豊穣の女主人で働いている店員
ついにニートをやめた
○アイズ・ヴァレンシュタイン
ロキファミリアの団員
○レフィーヤ・ウィリディス
ロキファミリアの団員
漆原に惚れている
○ティオナ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○ティオネ・ヒリュテ
ロキファミリアの団員
○リヴェリア・リヨス・アールヴ
ロキファミリアの副団長
○フィン・ディムナ
ロキファミリアの団長
○赤髪の女
多分、敵
◯リュー・リオン
豊饒の女主人の店員
元冒険者
「どこでそれを!?」
アイズは赤髪の女が放った言葉である『アリア』という単語に驚愕し叫ぶ。
「お前に話すことなどない」
赤髪の女はアイズに剣で斬りかかる。その剣を受け止めたのはアイズではなかった。もちろん彼女の仲間であるフィンでもリヴェリアでもレフィーヤでもティオネでもティオナでもなかった。漆原半蔵…アイズとは全く、関係がなかった男であった。
「……お前はさっきの…」
「さっき?……初対面のはずだけど?」
「…どけ!邪魔だ!」
「そんなこと言わないでよ。まだ物足りないんだから相手になってもらうよ」
漆原は赤髪の女の剣をはなす。赤髪の女は漆原にまた斬りかかるが避けられる。漆原はすぐに赤髪の女の腹に蹴りをいれ吹き飛ばす。
「……やるな。Level6か?……それともそれ以上か?」
「levelなんて知らないよ。そんなことより本気で戦えよ。楽しめないじゃん」
アイズには漆原の表情は純粋に楽しいことをする前のワクワクした子供に見えた。その一方でアイズはもう一つ感じていた。それは恐怖だ。アイズが今まであまり感じたことがない感情、それがアイズを苦しめる。赤髪の女はアイズや漆原の後ろにいるフィンやリヴェリア、ティオネ、ティオナ、レフィーヤの存在に気づく。
「……さすがに不利だな………また会おう。……アリア」
「逃げる気?」
赤髪の女は駆け出す。漆原たちはすぐに追うが赤髪の女は島の西側に到達すると崖の壁を走り湖に突き進んだ。そして水飛沫が上がった。そんな様子を見てリヴェリアは呟く。
「……なんて奴だ」
18階層は広い。大草原、湿地帯、そして大きな森林。闇雲に探しても、ほぼ間違いなく見つけられないだろう。漆原は舌打ちをした後、ため息をつきながら赤髪の女が飛び込んだ湖を眺める。そんな様子を見たレフィーヤは漆原に優しく声をかける。
「漆原さん、戻りましょう?」
「……うん、そうだね」
★★★
「漆原……2人で話をしたい。今は大丈夫かい?」
「別にいいよ」
フィンに話しかけられた漆原は2人で夜の森の中へと入っていく。そんな2人を見たティオナは首を傾げながら言う。
「フィン、どうしたんだろう?漆原くんと話って?」
「……何か考えがあるのよ。私たちが気にすることじゃないわよ」
ティオネの返答にティオナはう〜んと唸りながらも納得する。
「それもそうだねー。そういえば漆原くんってすごい強いよね!だってあの食人花を素手で倒してたんだよ!」
「それもそうね。私たちlevel5の素手の攻撃を受けて全くといっていいほど無傷だった食人花があの子の素手で一撃なんて……漆原半蔵のlevelは少なくともlevel5以上と思った方がいいわね」
「た、確かにそうですね。所属のファミリアはどこなんでしょう?」
「それに漆原半蔵なんて名前、聞いたこともないわよ……あのぐらい実力者なら名前くらい聞いたことがあるはずよ」
「でもそんなの聞いたことないよー。もしかして偽名とか!」
大ハズレである。いや名前が偽名であることだけは当たりであることは間違いないのだが、それ以外はハズレである。漆原は恩恵など持ってはいないし、もちろんファミリアにも所属していない。
「…………………」
「アイズさん、大丈夫ですか?」
「……ごめん、なんでもない」
レフィーヤは心配していた。先程の赤髪の女の出現からアイズがずっと上の空だからだ。だがレフィーヤは何も聞くことはできなかった。
★★★
フィンに森林に連れてこられた漆原は質問する。
「それで、何の用?」
「……漆原半蔵、僕は先程のボールスに君のことを勝手に友人と言ったが、これからは本当の友人にならないか?」
「……はぁ?なんのために?」
「なに、友人って言ってもお互いに困った時に助け合う。ただそれだけだよ」
「…………………いいよ」
本来ならばこんな友人関係、漆原にとって意味がなさすぎる。『お互いに困った時に助け合う』……漆原にとっては何をやらされるか分からなすぎるからだ。しかし漆原は口を三日月の様に上げてフィンが差し出した手に握手で返す。なぜこんな馬鹿げた契約のようなものを組んだのは漆原の性格にあった。漆原は何よりも面白いことを好む。元々、漆原が魔王サタンの仲間になったのは面白いものを魔王サタンが見せると言ったからだ。
フィンは漆原の力を欲して、そして漆原は面白いものを見るためにこの簡単に壊れてしまいそうな契約を今ここで結んだ。
漆原とフィンはすぐに森林を抜けレフィーヤたちのところへと戻る。漆原が戻ったことを確認するとアイズは一直線に漆原に近づき小さな声で話しかける。
