佐世保鎮守府繁盛記   作:藤倉矢的

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#3「アスリート達の午後」

 佐世保鎮守府の「艦娘兵科」に属している者は、艦娘から一兵卒に至るまで全員が他兵科の者よりも長めの昼休みを与えられている。この鎮守府は日本国海軍で最も艦娘の運用が激しく、常に最前線での戦いが強いられている。故に「休めるときに休め」のスタンスをとっているのだ。実際問題として艦娘は艤装を解除している状態では人間と大差ない。艦娘のコンディションは戦力に直結するため、この措置は利に適っているといえよう。

 他兵科が業務に復帰し、普段であればこの時間は静まり返っている学習棟前第一簡易訓練場…通称「校庭」。今日は少しばかり賑やかであった。

 

「今日こそは短距離走で追い抜いてみせるよ!島風!!」

「たとえ長良でも、それはできない相談かなぁ!!」

 

 クラウチングスタートの体勢でスタンバイしている二人の艦娘。そのそばでホイッスルを持つ艦娘。そして後ろで観戦している何人かの艦娘。彼女らが騒ぎの元のようである。

 右のレーンに居るのは健康的な黒くて艶のあるショートカットの髪に鉢巻を巻き、鍛え上げられた足が魅力的な巡洋艦娘「長良」。左側のレーンに居るのはサラサラのクリーム色のロングヘアが美しく、そして些か露出が多い制服を身に纏った駆逐艦娘「島風」。艦娘きってのアスリート気質な二人による100m走が行われようとしていた。

 

「位置について~…よーい…」

 

 ホイッスルを持った艦娘…スターター役を任された彼女は、長良と同じ、巫女服のような趣向があしらわれた制服に、長い髪の毛をツインテールに纏めた巡洋艦娘「五十鈴」。右手を天に掲げ、ホイッスルを咥える。数秒後、そのホイッスルが鳴り響くと同時に、二人は一斉に前に駆け出した。

 出だし、初速で勝っていたのは島風であった。その後ろを僅か2歩差ほどの位置で追走する長良。その差は広がりもしなければ離れもしない、完全な硬直状態である。故に先にゴールラインを超えたのは、出だしで勝っていた島風であった。

 

「やったっ!島風の勝ち!だって速いもん!」

「また勝てなかった…悔しいぃ~」

 

 100m走った先からスタートラインまで歩いて戻ってくる。そこにはペットボトルを2本持った五十鈴が待っていた。

 

「まーた勝てなかったの長良?もっと精進しないとね」

「ううう…」

「気に病むことないって!ちょっと初速足らなかったらどうなってたか分からないし。あ、五十鈴、これってあのレモネード!?」

「ええ、そうよ~」

「やったぁ!こればかりはココじゃないと飲めないからね!!」

 

 五十鈴から渡されたペットボトルの中身を知って喜ぶ島風。…実のところ、島風は佐世保鎮守府付の艦娘ではない。佐世保での合同訓練に参加するために舞鶴の鎮守府からやってきていたのだ。

 

「島風、コッチに来るたびに長良と競争ばっかやってるけどアンタたちよく飽きないわねぇ~」

「飽きないよ!だって島風に付いてこれるのって長良くらいなものなんだもん」

 

 島風は合同演習や連合艦隊作戦がある度に、こうやって長良と競争に興じている。どうでもいい情報だが、今、彼女たちが飲んでいるレモネードは佐世保鎮守府の、とある駆逐艦娘特製レシピであり、販売されていないのでわざわざ作ってもらっているものである。長良との競争、そしてレモネード。この二つが島風が佐世保に来るだびに楽しみにしているものである。

 なお、初速、最高速度に秀でる島風は短距離走を得意としている。対する長良は持久力が秀でており、どちらかと言えば長距離走向けだ。

 

「1000m走なら負けないんだけどなぁ。やっぱりもっと鍛えないとかぁ」

「いやいや、長良ってば本当に短距離走まで速くなっちゃってさ。ちょっと気を抜いたら抜かれちゃうところだったよ」

 

 二人はレモネードを飲み干し、汗をタオルで拭くと、向き合って握手をした。

 

「次回こそ、絶対に追い抜いてみせるからね!!」

「こっちこそ、次も負けないよ!!」

 

 二人は互いに輝かんとするばかりに眩しい笑顔で、互いの健闘を称え合った。

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