうさ。それで?アンタらは死を望むのかい?不死身の死にたがりに死を与えるのがアタシの仕事のひとつっさね。望むのであれば死という永遠の安寧を。拒むのなら追いはしない。」
選びなね、とメメさんは告げる。
ロミオが答える。
「私は…二度と償うことの出来ない過ちを犯した。それがジュリを傷つけ苦しめ、今の、彼女の望まぬ姿にしてしまった。ならば今度こそ私はジュリと共にいよう。ジュリが望むなら共に死のう。
そして、永遠となろう。」
「私はロミオを止められた。私の大好きだったロミオが戻ってきてくれた。なら、もう私が人ならざる姿でいる目的はもうない。今度こそ一緒になろう。
地獄で、永遠になろう。」
二人がそう言った。決意は、固かった。
メメさんはひとつ頷くと、光った。
それはとても淡い光で、触れれば消えてしまいそうで、神々しくて、迷える子らを導くような光だった。
「じゃあ、いくよ。」
メメさんはそう言って、詠った。
「迷える子らに祝福を、永遠の時に終結を、天へと帰り大宙へと還れ、」
メメさんの重く、そして不思議と鈴の音のような澄んだ響きがあった。
その詞に呼応するようにメメさんの周りが淡く光った。
「死を恐れる迷える子らに、死を忘れた彷徨う子らに、死を知らない放蕩者に。」
そのセリフは不死身となった二人に言っているのか。
それとも守るものを履き違えた、僕に言っているのか。
メメさんの唄はまだ続く。
「汝忘るることなかれ、お前がいつか死ぬことを。メメント・モリの言ノ葉を。」
そう言い切ると光は弾けた。
そして、ロミオとジュリエットを包み込んだ。
「メメさん、私を見つけてくれてそして私の願いを、ロミオを探してくれて、ありがとうございます。皆も、私はあんまり知らないけれど、ロミオが最期に過ちを犯さないように護っていただいて、ありがとう。」
そう言ってジュリエットは儚く、笑った。
「私が道を違えそうな時、止めていただいて申し訳ない。私は長年、とんだ思い違いをしていたようだ。最期に気がつけてよかった。カナイ殿、ご家族に申し訳ないことをした、謝罪させてほしい。アル君、カルマ君、蓬莱さん、リラさん、あなた達にも謝らねばなるまい。友人を手にかけようとして、申し訳ない。」
ロミオはそう言って罪悪感に押しつぶされそうな顔をしていた。
「気にしな…」
「お気になさらないでください。僕らは気にしていません。」
「最後にロミオさんが気づくことが出来て、良かったです。」
カルマと蓬莱がそんな優等生セリフ。セリフ取られた…
「そうか…君たちがそう言ってくれて、とてもありがたいよ。」
「ロミオ…」
「あぁ、そうだねジュリエット。そろそろだ。今度こそ永遠となろう。道を違えて人智を犯した大罪人としてだけれど、地獄で永遠となろう。」
そう言ってロミオとジュリエットは、光の粒となった。
光は遊ぶようにゆらゆら揺れながら光っていたが、やがて空に溶けた。
夜の帳の中で、僕らは何も言わずに、ただ、ただ見ていた。