「今日の夜中、1時ぐらいに西方の湖に来てほしい」
「……別にいいけど」
「ありがとう」
そして時刻は1時、漆原はアイズとの約束通り西方の湖に来ていた。アイズは漆原が来たことに気づくと真剣な眼差しで言う。
「私と戦って欲しい」
「……はっ?なんで?」
「……強くなりたい。君は私よりも強いから」
「強くなりたいって……だったらフィンとかでいいのに」
「君が戦ってる時のあの笑顔に私は怖くなった。だから君に勝つことで私はその恐怖を無かったことにしたい………それに君はあの赤い髪の女の人よりも強いから」
「……ま、別にいいけど……それじゃあ始めようか」
漆原が戦いを了承した瞬間、アイズはデスペレートを構える。その様子を確認した漆原はアイズの方へと走り出す。
漆原はアイズに素手で殴りかかるがアイズのデスペレートに止められる。しかし一度防がれたぐらいでは止まらない。何度何度も殴りかかる。
「よく堪えるね。それじゃあこれはどうかな!」
実際のところ漆原の連続の攻撃を防いでいるのは奇跡とも言えた。本来ならば今頃、アイズは吹き飛ばされて壁に打ち付けられることだろう。そんな状況が起きないのはアイズの『エアリエル』という風魔法をすべて足に集中させているからだ。しかしその様子も長くは続かなかった。
漆原は先程よりも強い力でアイズを蹴り飛ばした。蹴りとばされたアイズは壁に打ち付けられた。圧倒的力の前ではエアリエルであっても無意味だったのだ。
「終わったことだし、寝ようかな」
漆原はあくびしながらテントある方向へと歩いていく。そしてすぐに漆原は足を止めた。漆原の足を止めたのは微かに聞こえた声。漆原からしたらあの程度の笑顔で恐怖を抱いた女が立っていられるはずがない、そう思っていた。
漆原はゆっくりと目を細めながら振り返る。そこにいたのは……
「……まだ、終わってない」
立ち上がっていたアイズだった。ボロボロになりながらも目を少しだけ開け、意識があるのも、やっとの状態だった。
「……へぇ、やるじゃん。それじゃあ続きやる?」
「………当たり前。エアリエ………………」
アイズが魔法の詠唱を始めようとした瞬間だった、ゆっくりと倒れてしまう。漆原は倒れたアイズを見つめながら呟く。
「…………ま、立ち上がれただけ良かったじゃん」
漆原は背中を掻きながらアイズへと向かっていく。またもや漆原は足を止めた。今度はアイズのような微かな声ではなく、はっきりと聞こえきた。豊饒の女主人で働いてる漆原なら聞き覚えがある声。漆原は嫌な予感がしながらも振り返る。
「……漆原さん」
「あ、偶然だね。こんなところで会うなんて……リュー」
そこにいたのは緑色のマントを羽織っていて鼻と口を覆面で隠すエルフ。漆原の職場仲間でもあるリューだった。ここは18階層、ゴライアスが倒されている今、level4であるリューがここまで来るのは簡単である。ではなぜここにリューがいるのか。漆原には一つしか答えが考えつかなかった。それは探しにきたのである。漆原半蔵という仕事をサボった男を。
「………偶然だと思うならあなたは馬鹿だと罵りますが」
「うん、ごめん。どうせ僕を探しにきたんでしょ?」
「…分かっているのなら良かった。」
「でも珍しいね。心配してくれたの?」
「……シルに頼まれたからです。もしかしたらダンジョンにいるかもしれないと」
「いくらシルが勘が良いからってそれを鵜呑みにする?普通?」
「えぇ、シルが言うなら間違いがありませんから。………しかし剣姫を倒すあなたなら無用だったと思いますが」
「あ、そうだ、リュー!回復薬とかもってない?さすがに放置するわけにはいかないからさ」
忘れていないだろうか。先程、漆原はアイズを蹴り飛ばし後、あくびをしながらテントへと戻ろうとしたこと。つまりアイズは蹴り飛ばされて立ち上がったことで漆原の中でアイズという人間は認められたのだ。
リューは回復薬を取り出して漆原に渡す。受け取った漆原はアイズへと近づいていき回復薬を飲ませるその瞬間、アイズはゆっくりと目を開ける。
「……私は負けたんだね」
「うん、そうだよ。………でもまぁ、がんばったんじゃない?」
「……ありがとう……そのエルフの人は?」
アイズはリューを指差して質問する。漆原はどう答えたもんかと悩んでいるとリューが代わりに答える。
「私は漆原さんを迎えにきた者です」
「……そうなの?」
「うん。だからレフィーヤたちには僕は先に帰ったって伝えておいて」
「…わかった。漆原、また戦ってほしい」
「別にいいけど……勝てないと思うよ」
「…いつか絶対に勝つ」
「楽しみにしとくよ」
漆原とリューは地上へと向かっていく。アイズはこの後、ウダイオスを倒すという偉業を成し遂げてlevel6へと進化するのだがそこに漆原と戦ったおかげかはアイズ自身も、わからなかった。
★★★
シルとミアに怒られている漆原と漆原が帰ったことに気づかずに漆原の胃袋を掴むために4時から起きて朝食を作っていたレフィーヤの悲鳴が同時刻にオラリオであがった。
お読みいただきありがとうございました。